BanG Dream!~隣を歩む者~   作:TRcrant

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第4話 ライブの誘い

入学式を終え、土日を挟めば始業式。

最初のHRで自己紹介を済ませつつ、その日のうちに授業が始まるというのも慣れたものだ。

 

(それにしても、今年は静かでいい)

 

これまで、日菜さんとは同じクラスで、席も隣同士という状態だった。

それはまるで呪いでもかけられているのではないかと思うくらいで二年連続で続いていた。

別に、それが嫌なわけではない。

ただ、授業中などに声をかけてきたりちょっかいを出されたりするのは少々考え物だ。

 

(おかげで、先生に問題を解かされたりする羽目になるし)

 

そして、正解のために先生が苦虫をつぶしたように悔しい表情を浮かべるというのが、恒例行事にもなっていた。

それも去年までのこと。

今年は、日菜さんは別のクラスなのでその心配は一切ないのだ。

そして、僕の隣の席になったのが

 

「………」

 

湊さんだった。

今年はA組。

リサさんも同じクラスではあるのだが、やはり出席番号順で、僕と湊さんが隣の席になってしまったのだが、彼女の場合は静かすぎるのだ。

 

(これは、慣れるまで少し時間がかかりそうかな)

 

静かだったら静かだったで、落ち着かないという矛盾に満ちた状況に、僕は苦笑を浮かべながらも授業に集中する。

今年は生徒会に入ったことで、色々と忙しい日々が続いていた。

とはいえ、仕事は割と早くに終わってしまっていたりもする。

理由は……生徒会長が主な要因だということで察してほしい。

そんなある日の放課後、僕はいつもの通学路とは真逆の道に歩いていた。

それは紗夜を迎えに行くためではない。

人通りが少なくなり始めるあたりに差し掛かったあたりで、まるで僕が来るのを待っていたかのように僕の真横に、一台のワンボックスカーが滑り込むように止まった。

 

「兄貴、迎えに来ましたぜ」

 

運転席に座っていた男性に一礼しつつ、僕は車に乗り込むと後部座席に腰かけた。

 

「アリバイ工作みたいな事させてすみません」

「いやいや、謝らないでください。お役に立てて自分たちは光栄なんですから」

 

ドライバーはトモさんだ。

阿久津たちの一件の時にお世話になって以来、色々と力を貸してくれている人だ。

 

「さあ、いつもの衣装用意してありますから、着替えてください」

「すみません」

 

そして僕は素早くブレザーを脱ぐと黒装束に身を包んだ。

それは僕が、カメレオンである証でもある。

この日は、スタジオミュージシャン”カメレオン”として、演奏をしてほしいという依頼が入っているために、依頼者がいるライブハウスまで向かっているのだ。

僕が素性を隠すうえで一番のネックは、依頼者のもとへ向かうまでの道中と帰宅する時だ。

歩いて帰れば後を付けられてしまうし、かといってタクシーというのもあれだ。

そんな時に、トモさんが救いの手を差し伸べてくれたのだ。

最初は気が引けたけど、トモさんの厚意に甘える形となったのだ。

そうした経緯があって、毎回目的地までの送迎を、してもらっているのだ。

 

「そろそろ目的地です。この辺でお止めします」

「ありがとうございます」

 

僕はトモさんにお礼を言いつつ、車を降りて目的地に向かうのであった。

 

 

 

 

 

「カメレオン、今日はありがとう」

「最高のライブができたぜ!」

「いえいえ。こちらこそお声がけいただきありがとうございます」

 

ライブも無事に終わり、依頼人である人たちからのお礼に、僕もお礼をし返す。

 

「なあなあ、差し出がましいがよ、俺のバンドに入らないか?」

 

このようにスカウトされるのも、いつものことだ。

 

「俺達だったら、あのムングロのように……いや、それ以上まで高みに行ける!」

「……」

 

バンドリーダーの男性の言葉に、僕は少しだけ腹が立った。

僕たちは、これまで一歩一歩前に進み続けてきて今がある。

それを貶されたような気がしたのだ。

 

「ありがたいお誘いですが、私にはあなた方には合いません。何せ私はカメレオンですから」

「あ、おい――――」

 

僕は一礼すると、呼び止めるのを無視してその場を後にする。

これもまたいつものことだ。

僕のことをバンドメンバーに引き抜こうとしてきては、門前払いにあう。

相手に対して申し訳なさは少しだけではあるが存在する。

でも……

 

(僕は啓介たち以外とバンドを組む気は、まったくないんだよね)

 

その一言に尽きる。

僕が全力で暴れられるのは、後にも先にも啓介たちしかいないのだ。

 

 

 

 

 

「兄貴、尾行のほうは大丈夫みたいですので、着替えてもいいですよ」

「すみません」

 

帰り道、家の近くまで送り届けてくれるともさんにお礼を言いながら、僕は制服に着替える。

車の後をつける不審車がいないかどうかも、トモさんは確認してくれているのだ。

おかげで、そういったルートから僕の正体がばれるという心配は軽減されている。

 

「今日もお疲れ様です。感触のほうはいかがで?」

「ええ、今日もいいライブができました」

「それは何よりです。俺たちは、兄貴のバンドの大ファンっすから」

「あ、ありがとうございます」

 

真正面から言われて、少し恥ずかしく感じてしまった僕は、頭を掻きながらお礼を言う。

トモさんには”いいライブ”と答えながらも、本心では全く違うことを感じていた。

 

(全然物足りない。もっともっともっと激しい音を出したいのに)

 

曲調の話ではない。

スタジオミュージシャンとして活動する中で、僕は自分の力の3割も出せない状況が続いていた。

もしそれ以上出してしまえば、そのバンドのライブは失敗になってしまう。

それでも、力を抜いて演奏をしていることで、僕はフラストレーションが溜まりつつあった。

全開でライブをやりたい。

そんな欲求が出てくる一方で、それを受けとめられるような人はいないというのも、僕は分かり切っていた。

 

(はぁ……これはいつかスタジオで全力で演奏するようかな)

 

車窓を眺めながらそんなことを思っていると、ポケットに入れていたスマホが震えだす。

僕はスマホを取り出すと、画面を確認する。

 

(メール? 紗夜からだ)

 

それはメールの受信を知らせるものだったようで、僕は紗夜からのメールを確認する。

 

(galaxyで、リニューアルライブ?)

 

そこには、Roseliaが”galaxy”というライブハウスのリニューアルライブに出演することが決まったことを知らせる内容が記されていた。

 

(そういえば、森本さんがそんな名前のライブハウスが商店街にあるって言ってたような)

 

キャパも少なく、そんなに興味もなかったので気にも留めていなかったけど。

 

(なんだか彼女たちも、色々と変わってきてるんだね)

 

少し前だったら、自分のレベルには合わないと言って拒否していたはずなのに、それを受け入れるようになったことは、僕としては喜ばしい限りだ。

 

(えーっと、『頑張ってね』で……送信っと)

 

我ながら、もっと気の利いた文面があるのだろうが、僕にできる精一杯の返事はそれだった。

この時の僕は、このライブが何もかもの始まりを告げることになるとは、思いもしていなかった。

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