黄色い閃光inダンジョン   作:いちごぎゅーにゃー

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ここが無いと始まらない気がします


あの日会えた奇跡を忘れそうになるたび

遠征後に盛大な(うたげ)をすることが【ロキ・ファミリア】の習慣である。団員の労をねぎらうという名目のもと、無類の酒好きであるロキが率先して準備を進め、団員達もこの日ばかりは大いに羽目を外す。遠征の後処理が落ち着いた頃にはすっかり日も暮れ、東の空は夜空が見え始めていた。そんな中アイズ達は西のメインストリートへ向かった。

 

「あまり来ないですけど、こっちの空気も賑やかでいいですよね」

「うん、冒険者しかいない北西のメインストリートより好きだな、あたし」

 

冒険者ではない住民達が多数を占める西のメインストリートは、物騒な装備に包まれていない人の群れがそれだけで場の雰囲気を軽くしていた。仕事帰りの労働者達が食事を楽しむ声がたくさん聞こえる。

 

「ミア母ちゃーん、来たでー!」

 

辺り一面が完全に夜を迎えた辺りで、ロキが予約した酒場に到着した。酒場の女将の名を呼ぶと、すぐにウエイトレス姿の店員がアイズ達を席に案内する。

 

『豊穣の女主人』

 

この西のメインストリートの中でも一際大きいこの酒場は、ロキのお気に入りの店だ。店員が全て見目麗しい女性であり、そのウエイトレスの制服が彼女の琴線に触れたらしい。

 

「お席は店内と、こちらのテラスの方になります。ご了承ください」

「ああ、わかった。ありがとう」

 

酒場にはカフェテラスが存在した。恐らくはアイズ達一行が店に入り切らないための処置だろう、礼儀正しいエルフの店員にフィンが了承し、酒場に入る前に団員の半数をテラスへ座らせる。残ったアイズ達は入口の方へ向かい、案内された。

 

()()()さん。今日はお世話になります」

「とんでもありません。ぜひ楽しんでいってください」

「そうさせてもらいます」

 

ミナトとリュー。古い友人同士で言葉を交わす。どこか硬い感じが見受けられるが、それが彼らの距離感なのだろう。互いに深く干渉せず、お互いの立場を尊重し合う。()からそうだった。

 

「いらっしゃませー!」

 

酒場は満員だった。予約済みの席以外は全て埋まっており、多くの種族の人間が飲み騒いでいる。ロキ以外にも従業員目当ての客は多いらしく、美少女のウエイトレス達に鼻の下を長くしていた。

 

「ここの料理美味しいんだよね〜。つい食べすぎちゃってさ〜」

「てめぇはいつも食べまくっているじゃねぇか...」

 

来店した【ロキ・ファミリア】を見て、例のごとく客の冒険者達が顔色を変え声を潜め出すが、ティオナ達は気にした素振りも見せず席へついていく。

 

「......?」

 

アイズはふと、自身に向けられる視線の中で、他とは異なるものを感じた。言葉では上手く表現できないが、こう、なんていうか不快な感じがしない。気にはなったが、ティオナ達にも促されたので、詮索することもなく椅子に座った。

 

「(あれは、クラネル君か...?)」

 

ミナトだけは視線の正体に気づいたが、ベルもプライベートで来てるのだろうと、下手に声をかけようとはしなかった。僅かに目を合わせ、挨拶代わりに小さく手を振った。

 

「(何かの縁だ、後で少しだけ話しかけに行こうかな)」

 

今は【ファミリア】が優先。ミナトもアイズの隣の席に腰掛ける。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなご苦労さん!今日は宴や!思う存分、飲めぇぇ!!」

 

立ち上がったロキが音頭を取り、次には一斉にジョッキがぶつけられる。団員達が盛り上がる中、アイズもお酒ではないジュース(ノンアルコール)飲料の入った杯を軽く上げ、ティオナ達と乾杯した。運ばれてくる料理と酒はどれも美味なものばかりで、団員達の伸ばす手も自ずと早くなる。特に爽やかな果実酒と豚の照り焼きは絶品だった。

 

