黄色い閃光inダンジョン   作:いちごぎゅーにゃー

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アリーぜ、フィン、リヴェリア5凸してしまった.....
アストレア様欲しいのに何故かドワーフ爺がでやがるっ!?


窓に映る光でさえももう照らしてはくれないような気がして、1人で凍えていた

「なにあれ、(たこ)!?」

「あいつ、50階層の.....!?」

 

各所で戦闘が続く街の中、突如出現したその巨躯に、ティオナとティオネは声を上げる。ティオナの言葉通り、それは巨大な蛸と似た姿をしていた。十本以上もの足は食人花のモンスターからなり、それぞれが意志を持っているかのようにくねり、うねり、蠢いている。複数の足の付け根より上は極彩色の体、女体を象った上半身が存在し、遠目から確認できるその全貌は、あたかも海辺にひそむと言われるスキュラのようだ。ぶるぶると震えていた上半身が動きを止め、ゆっくりと無貌の顔を上げると、食人花の女体型は移動を開始した。都市中央部、水晶広場へと進路を取る超大型モンスターに、ティオナとティオネは走り出す。

 

「もうここら辺でモンスターに狙われている人いないよねー!?」

「助けた側から広場に追い返したんでしょ!さっさと行くわよ!」

 

破壊し尽くされた天幕や小屋を踏み付け跳躍しながら、ティオナ達は一直線に街の中心地へ向かった。

 

 

 

 

 

「どこから現れた、と問いただしたいところだが.....始末する方が先だな」

「ああ、そうだね」

「何でてめえ等はそんな冷静なんだ!?ちったあ慌てろっ!」

 

ボールスの悲鳴が響き渡る横で、リヴェリアとフィンはその巨躯を見上げた。レフィーヤとルルネを抱え逃げ込んできたアイズに続き、その食人花の足を侵入させ、轟音とともに女体型が広場へ到達する。蛸足のごとき食人花達は細かった体を一回り以上も太く、大きくさせ、まるで巨大な幹のような直径を誇っている。幾重もの咆哮を上げる下半身とは打って変わって、極彩色の上半身は依然としていた。目と鼻の無い顔は人の顔を丸呑みできそうな唇が薄く開いており、後頭部から波打つ緑髪が腰にまで届いている。その髪は奇形である全身の中で唯一美しい。肩から伸びる両腕は肘から先が無数の触手と化しており、今は食人花の足にかかっている。

 

「50階層のモンスターも、あの胎児のせいでこんな風に.....?」

 

アイズに下ろされたレフィーヤは、目の前の女体型を仰ぐ。その巨大な極彩色の体はレフィーヤ達を天から見下ろしていた。

 

「着いたー!」

「あー、間近で見るともっと気色悪いわねぇ」

 

ティオナとティオネが頭上から広場に着地する。先に放ったリヴェリアの魔法の残滓が空を紅く染める中、集結したアイズ達を、今一度女体型は見下ろした。

 

『!』

 

巨躯が動く。

 

ぐわっ、と顔を上げる野犬のように食人花の足が一斉に地面から離れ、土砂をこぼしながらアイズへと突撃した。アイズは気絶しているルルネをレフィーヤに預け、巻き込まないように逆方向に走る。食人花の顎が彼女のいた場所を通り過ぎ、広場中央にあった双子水晶を破壊した。

 

「狙いはアイズか!」

「発動している(魔法)に反応しているのかな」

 

モンスターの全面に備わった食人花全てがアイズに殺到する光景に、リヴェリアとフィンは杖と槍を提げてモンスターの元へ接近する。そして彼等より先に急行するティオナとティオネが、アイズを追う足の2本に踊りかかった。

 

「そりゃあーーッ!?」

『オオオオオオオオオオオオオ!?』

 

振り下ろされたティオナの大双刃(ウルガ)が食人花の首を切断する。大斬撃を浴びて断たれた足から絶叫が(ほとばし)った。二つ名に恥じない豪快な斬撃を見舞うティオナはまさに【大切断(アマゾン)】の名を体現していた。

 

『ーー!!』

「痛ったぁー!?」

 

花部を失った足は斬られた断面から血を流しつつ、そこからティオナを弾き飛ばす。大切断(ウルガ)の極厚の剣身を盾にした彼女は、地面を一度転がりすぐさま立ち上がる。

 

