黄色い閃光inダンジョン   作:いちごぎゅーにゃー

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長すぎた....後悔はしている


許せば進めるし恨みは立ち止まらす

カァン、カァン、と金属を打つ音が生じている。

周囲から(しき)に鳴り響いてくる甲高い打撃音。舞い狂う音の後に眩い火花が飛び跳ね、辺り一帯に閃光を散らす。(つち)を振るい、大量の汗を流す精悍(せいかん)な男達の声も時折聞こえてくるこの場所は、鍛冶場と呼ぶに相応しかった。

 

『うおおおおおおっ!?大切断(アマゾン)、てめぇ、くたばりやがれえええええええええ!?』

 

とある作業場の一角では、大の男達が5人ががりで特大の超硬金属(アダマンタイト)を鍛え上げている最中だった。不眠不休の怨嗟(えんさ)も込められた、友人の少女に対するそんな雄叫びを耳にしながら。アイズはどこか肩身狭そうに、とある神物の前でたたずんでいた。

 

「まさか、5日で使い潰すとはな.....」

 

重く、そして呆れ返ったようなゴブニュの言葉に、ぴくりとアイズの肩が震える。ドワーフを連想させる小柄ながらたくましい体付きの初老の男神は、ちらと彼女の顔を見やり、ため息を吐き出した。怪物祭(モンスター・フィリア)から翌日の朝。アイズは今、整備を頼んでいた《デスぺレート》を受け取るため、【ゴブニュ・ファミリア】のホームに訪れていた。工房でもある広い平屋の中心にいる彼女達の周りでは、鍛冶師達が早朝にも関わらず汗水流して働いており、鍛錬の作業に没頭する者、炉の炎を調節する者、設けられた掲示板に貼り出されている武器の依頼書を確認する者など様々いる。忙しなく動き回る彼等に囲まれるアイズは、《デスぺレート》を受け取ると同時に、ゴブニュから借り受けた代剣、レイピアを返却していた。

 

無残にも剣身が砕け散った、残骸の状態に変えて。

 

「お前らは本当に鍛冶屋泣かせだな」

「.....ごめん、なさい」

 

台の上に乗っている()()()()()()()を、ゴブニュと挟んで見下ろしながら、アイズはしゅんとうなだれる。仲間の壊し屋(ティオナ)のことも含まれた神の皮肉に、かき消えそうな声で謝った。

 

「少しはミナトを見習え。あいつは()()()()()で武器を調達してるが、整備も滅多に注文しないほど綺麗に使っているぞ」

「.....ミナトを出すのは、ずるいと思います」

 

怪物祭(モンスター・フィリア)にて脱走したモンスター達との交戦で見事に破砕した代剣は、今は台上で無数の破片となって転がっている。また【ロキ・ファミリア】かよ、というげんなりした視線を周囲の職人達から浴びながら、アイズはひたすら恐怖する思いだった。

 

「.....あの、お代は?」

「4000万ヴァリス、といったところか」

 

ガーン!と音を立て、4000万という金額がアイズの頭上に降って直撃する。しばらくダンジョンにもぐって返済しなきゃ、そう意気込んだ。腕を組んでやれやれとこぼすゴブニュの顔を見ながら、申し訳なく、そして落ち込みながらアイズは思った。少年(ベル)に会って謝罪するのは、まだまだ先になりそうだ

 

「(.....ミナト、一緒に行ってくれるかな)」

 

淡い期待を胸に、アイズはホームへの帰路を進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風を斬る音が響いている。庭で日課となった素振りを、まだ日が出ていない時間帯から行っていたアイズ。やがて日の出を知らせる光が、オラリオの東の空を赤く照らし出す。アイズは最後と言うように庭木から落ちた1枚の緑葉をヒュンッと斬り上げ、両断し、剣を鞘に収めた。

 

「.....?」

 