「団長、つぎます。どうぞ」

「ああ、ありがとう、ティオネ。だけどさっきから尋常じゃないペースでお酒を飲まされているんだけどね。酔い潰した後、僕をどうするつもりだい?」

「ふふ、他意なんてありません。さっ、もう一杯」

「本当にぶれねえな、この女.......」

「うぉーっ、ガレスー!?ウチと勝負やー!」

「ふんっ、いいじゃろう。返り討ちにしてやるわい」

「ちなみに勝った方はリヴェリアのおっぱいを自由にできる権利付きやぁっ!」

「じっ、自分もやるっす!?」

「俺もおおおお」「俺もだ!」「私もっ!」「ヒック。あ、じゃあ、僕も」

「団長ーっっ!?」

「リ、リヴェリア様...」

「言わせておけ...」

 

騒ぎ合う仲間達の横で、自分のペースで食を進めていたアイズだったが、当然のように飛び火はやって来る。酔ってたかが外れているのか、普段は大人しい後輩の団員達に、どうぞどうぞと杯を突き出され、彼女は思わず困ったように微苦笑してしまった。

 

「止めろ、お前達。アイズに酒を飲ませるな」

「...あれ、アイズさんお酒飲めないんでしたっけ?」

 

リヴェリアがすかさず止めに入り、不思議に思ったレフィーヤが彼女に尋ねる。どこか言いにくそうにアイズが口を開きかけると、右隣でパクパクと料理を食べていたティオナが答えた。

 

「アイズにお酒を飲ませると面倒なんだよ、ねー?」

「......」

「えっ、どういうことですか?」

「悪酔いなんて目じゃないって言うか....ロキが殺されかけたっていうかぁ」

「ティオナ、お願い......止めて」

「あははっ!アイズ顔赤〜い!」

 

頬を染めてうつむくと、ティオナに横から寄りかかられる。慌てふためくレフィーヤとけらけら笑うティオナに釣られ、アイズは赤らんだ顔を上げ、ほのかに微笑んだ。

 

皆それぞれ同じテーブルに座る団員同士で会話の花を咲かす中、それとなく席を立ったミナトは、先程入店する際に見かけたベルが座るカウンター席へと向かった。

 

「こんばんは。昨日ぶりだね、クラネル君」

「こっ、こんばんは!ナミカゼさんっ」

 

ぎょっとした少年の隣に座りつつ声をかけた。返ってきた挨拶に「ミナトでいいよ」と言うと、近くにいた店員に果実酒を頼んだ。注文を受けとった猫人(キャットピープル)のウエイトレスは、そそくさとキッチンの方に向かっていくと、数十秒後には注文の酒を彼に届けた。カウンターに置かれた果実酒で喉を潤すと、ベルの方に顔を向ける。

 

「昨日の今日だけど、ダンジョン探索の調子はどうかな?」

「は、はいっ。今日は3階層に行って、」

 

それから2人は他愛もない話を交わした。やれ、ゴブリンに囲まれて危なかった、やれ、初めて怪我をせずに3階層までいけたなど、緊張しながらも楽しそうに話すベルに、ミナトは笑顔で耳を傾け続ける。年相応に瞳を輝かせながら真っ直ぐ目を合わせる少年は、やはり心の綺麗な子だと感心する。

 

1人(ソロ)なのに凄いじゃないか」

「いえいえっ!ミナトさんと比べれば僕なんか!?」

「俺の方が冒険者歴が長いから当たり前だよ。少なくとも君と同じ新米(ルーキー)の時にそこまでできなかったと思うな」

「ありがとう、ございます...」

 

自分の頑張りを、憧れの先輩から褒めて貰えたことが嬉しく、ベルは照れながらお礼を述べた。自分よりも遥か高み、それも都市最高クラスの冒険者に褒めて貰えるなど夢にも思わなかった。

 

「そ、そう言えば、」

「うん?」

「ミナトさんは【ロキ・ファミリア】の皆さんの所にいなくてもいいんですか?僕なんか相手してくれなくても...」

 

楽しそうに食事を楽しむ【ロキ・ファミリア】の団員達は、皆笑顔で会話を弾ませ、賑やかに輪を作っている。その輪に加わらず、わざわざよそ者の自分(ベル)の相手をしてくれる彼を気遣うように尋ねる。

 

「確かに今日みたいな()機会は大切だと思うよ」

 

けど、と続ける

 

「こうして君と運良く再開できたんだ。何か縁を感じてね」

 

