黄色い閃光inダンジョン   作:いちごぎゅーにゃー

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アストレア様出な過ぎ......

どなたかダンメモで今強い編成を教えてください


わずか数センチだって、願った場所に向かって、進んでいく止まるなんて

赤髪の女の戦鎚のように振るわれる両腕に対し、ミナトは危うげなく体を捻りながら躱す。(むち)のようにしならせた腕で鋭くクナイを突き出し、かと思えば足元を水平に足払いで薙ぎ払う。素早く隙のないヒューマンの青年に、赤髪の女は非常にやりにくそうに上体を逸らし、跳躍して、目まぐるしい攻撃を回避した。

 

2人が激しい攻防を繰り広げる中、フィンとリヴェリアがアイズの目の前に現れた。

 

「フィン、リヴェリア.....」

 

アイズが掠れた呟きを落とすと同時に、焦燥に満ちた声がかけられる。

 

「アイズさん!」

「レフィーヤ.....?」

 

胸と背中に細い手が当てられる。横を向くと、駆けつけてきたレフィーヤがアイズの体を支えるように手を添えていた。

 

「レフィーヤ、アイズを治療しろ!」

「はい!」

「アイズ、ミナトは?」

「赤髪の女の人と、向こうで.....」

 

フィンに問われ、レフィーヤに治療されるアイズが顔を向けた方向では、赤と金の絶え間ない戦闘が激しさを増している所だった。

 

 

 

「貴方がモンスターを統率していた調教師(テイマー)ですか?」

「.....お喋りとは余裕があるな」

「それは貴方も同じでしょうに」

 

普段温厚である青年の面差しは戦士の顔に変わっていた。大事な妹分をあのように傷付けたのだ。手加減する必要は無い。

 

鋭い眼差しで敵を観察し、容赦なく死角からクナイを仕掛ける。その碧眼は彼我の間合いを随時見極め、時には離し、時には大胆に懐へ飛び込み、常に先を制する格好で優位な位置に自身の体を運んでいく。凄まじい速度で真正面から斬りかかるアイズとはまた異なった戦法に、赤髪の女は舌打ちを放った。武器を失っている彼女は攻めあぐね、そしてそれ以上に、ミナトの立ち回りが上を行っている。冒険者の首を容易く折ってのける程の膂力を誇る剛腕も、蹴りも全て空を切り、ミナトの体には掠りもしない。堪らずクナイを弾き飛ばそうとするが、先読みされていたかのようにミナトはクナイを女の背後に投げ放ち、クナイに付いている()()()()()へ【飛雷神】で飛び、素早く拾うと、彼女の背後から白い肌が見える顔へ容赦なくクナイで一閃。頬を撃ち抜いた一撃に、女の顔が苛立ちに歪んだ。

 

「調子に乗るなッ!!」

「っ!?」

 

振り上げられた左足が地面に打ち込まれ、爆発する。目を疑うような威力の踏み込みによって岩盤は削れ、発生した衝撃は綿毛を飛ばすように青年の体を宙に浮かせた。地面から足が離れ、行動の自由が奪われるミナト。正面で浮遊している彼に向かって、赤髪の女は思い切り腰を捻り、裏拳の如くなぎ払いを見舞った。

 

「ミナトさん!?」

 

レフィーヤの悲鳴とともにクナイが吹き飛ぶ。その怪力でクナイの刃身を粉砕した女は、左眼を、見開いた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。タンッ、と地面を蹴る音がする方角に顔を向ければ、赤髪の女の腹に蒼い球体が突き付けられるところだった。

 

「螺旋丸!!」

「ぐっ.....!?」

 

咄嗟に腰に巻き付けていたポーチから()()1()()()()()()を取り出し、空いていた左手で投げ捨て、先程と同じように【飛雷神】で躱したのだ。飛んだと同時に女へ疾走し、ミナトに得意の魔法を打ち込まれた赤髪の女。今度は自分が宙に舞う番であった。そのまま体をくの字にして、遥か彼方へと飛ばされる彼女は身動きを取ることができず、このままでは後方にある崖下へと落とされてしまう。

