黄色い閃光inダンジョン   作:いちごぎゅーにゃー

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早く第2弾きてくれぇ〜!!


魑魅魍魎亡霊呪縛、第六感で受け取るメッセージ

赤髪の女が圧倒的な膂力を使って長剣を振り下ろす。アイズは真っ向から受け止め、弾き返した。『リヴィラの街』でアイズを圧倒した勢いで女は続けて斬りかかった。大気を真っ二つにするかの如き横薙ぎの一撃をアイズは屈んで難なく躱して、カウンターを見舞う。

 

「?」

 

激しい斬り合いを続ける中、女が怪訝そうな表情を作る。徐々に鋭く、速くなっていくアイズの剣筋に気づいた女は瞠目した。一切反撃の余地を与えないほどの連撃、袈裟斬り、お返しと言わんばかりの横薙ぎの一閃。体勢を大きく崩された赤髪の調教師(テイマー)の長剣が弾かれる。

 

「なにっ!?」

 

驚愕する女に、アイズは間髪入れず追撃する。もはや剣の幕が出来上がるほどの銀のきらめき。無数の連撃を浴び続ける女は何とか防御しているが、次の斬り上げで大きく後退させられる。

 

「まさか.....」

 

豊満な胸元に付けられた傷に手を当てながら、アイズに向かって顔を上げた。

 

「器を、【ステイタス】を昇華させたのか!?」

 

僅か10日間。1度目の接触から、決して長くはない期間しか開いていない。にも関わらず、前回とは比べ物にならないアイズの能力に、ようやく気づいたようだ。

 

「これだから冒険者はッ.....!!」

 

苛立ちを言葉で吐き捨てる。10日前は確かに圧倒していた身体能力が、今では拮抗している。忌々しそうに睨みつけてくる女に、アイズも金の瞳を向け、言う。

 

「負けたくなかった、ただそれだけ」

 

本来ベート達にも劣らない程負けず嫌いのアイズ。その乏しい表情の奥では、静かに、目の前の女に対するリベンジ精神がメラメラと燃えていた。その意志を示すように、《デスぺレート》の剣先を向ける。

 

「面倒な.....!」

 

冷静かつ冷淡な表情を消し、赤髪の女は、目の前の剣士を明確な敵として再確認する。静かに武器を構え合う2人であったが、あることを疑問に思い、赤髪の女の方が口を開く。

 

「風は使わないのか?」

 

反則めいた魔法を使わないアイズに、問を投げる。

 

「いらない」

 

(エアリアル)に頼りきっていた自分を反省し、今一度、『技と駆け引き』を胸に刻み込む。冒険者としてでは無く、剣を扱う者。1人の剣士として勝負に挑む。

 

「舐めるな!」

 

アイズの物言いに激昴した女は、握り締めていた剣の柄にヒビをいれた。端正な顔立ちを怒りに染めあげる女は、次の瞬間、地を蹴り砕いてアイズに肉薄する。襲いかかる敵に対し、少女も静かに剣を構え直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【アルクス・レイ】!!」

 

美しい玉音とともに『魔法』が放たれる。図抜けた魔力とスキルの相乗効果により、凄まじい威力と化した光の矢に、モンスター達は悲鳴をあげる暇もなく消し飛んだ。魔法の発動主、レフィーヤはふう、と息を整える。

 

「お前はウィーシェの森の出身か。道理で凄まじい魔力だ」

「い、いえっ!私の取り柄はこれ(魔法)くらいなので.....」

 

当初よりもかなり打ち解けた様子の2人は、数匹のモンスターを吹き飛ばしたレフィーヤの魔法にフィルヴィスが感嘆しており、とんでもありません、とレフィーヤが頬を赤めて照れながら言葉を交わしている。

 

「ふっ!」

 