鍛錬を終了させたアイズは、自分を見つめる視線に気付く。振り向くと、庭に繋がる塔の出入口付近で、レフィーヤが目を見開きながらたたずんでいた。胸に分厚い本を抱えている彼女はアイズの剣舞に魅入っていたように固まっており、目を向けられると、思い出したようにはっとして、それから笑顔で拍手をし出す。

 

「す、すごかったです、アイズさん!私つい見とれちゃってっ、声をかけるのも忘れちゃいました!」

「えっと.....ありがとう?」

 

その賞賛に、アイズは小首を傾げながら答えた。日課である事柄を褒められたところで、どう反応していいかがわからない。

 

「本当にこんな朝早くから剣を振られているんですね.....だからアイズさんはあんなに強くって.....私も見習わなきゃっ」

 

目の当たりにした鍛錬の積み重ねが、アイズを【剣姫】と呼ばれるまでに押し上げた要因の一つであると確信するレフィーヤは、力を込めて精進しようと意気込む。そんな後輩の少女の姿に、アイズは微笑ましそうに口元を綻ばせた。

 

「アイズさんは、剣術を誰かに教わったりしたんですか?」

「.....お父さん、かな」

 

アイズは視線をさまよわせ、少し考える素振りを見せた後、ポツリと質問に答えた。

 

「お父様が.....そういえば、アイズさんのご両親は今は何を.....?」

 

と、レフィーヤがそこまで言葉を続けたところで、別の方向から声が投じられた。

 

「レフィーヤ。書庫へ行って本を取ってくるのに、どれだけ時間がかかっているんだ」

「リ、リヴェリア様.....」

 

新たに中庭に立ったのは、レフィーヤと同じ美しいエルフの女性、リヴェリアだ。翡翠色の長髪から細く尖った耳を覗かせる彼女は、剣を構えたアイズの姿を認めるなり、何もかも悟ったように吐息した。

 

「アイズの鍛錬に現を抜かしている暇はないぞ、お前も修行中の身だ。朝食の時間まで続けるぞ。アイズ、また後でな」

「ア、アイズさぁ〜んっ.....」

 

リヴェリアにずるずると引きずられていくレフィーヤ。本を抱えながら名残惜しそうな表情をする彼女に、頑張って、とアイズは軽く手を振った。どうやらレフィーヤはレフィーヤで、リヴェリアから魔法の教示を受けていたらしい。あの様子からして、恐らく夜通しだろう。ほんの数年前まで似たような境遇だったアイズは、リヴェリアの指導が苛烈(スパルタ)であることを知っている。どこかしみじみと過去を振り返りながら、頑張って、と再度胸の中で激励を送り。アイズもまた剣を持って、中庭から塔の中へと戻った。

 

シャワーを浴びてさっぱりしたアイズは、ホームの廊下を移動し、大食堂へ向かった。既に食堂には数名の団員がおり、朝食の料理や皿を配膳している。厨房から漂う香ばしい匂いは朝早くから活動していたアイズのお腹を大いに刺激した。ちらっと見たところ、本日は野菜スープとサラダ、サンドイッチ、それに野菜入りオムレツのようだ。先日【デメテル・ファミリア】から届けられた大量の野菜が猛威を振るっている。彼の派閥の野菜はとても甘いので、アイズは好きではあるが。食べ切れるかな、と思いつつ、アイズは他の者達に紛れてさり気なく配膳を手伝った。長方形の食卓に食器等を並べていく、が。

 

「うぉっ、アイズさん、いつの間に!」

「ありがとうございます、でも大丈夫ですから!」

 

感謝されると同時に、めっそうもない、と団員達から断られてしまう。まるで姫君のような扱いでやんわりと遠ざけられた。しょぼんと、アイズの肩が心なし、しおれる。

 

『ティ、ティオネさん、朝食は俺たちが...』

『団長の朝ごはんは、わ、た、しが作るのよ!手出し無用よ、引っ込んでなさい!』

 