 

「ちっ!!」

 

咄嗟に右腕で自分の体を地面に叩きつけるように殴る。自傷行為とも取れる行動だったが、武器を持たない彼女が現状取れる最善策は自分の体を何とか地面に着かせることであった。ミナトの魔法による衝撃を、その強靭な両脚で地面を全力で踏み込つけ踏ん張り、ズザザザザザ、と滑りながらも何とか耐えることに成功する。

 

が。

 

「っっっ!?」

 

空中から逃れ、目の前の敵(ミナト)へと視線を向けようとした彼女のすぐ右真横から、空気を切り裂くように迫った正拳突きが端正な顔立ちに突き付けられる。

 

振り抜かれた右腕がその頬に叩き込まれ、赤髪の女は再び吹き飛んだ。全身を余すことなく使われた渾身の一撃に、彼女の体はもう一度宙を滑空し、すぐに地面を削って数十メートル先まで転がっていく。

 

【黄色の閃光】をその身で体現する黄金の連撃に、レフィーヤの瞳はアイズともども言葉を忘れ、釘付けとなった。

 

「.....」

「ミナト?」

「指を折られました」

「なに?」

「体に付けたはずのマーキングも既に消えたようです」

 

無表情で右手を振るうミナトに、リヴェリアは目を見開く。彼女がそこから前方へ瞳を向けると、ぐぐぐっ、と赤髪の女が手をついて立ち上がるところだった。

 

「第1級.....Lv.5、いや6か。そしてその金髪に碧い瞳、瞬間移動じみた敏捷。そうか.....お前が、()()の言っていた、()()()()()()か.....」

「.....」

 

右頬をに拳打の跡を刻まれ体の至る所から鈍い痛みを覚える彼女は、忌々しそうに吐き捨てる。フィン・ディムナ、リヴェリア・リヨス・アールヴ、ガレス・ランドロック。そしてここにナミカゼ・ミナトを加えたLv.6の彼等派閥首脳陣が、【ロキ・ファミリア】における最強戦力だ。アイズ以上の戦闘の場数、そして培われた技と駆け引きが、純粋な数値以上の力を発揮して赤髪の女をも圧倒する。気になる言葉も発していたが、今は目の前の女を捕らえることが優先。そうミナトが思った矢先に、

 

「分が悪いか.....」

 

ぽつり、と呟き、女は脇目も振らず速やかに逃走した。目を見開くアイズは、体の痛みを耐えてその場から駆け出す。

 

「アイズさん!?」

 

レフィーヤの叫び声を後方に置き、ミナトとフィン、リヴェリアも抜く。彼等の追走する気配が続いている中、アイズは赤髪の女の後を追った。

 

「.....!」

 

女はモンスターが破壊した街壁を抜けて街の外へ出た。岩と水晶が粉砕された破壊跡を越えてアイズも『リヴィラの街』の西方、視界に移る血の色のように赤い髪の後ろ姿を猛追する。崖際まで到達した赤髪の女は、ちらりとアイズを左眼だけで見やり、躊躇なく踏み切り、崖下へ。眉を歪めるアイズが崖際で急停止し身を乗り出すと、女は壁を走って湖に突き進んだ。フィンとミナト、そしてリヴェリアの3人がアイズの隣に駆け付けると、その姿は既に石の粒ほどもなく、暗い闇に紛れていく。ややあって、水しぶきが上がった。

 

「何てやつだ.....」

 

崖下を見下ろしながらリヴェリアが呟く。湖の底を泳いで移動しているのか、アイズ達がどんなに目を凝らしてもこの崖際からはその姿を視認できない。ここで行方をくらましてしまえば、この広大な18階層で追跡することは不可能だろう。

 

「.....っ」

 

レフィーヤが遅れて追い付いてきたのを脇に、アイズは唇を引き結んだ。表情は抑えられていたが、その右手がぎゅっと拳を作る。

 