彼女達から少し離れた右手側。およそ10匹程のモンスターに囲まれているミナトは。まず背後から突進してきた蜥蜴人(リザードマン)の頭上をサマーソルトのように飛び越え、着地と同時に弱点である魔石を、三枚刃のクナイで突き刺す。(魔石)を破壊されたモンスターが灰になる前に、すかさず次の敵に襲いかかる。ヒットアンドアウェイ。速さに自信があるミナトが得意とする戦法の1つであり、一撃一殺の一振りは、何人たりとも阻むことはできない。瞬く間に灰にされたモンスター達と、それを成したミナトを見て、レフィーヤは口を半開きにし、呆然とした。

 

「ウィリディス」

「は、はいっ!?」

 

魔法を使用してやっとのことモンスターを倒した自分と比べ、純粋な物理攻撃のみで敵を駆逐し切った先達(ミナト)に畏怖を覚えているレフィーヤに、横からフィルヴィスが声をかけた。

 

()()()と自分を比べるな。こういう言い方は余り好まないが.....奴は、次元が違う」

「はい.....」

「伊達に神々の間で才能の化け物と呼ばれている訳ではない、ということだ」

「.....」

「お前にはお前の強みがある。何も奴と比較して落ち込む必要は無い」

「フィルヴィスさん.....!」

「奴と比べれば、【剣姫】ですら霞むと言われているしな」

 

そもそもお前とあの男とではLv.も違う。そう続ける彼女は、落ち込んでいるレフィーヤを励まそうとしているのだろう。彼女の温かさの一端に触れることのできたレフィーヤは、「ありがとうございますっ!」と、フィルヴィスの手を両手でガシッと掴みながら感謝を述べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【一掃せよ、破邪の聖杖(いかずち)】!」

 

歌を紡ぎながらモンスターの攻撃を躱す。残る2体のトロール達が純白のエルフに襲いかかるが、捕らえることは叶わない。『並行詠唱』で魔法を完成させた彼女は、モンスター達に杖を突き出す。

 

「【ディオ・テュルソス】!!」

 

超短文詠唱から放たれる一条の雷が、トロールの巨躯を丸ごと焼き尽くした。

 

「す、凄い.....」

 

基本、前衛に詠唱中は守ってもらう必要のあるレフィーヤにとって、『並行詠唱』を軽々とこなすフィルヴィスの戦いぶりは理想とするものだった。『並行詠唱』を可能とする魔導士は、要は動く砲台と化す。莫大な魔力を移動しつつコントロールすることは至難であり、レフィーヤが未だに習得できない高等技術であった。

 

「てめーもアレくらいできるようになればな」

「うぅ.....」

「そういう言い方はしちゃダメだって言ってるだろ、ベート?レフィーヤならいつか必ずできるようになるよ」

「頑張りますぅ.....」

 

ベートの追い討ちよりも、ある意味ミナトのフォローの方が辛い。心無しかレフィーヤがどんどんしょぼくれていく。エルフ特有の尖った耳すらしおらせて落ち込んでいると、今度は戻ってきたフィルヴィスが擁護してくれた。

 

「火力特化のウィリディスにそこまで求めるのは酷だ。それに、いざという時に必要なのは、ウィリディスの方だろう」

 

上級魔導士こそが切り札になる、と主張するフィルヴィスに対し、ベートは2人のエルフを見つめながら、ふんっ、と鼻息を鳴らした。

 

「随分と仲良くなってんじゃねえか。さっきまでの意地の悪さはどこいった」

 

そう皮肉を吐く彼に、フィルヴィスとレフィーヤは2人揃って頬を軽く染め上げる。が、今度はレフィーヤのみに視線を飛ばすベートが続ける。

 

「いつまでも守られてばかりでいいのか?」

 

琥珀色の瞳が、レフィーヤの心を覗き込んでくる。普段通りの皮肉を、真剣な表情で彼女を睨みつけるベートに、レフィーヤは萎縮してしまった。

 

「そこの甘ちゃん(ミナト)や馬鹿ゾネスどもは甘やかしているみてえだがな、俺はそんなことしねえ」

「だからそういう言い方は.....」

「お前は少し黙ってろゲロ甘野郎」

 

