私生活のほうでいろいろとあり時間がかかっておりましたが、何とか投稿できるようになりました。
楽しんでいただければ幸いです。
それでは、本篇をどうぞ
ライブハウスDubの控室。
「全員、グラスは持ったかしら?」
「はい、チュチュ様ッ」
チュチュの言葉に、パレオが手に持った飲み物がはいたグラスを掲げながら応える。
「それじゃ、今日のライブの成功と、そしてタエ・ハナゾノのサポートギター終了を労って―――」
『乾杯ッ』
あれから数日が経過し、ささやかではあるが花園さんとの送別会のような催しを開いていた。
チュチュの音頭で、それそれが心地よい音を立てながらグラスを合わせる。
「タエ・ハナゾノ。いいライブができたわ。Thanks」
「ありがとうございますッ」
「お前のギター、悪くなかったぜ」
それぞれが花園さんにねぎらいの言葉をかけて行く中、僕はそれを少し離れた場所で静かに見ていた。
「チュチュ、少し話良いですか?」
「もちろんよ」
そしてタイミングを見計らうように僕はチュチュに声を掛けると、話の内容を聞かれないようにするべく場所を移すことにした。
その時、パレオさんが一緒に行こうとしていたが、大事な話であることを悟ったのか、それとも信頼してくれているからなのかは分からないが、ついてくることはなかった。
「で、話って何よ」
「チュチュ、花園さんの所属するバンド……Poppin’Partyにスカウトの話をするつもりですよね?」
控室を後にしてそこから少し離れた通路に移動するや否や用件を聞いてきた彼女に僕は単刀直入にそう告げると、チュチュは驚いた様子でこちらを見上げてきた。
「この世界長いので」
「コホン……それで、それが何なのよ」
どうしてわかったと言わんばかりの表情に、僕がそう答えると、軽く咳ばらいをするとやや不機嫌な様子で聞いてくる。
「一つだけアドバイスをと思いまして」
それを無視して僕はチュチュに本題を言う。
「アドバイス?」
「ええ。チュチュの提案を、向こうが聞き入れる可能性を高めることができるかもしれないアドバイスです」
僕の言葉に予想通り食いついてきたチュチュに、僕はそのまま話を進める。
「簡単に言えば、”チェンジ”です」
「change?」
どういうことだと言わんばかりに首を傾げる彼女に、僕は説明を続ける。
「今、彼女はPoppin’Party所属でここにはサポートという形です。それを”RAS所属でPoppin’Partyのサポート”に変えるんです」
「………」
僕のその説明に驚いた様子で目を瞬かせるチュチュ。
僕の打ち出した提案は、花園さんをRASのギターリストとして迎え入れ、Poppin’Partyにサポートという形で入ってもらうものだった。
「こうすれば、向こう側も彼女と一緒にライブができますし、チュチュもここのギターリストとしてライブに出られることができる、まさに良いとこ取りな案だと思いますが、どうでしょう?」
「…………考えてみるわ」
最後のごり押しとばかりに提案すると、しばらく考えこんだ後にチュチュはそう答えた。
(よし、これでひとまずは大丈夫だろう)
控え室のほうに戻っていくチュチュの後姿を見ながら、僕は計画の第一段階が終了したことを確信しながらその後をついていくのであった。
翌日の昼休み、僕は廊下である人物に電話をかけていた。
これから話す内容的に、本当は屋上でとも思ったが、あそこはあそこで人気があるのであまり適さない場所でもある。
もっとも、それはここも言えるのだが、むしろ人気が多いので下手なことをしなければ、そこまで気にする必要もないという理由で、この場所を選んでいたりする。
現に、僕の後ろを行きかう学生たちは、僕のことを気にする様子は見受けられない。
『もしもし』
「あ、中井さん。今大丈夫?」
電話の相手である中井さんは、数コールで電話に出たので、僕は取り合えず話せる状況なのかを確認する。
『うん。大丈夫だけど……』
「ならよかった」
どこか歯切れの悪い中井さんの様子がちょっと気になるが、あまり時間がないので僕は用件を伝えることにした。
「近いうちに、この間話したプロデューサーがPoppin’Partyに接触を取る可能性が高い。可能な限りでいいからその場に立ち会ってほしい」
『えっと………』
「ん? どうかした、中井さん?」
僕の言葉にも歯切れの悪い様子で答える中井さんに、僕は違和感を感じて本人に問いかける。
『さっき、戸山さんたちがそのことを話してるのを聞いて、私も同行させてほしいって、お願いしちゃった』
「なるほど……」
こちらが言うまでもなく、好転していたようで僕はほっと胸をなでおろした。
「それなら問題はないよ。しっかりと、見届けてあげて」
『うん……私、頑張るね』
それから二言三言言葉を交わして、僕は電話を切った。
(頑張る……か)
中井さんが先ほど言っていた言葉が、どうにも頭の中から離れず、妙な胸騒ぎを抱かせる。
(僕の取り越し苦労ならいいけど……)