ちらっと見える、厨房にこもり団員を押しのけ朝食作りに勤しむティオネの姿。皆と賑やかに交流している、ようにアイズの目には見える。ティオネは凄い、と思いつつ、優しく大食堂から追い出されてしまった。

 

「うっ.....」

「?」

 

当てもなく廊下を歩いていると、曲がり角から現れたベートとばったり出くわす。出会い頭にぎょっとした彼は、口端を軽く痙攣(けいれん)させながら、無理矢理とわかる笑みを浮かべた。

 

「.....よ、よお」

 

『豊饒の女主人』での一件を引きずっているのか、どこかぎこちない態度を取るベート。あの時はベートも酔っていたと、好感度はやや減少しつつも、アイズはもうそこまで引きずっている訳ではない。ので、おはようございます、と挨拶を返そうとしたが。

 

「おっはよーアイズ!」

「ぐおっ!?」

 

どんっ、とベートを押しのけ、ティオナが正面からアイズに抱きついてきた。軽くのけ反り、キョトンとするアイズの体を笑顔で抱きしめるティオナは、背後を振り返り「べーっ」と舌を出す。ぐぎぎぎっ、と歯を食いしばるベートを他所に、彼女はアイズの手を引っ張ってその場を離れ出した。

 

「アイズー、あの狼男と話してもいいことないから、あっち行こう?」

「おいこらっ、聞こえてんぞド貧相女!?」

「ド貧相とか言うなぁあああああああ!!」

「あ、あの.....」

「朝っぱらからうるさいぞ!廊下で騒ぐでない、お主等!」

 

その後、ドワーフのガレスに、アイズ達は食事の時間まで一頻(ひとしき)り注意されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、団長。私のお手製料理です、たーんと食べてください」

 

大食堂で朝食が始まる。湯気が立つスープやふわふわのオムレツに各々が手を伸ばす中、上座にいるフィンの前には、巨大魚を丸焼きにした野性味溢れる女戦士(アマゾネス)料理が置かれていた。1mを超える魚の丸焼きに、小人族(パルゥム)の少年は黙って遠い目をした。ご機嫌なティオネに強引に食べさせられる彼の元へ、気の毒そうな視線が集中砲火する。

 

「ふあぁ、おはよう皆.....」

 

そんな時、今しがた起きたのか欠伸(あくび)をしながら金髪碧眼の青年、ミナトが食堂に登場。空いてる席の近くにいたアイズ達に挨拶をした。

 

「.....おはよう、ミナト」

「おっはよー!」

「おはようございます」

 

アイズ、ティオナ、レフィーヤ、3人の美少女達に迎えられるミナトに嫉妬の視線が送られる中、アイズは空いてた自分の前の席に彼を座らせ、そそくさと彼の分の朝食を厨房から運んだ。何も知らない者が見たら卒倒するような光景だが、ここ【ロキ・ファミリア】では割と朝に弱いミナトに、アイズが食事を持ってくるという光景が日常化していた。まだミナトが幼い頃はリヴェリアやロキがしていたことだったが、ここ数年で一番彼との付き合いが多くなったアイズが、いつの間にかこの役割を担うようになっていた。

 

「.....これ、今日の朝食。【デメテル・ファミリア】から貰った野菜を使っているんだって」

「へぇ、それは楽しみだなぁ」

 

他愛もない朝の会話を繰り広げる2人は、同じ金の髪もあってか、周囲からは本当の兄弟のように見える。実際10年近くも同じ【ファミリア】内で過ごしているため、兄弟に近い関係を築けているのだろう。朝から微笑ましい光景を目にした団員達は、揃って破顔した。

 

「アイズ、今日は何かする予定あるの?」

「ん、と.....」

 

50人以上の団員が一斉に食事をとる大食堂は話し声が絶えない。ざわめきに囲まれながら、アイズから貰ったサンドイッチをひょいっとつまみ、ティオナが尋ねてくる。

 