「力めちゃくちゃ強くなってるんだけどー!?しかも首落としたのに動くのー!?」

「ありゃもう足の1本に過ぎないでしょうが、そりゃ動くわよ!」

 

妹は異なり冷静に足の1本を料理するティオネが叫ぶ。湾短刀(ククリナイフ)を用いて葉脈が走った長足を瞬く間にズタズタに切り裂く彼女は、危うげなく攻撃を回避していく。動きの精彩を失う足をここぞとばかりに再起不能に追い込もうとするティオネだったが、そこで女体型の上半身が動いた。アイズを追っていた顔を彼女に向け、腕の触手を槍のごとく放出する。

 

「くそっ!」

 

押し寄せる無数の触手を二刀の湾短刀(ククリナイフ)で切り払う。直線だけでなく曲線も描き四方から襲いかかってくる触手に悪態をつき、ティオネはその場から離脱する傍ら、懐から取り出した投げナイフを投擲した。上半身に迫る高速の白刃を、触手の1本がキンっと撃墜する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大玉螺旋丸!!」

 

中央広場から少し南方、 アイズ達の元に向かう途中『リヴィラの街』の冒険者とともに食人花の迎撃に当たっていたミナトは、食人花の花弁が開く醜悪な顔とほぼ同程度の大きさを誇り甲高い風切り音を発する蒼玉を、目の前の食人花のモンスターの頭部にぶつけ口腔内の魔石ごと吹き飛ばした。ここに来るまでおよそ5()0()()。食人花のモンスターを撃滅してきた彼はその動きに一切の淀みを見せないまま思考する。

 

「(見計らったようなタイミング.....俺たち(冒険者)を取り囲むように陣形を取るモンスターの動き.....そして何より、あの女体型.....)」

 

戦場を、状況を、高速戦闘を交えつつ冷静に分析する。先のフィンと同じように主要な判断材料をつまみ上げ、彼もまた調教師(テイマー)の存在に辿り着いた。普段フィンが【ファミリア】の指揮を取るため余り目にする機会は少ないが、食人花のモンスター達を屠りつつ、冒険者達を避難させ、かつ状況分析を全て並行してこなす金髪碧眼の青年は、聡明な首領(フィン)に勝るとも劣らない頭脳の持ち主。アイズ、ティオナ、ティオネ、他にも多くの後輩に『戦闘においての頭の使い方』を叩き込んだのは何も最古参(リヴェリア達)だけではなく、今まさに()()を実践するミナトも同様である。幼い頃から広大な視野を持ち、冒険者には何が必要なのかを自ら追及し続けた彼は、情報は時に何よりも優先して得るべきものであるとアイズ達に教示した。戦闘とは強大な力を振りかざす者が勝つのではなく、最も合理的に、論理的に、最巧に力を振れる者こそが勝利を得る。大きな力は工夫された小さな力に劣る。それこそミナトの心得の1つであり。後輩達、何より昔は無鉄砲だったアイズに叩き込んだ教訓である。

 

 

三枚刃のクナイを巧みに使い、食人花のモンスターの長駆をいなし、躱し、隙を生じさせたモンスターから逃さず灰にしていく金色の疾風は、豪快な動きを持ち味とするティオナとは正反対なものであると、彼の動きを目にした冒険者達は一様にそう思った。最小限かつ最高効率で繰り出させる攻撃に無数の食人花達は一切ついていくことができず、彼を見失った傍から駆逐されていった。

 

「よし!皆さん、次は螺旋閃光超輪舞吼参式(らせんせんこうちょうりんぶこうさんしき)を仕掛けます!どうかこのクナイをモンスターの方に投げてください、後は俺がやります」

『.................』

 

クナイを受け取った冒険者達が全員揃って何とも言えないような表情を浮かべる。ミナト・ナミカゼ。【黄色い閃光】と呼ばれ、その実力はオラリオ屈指であることは誰もが知るところである。が、まさかこのような天然(残念)な面があるとは誰もが思いもしなかった。目を細め、残念なものを見るような視線を彼に送る冒険者達は、言われた通りにクナイを投げるのであったが、どこか締まらない空気感にただ1人ミナトだけが気づかず「どうしました?」と素っ頓狂なことを抜かしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リヴェリア、先に行く」

「ああ。そこのエルフ、背の弓を貸せ!」

「は、はい!?」

 

