投稿する順番を間違え、47話を先に投稿しておりました。
「……で、詳しく聞かせてもらおうじゃねえか。一樹」
戸山さんたちに試練を告げて行動を後にした僕を待っていたのは、田中君たちの詰問だった。
特に田中君は納得できないというのを隠すこともなく態度で示しているほどに、不満げで不機嫌な様子だった。
「どうして、彼女たちにチャンスを与えたんだ?」
口火を切ったのは神妙な面持ちをしている啓介だった。
「まさか、知り合いだからと情けをかけたのか? お前のプライドもその程度かよ」
「ちょっと、聡志。いくらなんでもそれは言い過ぎよ」
「ふ、二人とも喧嘩は……」
吐き捨てるように言い放った田中君に森本さんが食って掛かり、それを仲裁するように中井さんが割って入るというまさにカオスな状況ができつつあった。
(うーん。僕が原因なんだけどね……)
「説明したいんだけど、いい?」
『……』
どこか他人事のようにその様子を見ていた僕は、状況を収めるべく口を開くと、それまで言い争っていた田中君たちは口を噤んでこちらに視線を向けてくる。
「あの試練の理由は主に二つある」
「……言ってみろ」
ぶっきらぼうに先を促す田中君を見ながら、僕はその理由を告げる。
「まず一つ目。ステージに穴をあけたとはいえ、Roseliaや朝日さんによって完全に穴をあける事態を回避できたこと。彼女たちの演奏によって観客たちをがっかりとさせる事態を回避できたのであれば、そこまで徹底して責任を咎める必要性はないと判断したから」
Poppin’Partyがステージに立って演奏をするのがベストだとはいえ、Roseliaのサプライズライブということで、観客たちを残念な気持ちにさせることを最低限に済ませることができたことは、紛れもない事実だ。
「だからって、試練を与えるだけでいいという理由にはならねえぞ」
「もちろん。御託を並べたところで、彼女たち……花園さんの責任がないということにはならない」
ダブルブッキングが判明した際、彼女は文化祭のライブを優先させるという選択肢もあり、そのチャンスだって少なからずあったはずだ。
それをすべて棒に振った時点で責任がないとは言えない。
「だからこその”試練”なんだ。あの試練は、自分たちで全部を導かなければいけない。問題文も、答えもね」
「………」
僕の出したのは、かなり抽象的なものだったはずだ。
僕の言う、Poppin’Partyの証が何なのか。
そして、それの示し方。
すべてを戸山さん達は自分たちの力で組み立てていかなければならない。
「オーケー。とりあえずそれは良しとしよう。で、二つ目の理由は?」
「結局、彼女たちに問われるのは主催ライブができるのか否かだ。それの確証にもなるのがあの試練だ。そしてもう間もなく、僕の試練が”動き出す”だろうね」
僕はそう前置きを置いたうえで、みんなにこの後起こるであろうことを告げるのであった。
文化祭も終わればあっという間で、いつも通りの日常が戻る。
(文化祭も好評だったみたいだし、よかった)
来年がどうなるかはわからないが、合同で文化祭を行ったという前例は作れたわけでそう言う意味では日菜さんの功績は大きい。
そんな中放課後、僕はチュチュのマンションを訪れていた。
もちろん、制服から私服に着替えて変装した状態で。
「Sweet,Excellent! とても素晴らしいライブだったわt」
「おめでとうございますッ。おめでとうございまぁす!」
「……えらくご機嫌のようですね」
中に入るなり、やたらとハイテンションなチュチュとパレオさんの姿に、ソファーに腰かけていたマスキングに話しかける。
「ん? あぁ。なんでもこの間のライブが好評だったらしいぜ」
「あー。なるほど」
マスキングのその答えで、すべてを察した僕は何とも言えない気分で二人のほうを見る。
(その成功と引き換えに、花園さんは……)
啓介たちには冷たく切り捨てたが、それでもやはり知り合いということもあって、複雑な心境だった。
チュチュも早く終わらせようと頑張ってくれたのも知っている。
それでも、やるせない気持ちはぬぐえることはない。
「あ、ハナちゃん」
「来たわね、タエ・ハナゾノ!」
そんな中、渦中の人でもある花園さんが姿を現す。
「おめでとうございまーすッ」
「あなた達の評判かなりいいわよっ。次のライブでは二人のソロも――「あのっ、大事な話があります」
――いいわよ、何でも言ってちょうだい」
上機嫌な様子のチュチュの言葉を遮るようにして切り出した花園さんに、チュチュは顔色一つ変えずに先を促す。
「……ッ」
そんなチュチュに、花園さんはつらそうな表情を浮かべる。
「すみません。RASのサポートギターを辞めさせてください」
「ぇ……」
「……ッ」
頭を深々と下げ告げられたその言葉に、その場にいた全員が別々の反応を示した。
