ある日のこと。
雲ひとつなく太陽が街ゆく人を照らしている。
そんな日。
争いなんて起きる余地のないほど気持ちのいい天気の日において、ロキ・ファミリアのホームである「黄昏の館」にある広い修練場で、金属のぶつかる音が鳴り響いていた。
「......っ!!」
「これはどうかな」
音の正体は2人の冒険者が奏でる演舞のもの
互いに金色の髪を揺らしながら武器をぶつけ合う。
いや、ぶつけ合うと言うよりかは戦っている2人のうち、男の方が手ほどきをしてあげているように見える。
金髪の少女が地面を踏み締め自分自身が持てる最高、最適の攻撃を、自他ともに認める剣技で繰り出しているのに対して、男は「クナイ」と呼ばれる極東において
「むう....」
「さすがだね」
「ああ」
ファミリアの重鎮であるドワーフ、
少女が剣を構える瞬間をついた刺突、この広いオラリオの中でも指折りの剣技とステイタスを誇る少女の攻撃を容易く受け流す防御力。
三人の目から見ても少女と男の技量は隔絶しているものに見えた。
「ほら。もっとスピードをあげるよ」
その言葉を合図にするかのように男のスピードが更に増す。
右、左、男が手にもつクナイに気を取られてばかりいるとどこからともなく蹴りが少女を狙う。
「っ!?」
少女は男の右足から繰り出され、自身の左腹を狙う蹴りを無理やり体を捻ることで回避する。
が、
「まだまだ甘いよ」
無理やり躱したことで生じた隙を目の前の男が逃すはずもない。少女の重心が僅かにズレたことを逃さす、男は少女の右足に自身の左足をかけて少女のバランスを完全に崩した。
「....あっ」
重心がブレ、男の足払いによって完璧にバランスを崩された少女はたまらず尻もちを着いてしまう。そんな大きな決定機を相手が許してくれるはずがない。そう思って次に来るであろう攻撃による衝撃を覚悟した少女は、目をつぶって体に力を込めて衝撃に備えた。
「......え.....?」
けれどもいつまでたっても体に衝撃が襲ってこなかった。そのことを不思議に思い目を開けると、そこには先程まで男が出していた鋭い雰囲気が嘘のように思えるような、とても人あたりのよさそうな笑顔が少女を待っていた。
「うん。今日はここまでにしようか、
金髪の少女、アイズは少しだけ男の言葉にムッとする。元々精神年齢が高くなく、周りの大人たちや明るい仲間たちに、いつも良くしてもらってきたアイズは割と子供っぽいところがある。もっとも、このことは、ファミリアの最古参メンバーや主神であるロキくらいしか知っていないため、アイズがこのような態度をとることはほとんどの仲間は知らない。都市でも数少ないレベル5であるアイズの攻撃を容易く防ぎ、子供を相手した様に防御を崩された。にも関わらず自分を慰めようとしてくれる男の言葉に含まれる優しさに、心の中では理解していても顔には不機嫌さが出てしまう。
そんなアイズの一面を知らないファミリアの家族が見たら驚愕するであろう彼女の態度を、見て男は笑みを更に浮かべた。
「そんなにムッとしても俺は流されないよ。君はいつもそうやってもう1回って言ってくるんだから」
「でも、私レベル5になってからも
ミナトと呼ばれた男は苦笑を浮かべる。そんな表情でも男は女性を引きつけるようで、目の前でその顔を見せられたアイズは少しばかり頬を染める。
「これでも都市最速って呼ばれてるからね。簡単には当てられてあげないよ」
ナミカゼ・ミナト
オラリオ内でも数人しかいないレベル6であり、ロキ・ファミリアの幹部でもある。その特有の魔法を用いた超高速戦闘をスタイルとすることから、神々から付けられた二つ名は【黄色い閃光】
文字通り都市最速を誇り、ロキ・ファミリア最大戦力の1人である。ちなみに、同じく都市最速と謳われるフレイヤ・ファミリアの
「オラリオ内でも屈指の速さのアイズを相手に何を言っておるんだか....もうちょいお主は手加減してやろうとは思わんのか」
二人のやり取りを見ていて、少女を少しばかり可哀想に思ってガレスはミナトに対してやや非難の目を向ける。
「まあまあ、ガレス。僕達でもミナトに攻撃を当てるのは至難だろう?」
「そもそもこのオラリオでミナトに攻撃を当てれるものなど【猪者】くらいのものであろうに...」
「ハハハ.....3人ともお待たせしてしまいすみません」
ミナトはロキ・ファミリアの中でも古参メンバーであるが、目の前にいる3人はファミリア結成当初のメンバーであり、かつミナトよりも冒険者歴が長い。そのため普段から敬意を表してガレス達には敬語を使っている。もっともミナト自身の性分でもあるのだろうが。