敗戦の後の無力感にも似た空気が、1人、少女の体を包み込む。階層の天井、蒼い薄光を生む水晶の薄明かりが、その金の髪を儚く照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風のような人だった。子供のように純粋で、まだ幼かった自分よりも無邪気で。人の悪意というものを知らず、知らされず。白い雲と一緒にたゆたう、あの青い空の流れのように。誰よりも自由な、風のような人だった。

 

そして自分は。そんな風のように振る舞い、温かく、優しかった彼女が好きだった。屈託のない笑みを浮かべる母親のことが、大好きだった。撫でてくれた手付きを覚えている。頬に添えられる指の温もりを覚えている。耳をくすぐる綺麗な声音を覚えている。彼女が何度も語る、優しくて幸福な物語を、覚えている。

 

彼女の胸の中、物語を聞き終えた自分が、抱きしめられながら振り返ると、無邪気な微笑みがあった。頬を染め、自分の顔にも笑みが浮かぶ。彼女の前では誰でも笑顔になれる。誰もを笑顔にすることができる。慈愛の眼差しで見下ろしてくる彼女に、貴方のようになりたいと、幼い声音が口にする。風のような貴方に、私もなりたいと。

 

『あなたはあなただから、私にはなれないよ?』

 

首を傾げながら、自分とそっくりな声音で、彼女はそう言った。そういうことじゃないよ、と丸い頬が膨らむと、彼女は何がおかしいのかころころと笑った。頬を膨らませていた自分も、その笑みに引き寄せられるように笑った。やがて、彼女が振り返ると、そこには薄手の防具で身を包み、銀の長剣を腰に収めた青年が立っていた。彼の顔を見て、彼女は抱くのを止め、自分の胸の中から少女を降ろす。最後に頭を撫でて、ゆっくりと立ち上がった。少女の寂しげな視線に気づくと、青年は不器用に笑った。すまない、と父親は謝った。そして(きびす)を返し、母親を呼ぶ。

 

『行くぞ、アリア』

 

自分を置き、2人は寄り添いながら白い光へと呑み込まれて行ってしまった。

 

 

 

『アイズ』

 

母と父が傍から離れ、静かにすすり泣く少女の頭が優しく撫でられた。見上げれば彼女(母親)と同じ金色の髪を揺らした青年が、少女に優しい笑みを向けていた。

 

『泣いてたみたいだけど、怖い夢でも見た?』

 

ううん、と小さく首を横に振りながら答える。目の前の彼の碧い瞳を覗くと、不思議と安心感を覚える。風のように掴みどころのない母親とは違う色。それでも何故か幼い少女の心を満たしてくれる優しい色。少女はその色が何よりも好きになった。

 

『ほら、行こう』

 

差し出された手を掴み、少女もその場から立ち上がる。彼の手に引かれながら草原を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....」

 

夢から現実へ、少しずつ引き戻されていく。小さく肩が揺らされていた。ひやりとした冷たい空気も頬に感じ、意識がハッキリとした輪郭を象っていく。アイズは、ゆっくりと(まぶた)を開けた。

 

「平気、アイズ?」

「.....うん」

 

ティオナの声に、間を置いて頷く。視線を上げると、彼女が横からこちらを覗き込んでいた。

 

「休憩時間、終わるらしいよ。そろそろ出発するって」

「ん.....」

 

頭を軽く振ることで、僅かに残っている眠気を飛ばし、アイズは今度こそ視線をハッキリと巡らせた。携帯用の魔石灯の周りで円を作っているのは、フィン、リヴェリア、ティオネ、そしてアイズとティオナ。みな一様にして腰を下ろし、今では武器の整備やアイテムの確認をしている。どうやら眠っていたのは自分だけだったらしい。薄闇と、そして白い壁面に囲まれている現在地は小規模の広間(ルーム)。アイズ達の元を離れた場所ではミナトとレフィーヤが見張りを行っている。アイズ達は広大な迷宮の一角で休息を取っていた。

 

