第45話です。
ドタバタした文化祭も、終わってみればすべてがあっという間のことのようにも感じられる。
『皆さんと地域の方のご協力のおかげで、合同文化祭は無事に終えることができました』
白金さんにとってある種の初陣のようなこの文化祭という行事で、成功という結果で幕を閉じることができたのは幸いだと言えるだろう。
「おねーちゃん、一君お疲れー」
周りにいる生徒たちから労いの声がかけられ、慌てた様子で頭を下げている白金さんを見ていると、飲み物を片手に日菜さんが僕たちのところにやってきた。
「本当に疲れたわ……日菜のおかげで」
「そうだね。ま、終わってみればそれもいい思い出だけど」
「……そうね」
僕の言葉に紗夜さんもそっぽを向きながら肯定の声を上げる。
そっぽを向いたのは赤くなっている顔を僕たちに見えないようにするためなのかもしれない。
「えへへ。ありがと、一君、おねーちゃん。一緒に文化祭したかったんだー」
(だと思った)
日菜さんの純粋な願いが、かなりの騒動にまで発展してはいるが、それもそれでいい思い出だろう。
「ポピパちゃんは残念だったけど」
「っと……ごめん、事務所からだ」
日菜さんが表情を曇らせて呟いたのと同時に、僕の携帯が着信を告げるように震え出したので、ポケットから携帯を取り出して相手を確認するとその相手を二人に告げた。
「一君も大変だねー」
「まあね。ちょっと行ってくる」
日菜さんの同情とも哀れみとも取れる口調の言葉に相槌を打ちながら、僕は二人にそう言ってその場を離れた。
そう。
僕は素直に、文化祭の成功を祝えるような状況ではなかったのだ。
生徒たちが集まっている場所からそこから少しだけ離れた所に移動すると、僕は電話に出た。
「はい、美竹です」
「お疲れ様です。ライブですが、どうなりましたか?」
電話の相手は、僕たちが所属する事務所のスタッフである相原さんだ。
「……はい、Poppin’Partyはライブに穴をあけました」
開口一番で問いかけてくる相原さんに、僕は先ほどのライブの結果を伝えた。
『そうですか……危惧していた通りになりましたね』
僕の言葉に返ってくる相原さんの声色はかなり深刻そうなものだった。
なぜ、僕が事務所にPoppin’Partyがライブに出られなかったことを報告しているのかというと、話は文化祭の準備期間のころにまで遡る。
戸山さんから僕……Moonlight Gloryに主催ライブへの参加をお願いされたのと同時期に、Pastel*Palettesにも同様のお願いをしていたらしいのだ。
だが、僕たちは事務所に所属するバンドだ。
個人の一存で参加ができるわけではなく、事務所への許可が必要になる。
その許可を取ろうとした際に、相原さんを通じてPoppin’Partyの直近で開かれるライブの報告をするようにと伝えられたのだ。
事務所としては、主催ライブを開いたという実績のないバンドのライブに出演した際に、”万が一”のことが起こる可能性を不安視してのものだったのだろう。
だが、結果は事務所側の憂慮した通りのことが起きた。
『Poppin’Partyの皆さんから、Moonlight GloryとPastel*Palettesへの主催ライブへの出演を依頼されておりますが、肝心のステージで穴をあけるというのは、あまり我々としても看過はできません』
そう告げる相原さんの言葉は、かなり重苦しい雰囲気を感じられる。
「あの、一つだけお願いしたいことがあるのですが」
『はい、なんでしょうか?』
このままだと、僕だけではなくパスパレの出演もNGとなるのは目に見えている。
僕たちだけならともかく、パスパレまでもがそうなるのは、僕的にはあまり後味の悪い結果だ。
だからこそ僕は
「出演の許可の判断、少しだけ待ってはいただけませんか?」
無茶を承知で次の一手に打って出るのだ。
『……申し訳ありませんが、いくら美竹さんのお願いだとしても、そればかりは』
相原さんの申し訳なさそうな声と共に却下の言葉が返ってくる。
「彼女たち……Poppin’Partyが信頼に値するか否かを判断する方法で、私に一つ考えがあります」
『……お聞かせいただけますか?』
「はい」
僕は、ある計画を相原さんに伝える。
「―――という感じです」
『なるほど……』
僕の説明を聞き終えた相原さんは、そう相槌を打つと考えこむように黙り込んだ。
(やっぱり、無理か)
僕の考えている案は受け入れられる可能性など皆無なものだ。
それができたからと言って、彼女たちの信頼を証明できるものにはなりえない。