『 ワシの力を使わないからだぞ、ミナト。あの娘にわざわざ付き合ってやるお前の気が知れん』
ミナトにしか聞こえない伝心のようなもので、彼の中に宿る存在が不満を表す。
「(君の力をこんな所で使ったりしたら辺りがめちゃくちゃになってしまうだろ?今日はアイズの鍛錬に付き合う約束だったんだからさ)」
そもそも、なぜミナトがこのような意思疎通な存在を己の中に宿してるかは、彼がレベル6になった時に遡る。当時ロキ・ファミリアが定期的に行うダンジョン遠征から帰ってきて後片付けが済んだ後、ミナトはステイタス更新を主神であるロキにお願いした。自分の可愛い
『 九尾の妖狐』
前代未聞のレアスキルの発現。内容は主に伝説の妖狐をその身に宿し、その力を行使できるというもの。神であるロキはその手の伝承には聡い。そのためミナトが発現させたスキルの凄まじさをすぐに理解した。小さい頃から見守っていた自慢の子が都市最強に足を踏み入れ、伝説の九尾をその身に宿したことは、それはもう子煩悩であるロキを喜ばせた。遠征直後の真夜中だったにもかかわらず彼女は大いにはしゃぎ、何事かと心配したファミリアの面々が皆ロキの部屋の前に集まる。すると聞こえてくるのはロキの嬉しそうな声。「ああ、またか....」と、いつも通り慣れてる光景であったことにホッとしたロキ・ファミリアの家族達は自身の部屋に戻ろうとした時、「ランクアップおめでとうミナト!ほんま大きくなったなぁ....」
その言葉が聞こえ、事のめでたさを理解したために、
「おめでとうございます!」
「凄いなぁ。かっこいいなぁ...」
「ミナトさんも遂に団長達と同じレベル6ですね!」
「いつも私たちを守ってくれてありがとうございます!」
「ミナトさんかっこいいです.....」
「さすが。団長と並んでオラリオ1モテる冒険者です」
「羨ましいっス...俺も頑張ればモテるっスかね?!」
若干後半辺り関係ないようなセリフがあった気がするが、皆ミナトのレベルアップを祝福した。元々今みたいに持ち上げられるのを得意としていないミナトは「ハハハ....ありがとう皆」と微笑を浮かべてお礼を述べた。
なおロキの部屋に集まってた者達は、深夜にもかかわらず騒ぎ過ぎたことについてリヴェリアに大目玉を食らい、長々と説教を受けたのは余談である。
『あの猪野郎とやり合う時くらいしかワシを使わんだろうが。』
「(彼と戦うってなると、俺の攻撃じゃ軽すぎるからね。俺だけで対処できない時にこそ君の力を頼りにしてるんだよ)」
『 .......物は言いようだな』
「(そんなことはないさ。いつも頼りにしてるよ、
『 ふん.....』
九喇嘛と呼ばれたように九尾の妖狐には名前があり、初めて名前を教えてもらった際にミナトはとても喜んだ。スキル発現当初、九喇嘛は険悪な雰囲気を出していてミナトとロクにコミュニケーションをとろうとしていなかった。けれども、数々の冒険を共に乗り越えていくことで次第に2人の距離は縮まっていき、九喇嘛自身の口から名を聞くことが出来るまで関係を深めることができた。それでもミナト以外には自身の名を教えないあたり、生来の陰険さは変わっていない。
「さ、そろそろ食堂に行きましょうか」
「そうだね。そろそろティオネ辺りが騒いでそうだ」
「そん時はお主がその小さな体で抱きしめてやれい」
「まったく...」
軽口を叩きながらフィン、ガレス、リヴェリアの3人は訓練場を後にする。
「.....むぅ」
「うん?」
3人が出ていったことで2人きりになった空間。アイズは先程の勝負に納得していない様子で、その端正な顔を膨らませていた。その様子を見兼ねたミナトは何も言わず苦笑を浮かべながらアイズの頭を撫で、膝を曲げて視線を彼女と同じところまで下げ「また今度ね」と、アイズの額を指で小突いた。アイズがそれに恥ずかしがってオロオロしている間に、ミナトも先程の3人と同じように訓練場から食堂へと向かった。
「今度こそ....必ず....」
叩かれて少しばかり赤みを帯びているおでこを手で抑えながら、金色の少女は自分よりも遥か高みにいる
「ティオナ達が待ってる....、速く行かないと.....」
その言葉を最後にアイズも訓練場を後にする。食堂の方に近づくと聞きなれた仲間達のやり取りが聞こえてくる。
「皆...おはよう」
少女もまた和に加わろうと声をかけながら仲間たちの元へと向かった。
四代目が出てくる二次創作って少ないなと思い、気まぐれ全開で書いてみました。更新するかは分かりません