『リヴィラの街』での事件から六日。あの騒ぎの後、アイズ達は一度地上へ帰還し、負傷者の救護や地上撤収に際しての護衛はもちろんのこと、事件の詳細をギルドやロキに報告した。赤髪の女の情報も回そうとしたが、ロキの「まだ待って」という指示によって一時保留となっている。食人花や女体型に関しては、ギルドからの強い緘口令が敷かれ、もみ消されるがごとく、事件のほとぼりは急速に冷めつつある。

 

「『リヴィラの街』、もう直され始めてたもんね。ほんと早いなー」

「あそこまで金根性が突き抜けていると、感心するわね.....まあ、助かるって言えば助かるんだけど」

 

ティオナとティオネが思い出したように世間話をする。既に修復されつつある『リヴィラの街』。ならず者達が運営する場所は、どこよりもたくましく、そしてしぶといのだ。

 

「食人花のモンスター.....あの調教師(テイマー)も目立った動きは見せていないな」

「んー、流石に動きが派手だったからね。主神が手綱を握っているなら、しばらく自重するように言い含められているだろう。それに、あれだけのモンスターを新しく調教することは短時間では不可能だ。今回みたいなことはまず起きないと思うよ」

 

まだ調教済みのモンスターが残されているとは思いたくないけどね、とフィンはリヴェリアの言葉に返す。食人花のモンスターの襲撃は以後なく、赤髪の調教師(テイマー)は鳴りを潜めているようだった。

 

「さて、そろそろ出発しようか。レフィーヤ、ミナト、大丈夫かい?」

「あ、はい!行けます!」

「問題ありません」

 

現在、アイズ達は本来の目的であった資金稼ぎ、迷宮探索を再開させている。現在地は37階層。『下層』を越えた『深層域』だ。フィンの声にレフィーヤとミナトは頷き、見張りを止めてフィン達の元へと駆け寄った。

 

「アイズ、何も食べないでぐっすりだったけど、いいの?あたし、食べ物まだちょこっと残ってるよ?」

「ありがとう、ティオネ.....大丈夫だから」

 

立ち上がり武器を装備し始める中、ティオナの心づかいをアイズはやんわりと断る。最後の探索を半日以上も続けていたアイズ達は、一度、37階層の片隅にあるこの『ルーム』で長時間の休息を取った。日帰りではなく、滞在を視野に入れた長期間のダンジョン探索では一時的な休息は言わずもがな、冒険者達は体力回復に務めるために度々迷宮の中で野営(キャンプ)をする。魔石灯や寝袋などの野営道具をレフィーヤのバックパックにしまい、アイズ達は休息を行った『ルーム』から出発した。

 

「でも超硬金属(アダマンタイト)があの『ルーム』から出てきた時は、ビックリしたなー。壁を壊してたらぼろっと出てきて、凄いラッキーだったよねー」

「あの超硬金属(アダマンタイト)だけでも、結構なお金になりそうですよね」

「うん、ちょっと大双刃(ウルガ)のお金の足しになるかも!」

 

休息を取るために壁を破壊していると偶然採掘してしまった希少金属の存在に、ティオナは機嫌の良さを滲ませている。彼女とレフィーヤの会話が隣で交わされているその一方で、アイズは、1人押し黙って内面に意識を落としていた。『アリア』、という名前と。あの赤髪の女の姿が。音を立ててぐるぐると頭の中で回っている。

 

「(強かった.....)」

 

強い、強かった。あの赤髪の調教師(テイマー)の実力を、激しく襲いかかってくるその苛烈な姿を思い出しながら、アイズは何度もそう呟く。もし彼女を倒すことができていたら、何か聞き出せたかもしれない。何故『アリア』のことを知っているのか、分かったかもしれない。

 

「(もっと、力があったら.....)」

 

弱い。まだ弱い。アイズ・ヴァレンシュタインは、なんて弱い。敵を倒すことはおろか、憧憬に護られてしまった。あまりにも、弱い。

 