レイヤさんは驚いた表情を浮かべ、マスキングは表情を変えずに静かに花園さんのほうに視線を向け、パレオさんはショックを受けた様子で息をのみチュチュのほうに視線を向ける。
かくいう僕も、マスキングと同様に静観しているだけだが。
「……Pardon?」
チュチュも、まさかサポートギターを辞めたいと言われるとは予想もしていなかったのか、目を瞬かせて花園さんに聞き返した。
「RASのサポートギターを辞めさせ――「Why? どうしてよ」――私の力が足りませんでした」
繰り返し口にするハナゾノさんに、チュチュが理由を尋ねると、花園さんは申し訳なさそうな表情で静かに理由を話し始めた。
”成長したい”、”このバンドでいい演奏をしたい”その理由が告げられるたびに、チュチュの表情は徐々に歪んでいく。
それが悔しさからか、それとも悲しさからなのかはわからない。
「だから、こんなすごい人たちのところで修業ができ――「いま、修行って言った?」――ッ!」
それまで表情を歪ませているだけだったチュチュが、花園さんの一言で一気に攻撃的な鋭い視線を花園さんに向ける。
花園さんのその言葉は、完全にアウトで、室内にチュチュが机を殴りつける音がやけに大きく響き渡る。
「私は本気でやってるのっ! そんな素人のような感じでやられると迷惑なのよっ!」
「ッ!」
そして響き渡るチュチュの罵声。
思い返せば、彼女の罵声を聞くのは初めてかもしれない。
「ちょっとやってダメだったら辞めるって、自分勝手すぎるんじゃないのッ? やるならもっと全力でやんなさいよっ!」
(助け舟、出すか?)
花園さんも、悪気があってその言葉を言ったわけではない。
彼女はサポートギターであって、このバンドのメンバーではない、最低限度の指示に従うのは言うまでもないが、すべての指示に従う必要はない。
特に、そのバンドのメンバーの考え方や思想などは。
それがサポートか否かの違いなのだと僕は思う。
とはいえ、この場で助け舟を出せば下手するとこちらにも飛び火しかねない。
「……チュチュ、ちょっと話してきていい?」
そんなことを考えている間に、静かに様子を見ていたレイヤさんが花園さんのそばに歩み寄って静かに肩を置きながらチュチュに声を掛けていた。
「少し頭冷やしてきなさいっ」
突き放したような口調で返すチュチュの言葉に、レイヤさんは花園さんに促してそのままその場を離れていく。
途端に、ブース内は重苦しい沈黙に包まれる。
マスキングはソファーに腰かけ、パレオさんはチュチュのそばで静かに立っているが、その表情はどこか暗かった。
(しかし……)
「修行……か」
「……何よ」
花園さんの口にした『修行』という単語に、少しだけ思うところのあった僕は思わず口に出てしまい、チュチュから鋭い視線を受ける。
「いや、何でもないですよ」
下手なことを言って彼女の怒りに火をつけるわけにはいかないので、僕はそう言って躱した。
花園さんの言う『修行』も、あながち間違いではない。
サポートギターをする理由も、人それぞれだが、僕のように腕を鈍らせないようにするためというものだってあるはずなのだ。
それを修行と表現したとしても間違いではないし、花園さんを責める筋合いは僕にはない。
とはいえ、タイミングと相手が悪かっただけなのだ。
「この状況で辞めるなんてcrazyすぎるッ」
花園さんとレイヤさんの二人がブースを後にした後、チュチュは椅子を回転させながら声を荒げるが、その様子は誰がどう見ても不機嫌なものだった。
「だけど、もともとサポートっていう話だっただろ」
「でも、すぐにお別れなんて寂しいです……」
そんな中でもいつも通りに相槌を打つマスキングと若干寂しげな表情で口を開くパレオさんの言葉に、チュチュは静かに舌打ちをするだけだった。
「チュチュ」
「……さっきは、すみませんでした」
それからしばらくして、再び戻ってきた花園さんは、悲しげな表情を浮かべて戻ってきた
「それで、さっきの話は本気なのね?」
チュチュのいつになく圧を感じるその視線に、花園さんは静かに頷いて答える。
それと同時に、ブース内に再び緊張感が張り詰めだす。
「………ふぅ」
再びパレオさんが不安そうな表情をチュチュに向ける中、緊張の糸を断ち切るようにチュチュが静かに息を吐きだす。
「OK。わかったわ、あなたのサポートは終了よ」
「ッ! ありがとうございま――「ただし」――」
チュチュが折れる形で花園さんのサポートの辞退を認めたことに、深々と頭を下げてお礼を言おうとする花園さんの言葉を遮るようにしてチュチュは口を開いた。
「次回のライブが終わってから。それが条件よ、OK?」
「はいッ」
チュチュが出した条件に、花園さんが頷いたことで、花園さんのサポート辞退は決定となった。
結局この日はチュチュの号令で、そのまま解散となった。