ゲロ甘野郎って酷くないか、と落ち込むミナトを他所に、狼人(ウェアウルフ)の青年は更に畳み掛ける。

 

「魔法だけが取り柄だとか抜かしてる内は、てめぇは一生お荷物だ」

「っ!」

「お前は甘い」

 

突き付けられた彼の言葉には、一切の手加減が無かった。ベートの言葉は的確に、その者が持つ弱みを逃さぬように指摘してくる。無遠慮に他人の傷口を抉る彼は、その態度から嫌われることが多い。だが、逆に捉えれば。彼を嫌うものは自分自信の弱みと向き合えていない者を意味する。何も言い返すことのできないレフィーヤは、酷く落ち込みつつ、ベートの言葉を頭の中で反芻(はんすう)する。今のままではいけない、変わらなければならない、彼の言っていることは至極正しい。

 

「大体いつもいつも君のフォローをしてるのは俺なんだよ?もう少し違うやり方とかさ」

「うるせぇ!甘ちゃんの中の甘ちゃんのお前が何も言わないから、俺が言ってやってるだけだろうが!」

 

ギャーギャーと言い争う2人。何やら普段の言動についてまで話が発展しているようだが。男子組を置いておいて、1人で黙り込むレフィーヤに、フィルヴィスが心配の視線を送る。

 

「前から思ってたんだけどよ、お前のその説教癖は何とかならねぇのか?正直うぜぇ」

「んなっ!?」

「毎度毎度疲れねぇのか、世話焼き野郎」

「君ってやつは.....!」

「八ッ!図星突かれたらそれかよっ。案外脆いもんだな、【黄色い閃光】様?」

「ちょ、ちょっと!何でお2人が喧嘩するんですか〜!?」

 

堪らず2人の間に割ってはいるレフィーヤだったが、彼女を挟むのは【ロキ・ファミリア】が誇る第1級冒険者達である。彼らの放つ威圧感に自ら閉じ込められた彼女は、涙目になりながら「アイズさ〜ん!」と、ここにはいない憧憬に助けを求めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイズと別れた【ヘルメス・ファミリア】一行は、食人花のモンスターとの交戦を繰り返しながら、食料庫(パントリー)の奥、大空洞へ足を踏み入れるところだった。

 

『.......』

 

視界が一気に開けた直後、アスフィ達は言葉を失い、その場に立ちつくしてしまう。計四体、食人花に似たモンスターが、赤水晶の巨柱に絡みついている。禍々しい極彩色の超大型達は、大きさも、太さも、通常の食人花の何倍ものサイズであった。

 

「まさか、柱から出る養分を吸い上げている?」

 

モンスターの触手や根は柱だけにとどまらず、そのまま壁や天井、地面にまで伸びて肉壁を形成していた。今回の騒動の原因は、間違いなく目の前の光景であると断言できる。

 

「あ、あれは!?」

 

大空洞の中では、アスフィ達の他にも謎の集団がいた。ローブを被り、素性がわからない彼等は【ヘルメス・ファミリア】の団員達を見て、殺気立っているようだった。剣呑な雰囲気が場を支配する、その傍らでルルネはある一点を見つめ、呆然とする。彼女の視線の先、四体の巨大花が巻きついた柱の根元には、

 

「あの時の宝玉.....!?」

 

胎児が宿る不気味な宝玉が取り付いていた。

 

 

 

 

 

「仕事だ、闇派閥(イヴィルス)の残党ども。我らの(いしずえ)となれ」

 

アスフィ達が愕然としている一方、ローブの集団の間を割って出てきたのは、軽装に身を包んだ白ずくめの男だった。彼はアスフィ達を一瞥した後、謎の集団のリーダーと思われる人物にそう告げた。

 

「っ、言われなくとも!お前達、侵入者どもを逃がすなぁ!!」

 

ローブの男から怒号が飛ぶ。指揮を受けた、大空洞にいるローブの者達は彼に従い、武器を構えアスフィ達のもとに押し寄せる。

 