でも、これが僕にできる精一杯のことなのだ。
『わかりました……美竹さんのご希望に沿えるよう、できる限り最善を尽くしましょう』
だが、相原さんから返ってきた言葉は、そんな僕の予想を裏切るものだった。
「ッ……ありがとうございますッ」
『お気持ちはわかりますが、落ち着いてください。ところで、活動再開の件ですが』
思わず声をうわ面せてしまう僕に、相原さんは苦笑気味に落ち着くように言うと、話題を変えてきた。
「日程が決まったんですか?」
『はい。来月の上旬ごろにライブを行います。そこから活動再開という形に持っていくということになりました』
(来月……あまり時間はないけど何とかなるか)
「わかりました。ではほかのメンバーにそのことを伝えておきます」
僕はそう告げると電話を切った。
(まずは、目先の問題から……かな)
活動再開はうれしいことには違いないが、その前にやらなければいけないことがある。
「一樹、揃ったらしいぞ」
こちらに向かって歩いてきていた田中君が、険しい表情をしたままそう告げてきた。
「……行こうか」
それに僕は無言で頷くと、田中君と一緒に彼女たち……Poppin’Partyがいるであろう講堂のほうへと向かうのであった。
「全員そろっているようだな」
「田中先輩」
「み、美竹先輩」
講堂内に足を踏み入れるなり声を上げた田中君と、その後ろを歩く僕にその場にいた戸山さん達と朝日さんの視線が集まる。
そんなものを位にも返さずに階段を下りて行った田中君は戸山さんたちの前で足を止めると彼女たちと向き合うように立った。
僕もそんな田中君の隣に立つ。
見ると、花園さんは泣いていたのか、少しばかり目が赤い。
それだけに、この後のことを考えると少しだけ胸が痛むが、今更田中君を止めることもできるはずもなかった。
「馬鹿野郎ッ!!」
『ッ!』
田中君の怒鳴り声は、まるで雷が落ちたかと思うほどに講堂内に響き渡り、その勢いにその場にいた全員が身をすくめる。
それは、全く関係ないはずの朝日さんが身をすくませるほどにすごかった。
「ステージに穴を空けるとか、一体何を考えてるっ。それが主催ライブをやろうとしている奴のやることかっ!!」
「そ、それは……ッ」
田中君の言葉に、一度は口を開きかけた戸山さんだったが、すぐにその口を閉ざしてしまう。
「それ以前に、お前たちは強硬に参加しようとしていた一樹の顔に泥を塗ったんだ。人として……ミュージシャンとして恥を知れっ!」
(田中君のあれ、やられると何も言えなくなるんだよね)
血の気が多い田中君だが、本格的にブチギレるとどうにもならなくなるところがある。
手は出さずに怒鳴るだけだが、色々な意味できついのには変わりない。
「俺はお前たちを信用はできない。ゆえに、主催ライブの参加の件は白紙……と、言いたいところだが、一樹のやつが食い下がって聞かないから、条件付きで再考のチャンスをくれてやる」
(くれてやるって……)
こっちは参加させてもらう側なので上から目線で言える状況ではないのだが、こちらに矛先が向くのもあれなので黙っていることにした。
「条件は、これから出す試練に合格することだ。試練の内容は……一樹」
「そこで僕に振るの? ……試練の内容は『あなた達がPoppin’Partyである証を示せ』だ」
こちらに視線が集まる中、僕はその試練の内容を戸山さん達に告げる。
これが、今僕にできる彼女たちが信頼できるか否かを判断する精一杯のことなのだ。
「僕たちが参加できるか否かとか、顔に泥を塗った云々はともかくとして、この試練の内容だけは覚えておくほうがいい……本当に主催ライブをやるのなら」
「あ、あのッ。それってどういう――「それは貴女達が考えることだよ」――……」
僕の試練の意味が解らない様子の戸山さんの疑問を、僕は一蹴すると田中君に声を掛けてそのまま行動を後にする。
「あ。後夜祭の飲み物を用意しておいたから、必要なら後で取りに来て」
そして、去り際に彼女たちの分の飲み物が用意されていたことを思い出した僕は、一度足を止めて彼女たちのほうに振り返ってそう告げると、今度こそ講堂を後にするのであった。
第8章、完
ということで、今回で第8章は完結となります。
次回で第9章に入るのですが、原作で11(もしくは12)話までの内容になります。
とはいえ、原作と同じところは省いていくのでそんなに長くはないと思います(苦笑)
次回も楽しみにしていただけると幸いです。
それでは、これにて失礼します。