呪詛のように、アイズは己のことをそう評し続ける。彼女より強ければ、よりこの手に力があったなら、心も体も脆弱でなかったのなら.....黒く染まった言葉がいくつも浮かび上がってくる。自分はいつの間にか、牙を抜かれていたのか。自分はたった1つの悲願(ねがい)を、僅かでも思い出の1つにしようとしていたのだろうか。いつの間にか、憧憬に追いつくことを心のどこかで諦めてしまったのだろうか。遠すぎる彼の背中を追いかける資格も失ったのだろうか。無意識のうちにアイズの手は握りしめられていた。忘れていた心の奥底の黒い炎が、静かに彼女の身を焦がす。

 

「.....あの、アイズさん?」

 

恐る恐る、レフィーヤが隣から声をかけてくる。彼女への返答は、その唇からこぼれることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!!!」

 

鬼気迫る相貌でモンスターを斬り伏せる。その大顎を開け、長い舌を打ち出してくる『バーバリアン』。ねじれ曲った角を生やすモンスターの舌撃を切り払い、打ち上がる悲鳴ごと斬り伏せる。すかさずアイズは走り、ずんぐりした黒石の塊である『オブシディアン・ソルジャー』を両断した。アイズの足元にモンスターの亡骸が、灰がうずたかく折り重なっていく。サーベルが銀の斜線を刻めばたちまち複数の相手が散り、血飛沫を飛ばした。意思の炎に燃える金の瞳はどこまでも敵を求めた。(まなじり)を吊り上げ彼女は円を描くように足を捌き、疾風の如く、四方のモンスターをまとめて横一線に斬り飛ばす。

 

「流石に腰が引けるなぁ.....リヴェリア、何も話を聞いていないのかい?一度辛酸を舐めさせられたくらいで、ああにはならないだろう」

「駄目だ。『何でもない』の一点張りで、何も話そうとしない。唯一知ってそうなのはミナトくらいか.....」

 

フィンが困ったように目を細め、リヴェリアはその心労を語るように盛大にため息する。もはや手持ち無沙汰に陥る彼等の視線の先で、金髪金眼の少女はティオナとともに時間をかけず残った敵を殲滅していった。

 

「君は何か知ってそうだけど、さっきから黙ってるだけかい?」

「.....彼女の口から聞かない限りは何とも言えません。あまり詮索し過ぎても逆効果でしょう」

「今、灸を据えても意味は無さそうだね.....やれやれ」

「あの、団長、ミナトさん、リヴェリア様.....アイズさん、大丈夫なんでしょうか?」

「ああいった状態の時は、大抵空腹になれば治まるが.....腹を空かせた素振りをみせたら、すかさず餌付けをしてみろ。落ち着くかもしれん」

「は、はいっ」

 

勝手知ったる様子で話すリヴェリアに、レフィーヤは汗を流して頷く。ティオナやティオネ、レフィーヤは連日のアイズの様子に心配そうな色を表情に出していたが、リヴェリアとフィンが「今はまだ放っておけ」と頃合いを(うかが)うように語るので、その言葉を信じることにした。過ごしてきた時間で言えば、ティオナ達より、フィン、リヴェリアの方がアイズとの付き合いは長いからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

37階層には闘技場(コロシアム)と呼ばれ、一定数を上限にモンスターが無限のごとく湧き出る大型空間も存在する。アイズが一度単身で乗り込もうとした時は流石に止めたが、以降は無難な探索が続いた。アイズもレフィーヤ達を危険に晒す真似はせず、積極的にモンスターと戦闘をこなすものの、行動そのものはパーティの一員に沿ったものだった。戦闘が終了すれば、普段の感情に乏しい表情を纏い、ティオナ達の会話にもハッキリとした受け答えをする。唯一その剣の冴えだけが、普段とは違っていた。

 

「もう相当モンスターを倒しているし、結構お金も溜まったんじゃない?ダンジョンに5日くらいもぐって探索してるしさぁ」

「そう、かな」

 

話題を探すようにして、ティオナが明るくアイズに話しかける。アイズとティオナはもともと借金のためにダンジョンへ赴いたのだ。当初の目的を今更ながら思い出したアイズは、少しだけ罪悪感が込み上げてきた。

 

「あ、ルーム」

 