「応戦しますよ!ここで何をしていたのかを暴きます」

 

敵の異様な雰囲気を感じ取りながら、アスフィは周囲へ視線を張り巡らせる。この巨大花から造られる緑色の肉壁は、人為的な物か否か。ひいては新種のモンスターが眼前の母体らしき大柱から産み出されているのか。憶測と観察を同時に行い戦慄を覚えながら、団員達に指揮を飛ばす。

 

「殺せ!!」

「かかりなさい!!」

 

両指揮者の発破で、両陣営の戦闘が始まる。一切連携もせず、ただ武器を振り回してくるローブの集団に対して。【ヘルメス・ファミリア】はお互いにフォローし合う連携と、【ステイタス】の高さを生かした個人技能をフルに使い、上級冒険者級の敵を一切寄せ付けない。

 

だか。

 

「この命、ロロのもとにぃ!!!」

 

身元を暴くために、ルルネが拘束した敵の男は、服の下に巻き付けてあった大量の『火炎石』に火をつけ、次の瞬間には()()()()。ルルネは、咄嗟に掴んでいた男の胸ぐらを離し、前に蹴りつけ距離を取ったことで、間一髪爆発に巻き込まれるのを防いだ。

 

「じ、自爆.....!?」

 

爆発の中心源、原型をとどめた男の体は、燃えていた。情報漏洩を阻止するために、決行された自爆。およそ常人では考えられない、己の命を代償にした自爆攻撃を取った敵に対し、ルルネは顔を青くした。

 

「主よ、この身を委ねます!!」

「シルフィ、どうか許したまえ!!」

「ああ、ダスト!!」

 

あちこちから耳をつんざく轟音とともに爆炎が飛び散り、大空洞をたちまち真っ赤に染めた。爆発に【ヘルメス・ファミリア】の団員達も巻き込まれ、絶叫が上がっている。

 

「アスフィ、こいつら死兵だ!!」

 

ルルネが叫び、鼓膜が意味をなさなくなるほどの爆音と衝撃を身体中に浴びながら、アスフィは繰り広げられる光景に息を呑んだ。敵が自爆の際に呼んでいる名は、各自異なっていため、主神の名前なのか、知人の名前なのか、判断することができない。ただ1つ言えるとすれば、彼等、ローブの集団は、己の命などとうの昔に捨てているということ。理解できない狂乱振りをみせる敵に、アスフィの背筋が凍り付く。

 

 

 

 

 

一方。そこら中から爆発と悲鳴が飛び交う戦場を傍観していた白ずくめの男は、好機とばかりに、告げる。

 

食人花(ヴィオラス)

 

男が名を呼んだ瞬間。エリア内のモンスターが、まるで統率されたように凄まじい勢いで動き出す。

 

「なっ!?」

「一斉にこちらに向かってくるぞぉぉっ!?」

 

食人花のモンスターも戦場に加わる。【ヘルメス・ファミリア】を狙ったモンスター達の攻撃は、彼等だけにとどまらず、ローブの集団にも襲いかかった。敵味方関係無しに蹂躙され、場は混乱を極める。たが、この状況下において、ただ1人冷静なアスフィは攻略の鍵口を探っていた。

 

「(あの白い男.....恐らくは調教師(テイマー)!)」

 

これ程大量のモンスターを従えるなど聞いたことがないが、今ある情報から導き出される答えとして、アスフィから離れた場所に位置する白ずくめの男。彼が何かしらの手法で食人花達を操っていることは間違いない。

 

狙うなら、今!