フィンが加速して足の1本に長槍を突き立てる中、リヴェリアが1人のエルフの男を呼ぶ。王族(ハイエルフ)の声に彼は無条件に従った。サブウェポンであった大型の弓を矢筒ごと、走ってくるリヴェリアに受け渡す。素早く矢筒を腰に固定したリヴェリアはその深紺色の弓を構え、立て続けに矢を連射した。上半身に射った矢をわざと触手に弾かせ、本命であるフィンの支援攻撃を次々と着弾させていく。

 

「ボールス、人手が足りない!指揮は任せた!」

 

そしてリヴェリアの援護射撃を受けながら、長槍を振り回すフィン。あたかも背中に目があるかのように、後方より雨あられとそそぐ矢弾は掠りもせず、モンスターの足を裂いては穿っていく。その小柄な体で僅かな隙間もかいくぐり、アイズに群がろうとする複数の足をまとめて相手取っていた。

 

「あ、あいつら、やっぱり頭がどうかしてやがる.....!?」

 

ティオナ、ティオネ、リヴェリア、フィン、彼女達の波状攻撃により女体型のモンスターはアイズを見失った。索敵しようとするもティオナ達の激しい攻撃に意識を割かれ、致し方なく彼女達の迎撃に移る。

 

「みんな.....!」

 

食人花の足に追いかけ回されていたアイズは女体型の集中攻撃から一旦解放され、飛び交うティオナ達の姿を見る。自身もあの攻撃に中に加わり、一気に女体型のモンスターをたたみかけようとしたアイズだったが、彼女の体を影が覆った。

 

「!」

 

振り下ろされる攻撃をアイズは間一髪回避する。体の向きを変えると、果たしてそこにいたのは赤髪の女だった。

 

「お前は私だ。このままタダでは帰れん.....付き合ってもらうぞ」

「.....!」

 

鋭く見据えてくる緑色の左眼に、アイズも瞳を吊り上げた。赤髪の女は広場から追い出すように激しく攻めかかってくる。アイズは対抗するように《デスぺレート》を用いて応戦を行った。他のことにかまける余裕はない、相手がそれを許しはしない。同時に、相手へ問いたださなければならない事柄もある。

 

「アイズ!?」

 

ティオナの声を背で聞きながら走り出していく。アイズは女の一騎打ちに応じ、広場から移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恐らく魔石が埋まってる、あの上半身を狙うしかなさそうだけど.....」

 

地面に落ちた短槍、他の冒険者が落とした得物を拾い上げ、フィンが敵の上半身に向かって勢いで良く一投するが、両腕から生えた触手に阻まれた。柄を叩き折られ宙を舞う槍に、フィンはため息する。女体型の触手は懐に侵入した敵を迎撃する対地対空の武器であり、同時に鉄壁の盾でもある。あの膨大な数の触手を越えて遠距離から攻撃を通すのはまず無理だろう。かと言って、迂闊に敵の間合いへは飛び込めない。

 

「やっぱり、リヴェリア達に任せるしかないか」

 

フィンが一瞥する方向、広場の東側最奥。島の湖を背にする格好で、リヴェリアは杖を水平に構え、詠唱を始める。

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ】」

 

広域展開する魔法陣(マジックサークル)。何重も翡翠色の円が輝きを放ち、その存在を誇示するかのようにまばゆい光粒と光条が足元から立ち昇る。

 

「【押し寄せる略奪者を前に弓を取れ、同胞の声に応え、矢を番えよ】」

『!!』

 

ぐるんっ、と女体型が顔と上半身を振り向かせた。膨大な魔力に反応し、広場の中心から這いながら猛進する。その巨躯の進撃を阻むのはフィン達でさえもかなわない。迫り来る巨体と複数の食人花の大顎を前に、リヴェリアは柳眉を逆立てながら詠唱を続けていく。

 

「【帯びよ炎、森の灯火、撃ち放て、妖精の火矢】」

『ーーーーーーーーーッッ!!』

 

食人花の足が大きく吠え、目標の魔力に飛びかからんとする。そしてお互いの距離が20mを切ったところで、リヴェリアは退避した。魔法陣(マジックサークル)の中心から矢のように真横へ飛び、女体型の前面から消え失せる。あっさりと魔法を中断し、モンスターの突撃を回避した。側面へ逃げるリヴェリアを食人花の足が追う中、女体型の上半身は腑に落ちないに後頭部の緑髪を揺らした。

 

「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」

『!?』

 