「一昨日、剣を壊しちゃったから、弁償しないといけなくて.....」

「それって、フィリア祭で使っていたレイピアのことですか?」

 

隣にいるレフィーヤにこくりと頷くアイズ。昨日のゴブニュとの会話、しばらくダンジョンにこもって必要資金を確保しようとしている意向を、若干羞恥を覚えながらティオナ達に語った。

 

「じゃあ、あたしも行くよ!アイズのことだから、1週間くらいダンジョンにこもるつもりなんでしょ?」

「でも、ティオナ.....」

「大丈夫、大丈夫!あたしだって作り直して貰った大双刃(ウルガ)のお金、用意しないといけないし」

「私もお邪魔で無ければ、お手伝いさせてください!」

 

ともに資金稼ぎしようとティオナが提案し、負けじとばかりにレフィーヤも協力を申し出る。自分の不始末にティオナ達を巻き込んでしまうのはアイズとしては心苦しい思いだったが、こう頼み込まれては断り切れない。何より、純粋に2人の善意が嬉しかった。

 

「.....うん、じゃあ、お願いするね」

 

眉を下げて微笑むアイズに、ティオナとレフィーヤも笑い返した。

 

「ミナトも、その、一緒に.....」

 

どこか照れくさそうに、少しうつむき彼を上目遣いで見つめながら、誘おうとするアイズ。まるで大好きな兄に遊んでもらうため一生懸命おねだりする妹のような態度の彼女に、ようやく意識が鮮明になってきたミナトは「ん、なら俺も行こうかな」と答えた。

 

「なら決まりだね!ホームを結構空けそうだし、フィン達に言っておかないと駄目かな?」

「そうですね。次回の『遠征』はまだ先ですけど、しばらくダンジョンに滞在するなら、ロキか団長に申請しておいた方が」

 

無断で行ったら余計な心配かけちゃいますし、とレフィーヤはティオナに答える。4人で大まかな滞在期間、探索日程の話し合いを進めている内に、周囲では席を立ち上がる者が出始めた。食事を済ませ、団員達が部屋を退出していく。ふとアイズは、そういえばロキがいない、と今になって気づく。いるだけで賑やかな主神が朝食の場に顔を出していないことを、彼女達は疑問に思った。また二日酔いに陥るほど酒盛りに(ふけ)ったという話は聞いていない。

 

「あんた達、さっきから何話してるのよ?」

「あ、ティオネさん」

「4人で1週間くらい、ダンジョンにお小遣い稼ぎ行こうかなーって。ティオネもどう?」

 

フィンとの食事を終えたティオネが、アイズ達の元へやって来る。全て食べきれないと固辞された巨大魚の丸焼きを、想い人の食べかけを、完食(しょり)した彼女は中々どうしてご満悦そうたったが、

 

「1週間?いやよ、そんなに団長のお近くにいられないなんて」

 

ブレない姉に、ティオナはボソリと考えを口にする。

 

「どうせだからフィンも誘ってみようかなー」

「しょうがないわねー、私もついて行ってあげるわ。感謝しなさい」

 

俄然(がぜん)乗り気になったティオネに、アイズは苦笑するミナトと顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)『黄昏の館』。多くの塔が連結してなるこの場所で、フィンの私室は真北の塔にあった。

 

「フィン、入るよー?」

 

ノックをし、ティオナが両開きの扉を開ける。彼女達に続いてアイズとレフィーヤ、ミナトとティオネも入室した。

 

「何だ、お前達。ぞろぞろとやって来て」

「あ、リヴェリア様.....いらっしゃったんですか?」

 

書類の束に目を通しているフィンの隣にはリヴェリアの姿もあった。朝食を終えた後、派閥の総務を行うため2人で部屋にこもっていたらしい。団長の少年を補佐する副団長は、羊皮紙を片手にアイズ達に目を向ける。