 

水色の髪をなびかせながら、敵の1人を片手剣の一閃で斬り捨て、そのまま白ずくめの男の元へ駆け抜ける。

 

「大人しく喰われていればいいものを」

 

面倒だ、と続けた男は迫り来るアスフィに対して、自らも前に出る。埋まる間合い、素手の男と、片手剣を提げたアスフィ。有利なの後者に違いない。アスフィはさらに速度を上げ、斬りかかった。

 

「そこだ」

「っ!?」

 

男との距離が1mを切った刹那、彼女と男との間から無数の触手が彼女へ打ち出される。瞬時に真横へ飛ぶことで回避した先には、複数の食人花のモンスターが待ち構えており、背後からは白ずくめの男が迫ってきている。

 

「さすがに動けるな、【万能者(ペルセウス)】」

「くっ!」

「ここで死ね」

 

緊急回避の直後で体の進行方向を変えることのできない彼女に食人花の大口が肉薄する。四方八方から迫り来るモンスター達によって彼女の逃げ道は塞がれてしまった。

 

「仕方ありません.....」

 

惜しむような顔色の彼女は、小さく舌打ちをすると同時に、自身の靴、その(くるぶし)辺りをそっと撫でた。

 

「『タラリア』」

 

美しい声音とともに、彼女の体が宙へ駆け抜ける。

 

「なに!?」

 

頭上を仰ぐ男を、ひとまず後回しにし。まずはモンスターを倒しにかかる。

 

『オオオオオオオォォッッ!?』

 

空爆。

 

空を翔ける彼女を阻む者はおらず、文字通り縦横無尽に飛び回りながら爆炸薬(バースト・オイル)を投下するアスフィに、モンスター達は一方的に焼き散らされる。爆煙により視界が塞がる中、モンスターの包囲網を強引に突破した彼女は、視界の端に捉えた白ずくめの男を急襲した。

 

「(もらった!)」

 

未だに丸腰の男の背後から、必殺の一撃を見舞う。

 

だが、

 

「.....」

「!?」

 

剣身を、ただの()()で受け止められた。

 

「なっ!?」

 

その光景に固まるアスフィ。武器を素手で掴みかかる無謀な手法にも関わらず、Lv.4である彼女の全速力の刺突を、目の前の男は腕1本で押さえ込んでしまった。凄まじい怪力。得体の知れない気味悪さが彼女を襲う。

 

「ふんッ!」

「ぐっ!?」

 

胸ぐらを掴まれ地面に叩きつけられる。吹き飛ばされたアスフィはゴロゴロと転がりながら後退していくが、モンスターの死骸がクッションとなって彼女を受け止めた。よろよろ、と打ち付けられた肩の痛みを堪えながら立ち上がる。視界から消えた男を探し出すため視線を動かす。直後。

 

「っっっ!?」

 

ズブッ、と。彼女の体から灼熱のような痛みとおぞましい音が鳴った。腹部に広がる赤い染み。痛みに悲鳴をあげる体から視線を背後へと向けると、白ずくめの男が立っていた。手元を見れば先程まで彼女が使っていた得物が逆にアスフィに牙を立てている。

 

「がっ.....!?」

「冒険者がしぶといことは身に沁みて知っている。確実に殺してやるから安心しろ」

 

男は突き刺さした短剣を、アスフィの体か勢いよく抜き捨て、そのまま彼女の細い首を持ち上げた。尋常じゃない膂力で握りしめる男の手を必死に解こうとするアスフィの顔が歪む。兜で見えない瞳をギラつかせ、男は一気に彼女の柔い首をへし折ろうとした。

 

だか、次の瞬間に轟いた雷鳴が男の動きを停止させた。白ずくめの男が振り返ると、視界の先には、戦場を駆け巡る狼人(ウェアウルフ)と、魔杖を水平に構える2人のエルフがいた。さらに。

 

「.....っ!?」

 

欠片も気配を感じ取らせず、一条の閃光が。アスフィを始末しようとしていた白ずくめの男を吹き飛ばした。

 

「がはっ、ごほっ.....あな、た....はっ!?」

 

開放され地面に倒れ伏したアスフィは、咳き込みつつも、彼女の目の前に現れた金色の青年に声をかける。

 

「大丈夫かい、アスフィさん?」

「【黄色い閃光】、ナミカゼ・ミナト.....」

 

