黄色い閃光inダンジョン   作:いちごぎゅーにゃー

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何もかも諦めて生きていくつもりは無い。後ろに明日は無い、力を宿せWAR

ベート達が巨人花(ヴィスクム)を討伐する直前、アイズは彼女の元に殺到していた食人花を全て撃破していた。魔法(エアリアル)を存分に使った圧倒的な力を、モンスターを使役したオリヴァスは見せつけられる。

 

「馬鹿、な.....!?」

 

美しく戦場を舞う金の戦士。風を纏いモンスターを打ち倒すその姿は、まさに【剣姫】。オリヴァスに与えられた恩恵がことごとく彼女には通用しない。緑色の双眸が震え見開かられる中、少し離れた場所では3匹目の巨大花(ヴィスクム)が、純白のエルフが放った雷に穿たれて灰となった。

 

「馬鹿な!?【黄色い閃光】がいたとはいえ、こんな、こんなはずでは.....っ!?」

 

精神が崩れ落ち、完全に冷静さを失った男は、地を蹴りアイズへ突進した。『魔石』が超常の力を男に与え、金色の少女の柔肌を蹂躙しようとする。それでも、ベートに食らわされた蹴りのダメージが未だ抜けきらない男の動きは、今のアイズ、【エアリアル】を使用している彼女にとって余りにも遅い。

 

「.....」

 

肉薄する怪人に《デスぺレート》の剣先を向け、銀の光を閃かせる。

 

「ーーーーーっっっ!?」

 

無数の斬撃がオリヴァスに叩き込まれる。剣の嵐は男の体全体、ほぼ全ての箇所を斬り裂いた。全身から血飛沫を散らせたオリヴァスは仰向けに倒れ込む。

 

「か、『彼女』に選ばれ.....人間という種を超越したこの私が、この私がああぁぁぁぁ!?」

「他人から貰った紛い物(魔石)の力に頼ったお前が、彼女(アイズ)に勝てる道理はない」

「.....ミナト」

 

恐怖にわななき、呻き声を漏らすオリヴァスの近くにミナトが現れ、地面に横たわる男の首元にクナイを突きつけた。

 

「アイズ、横槍を入れるようで悪いけど、こいつはここで俺が始末するよ」

 

情報を引き出すよりも、調教師(テイマー)としてモンスターを操る男の能力。そして何より、ミナトの予想が当たっているとしたら、オリヴァスとレヴィス(赤髪の女)の2人は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性がある。オリヴァス・アクトは、かつてギルドが公布した手配書では推定Lv.は3、と記載されており。ミナト自身も一度だけ目の前の男と手合わせしたことがあるため、ギルドの情報は間違ってないと思われる。

 

だが、

 

先の戦闘においてベートと互角以上に渡り合っていたオリヴァスは。死んで蘇った後に、『彼女』とやらに魔石を与えられて復活し、その【ステイタス】をLv.5以上までに伸ばしたということになる。神の恩恵以外を用いた『魔石』による身体強化、これが意味するのは、

 

「『強化種』と同じように、力を付けることができるようだね」

「!?」

 

クナイを首元に当てられ、1ミリも動くことの許されないオリヴァスの目が見開かれる。瞠目する男の様子はまるで金色の青年の推理が間違っていない、そう確固づけるものに見えた。彼の後ろに控えるアイズも、上手く理解することはできていないが、この短時間で素早く情報を引き出すことに成功したミナトに驚きを隠せず、その金の双眸を大きく開いた。

 

もう何も聞くことは無い、と告げたミナトはクナイを持つ右腕を振り上げ、オリヴァスの息の根を止めようとした、その瞬間。

 

「これはっ!?」

「っ.....!?」

 

殺されるのをただ待つだけであった男の周囲の地面より黄緑の触手が無数に現れ、ミナトとアイズに襲いかかった。予期せぬ攻撃に驚愕する2人ではあったが、さすがに第1級冒険者達。驚異的な反応で即座に後方へ地を叩き蹴り、跳ぶことで、完璧な不意打ちを回避することに成功する。

 

「とんだ茶番だな」

「レヴィス.....っ」

 

再起不能に落とし込まれ、あまつされえ自分達の情報を奪われたオリヴァスへ、横からレヴィスが歩み寄った。そのまま横たわる男の傍へ近づき、緑色の瞳で見下ろす。

 

「す、すまない、助かった.....」

「......」

 

どうにか起き上がり膝を着くオリヴァスは酷く息を切らしている。少女に付けられた傷から流れる血液を無視し、必死に呼吸を整える。虫の息である男に対し、レヴィスは無言だった。2人の周囲には、たった今この場に駆け付けたベート達が半円を描き、2人の調教師(テイマー)を追い詰めたと言っても過言ではない状況になっている。そんな中、おもむろにレヴィスが無表情のまま手を伸ばした。オリヴァスを立たせるように彼の服を掴み、片手で持ち上げる。そして、その次の瞬間。

 

『!?』

「なっ......っ!?」

 

手刀を、味方である筈のオリヴァスの胸に突き刺した。

 