 

「相談っていうか、ちょっとフィンと話したいことがあるんだけど」

「んー、少し待って貰っていいかな。そろそろ一区切りがつきそうだから」

 

ティオナの申し出にフィンは書類から顔を上げずに答えた。しばらくの間、羽根ペンの動きを止めず、淀みなく文字を書き続け、真横に立つリヴェリアから新しい羊皮紙を受け取っていく。

 

「よし、待たせたね。それで話ってなんだい?」

「実はですね、ティオナ達がしばらく探索に出かけたいそうなんですけど、もし団長も良かったらと.....」

 

仕事を一区切りさせたフィンに、ティオネがずいと前に出て説明する。彼は「ああ、いいよ」とあっさりと了承した。

 

「僕もそろそろダンジョンに行こうと思ってたからね。たまには気ままに、じっくりと探索をしておきたいし」

 

派閥の首領として『遠征』では常に団員達を統率する身であるが故に、プライベートな迷宮探索も時には楽しみたいとフィンは笑う。「じゃあフィンも決まりねー」とティオナがにこやかに言い、また自動的にティオネも参加が決定した。

 

「せっかくだし、リヴェリアもどうだい?」

「.....そうだな、私も行かせてもらおう。私達が留守の間は、悪いがガレスに任せるか」

 

リヴェリアもフィンの言葉に乗り、これでアイズ達を入れて7人。レフィーヤを除いても6人も第1級冒険者と、豪華なパーティができあがった。

 

「あ、このことベートには内緒ね!聞いたら絶対付いてくるし、付いてきたらうるさいし」

 

朝のことを根に持っているのか、ティオナは意地の悪い笑みで釘を刺す。フィン達は苦笑を浮かべつつ、いっぺんに派閥の主力が出払うのも考えものなので、異議は挟まなかった。

 

「それじゃあ、各自準備を行って、正午にバベルに集合と行こうか」

『おー!』

 

片腕を突き上げるティオナとティオネを真似て、アイズも恥ずかしがるレフィーヤとともに控えめに右手を伸ばす。意外と乗り気で手を高々と上げているミナトにリヴェリアが呆れる視線を送る中、一同はフィンの提案に賛同するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、フィンとティオネ、来た」

「僕達が最後だったか。待たせてすまない」

 

広大な中央広場、その中心地にそびえるバベルから少し離れた広葉樹の一角。木陰にいたアイズ達は、長槍を肩にかつぐフィンと同じくバックパックを片方の肩に背負うティオネを認める。寄りかかっていた広葉樹を蹴り、ティオナはうきうきとしながら自身の巨大な獲物を手に取った。レフィーヤとリヴェリアも杖を持ち、ミナトは三枚刃のクナイを片手に構え、アイズは腰に付けた《デスぺレート》の感触を確かめる。

 

「準備は万端のようだね。じゃあ、そろそろ行こうか」

「ああ。この顔ぶれでダンジョンにもぐるのも、久々だな」

「そうですね。俺もアイズと2人が多いですし」

「えへへ〜、あたし行く前からわくわくしてるもんね〜」

「ちょっとは自重しなさいよ、あんた?」

 

フィン、ミナト、リヴェリアの声に続き、能天気なティオナへ呆れ顔のティオネが注意を促す。そんな彼女達を見てくすりと笑みを漏らすレフィーヤが、アイズの方に振り向いてきた。

 

「私もお役に立てるよう、頑張ります」

「うん、ありがとう、レフィーヤ.....頑張ろうね」

 

ほのかに笑い返すアイズは、それから皆と同じように頭上を仰いだ。天を()くように伸びる摩天楼。美しく壮大な白亜の巨塔を見上げていると、やがて東の空から正午を告げる大鐘が鳴り渡る。澄んだ都市の鐘の音に押されるように、アイズ達は巨塔の門前へと歩み出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイズ達は予定通り、正午頃バベルを発った。彼女達はあっという間に『上層』を超え、『中層』の17階層半ばまで足を進めた。