Lv.3、あるいはLv.4にカテゴライズされるモンスターを順調に撃破しながら進んでいくと、やがてこれまでより大規模な『ルーム』に辿り着いた。

 

「(ここは.....)」

 

階層中央付近ということもあって、幅も高さも凄まじい。白宮殿(ホワイトパレス)の中でも見覚えのある広大な間に、彼女は最後に床を見下ろし、その金の瞳を細める。

 

「んー、そろそろ帰ろうか?今回はお遊びみたいなものだし、ここで長居して、帰りの道でダラダラと手を煩うのも面倒だ。リヴェリア、君の意見は?」

 

ダンジョン攻略に本腰を据えた『遠征』でもないのだから、無理にとどまる理由もないと語る彼に、リヴェリアは頷いた。

 

「団長の指示なら従うさ.....お前達、撤収するぞ!」

「「はーい」」

 

リヴェリアの指示にティオナとティオネが返事をし、サポーター業に精を出しているレフィーヤからも「分かりました!」と声が帰ってきた。そんな中、ミナトは隣で何やら考え事をするようにうつむくアイズを見やった。

 

「.....フィン、リヴェリア。私だけまだ残させて欲しい」

 

アイズがそう申し出た。

 

「食料も分けてくれなくていい。みんなには迷惑をかけないから。お願い」

 

最後には懇願するように、アイズは階層への居残りを彼等に願う。

 

「ちょ、ちょっと〜!アイズ、そんなことを言う時点であたし達に迷惑かけてる!こんな所にアイズ取り残していったら、あたし達ずっと心配しちゃうよ!」

「私もティオナと同じ。いくらモンスターのLv.が低くても、深層に仲間1人放り出す真似なんてできないわ。危険よ」

 

アイズの申し出に、ティオナは堪らず迫り寄った。ティオネも眉をひそめてゆっくりと彼女の後に続く。そしてその態度はアイズに対する想いの裏返しだった。心から心配してくる姉妹に、アイズは何も言い返せない。

 

「アイズはそんなに綺麗なのにもったいないよ。もうちょっと女の子しようよ〜」

「私は.....そういうのは、いいよ」

「なんでぇ?強い雄.....お気に入りの男とか見繕わないの?アイズのその綺麗な顔は飾りなの?」

「あんた、自分でもしないことを押し付けるのは止めなさい」

 

やり過ぎだとばかりに呆れるティオネが突っ込みをいれる中、1歩離れて見守っていたリヴェリアは息を着く。彼女はフィンに振り向いた。

 

「フィン、私からも頼もう。アイズの意志を尊重してやってくれ」

「「リヴェリア!?」」

 

まさかというティオナとティオネの声が響き渡る。アイズもまた内心で驚いていた。

 

「んー.....?」

 

そしてフィンも、リヴェリアの真意を問うようにその美しい顔を見上げる。

 

「この子が滅多に言わないワガママだ。聞き入れてやってほしい」

「そんな、子を見守る親みたいな気持ちじゃあ動けないよ、リヴェリア。それではティオナ達の言っていることの方が正しい」

「甘やかしている自覚はあるが.....さて」

 

吐息とともにリヴェリアはアイズのことを見やる。申し訳なさそうな顔をする彼女の胸の内を知ってか知らずか、リヴェリアは自嘲するように眉と唇を曲げる。フィンに視線を戻し、告げる。

 

「私も残ろう」

 

その翡翠色の瞳を見つめ返すフィンは、顎に手を添え、勿体ぶるように頷いた。

 

「わかった、許可するよ」

「えぇ〜、フィン〜。説得してよ〜」

「リヴェリアが残るなら万が一にも間違いは起こらないだろうしね。けれど、」

「?」

「念には念を、だ。ミナト、頼めるかい?」

「ええ、俺も最初からそのつもりでしたし、任せてください」

「ミナトまで〜!?」

 

ほとほと不服そうな顔をするティオナが抗議の声を上げる。レフィーヤもアイズを心配するように彼女の元に残ると言い出したが、フィンに一蹴された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、さっきの提案の本題はなんだい?」

 

小声で問いかけてくる彼に、リヴェリアはちらりと視線をやる。

 