女体型が震えた。中断された筈の詠唱が未だ続き、その美しい声音が空間に鳴り響く。モンスターが後方を振り返ると、広場の西側最奥、たった1人で山吹色の魔法陣(マジックサークル)を展開するエルフの少女の姿があった。

 

リヴェリアは囮である。

 

彼女の抜きん出た魔力を隠れ(みの)にすることで、レフィーヤがモンスターの意識の外で魔法の構築を着々と進めていたのである。

 

強力な魔導士を2枚用いた囮攻撃(デコイ・アタック)

 

一方の魔導士に敵の注意を引きつけることで、味方の援護も、盾も必要とせず、本命の魔導士が砲撃を放つ連携攻撃。囮のリヴェリアの詠唱と重ねて響いていたレフィーヤの玉音の声が、最後の詠唱文を唱える。

 

「総員、退避だ!」

「でけえのが来るぞぉぉぉっ!?」

 

フィンとボールスの呼び掛けに全冒険者達が射線上から避難する中。モンスターを残し誰もいなくなった広大な視野へ、レフィーヤは砲撃を繰り出した。

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

『ーーーーーーーーーアアアァァッッ!?』

 

孤を描き殺到する矢の一斉攻撃はおよそ10秒以上も続いた。万に届こうかと言うほどの膨大な火の雨はモンスターごと着弾地点である広場東部を炎の海に変え、街の上空を再び爆炎の霧で染め上げる。全ての足を炎上させ、極彩色の上半身も焼け焦げる女体型は、つんざかんばかりの絶叫を空に打ち上げた。

 

「畳み掛けさせてもらおうか」

「お供します、団長!」

「せぇーのっ!!」

 

砲撃終了から後を待たず、3つの影が女体型に肉薄する。長槍を持ったフィンが、二刀の湾短刀(ククリナイフ)を打ち鳴らすティオネが、そして大双刃(ウルガ)を振り上げるティオナがモンスターへと跳躍した。神速の刺突が見舞われ、二振りの斬閃が交差し、破壊の一撃が黄緑の体に叩き込まれる。繰り出させる攻撃は止まらない。そして嵐のように傷を刻み込み、食人花の足が何本も上半身から脱落し、その体皮が炎ごと弾け飛ぶ。

 

『アアアアアアアアアッ!?』

 

そして次の瞬間、悲鳴とともに極彩色の上半身から下半身から切り離した。

 

「逃げた!?」

「あいつ、湖に飛び込む気!?」

 

切り離されたモンスターの下半身が炎に燃える中、広場の端から身を乗り出したティオナとティオネの視線の先で、極彩色の上半身が緑髪を振り乱しながら必死になって斜面を駆け下りていく。

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け】」

 

そこに、詠唱が響いた。女体型と同じように斜面を駆け下りるのは、翡翠色の長髪をなびかせるリヴェリアだ。疾走を続けるその足元には、同じく翡翠色の魔法陣(マジックサークル)が伴っている。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

『並行詠唱』

 

魔力の暴走を抑えるため停止して行われる詠唱を、高速移動を実現しながら展開する離れ業である。レフィーヤや他の多くの魔導士達が未だ辿り着けない領域にリヴェリアはいる。通常の走行と変わらない速度でモンスター追う彼女は、完璧に魔力を自らの制御下に置いていた。魔法陣(マジックサークル)を引き連れる彼女の足は敵よりも速い。風を切り翡翠色の光粒を纏いながら、彼我の距離をみるみる内に埋めていく。

 

「【吹雪け、三度の厳冬。我が名はアールヴ】!」

 

そして詠唱の終了。今度こそ己の魔法を構築したリヴェリアは、突き出た斜面の岩を蹴り、宙に身を踊らせながら杖を突き出した。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】」

 

三条の吹雪が放たれる。扇状に広がる範囲攻撃は壊滅した街の店々や水晶ごと斜面を凍結させていった。そして砲撃の中心にいたモンスターも、一瞬で純白の霜と氷に呑み込まれる。

 

『ーーーーーーーーーッ!?』

 

全身が凍結し悲鳴もろくに上げられない中、女体型は最後の力を振り絞って、急斜面へと腕を振り下ろした。岩をも砕く衝撃の反動で空中を泳ぎ、凍てつきながらも断崖の境界線を超える。全身からこぼれていく、きらめく細氷の尾。崖を落下し、女体型の唇が安堵の形に歪んだ。

 