【ファミリア】の団員達とはいつでも会える。言外にそう言う彼は、少年に片目で軽くウインクを飛ばす。その一部始終を見ていた猫人(キャットピープル)のウエイトレスは、彼の仕草に「出たにゃあ...女殺し...」そう口にして仕事に戻った。

 

2人はカウンターを挟んだ向かいにいる女将(ミア)から、ご好意で出されたサービスの料理に舌を鳴らしつつ、会話を続ける。第1級冒険者と新米冒険者の組み合わせは、2人の関係を知らない周囲の者達から視線を集める。おどおどするベルをミナトが落ち着かせるように、彼の肩に軽く手を置きながら「ごめんね」と苦笑しながら言ったことで、ベルも釣られて微笑み、周りの事は気にならなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、アイズ!お前あの話を聞かせてやれよ!」

 

ベルとミナトが会話を続ける一方で、ロキを中心に遠征の話題で盛り上がっていた時だ。アイズの斜め向かいで、ベートが何かの話を催促してきた。機嫌の良さを滲ませる彼に、アイズは小首を傾げる。

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス!最後の1匹をお前が5階層で始末しただろう!?あん時にいたトマト野郎の話だって!」

 

ベートの言わんとしている事を理解した。自分が助けた白髪の少年。

 

「ミノタウロスって、あの集団で逃げ出したやつ?」

「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよっ」

 

ティオナの確認にベートがジョッキを卓に叩きつけながら頷く。普段よりも声の調子が上がっている彼に、アイズは何か嫌な予感を覚えてしまった。

 

「......っ!」

「クラネル君...」

 

ミナトの隣に座る少年の顔色が次第に変わっていく。

 

「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなヒョロいガキが!」

 

止めて。アイズは反射的に心の中で呟く。

 

「笑えたぜ、兎みたいに壁際に追い込まれちまってよぉ!」

「それで、その冒険者どうしたん?助かったん?」

「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」

 

 

 

「すまない、クラネル君。お酒も回ってるのか、普段の(ベート)はあんな調子じゃないんだ...」

「.....いえ」

 

隣で血が滲むほど握りこぶしを作るベルに、申し訳なさそうに言うが、少年はうつむいたままだ。

 

 

 

「それでそいつ、あのくっせー牛の血を全身に浴びて...真っ赤なトマトになっちまったんだよ!くくくっ、ひーっ、腹痛えぇ...!」

「うわぁ...」

 

ティオナが顔をしかめながら(うめ)いた。

 

「それにだぜ?そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまってっ.....ぷくくっ!うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのっ!」

「.......くっ」

「アハハハハハっ!そりゃ傑作やぁー!冒険者怖がらせてしまうアイズたんマジ萌えー!!」

「ふ、ふふ....ご、ごめんなさい、アイズっ、流石に我慢できない....!」

 

どっと周囲が笑いの声に包まれる。レフィーヤが、ロキが、ティオネが、その場にいる誰もが堪えきれず笑いだした。アイズだけがただ1人、取り残されたように表情を変えていない。

 

「ああぁん、ほら、そんな怖い顔しないの!可愛い顔が台無しだぞー?」

 

顔を覗き込んでくるティオナに、自分が今どんな顔をしているのか尋ねたかった。あの少年のために、どんな目をしてあげられているのか。

 

「しかしまぁ、あんな情けねぇやつ久しぶりに目にしたぜ、ホント胸糞悪くなったな。野郎のくせにぴーぴー泣きやがってよ」

「......あらぁ〜」

「ホントざまぁねえよな。ったく、泣きわめくくらいだったら最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての。ドン引きたぜ、なぁアイズ?」

 

気づかないうちに膝に置かれている手が、拳を作っていた。ふと視線を感じて目を向けると、リヴェリアがアイズの事を見つめている。彼女がこの周囲の中で1人、その黙りこくった表情の裏で不快感を覚えているようだった。

 

「ああいうヤツがいるから俺達の品位が下がるんだよ。勘弁して欲しいぜ」

「いい加減そのうるさい口を閉じろ。我々の不手際で少年を巻き込んでしまったんだ。それを酒の肴にする権利はない。恥を知れ」

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな情けねぇやつを庇って何になるんってんだ?ゴミをゴミと言って何が悪い」

「こら、やめぇ、ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」

 

ロキが見兼ねて仲裁に入るも、彼は言葉を緩めない。

 

