BanG Dream!~隣を歩む者~   作:TRcrant

42 / 48
大変お待たせいたしました。
第41話です。


第41話 嵐の文化祭

「Sweet、Excellent、Unstoppable! 最高のステージだったわ」

 

1日目のライブは僕の予想通り盛況のうちに幕を閉じた。

チュチュの興奮するのも無理はない。

 

「ハナゾノっ! クレア! 二人とも最高だったわよ」

「ッ! ありがとうございます」

「どうも」

 

名指しで評価されたことがうれしかったのか、花園さんは顔を綻ばせながらお礼を言い、僕は緩む表情をこらえながらできるだけぶっきらぼうに返した。

でも、たぶん緩んでるとは思うけど。

 

(にしてもまさかの2回も、アンコールが来るとは思ってもいなかったな)

 

このバンドのレベルなら、たとえ初陣だとしてもアンコールが来るのは不思議ではない。

だが、アンコールの回数が予想よりも多かったのが気にかかる。

 

(明日は合同文化祭でのPoppin’Partyがライブをする。タイムテーブルは一番最後……通常通りに終われば間に合う時刻だが……)

 

僕の頭の中でいろいろなシミュレーションをしていく。

二日目も、今日と同じ時刻で終わったと仮定して、ここから羽丘に向かった場合の所要時間を計算していく。

 

(大丈夫。ギリギリではあるけど、MCで時間を稼げば間に合う……か)

 

僕の記憶が間違いでなければ、Poppin'Partyの前は合同文化祭記念バンドのはずだ。

 

(……後で、丸山さんに連絡をしておこう)

 

当日言うと確実にとちる。

ただでさえとちりやすいのだから、事前に言っておいたほうが無難だろう。

 

「明日はクレアは休みなんだろ?」

 

そんな考え事をしている僕に、マスキングから声がかけられる。

 

「ええ。どうしても外せない用事があって……申し訳ない」

「別にいいわ。約束通り、SweetでExcellentなライブをしたんだから、こちらも約束通りクレアの休みを許可する」

「ありがとう、チュチュ」

 

とりあえず、僕のほうの問題は何とかなりそうだ。

 

「でも、残念です。パレオ、クレアさんと明日も一緒にライブをしたかったです」

 

そんな中、パレオさんは残念そうに声を上げだした。

 

「まあ、クレアと一緒にライブなんて、これからいくらでもできるんだし。だろ? クレア」

「え? え、ええ……まあ」

 

パレオさんへのフォローの言葉で、こちらに振ってきたマスキングのその言葉に、僕はまるで魔法が解かれたようにはっとした。

 

(僕、完全にのめりこんでた)

 

これまでは、監視のためという理由をつけていたが、気づけば僕は純粋にこのバンドの一員として演奏することが普通になっていた。

このバンドから離れるということを考える余地が一切ないほどに。

 

(いけない、いけない。目的を忘れたらだめだ)

 

僕の目的は、あくまでもRoseliaに……大事な人に危害を加える可能性のあるチュチュを監視すること。

僕は、自分自身にそう言い聞かせる。

そして、僕たちはそのまま次の日のライブの打ち合わせに入るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、僕はいつもより早めに家を出ようと玄関で靴を履いていた。

 

「つぐから聞いた時間よりもかなり早いけど、義兄さん時間間違えてるんじゃない?」

 

そんな僕に、蘭が不思議そうに声をかけてくる。

 

「ちょっと寄るところがあるから、早めに行くだけだよ」

「それならいいけど。てっきり義兄さん、時間でも間違えたのかと思った」

 

蘭は特に深く聞いてくることもなく、どこか含みのある言い方で返してくる。

 

「さすがに僕はそんなに抜けてないよ。それじゃ、行ってきます」

 

そして僕は、家を出るのであった。

足取りはいつにもまして軽やかで、早歩きにも近い速さになっていた。

 

(早く、手にしたいな)

 

その気持ちが、僕を前へ前へと進めているのだ。

そこまでして僕が手にしようとしている物は、修理に出していたギターだ。

木漏れ日工房から言われた受け渡しの日が今日なのだ。

 