 

「あー、やっぱり大双刃(ウルガ)があると落ち着くなー」

「作り直してもらった武器、完成したんだね」

「うん、二代目()()()!できたてホヤホヤだよ〜!」

 

ミナトの言葉にティオナは、片手で持った巨剣を軽々と回しながら答える。出発前に【ゴブニュ・ファミリア】から受け取ってきた専用武器(オーダーメイド)に、彼女は機嫌の良さを滲ませた。

 

「【ゴブニュ・ファミリア】の苦労が目に浮かぶわね.....」

 

嘆息しながらティオネはティオナが倒したモンスターの死骸から『魔石』を摘出する。目標4000万の道のりは遠く、換金率の高い『深層』に出没するモンスター達の素材や魔石を求めるアイズは、こっそりむんと気合いを入れながら、まずは下層域を目指すべくパーティの先陣を切って行った。

 

「んー、ようやく休憩!」

 

傾斜を描く洞窟を抜け、ティオナが一段落とばかりに伸びをする。18階層に降り立ったアイズ達を迎えたのは、頭上より降りそそぐ暖かな光、そして木々が(まば)らに生えた森の入口だった。穏やかな空気を放つこの18階層は、アイズ達が以前の『遠征』の際に利用した50階層と同じ、ダンジョンに数層存在する安全階層(セーフティポイント)だ。

 

「いつ来ても綺麗だね、この階層は」

「うん、そうだね.....」

 

自然を好むためか、頬を緩ませるミナトにアイズは頷く。森林の中を進む彼女達の目には、苔を纏う立派な大樹やせせらぎを奏でる小川が映っていた。

 

「今は.....どうやら『昼』のようだな」

 

手で傘を作り、リヴェリアが頭上を見上げる。階層の天井には、無数の水晶が隙間無くびっしりと生え渡っていた。これらがそれぞれ光を放つことで、18階層には地下でありながら『空』が存在している。多くの冒険者の目を奪ってきたダンジョンの神秘だ。時間の経過によって水晶の光量が落ちていき、『朝』『昼』『夜』の時間帯を作り上げる。また光量の変化は少しづつ時間のズレを作るため、地上との差が生まれる。先程リヴェリアが確認したのはそのためだ。

 

「とりあえず(リヴィラ)に寄ろうか。ここまで集めたドロップアイテムを1度整理しておこう」

 

フィンの提案に従い、一行は現在地である南の森から階層の西部、ダンジョン内に存在する『街』へと進路を取った。

 

「あー、この街に来るのも久々のような気がするなー」

 

ティオナの言葉が向かう真正面、大陸の片隅を切り取ったかのような高く巨大な島の頂上付近に、その『街』は築かれていた。名を『リヴィラの街』。ダンジョン内での中継地点を必要とした冒険者達の要望に答え、()()()()()()築き上げた街である。

 

「突っ立ってないで、早く行きましょう?一休みもしたいし」

 

ティオネの呼び掛けからアイズ達は街へと足を踏み入れる。そのまま通りを歩く傍ら、レフィーヤが今後の予定を確認するように口を開く。

 

「買取所で魔石やドロップアイテムを引き取ってもらって、それから.....」

「宿はどうするの?またいつもみたいに、森の方ねキャンプ?」

「んー、今回くらいは街の宿を使おうか。野営の装備も持ってきてないしね」

「でも団長.....1週間も寝泊まりすれば結構な金額になりますよ?ここはリヴェラなんですから.....」

 

危険なダンジョンにあることで需要が高いこと、冒険者達が店を切り盛りすること、これらの要因から地上の3倍、4倍と値段の張ることは『リヴィラの街』の特色でもあった。

 