「まさか言葉通りではないんだろ?」

「.....今あの子を止めたとしても、後回しになるだけだ。いずれ暴走するなら、目の前で大いに爆発させた方がいい」

「なるほどね」

 

お見逸れするよ、と笑うフィンは瞼を閉じた後、流し目を送る。アイズへの過保護を冷やかしているように見えるその姿に、何か言いたげな視線を浮かべるリヴェリアは、結局何も言い返さなかった。

 

「例の調教師(テイマー)が現れることはないと思うけど、どうか気をつけてくれ。僕の手持ちの精神力回復薬(マジック・ポーション)は全て置いてく。.....アイズの申し出を許したのは君だ、君が彼女の分まで責任を負わなくてはならない」

「わかっている.....そして、すまない、ありがとう」

「ミナトも残ることだし、むしろ帰り道の僕らが危ないかもね」

 

 

冗談を交えつつフィンが撤退の指示を飛ばし、レフィーヤ達が準備を整えるのを見守り、ややあって、彼等と別れる。『ルーム』に存在するたった一つの出入り口の前で、去り際にティオナと、そしてレフィーヤが、何度もアイズへの激励の言葉を送った。

 

 

 

 

 

「.....ありがとう、リヴェリア、ミナト」

 

3人だけになったルームで、アイズは口を開いた。隣合っているリヴェリアは見返すことも無く、淡々と答える。

 

「これっきりにして欲しいところだが、今更だな。あまり手をかけさせるなとだけ、愚痴を言わせてもらおう」

「.....ごめん」

「まあまあ、彼女も悪いと思ってるみたいですし.....」

 

リヴェリアの前では、あらゆる意味で自然体の自分になっている、とアイズは自覚があった。上手く言葉にはできないが、それは仲間に寄せる信頼とも少し違った、温かい何かだ。

 

「.....」

 

暗い広間の中で、何をする訳でもなくしばらく沈黙を重ねる。

 

 

「「.....?」」

 

動こうとしない自分を怪訝に思ったのか、ミナトとリヴェリアが視線を向けてくる。2人の視線を肩で感じながら、それでもアイズは動かなかった。この階層に、この『ルーム』に残った理由は別にある。

 

自分の考えが正しければ、恐らく。

 

思考を働かせるアイズが、息を凝らしその時を待ち続けていると、不意に。小さな、本当に僅かな振動が、身につけているブーツを揺らした。

 

やはり。

 

「来た」

「.....そういうことか」

「なに?」

 

アイズは柳眉を鋭く構え広間の中心を見据える。ミナトは彼女の狙いに勘づき、リヴェリアが問いただそうと口を開きかけたが、彼女も気付いたようだった。地面が揺れ、少しづつその振動は大きくなっていることに。

 

「まさか.....」

 

リヴェリアの呟きが落ちるのと同時、『ルーム』の中心の地面一帯が隆起する。

 

 

『オオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

やがて、漆黒の巨体が産声を上げるように雄叫びを上げながら姿を現した。出現したのは『リヴィラの街』で戦った女体型にも劣らない超巨大なモンスター。そして全身から放たる圧倒的な威圧感は、女体型を倍するほどと言っていい。他ならない階層主。37階層に君臨する『《迷宮の孤王(モンスターレックス)》』。Lv.6、『ウダイオス』

 

 

「リヴェリア、ミナト、手を出さないで」

 

予想通り出現した階層主に対し、アイズは腰の鞘から《 デスぺレート》を抜き放つ。次のステージへ移行する絶好の機会。既に打ち止めになった己の器を昇華させるため、階層主という強大な相手を単身で撃破する。神々さえも認める偉業を成し遂げ、アイズはアイズの限界を超克する。より強く、もっと強く、もう誰にも負けず屈しないように。弱い己から脱却するために、更なる力を手にするために。脳裏に浮かぶ赤髪の女の姿を、目の前の漆黒のモンスターに重ね合わせ、アイズは金の瞳を吊り上げた。




進んでいく止まるなんて、No No No...
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