(今日は触れそうにないから、明日の放課後辺りにでも……)

 

久々に触る僕のギター。

かなりのひねくれもののギターだが、やはりもう一度弾けるとなると感慨深いものがある。

そして、僕は電車を乗り継いでいき、木漏れ日工房の前までたどり着いた。

 

「失礼します。ギターの修理をお願いした美竹ですっ」

「おお、やっぱり早く来たな。やはり根っからのミュージシャンだな」

 

店内に入った僕は、カウンターにいた男性に声をかけると、予想していたのか軽快に笑いながら立ち上がった。

 

「これが、お目当てのギターだ」

 

僕は男性からギターが入っているケースを受け取ると、それを軽く開けて中を確認する。

そこにはすっかり元通りになっていた僕のギターが入っていた。

 

「~~っ! ありがとうございますッ」

 

そのことがうれしくて、声にならない喜びの声を上げながら、僕は男性に深々とお辞儀をしてお礼の言葉を口にした。

 

「いやいや、こちらは商売でしたことだ。ということで、お代だが……」

「あ、はい……お願いします」

 

僕は男性に修理費用を支払う。

ギリギリ5桁にならずに済んだのは、僕にとっては幸運だった。

それでも、かなりの金額だけど。

 

「まいど。また何かあったら木漏れ日工房をごひいきに」

 

その男性の言葉を背中に受けながら、僕は木漏れ日工房を後にすると、羽丘学園に向かうのであった。

 

 

 

 

 

「うーん。勢いで持ってきたけど、どこに置こう……」

 

久しぶりにギターが戻ってきた喜びで、ついつい自然に楽器を羽丘に持ってきたが、今日は文化祭。

楽器を置くスペースなんて限られている。

僕たちのクラスい置くのも手だが、おそらくスペースがないはずだ。

 

(部室……はやめとくか)

 

天文部に所属しているので、部室に荷物を置くというのもありだが、なんとなくあのカオスな場所に置くのが気が引けてしまった。

 

(あ、そう言えば……)

 

そこで、ふと思い出したのが今日の合同文化祭でライブをする人たち用の控室が用意されていたはず。

そこに置いてもらえばいいのだという風に結論付けた僕は、控室に向かう。

 

「あ、お、おはようございます」

「君は……」

 

控室となっている空き教室に入ると、そこには青っぽい髪をシュシュのようなもので束ね、眼鏡をかけている女子学生の姿があった。

 

(確か、Galaxyでバイトをしているとかいう子か)

 

「あ、私は1年の朝日六花って言います」

「これはご丁寧に。僕は3年の美竹一樹。ここにいるということは、朝日さんは実行委員?」

 

朝早くに控室にいて、楽器を持っている様子がないところを見ると、おそらくはそうではないかと推測して聞いてみた。

 

「はい。ちょっとここの確認をするために……美竹先輩は合同ライブに出られるんですか?」

「そう言うわけではないんだけど、ちょっとした事情で、楽器を持ってきちゃってね……できれば隅のほうにでも今日一日置かせておいてほしいんだけど、構わないかな?」

 

僕の推測は正しかったようで、ちょうどいいと思った僕は、彼女に置かせてもらうことの許可を得ることにした。

……先輩が後輩にというのが少しだけ卑怯な気もするけど。

 

「はい……たぶん、大丈夫だと思います」

「もし、問題になったら僕が責任を取ると言ってたことを伝えておいてもらえる?」

「は、はい! わかりました」

 

とりあえず、これでフォローのほうも大丈夫そうだ。

流石に後輩に迷惑をかけるのはまずい。

まあ、問題が起こった時点でかけているも同然なんだけど。

 

(とりあえず、文化祭を頑張ろう)

 

そんなこんなで、僕たちにとって最後の文化祭が幕を開けるのであった。

 

 

 

 

 

「こちら、クッキーセットになります」

「どうも」

 