この食料庫(パントリー)に到着すると同時に、首謀者らしき白ずくめの男とアスフィが交戦している様子を視界に捉えたミナトは、彼女の元へと自慢の脚を活かして駆けつけた。アスフィと似た色の碧き瞳を敵に向ける彼に、白ずくめの男も、忌々しそうに睨み返す。

 

「【黄色い閃光】っ!()()()()()()()()()()()()()().....!」

「さて、思い当たる節が無いわけでも無いけど。俺の予想が当たっているなら、少しばかり面倒なことになっているみたいだね」

「気をつけて、ください.....っ!あの男は、純粋な身体能力だけなら...私よりも確実に、上です.....」

 

ミナトから手渡された高等回復薬(ハイ・ポーション)で体を癒しながら、敵の情報を伝えるアスフィ。彼女の助言に「大丈夫」とだけ伝えると、青年の姿がかき消えた。

 

「は....?」

 

数瞬後。思わずポカン、とする彼女の視線の先では。あれほど彼女を苦しめた白ずくめの男が、()()()()()()()

 

「....おの、れ....【黄色い閃光】っ.....!?」

 

ミナトから20m程離れたところで、膝に手を付きながらゆっくりと立ち上がる男は、目元を覆い尽くす兜の上からでもわかるほど憤慨していた。

 

()()().....」

 

第2級冒険者(Lv.4)のアスフィにすら視認を許さない速度で、5()()ほど男に打撃を食らわせたミナトは、手応えの少なかった自身の右拳を一瞥してから、そう呟いた。

 

「(何なんですか、彼は!?速すぎるにも程があるでしょうっ!?)」

 

24階層に来る道中まで行動を共にしていた【剣姫】、アイズの動きも確かに速く、鋭いものであった。が、彼女の瞳の先に立つ青年の動きは、速い、などと陳腐な言葉で表すことすらできないものであった。『都市最速』を謳われるナミカゼ・ミナト。およそ7()()程の速度の攻撃はアスフィはおろか、白ずくめの男ですら一切認識することを許さない圧倒的さを誇る。

 

そんな彼女達の注目を集めるミナトは、敵の異様に硬い皮膚について考察をしている最中であった。

 

「(あの赤髪の調教師(テイマー)と似た硬皮、Lv.4のアスフィさんをねじ伏せるパワー。極めつけは食人花のモンスターを従えているときた。これは、()()()())」

 

恐ろしい程、正確に、迅速にパズルのピースが当てはめられていく。やがて1つの答えに辿り着いたミナトは、視界に映る男に、証拠を突きつけるように問いかけた。

 

「どうやら貴方は、赤髪の女性と仲間、もしくは利害関係にあるようですね」

「ほう」

「あれほど大量の食人花を調教(テイム)できる人は、()()()()()()()()()()()

 

白ずくめの男の反応に、仮説が定説へと変わっていく。

 

「苗床のように見える肉の柱。貴方型の目的は、」

「いい加減口を閉じろ、【黄色い閃光】」

 

遮るように、低い声音で男が告げる。

 

「貴様の考え通りだったとして、だから何だというのだ」

「.....」

食人花(ヴィオラス)は既に最終段階へと入っている。もはや止めることなど叶わん」

 

ミナトの考察など意味をなさない。手遅れ。後は時間の問題。口端を歪め声を荒らげる敵に、ミナトの双眸が鋭くなる。

 

「ナミカゼ・ミナト。貴様は()()()()()()()()()()()()()

「貴方は、やはり.....」

「気にする必要はありません。どちらにせよここ(食料庫)は我々が焼き尽くす予定ですから。無論、あの大型達も」

 

勝ち誇った表情を浮かべる男に何か言いかけたミナトであったが、回復を終えたアスフィが問題ないと続ける。もとから破壊するつもりでいたため、彼女の顔に焦りの色は無い。まずは目の前の敵を倒すことが優先すべきである、言外にそう伝えたのだ。

 

「ふん.....冒険者風情に何ができる」

「黙って聞いてりゃ、イラつくセリフを吐きやがって....」

 

