主催ライブに向けての準備も本格的に始まった。
Roseliaのみんなは、練習と主催ライブの準備を両立させるべく奮闘している。
そんなある日の放課後、紗夜からCiRCLEで待つように言われたため先にCiRCLEで湊さん達と一緒に紗夜と白鷺さんの到着を待っていると
「お、おはようございます」
「おはようございます」
生徒会活動をしていたからか一緒のタイミングでやってきた二人に続いて戸山さんとりみさんに市ヶ谷さんの三人もやってきた。
三人の表情はどこか緊張に満ちているような感じがうかがえる。
「湊さん、いきなりで悪いのですが主催ライブにPoppin'Partyの皆さんを招こうと思うのですが、どうでしょう?」
「………」
紗夜の提案は突然だった。
「どういうこと?」
「実は―――」
僕の問いに、紗夜は事のあらましを話してくれた。
戸山さんのリニューアルライブでの告知は、やはりその場の勢いで言った感じだったらしく、準備はおろかどうすればいいのかも全く分からないありさま。
そこで、白金さんの提案で彼女たちをゲストバンドとして招くことで、主催ライブとはどのようなものなのか、そのヒントを得られるのではないかという考えに至ったらしい。
「お願いします!」
「お願いします!」
「します!」
三人も深々と頭を下げて頼みこんでくる。
「あこは賛成です! 友達と一緒にやったほうが楽しいし!」
「あこ、何度も言うけどこれは遊びじゃないのよ」
賛成の声を上げるあこさんに、湊さんの厳しい一言が入る。
「僕個人の意見だけど、別にお互いにとって悪い話ではないと思うけど……最終的な判断は湊さんに任せるよ」
彼女たちも、Roseliaの主催ライブに十分ふさわしいといえるバンドだ、参加してもらっても何も問題はない。
とはいえ、決めるのは彼女たち自身なので、僕にはそれ以上言うことはできない。
「私たちのライブに半端な熱はいらない。その覚悟はあるかしら?」
湊さんのその問いに、三人は顔を見合わせると
『はい!』
大きな声で返事をする。
「なら、決まりね」
その様子を見た湊さんは静かに席を立つと戸山さんたちのもとに歩み寄る。
「Poppin'Party……あなた達に正式に依頼するわ。受けてくれるかしら?」
「はい!」
こうして、急遽ではあるもののPoppin'PartyもRoseliaの主催ライブに参加することとなった。
決まるや否や練習の打ち合わせやら、連絡やらで一気に彼女たちはせわしなく動き出し始めた。
「気合入ってるねー」
「当然よ。彼女たちは、演奏技術はそれほど高くはないけれど……」
そんな三人の様子に感心した様子で声を上げるリサさんに、湊さんはそういうと肝心の部分を言わずに席に着いた。
(言いたいこと、わかるんだけどね)
演奏はそんなにうまいとは言えないが、彼女たちの場合は+αの部分がかなり大きい。
ここに技術をのせれば、無敵状態になることができる。
それは、僕たちMoonlight Gloryが目指す一つの形でもある。
「あ、チケットのノルマは……」
「あー、それなら気にしなくてもいいよ」
ふと思い出したように、心配そうな表情で確認するりみさんにリサさんは、安心させるように柔らかい表情を浮かべながら顔の前で手を横に軽く仰ぐようなしぐさをしながら答えた。
「チケットのほうは順調に売れていますので、会場代はこちらで賄えると思います」
「学割、ガールズ割、ギャル割! アタシのもてるすべての力を駆使したよ」
ポーズをとりながら誇らしげに言うリサさんの姿が、なんだかものすごく輝いて見えた。
確かに、リサさんの交渉術はすごいものだった。
ただ、前二つは分かるけど、あと一つは一体どんな割引なのかが、ものすごく気になるけど。
「リサ姉の交渉術、本当にすごかったよ!」
(とはいえ、その値切りのほうでどうなってくるか)
今の状況を見ると、確実に凶となるのだが……。
「前売りもかなり安くしてるから、友達とか呼ぶなら取り置きとかがおすすめだよ!」
「取り置き!」
「意味わかってんのか!?」
もはや戸山さんと市ヶ谷さんのやり取りは見慣れた光景になりつつある。
「ちょっと! なんでCiRCLEじゃダメなの!」
そんな時、横から声を上げたのはこのライブハウスの従業員でもある月島さんだった。
「うちだってつけるよ! 常連割りとか!」
(その話、何度も聞いてるよ)
主催ライブの話をして場所を決めているときから、月島さんに言われていたが、最終的には
「さ、練習を始めるわよ」
という湊さんの一言で終了となるのがオチだった。
(ライブまで残り一週間。大丈夫か?)
少しだけ不安を抱きながらも、僕は練習を見るべくみんなの後に続いてスタジオに入るのであった。
ライブまで残り二日。
クラスのみんなも、この後に来るであろうゴールデンウイークに浮足立っているようにも思えた。
「このように、この問題の場合は先ほどの公式を利用して―――」
そんな中、今行っているのは数学の授業だ。
三年ともなれば、内容はかなり難しいものとなっている。
とはいえ、この授業の先生は授業をちゃんと聞いていれば点数が取れるので、板書はしっかりとっておくことが、好成績を残すコツというのが啓介の話だ。
ただし、その分先生のチェックは厳しく居眠りを一度でもした生徒には、いかなる事情があろうとも(流石に薬を盛られて眠らされたとかなら違うかもしれないけど)温情なしの地獄が待っている。
簡単に言うと、テストの点が芳しくなく(要するに赤点だけど)居眠りなどをしたことのある生徒への、平常点などでの救済措置は行わないというタイプだ。
テストで赤点をとっても、居眠りの誘惑に負ければそのまま赤点コースに行くが、居眠りをしなければ、赤点の度合いにもよるが救済措置として赤点を免れる可能性がある。
あの啓介が居眠りをしないおかげでテストでは赤点だったが、トータルではぎりぎり赤点を回避したというのは、色々な意味で僕たちの中で伝説となっている。
一応啓介の名誉のために言っておくと、啓介は馬鹿を装っているだけで成績は良い。
ただ、おっちょこちょいなところがあり、問題の解答を書く場所が一個ずれていたらしい。
それに気が付いたのは、終了3分前で修正したがしきれなかったとのこと。
こうして、啓介人生初の赤点という伝説と、赤点回避の伝説が同時に誕生することになったのだ。
さて、僕が何を言いたいのかというと
「すぅ……すぅ……」
僕の隣の席の湊さんが思いっきり居眠りをしているということだ。
しかも、彼女だけではなくちょっと前の席のほうを見ると、リサさんも思いっきり居眠りをしていた。
(もう知らない)
起こそうにも、時すでに遅く先生の厳しい視線が二人に向けられていたので、手遅れだろう。
(これは、後で確認したほうがいいかな)
二人がそろって居眠りをするということが何を意味するのか、僕は嫌な予感を感じずにはいられなかった。
授業中の居眠りは、ある意味天国です。
とはいえ、後になって大変な目に合うのが常ですが(汗)