クラスの出し物である『猫カフェ』で、僕はウエイターとしてその役目を全うしていた。

二日目だからということもあるのか、始まって早々教室内はお客さんでにぎわっていた。

 

(にしても、男子も猫耳に尻尾はきついな)

 

僕が発案者なだけに、拒否権もなく猫耳を付けた状態で接客をしていた。

ちなみに、もう一人の発案者である啓介は、血の涙を流すのではという勢いで、悲壮感を漂わせながら接客をしていた。

 

(まあ、僕はこれが日菜さんに見られなければいいか)

 

「あ、美竹君4番テーブルに、これ持って行ってくれる?」

「わかりました!」

 

そんなことを考えていると、クラスの女子から商品を運ぶようにとの指示が出たため、僕はトレイを受け取ると、指定された席に向かっていく。

 

「お待たせしました。こちら……ゲッ」

 

その席にいる人物を見た瞬間、思わず声を出してしまった僕を責めることができる人はいるまい。

 

「むぅ、あたしの顔を見て嫌そうな顔されたぁ~」

「あー、ごめんごめん。来ないだろうと思ってたから」

 

頬を膨らませながら抗議の声を上げる女子生徒……日菜さんに軽く謝りながら僕は頼まれた商品をテーブルに置いた。

 

「来ないはずないじゃん! だって、一君の猫耳姿見て見たかったんだもん♪」

「………」

 

もはや、”どうして知ってるんだ”なんて野暮なことは聞かない。

そんなもの、理由は一つに限られているのだから。

 

(リサさん……裏切ったな)

 

僕はウエイトレスとして動いているリサさんに、抗議の意味を込めて視線を送るが当の本人はウインクで返してきた。

 

「それにしても、一君の猫耳とってもいいよっ! もう、るるるるんっ♪ てしちゃうくらい!」

「……だろうね」

 

このような奇抜な格好などすれば、確実に日菜さんの好奇心を刺激することは目に見えていた。

だからこそ、彼女には見せたくなかったのだ。

その時、”パシャッ”というシャッター音が聞こえてきた

 

「って、日菜さん。今何を?」

「え? 記念に写真を撮ったの! ほら!」

 

悪びれた様子もなく満面の笑みでこちらにスマホの画面を見せてくる日菜さん。

そこには猫耳執事服を着こんだ自分の姿があった。

 

(うん。キモイ)

 

自分から見てそう思えるのだから、第三者からすればよほどの醜態だろう。

 

「ほら、じゃない。写真を消して。今すぐ」

「えー! いーじゃん別に~。だって、一君の猫耳執事姿見てると、るんっ♪ てするよ」

「よくないから。全然よくないからッ」

 

(誰が悲しくて黒歴史を自分で生み出していくんだよ)

 

これを共有するであろう人物には妹も含まれている。

となるとこの黒歴史は妹の蘭にも知れ渡ることになる。

 

(あ、兄の威厳だけは守らないと)

 

元々ないかもだけど。

そんな時、再びシャッター音が聞こえた。

 

「日菜さん。さっきも言ったけど、写真はやめてっ」

「え? 今のあたしじゃないよ」

 

再び日菜さんが写真を撮影したのかと思い、注意をした僕に、日菜さんはきょとんとした様子で否定してきた。

 

「それじゃ、今のは……」

 

日菜さんが嘘をついていないと直感で悟った僕は、音のしたほうを探していると

 

「あ、あの。写真は困ります」

「えー。別にいいじゃんか。減るもんでもないしさ」

 

少し離れた場所で二人組の金髪でチャラそうな男性客が、リサさんに絡んでいる光景が目に入った。

その手にはスマホと思わしき端末が握られている。

困った様子のリサさんを面白がるように、もう一人の男性客がリサさんの写真を撮影していく。

 

「はぁ……」

 

その光景に、僕はため息交じりでズボンのポケットから風紀委員の腕章を取り出すと、それを装着させる。

こういった事態を想定していた僕は、いつでも取り締まりができるように風紀委員の腕章を携帯していたのだ。

とはいえ、本当にその通りになるのは複雑な心境だけど。

それはともかく、これで僕はこの瞬間風紀委員となったのだ。

 