僕は、念のためにと持ち歩いていたもう一台の携帯電話を取り出すと、チュチュの携帯に電話をかける。
『……Hello』
こちらも、数コールで電話に出た。
「いきなり申し訳ない。ちょっと伝えたいことがあってね」
口調が少々不機嫌そうな感じがするが、僕は本題を切り出すことにした。
「Moonlight Gloryのことは知ってます?」
『ええ、当然よ』
ムングロの単語を出した瞬間、チュチュの声のトーンがかなり低くなる。
……よほど啓介の無礼なあれが尾を引いているようだ。
「そのバンドのメンバーの一人が、チュチュの動向をかなり、気にしているという話を小耳にはさんだので。もしかしたら、話し合いの場にバンドメンバーを送り込んで干渉する可能性もあるので、知らせておこうかと」
『………いったい誰よ』
「………」
しばらく無言だったチュチュの問いかけに、今度はこちらが黙り込む番だった。
正直言って、この電話自体が必要である可能性も少ないうえに、かなりリスクのある物だ。
そんな電話で、答えようとしていることがどのようなことを意味するかは、考えるまでもなくわかっていた。
「……ギター兼、作戦参謀の一樹です」
『…………そう。わざわざありがとう』
名前を告げたとたん、再び押し黙るチュチュに僕は心臓をバクバク言わせて相手の反応を伺っていたが、返ってきたのはいつも通りの感じの物であった。
「はぁ………」
通話が終わり、一つ深いため息をついた僕は、なんとも言えない気持ちだった。
(本当は言う必要もないんだけどね)
田中君の名前でもよかったのだが、嘘をついてもバレそうなので、正直に答えたがかなり危険な橋を渡っていると思う。
一歩間違えれば僕の素性が向こうに知られる可能性がある。
そうなると、彼女の監視もできなくなるばかりか、RoseliaやPoppin’Party関連の状況を悪化させる可能性も考えられる。
「まあ、こればっかりは祈るしかないか」
僕が、そこまでしてチュチュに連絡を入れたのは、中井さんへの牽制のためだった。
電話での中井さんの感じだと、下手な干渉をするような気がしたからの対策だったりする。
(そういうところが中井さんの良いところだけど、でも今回はちょっとだけそれは止めさせてもらうよ)
中井さんには申し訳ないと思いつつも、心の中でそう呟いた僕は、屋上を後にするのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
放課後、夕暮れに染まる道を私は一人で歩いていた。
その足取りはとても重く感じた。
「はぁ……」
口から出るのは重いため息。
(なんで私って、こうなんだろう)
私は、戸山さんたちがRASのプロデューサーの人であるチュチュさんと話をすると聞いて、その手助けにと思って同伴を申し出た。
彼女たちの役に立てるかも、と思った私だったけど
『アナタは部外者ですよね? 口を出さないでいただけますか』
その一言で、私は何も言えなくなってしまった。
(こういう時、明美ちゃんだったッらなんていうのかな?)
きっと明美ちゃんだったら、もっときっぱりと何かを言い返しているかもしれない。
そう思うと、自分の弱さにため息を再び漏らしそうになる。
「そこのアナタ」
「え?」
そんな私の背後から声を掛けてきたのは、先ほどまで私たちと話をしていたRASのプロデューサーであるチュチュさんだった。
彼女の横には、先ほどまでいた”パレオ”という名前の子の姿は見えない。
「アナタ、確かMoonlight Gloryのバンドメンバーのユミだったわね?」
「は、はい……」
一体自分に何の用なのだろう、と思いながらも私はチュチュさんの問いかけに答える。
「アナタのバンドのメンバー……カズキってどういう人物か教えてもらえる?」
「一樹君、の?」
予想もしていない問いかけに、目を瞬かせる私にチュチュさんは”アナタの感じたままで結構よ”と付け加える。
「えっと、一樹君はギターがすごくうまくて……それで」
一体どういう風に言えばいいのだろうか?
「先のことを見通している人……です」
もう少しうまい言い方はなかったものかと思うけど、でも私が今できるのはこの言い方しかなかった。
一樹君は作戦参謀と名乗っているだけあってか、先のことを見据えている。
……いい意味でも悪い意味でも。
今のサポートミュージシャンも、そして私に戸山さん達のことを見守るように言ってきたことも。
「そう……Thanks、ユミ」
私の漠然とした答えに、チュチュさんは何か思うところがあったのか、考えこむ仕草をしたのちにそう言って私の前から去って行った。
「………私、何かまずいことでも言ったかな?」
一樹君に迷惑をかけるようなことを言ってしまったのではないか。
そんな不安が頭をよぎったのは、チュチュさんの姿が夕陽の光に飲み込まれるようにして消えて行った時のことだった。
あと数話ほどでこの章が終わり、原作で言う2期の話は終わりになります。