「ティオネ、ケチ臭ーい。いーじゃん、たまにはさー」

「ケチ臭い言うな!!あんたはずぼら過ぎんのよ!」

 

2人のやり取りに、笑みを漏らしたフィンが提案する。

 

「いいよ、宿代は僕が全部出そう。アイズ達はお金を貯めなきゃいけないみたいだしね」

「それなら俺も半分出しますよ。あまり使う機会も無いですし」

「.....ごめん、フィン、ミナト」

 

恐縮そうに謝るアイズに、2人は揃って「こんな時にしかお金を使わないしね」と笑いかけた。

 

「.....」

「リヴェリア.....?」

 

2人に礼を告げたアイズは、ふと、1人黙っているリヴェリアの様子に気付く。彼女は美しい街並みを見回しながら、その唇を開いた。

 

「街の雰囲気が、少々おかしいな」

「そういえば、いつもより人が少ないような.....」

 

リヴェリアの言葉にレフィーヤも周囲を見やる。すれ違う冒険者は片手で数える程しかいなかった。ここまで人気がないと流石に違和感をもたらすようになる。

 

「えーと.....どうする?」

「ひとまず、どこかお店に入ろうか。情報収集も兼ねて、街の住民と接触してみよう」

 

ティオナの言葉にフィンが答えた。彼に率いられながらアイズ達は広場から移動する。やがて天幕でできたとある買取所に店主の姿を発見し、足を運んだ。

 

「今は大丈夫かい?」

「おお、【ロキ・ファミリア】じゃないか。客かい?」

「街の様子がいつもと違うようだけど、何かあったのかい?」

「.....ああ、あんた達、今街に入ったばかりなのか」

 

ちらりとアイズ達を見やったアマゾネスの女店主は、辟易したように話した。

 

()()()()。街の中で、冒険者の死体が出てきたらしい」

 

フィンも含め、アイズ達は目を見張り、驚きをあらわにする。

 

「ちょっと前に見つかったらしくてね。狭い街さ、あっという間に話が広まって、ほとんどの奴らが野次馬に行っちまってるよ。殺しなんてしばらくなかったんだけどねぇ」

 

踊り子のような衣装を身に付けている彼女に、フィンは質問を重ねた。

 

「何者かの手で殺されたのは、確かなのかい?」

「さあね、詳しくは知らないよ」

「その死体はどこで見つかったのか、わかるか?」

 

その後、事件の発生場所を聞いた彼女らは天幕を出た。

 

「.....どうしますか、団長?」

「ここで宿を取る以上、無関心でもいられないだろう。行ってみよう」

 

彼の言葉を最後に移動し、事件が起こったという『ヴェリーの宿』と看板のある宿にたどり着いた。

 

「うわ〜、ちょっとこれ、進めなそう.....」

「宿の中はっ、入れないんでしょうか?」

 

多くの野次馬のせいでとてもではないが割って進めそうにない。そこで一番小柄なフィンが動く。

 

「ちょっと僕が見てくるよ。リヴェリア達はここにいてくれ」

 

小柄な体格を活かし、彼は人集りの奥へするすると入っていった。おおー、とティオナ達が感心する横で、1人取り乱すのはティオネである。

 

「団長っ、待ってください!?.....ちょっとあんた達、どきなさいよ!」

「ひっ、【ロキ・ファミリア】.....!?」

 

ティオネの形相に怯えた冒険者達が一斉に左右に割れる。空いた道を進み宿へと向かう。アイズ達は3名程の冒険者が入口前に待機している部屋を見つけ、うろたえる彼等に頼み込み、中へ踏み入れさせて貰った。

 

『.....っ!』

 

部屋に入ったアイズ達は一瞬、言葉を失う。

 

1番奥に位置する部屋は、真っ赤に染っていた。そして無惨な姿で横たわるのは、頭部を失った男の死体であった。




アイズとミナトって見た目も兄弟っぽいよなー
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