ミナトとアスフィの後方より、狼人(ウェアウルフ)の青年が、悪態を付きながら現れる。

 

「【凶狼(ヴァナルガンド)】、それに【黄色い閃光】.....そうか、貴様ら【ロキ・ファミリア】は【剣姫】を追ってきたか!!」

「っ!アイズをどうした!?」

「「ベート!(凶狼(ヴァナルガンド)っ!?)」」

 

鎧兜の下で口元を歪める男に、2人の停止も聞かず、ベートが双剣を構えて襲いかかる。斬撃を紙一重で躱す相手は反撃をしながら返答を重ねる。

 

「私の同士が相手をしている。今頃は四肢をもがれているだろうさ」

「殺す」

 

溢れんばかりの殺気を纏い、ベートが攻撃の手を更に速めた。敵を斬り刻もうとより苛烈に攻めかかる。白ずくめの男もまた笑みを浮かべながら剛腕を振るい返した。

 

「ベートさん!?」

「ウィリディス、飛び出すなっ!!」

 

更に遅れて登場した、レフィーヤとフィルヴィス。彼女らは魔法で狼人(ウェアウルフ)の青年をサポートしようとするが、構えた杖が何度も何度も照準をズラされる。

 

「(速すぎてっ!)」

「やめておきなさい」

「えっ、ミ、ミナトさん!?でも....っ!」

 

男も、ベートも、両者とも凄まじい速度の肉弾戦を繰り広げているため、Lv.3であるレフィーヤ達には一切目で追うことができていない。ミナトは彼女達を気遣ってか、はたまた誤爆をしないようにか、2人の前に腕を遮るようにかざし、静観に徹するよう指示をだす。

 

「オラァッ!!」

「ぐっ.....!?」

 

レフィーヤ達が傍観する中、ベートが魔剣を第2級特殊武装《フロスヴィルト》に吸収させ、その威力を上乗せした渾身の蹴撃を、眩く光り輝くメタルブーツとともに男に叩き込んだ。両腕で防御した男の体は彗星のように魔法の光沢を、蹴りを食らった箇所から放ちながら後方へと吹き飛んだ。

 

「やったのかい?」

「殺すつもりでぶっ飛ばしてやったがな」

 

ミナトがベートに尋ねた。どれほど耐久値に自信のある者でも、あの巨撃を受けて無事という訳にはいかないだろう。2人の第1級冒険者が見据える先、男が飛んで行った方角を見やる。衝撃による煙が立ち上る中、その黒煙の中から1つのシルエットがゆっくりと歩み出てくる。

 

「化け物、ですか.....?」

 

全身をボロボロにしながらも、しっかりと両足で体を支える男に、アスフィは瞠目する。ベートの必殺を防御した両腕はズタズタになっており、両腕のガードを貫通したのか、胸元の戦闘衣(バトル・クロス)は大きく破けている。

 

「惜しかったが.....」

 

男の唇が動く。

 

「『彼女』に愛された体は、何よりも尊い」

 

にやり、と唇を吊り上げた男の体に、異変が起こる。

 

「あれは.....」

「ちっ」

 

ミナトとベートの視線の先。先程ベートの攻撃によって付けられた男の傷口が、ゆっくりと塞がっていく。この場にいる者全員が声を失っていると、巻き上がっていた煙が晴れ、白ずくめの男の顔があらわになった。

 

「なっ!?」

「.....やはりそうか」

 

最初に反応したのはアスフィで、ほぼ同時にミナトが何かに納得するように呟く。恐ろしく白い男の顔を見て、雷に打たれたかのように動きを止めていたフィルヴィスが、恐る恐る、ゆっくりと口を開いた。

 

「オリヴァス・アクト.....」

 

硝煙から全身を表した白ずくめの男、オリヴァス・アクト。かつて死んだ筈の【白髪鬼(ヴァンデッタ)】が、不気味な笑みを浮かべ、フィルヴィス達に()()()の瞳を向けていた。

 

 




回を重ねる毎に、『暗黒期』のハードルが上がってる気がする

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