「左から回り込みなさい!」

「わかった!」

 

が。

 

凶暴な2匹の猛獣が、彼女を追って断崖から飛び降りた。

 

『ーーーーー』

 

リヴェリアの両脇を抜いたティオネとティオナが、一切のためらいなく崖から身を投げる。垂直に切り立った断崖の壁を蹴りつけ、走り、冗談のように下方へ疾走してくる。褐色のアマゾネスが地の果てまで、絶壁の先までモンスターを追いかける。

 

『ッッ!?』

 

なけなしの力で両腕の触手を繰り出す女体型。迫り来る攻撃に対し、アマゾネスの姉妹は申し合わせていたかのように一挙、壁を蹴って大きく左右に分かれる。触手が視界の外に流れる中、ティオネは左斜めの角度からモンスターに斬りかかった。

 

「逃がすかぁ!」

 

二刀の湾短刀(ククリナイフ)を閃かし、女体型の両腕を切断する。最後の武器である触手を失い硬直するモンスターへ、今度は、右斜めの角度からティオナが突撃してくる。その体をいっぱいに後ろに反り、大双刃(ウルガ)を背にため、渾身の振り下ろしを見舞った。

 

「いっっくよおぉぉぉッ!!」

 

大切断。

 

『ーーーーーー』

 

(ほとばし)った大剣の破壊力に、魔石を破壊されたのか、モンスターは木っ端微塵に砕け散った。

 

「やりーっ!」

「馬鹿ティオナ!魔石ごと吹っ飛ばしてどうすんのよ!」

「あ」

 

声を上げて喜ぶティオナと、それを叱るティオネ。2人は現在進行で崖下を凄まじい勢いのまま進みながら、がみがみと一方的な説教とへこへこという一方的な謝罪が交わされる。

 

「.....アイズとレフィーヤ、大丈夫かなぁ」

 

やがて、ティオナは湖に背を向けながら、顔を上げて呟いた。

 

「リヴェリアとミナト、何より団長がいるのよ?平気に決まっているわ」

「.....そうだねっ」

 

何故か自慢げにそう口にする姉の顔には、信頼の笑みが浮かんでいた。それを見たティオナも、くしゃっと破顔する。姉妹揃って彼女達は、遠ざかっていく断崖の頭上を見上げた。間もなく、どぼんっ、と。勢いよく湖に着地し、2人分の盛大な水しぶきが上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

「便利な風だな」

 

剣の切れ味、速度ともに上昇させる【エアリアル】に赤髪の女は表情を変えず呟く。風のエンチャントが彼女の階層主(バケモノ)じみた強撃を弾き返す。振るわれる長剣のことごとくを縦横無尽の斬閃で打ち落とした。大きく《デスぺレート》を打ち付け、相手を押し返し、距離を保ったままその場からざざざっと並走した。

 

「『アリア』、その名前をどこで!?」

 

滅多にない感情の発露をするアイズ。相手を見据えるその顔には鬼気迫るものが浮かび上がっている。ティオナ達でさえ耳にしたことがない大きな声音に、横並びに走る赤髪の女は口を開いた。

 

「さぁな」

「っ.....!!」

 

アイズは柳眉を逆立て再び斬りかかった。目にも止まらない速さで剣撃が放たれる。瞬きする間に10をも超える攻撃が両者の間で乱舞し、互いの肌に細い血の一線を刻んでいく。

 

「人形のような顔をしていると思ったが」

 

そして。

 

激しい心の動きにより、常時より前のめりになったアイズの剣筋を、赤髪の女は見逃さなかった。緑色の左眼を細めた次には、その体がぶれる。大振りになったアイズの剣を躱し、風を引き千切る一撃を見舞った。すくい上げるような拳。籠手を失った左手が気流の鎧ごと腹部を強打し、細身の体を後方に殴り飛ばす。

 

「っ!?」

 

強制的に後退させられ体勢を崩すアイズ。姿勢を立て直す彼女よりも速く。左手を流血させながら、赤髪の女が長剣を振りかぶり、眼前に踏み込んだ。

 

「!」

 

ぞくっっ、と。アイズの全身に悪寒が駆け巡った。緑色の左眼を大きく開く敵は、一気に長剣を振り下ろす。アイズはあらん限りに目を見開き、魔法(エアリアル)を最大出力、そして驚異的な速度で《デスぺレート》を体の前に構えた。

 

瞬間。

 