「アイズはどう思うよ?あんなヤツが俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

「...あの状況じゃ、仕方なかったと思います」

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。じゃあ、あのガキと俺、(つがい)にするならどっちがいい?」

 

その強引な質問にフィンが軽く驚く。

 

「....ベート、君、酔ってるの?」

「うるせぇ。ほらどっちなんだよアイズ。どっちの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」

 

この時ばかりは、はっきりと、ベートに嫌悪感を抱いた。

 

「...私は、そんな事を言うベートさんとだけは、ごめんです」

「無様だな」

「黙れババアっ!じゃあ....何か、お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」

「....っ」

 

高ぶっていた感情に水を浴びせられた気がした。

 

それは無理だ。アイズには弱者を(かえり)みる余裕はない。遥か後ろにいる存在のために立ち止まることはできない。アイズの願いは遥か先にある。もうアイズは、弱い頃の過去には戻れない。

 

「はっ、そんな筈ねえよなぁ。自分より弱くて、救えない。気持ちだけが空回りしている雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねえ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

彼は遂に、言った。

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」

 

アイズが否定できない言葉を、

 

 

 

 

 

 

 

「.....っ!?」

「クラネル君、ここは俺が持つ。行っておいで」

「......ありがとうございます....っ!」

「ベルさん!?」

 

店員の少女の叫び声と共に、ベルは店の外へと飛び出して行った。

 

「ミアさん。少し、騒がしくなるかもしれません」

「ったく...あんたも苦労するねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「(....)」

 

少女が後を追う中、アイズの目はその少年(ベル)の顔をはっきりと捉えてしまった。

 

全て聞かれてしまっていた。彼はダンジョンのある都市の中心に走り去っていった。彼を追いかける店員の少女が見えたが、アイズはそこから動くことができなかった。先程ベートに言われた言葉が自分の頭の中で繰り返される。弱い頃のアイズなら、少年を追いかけることはできただろう。けど、今は違う。今の自分には、涙を流しながら駆けて行った彼を追うことはできない。心の中で葛藤する彼女の横を、1人の青年が横切った。

 

ミナトだ。

 

「ミナ.....っ!?」

 

その碧い瞳には、滅多に彼が見せない憤怒が宿っていた。すれ違う瞬間に()()を目にしたアイズは思わず息を飲む。彼女の横をそのまま通り過ぎると、やがて、先程までベルを気持ち良さそうに罵倒していたベートの前で立ち止まる。

 

『っ!!??』

 

尋常ならざるミナトの表情を見た団員達は、皆揃って驚愕した。普段、怒りとは無縁の彼が、あの誰よりも心優しいミナト・ナミカゼが激怒している。

 

「ああん?」

 

自分を見下ろす形で近づいた彼を怪訝に思い、ベートが疑問の声をこぼす。

 

「どうして...」

「あ?」

「どうしてあんな言い方をしたんだ、ベート」

「何キレてんだ、お前?」

「答えろ、ベート」

「ちっ...雑魚を雑魚と、弱えやつを弱え、そう言っただけだろうが」

 

ミナトが発する圧に少しばかり萎縮するベートだが、すぐに調子を取り戻し、自分は間違っていない。そう告げる。

 

「そうか...表に出ろ。ベート」

「ちょっ!ミナト!?」

「面白ぇ、ずっとお前と()りたいって思ってたんだよ...!」

「ベートも!止めなさいよ!?」

 

一触即発の空気を纏い始めた2人をアマゾネスの姉妹が止めに入るが、無駄に終わる。

 

「フィン!止めなくていいのっ!?」

「うーん...ミナトなら大丈夫じゃないかな」

「そんな!?」

 

堪らずフィンに助けを求めたティオナだったが、まさかの放置。既に店の外に出た2人を止めるには、時既に遅い。

 

 

 

 

『豊穣の女主人』が店を構える正面の大通りで、2人の青年は向き合っていた。

 

「今さら待ったは無しだぞ」

「それは俺のセリフだよ、ベート。少しお灸を据えてやる」

「はんっ!やれるもんならやってみやがれ!」

 

その言葉を最後に、狼人(ウェアウルフ)の青年は自慢の脚力を使い駆け抜けた。迎え撃つは【黄色の閃光】。少年(ベル)の誇りを守るために

 




次回、ベート死す
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