「そちらのお客さま。失礼します」

 

リサさんをかばうように男たちの前に立ちふさがった僕に、二人は男性客はにらみつけるような視線を向ける。

 

「あ? 誰だてめぇ」

「私は風紀委員の者です。他の来園者や学生たちの迷惑になる行為は、ご遠慮願えますか?」

 

男性客たちの威勢にひるむことなく、できる限り丁寧に……されとて毅然とした態度で注意をする。

 

「風紀員だか何だか知らねえが、ガキはすっこんでろ!」

「俺たちは別に、風景写真を撮ってただけだろ。何いちゃもんつけてんだ? あぁ?」

 

だが、この二人はそれによって図に乗ったのか罵声を浴びせ始めた。

その様子に、周囲の客たちもこの場を離れ始めていた。

 

(やれやれ。あまり大事にはしたくないんだけど)

 

合同文化祭を行うにあたって、口頭での注意にも従わずに著しく迷惑行為をする者がいた場合は、学園の備品であるトランシーバーを利用して担当の教師に応援要請をする手筈になっている。

だが、それをやるとかなり騒々しくなるので、出来れば穏便に済ませたかったが、どうやらそうも言ってられないようだ。

僕は、二人から視線をそらさぬよう警戒をしながら、これまたズボンのポケットに入れていたトランシーバーを取り出そうとした時だった。

 

「おい、お二人さんよ。いい加減によさねえか」

「ああ? 何だてめぇっ!」

 

その時、男性客の近くの席に腰かけていた一人の大柄の男性客の言葉に、二人組の男性客の一人が声を荒げる。

 

「ここは静かに楽しむ場だ。おめえさんのような品のねえやつが来る場所じゃねえな。騒ぎてえんだったら、そう言う場所で騒ぎな」

「てめぇ。名に偉そうに説教垂れてんだよ!」

 

大柄の男性の言葉に、激昂した金髪の男性が、大柄の男性の胸倉をつかんだ。

 

「ちょっと、皆さん喧嘩は――――」

「フンっ!」

 

一触即発の雰囲気に、止めようと声を上げる僕の言葉を遮るように、眼光鋭く金髪の男性を睨みつけた大柄の男性は、金髪の男性を床にたたきつけていた。

 

「おめえら。人が優しく言うてる内に聞いておくもんだぞ」

「ひぃっ! す、すみませんっ! ちょっと調子に乗ってただけで――「謝る相手がちげえだろ!」――はいぃッ! 本当にすみませんでしたぁっ! 写真は責任もって削除しますっ!」

 

大柄の男性の迫力に、もう一人の金髪の男性は白旗を上げて完全降伏した。

そして、慌てた様子で目の前で自分のとたたきつけられた男性のスマホに保存されている問題の写真を削除した。

 

「よぉし。だったら、とっととここから出ていきなッ」

「はぃぃっ!!」

 

そして、大柄の男性の言葉に、金髪の男性は逃げるように教室を去って行った。

 

「すみません。助かりました」

「何。俺はうるさい若造を注意したまでだ」

 

それを見届けてからお礼を言う僕に、大柄の男性は絵をひらひらと振って応えると、立ち上がってそのまま去って行った。

 

「……なんだか、嵐みたいだったね」

「うん……」

 

怒涛の如く展開した騒動に、その場に立ち尽くしている僕にかけられたリサさんのつぶやきに、僕は頷くことしかできなかった。

その後、教室内は先ほどまでの雰囲気を取り戻すのであった。

日菜さんも、教室を去って行き、僕は再びクラスの出し物のほうに戻ることにした。

 

(あ。日菜さんに写真消してもらうの忘れた)

 

そんなことを思い出しながら。




区切る場所を悩んでいたら、自然と長くなってました(汗)

*現在PCが故障したことによって執筆速度が大幅に低下しております。
執筆、および投稿自体は可能です。
詳細は、活動報告『重要なお知らせ』をご参照ください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。