「ーーーーッッ!?」

 

轟音が爆発した。超速の袈裟斬り。左斜めに斬り下ろされた長剣は《デスぺレート》の防御と風の気流を突き抜け、アイズの身に衝撃を貫通させる。一瞬で敵の姿が目の前から遠ざかり、宙を飛ぶアイズは後方の瓦礫(がれき)の山に叩きつけられた。

 

「うっっ!?」

 

肺から空気を引きずり出されたアイズの体は、神経が途切れたかのように一瞬言うことを聞かなくなる。カランッ、と《デスぺレート》が音を鳴らし、地面へと転がった。

 

「やっと終わりだ」

 

剣身が爆発し粉々に砕け散った長剣を捨て、赤髪の女は疾駆する。地面に膝を着くアイズに向かって突撃し、その右腕を背に溜める。対応できない。向かってくる拳を受ける他ないアイズの胸中は、迫る赤髪の女への恐怖ではなく、自分への怒り、そして何より。

 

 

「ふっ!!」

「がっ.....!?」

 

アイズへと拳を振り上げていた赤髪の女が、完璧な不意打ちのタイミング。それに加え彼女の優れた身体能力ですら感知することのできない速度で振るわれた蹴りによって吹き飛ばされた。

 

 

 

 

「大丈夫かい?」

 

アイズの心を占めていたのは、何よりも。自分が危機に陥った時、必ず駆け付けてくれる金色の青年に対する劣等感と自分の弱さに対する悔しさであった。

 

「(また.....)」

 

背中を強打し、言葉を上手く口にできないアイズは、目の前の青年、ミナトを痛む腹を手で抑えながら見上げる。

 

「(また、助けられた.....)」

「ここで少し待ってて。すぐに終わらせてくる」

 

赤髪の女が吹き飛ばされた方向へと、大地を滑るように疾走していく。

 

「また.....立てない.....っ!」

 

地面の砂を握り潰すように掴み取り、血が滲むほど唇を噛み締めるアイズ。何度も、何度も、何度も決意した筈だった。彼の隣で戦いたい。自分に背中を任せて欲しい。些細な事でもいいから頼って欲しい。何より、()()()()()()()()

 

 

 

 

昔からそうだった。まだ幼かったアイズは、当時、僅か1年足らずでLv.2に昇格するという偉業を成し遂げた。その当時から彼女の教育係兼先生を担当していたミナトに追いつけた気がした。Lv.3の彼とLv.2の自分とではまだ差があるのは明白。それでも、Lv.1の頃よりはその背中に近づけたつもりでいた。だが、現実は非情だった。アイズの目指す青年は誰よりも聡明で、勇敢で、強かった。普段の温厚さからは想像できないほど冷酷に敵を屠る姿は幼いアイズに恐怖を覚えさせ、同時にレベルアップ(器の昇華)を経た彼女が微塵も彼に追いつけていない現実を突きつける。ナミカゼ・ミナト。彼は天才という言葉では表現できない、才能の権化、文字通り『神の恩恵』を一身に受けた麒麟児である。同世代で彼に敵う者は【ロキ・ファミリア】はおろか、オラリオを見渡しても存在しない。同じ【ファミリア】内においても彼に追いつこうと本気で思っているのはアイズ、ベート、ティオナ、ティオネ等の第1級冒険者くらいのものであり。ほとんどの団員達は彼の才能に絶望し、その歩みを止めてしまう。中でも彼と同時期に入団した同期の団員達は、自分達とミナトとの差に見切りをつけるのが非常に速かった。

 

 

 

 

 

 

「お願い.....っ、遠くに、行かないで.....!」

 

消え入りそうな声音が木霊する。50階層でミナトの本気を間近で見せつけられたアイズは、自分と彼との()()()()()を測れないでいた。近くにいるはずなのに、その実遥かに遠い所にいる、そんな気がしてならない。並びたい背中は常に、一歩も二歩も彼女の前を歩き続ける。

 

そして。

 

今回も()()()()()()()()

 

「私...はっ、弱いっ.....!」

 

振り返ることも、立ち止まることも許されない。それほどの願い(悲願)を持つアイズ。自分と同じ金髪の青年が進み続ける前方の道。後ろを見ることも、前を見ることもできない彼女はまるで、静かに涙を流す迷子の少女のようだった。




しばらくダンメモをやっていなかったせいで、今とのギャップを凄く感じています
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