「不味い.....!」

 

女の取る珍妙な行動の意味、それをただ1人正確に把握していたミナトだけが、レヴィスを止めるために走り出そうとしたが、がくんっ、と脚が崩れ落ちてしまう。

 

「(くそっ、こんな時に()()()()()()が来るなんて.....!?)」

「ミナトっ!」

 

突然両膝を地に付け、両手すらも地面に伏せた彼の様子に、すぐ近くにいたアイズが慌てて駆け寄る。急変した憧憬(ミナト)に肩を貸しながら支える少女は、次には、視界に入った光景に言葉を失った。

 

「ぐっ、レヴィスッ.....!」

 

破った胸の中に埋まっていく女の細腕。溢れる血液に顔色一つ変えず、ぐぐぐっ、と更に腕を押し込んでいく。当のオリヴァスは、レヴィスが何をしているのか理解できていない表情を浮かべていた。

 

「何を.....っ!?」

「周りをよく見てみろ」

 

ミナト、アイズ、レフィーヤ、ベート、フィルヴィス、アスフィ、その他上級冒険者達の視線を浴びながら、淡々と、冷酷に告げる。

 

「より力が必要、ただそれだけだ」

 

レヴィスのやろうとしていることを、彼女の言葉で察したのか、オリヴァスは凍りついた。

 

「ま、まさか!?たった1人の同胞を殺す気か!?」

「ふん」

 

くだらなそうに鼻を鳴らす。

 

「私がいなければ『彼女』はどうする!?」

 

男の叫びを塞ぎ、無視し、レヴィスは勢いよく胸元から腕を引き抜いた。血にまみれた手に握られているのは、極彩色の『魔石』。核である魔石を抜き取られたオリヴァスは、モンスターと同じように灰となって崩れ落ちた。

 

「勘違いするな。アレは私が守ってきた。そして、これからもな」

 

足元の灰の山にそう吐き捨て、赤髪の女は振り向く。

 

「やはり、貴方達は.....!」

 

呆気なく仲間を殺したレヴィスに瞠目するベート達の中、アイズに肩を貸してもらっているミナトは碧色の瞳で女を見やり、確信を胸に呟いた。

 

()の言う通り、貴様の聡明さには目を見張るものがあるな、【黄色い閃光】」

 

美しい相貌を少しばかり笑みで崩した彼女は、オリヴァスから奪い取った『魔石』を口に含み、噛み砕いた。

 

「アイズ、俺のことはいい、全力で構えろ!!」

「えっ.....」

(魔法)も躊躇わず使うんだ、いいね!?」

「.....う、うん」

 

これからの展開をいち早く読み通したミナトが、借りていたアイズの肩を彼女に返し、語気を強めて言う。状況を上手く飲み込めていないアイズは戸惑いながらも、彼の言葉にゆっくりと頷き、愛剣(デスぺレート)を構える。

 

敵の呆気ない幕切れにレフィーヤ達が言葉を無くす中、レヴィスは握りこぶしを両手で作り、何かを確かめるように繰り返し握り直す。直後、血のような赤髪を揺らし、アイズへ弾丸のごとく疾走した。

 

「っっ!?」

 

アイズ以外の反応を置き去りにして、彼女へと剛腕を振り抜いた。正面からの攻撃にアイズはミナトの指示通り、風を付与したまま《デスぺレート》を構えて防御するが、次の瞬間には真後ろへ凄まじい勢いで弾き飛ばされた。

 

「貴方は!?」

「まだ喋る余裕があるか」

 

驚嘆するアイズに、赤髪の女はすかさず仕掛けた。間違いなく上昇している【ステイタス】。オリヴァス・アクトから奪い取った『魔石』を摂取したことによる変化を目の当たりにしたアイズは。頭の中で欠けていたピースが見つかったかのように、ミナトの言葉の意味をようやく理解した。

 

繰り出される下段蹴り、Lv.6へと進化し、魔法まで使用しているアイズに力負けしないその威力。神速の斬撃を見舞えば容易く回避しカウンターを狙ってくる。先程までアイズに対して防戦一方だった筈のレヴィスは、剣撃の全てを見切って対応してきた。

 

『魔石』を喰らうことで激上した女の身体能力。『魔石』を喰らえば喰らうだけ上昇するという能力。間違いない、彼女は『強化種』の原理をどういう訳かその身に宿している。恐るべきことに単純な身体能力だけで言えば、今の彼女はアイズの【ステイタス】を上回っており、『魔法』を使用することで僅かながら優勢に立てているという状況だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なんだよアイツ.....あんなのデタラメだ」

 

アイズと互角に渡り合うレヴィスを見てルルネはごくり、と喉を鳴らした。第三者が立ち入る隙もないほどの激戦に棒立ちとなる冒険者達であったが、駆け出したベートを区切りに、レフィーヤ達も後に続いた。

 

「アイズもだけど、こっちもか.....」

「ええ。貴方もそんな状態ですし、不味いですね.....」

 

ベート達が援軍に向かう中、ミナトとアスフィは逆方向に走り出した。2人の目的は食料庫(パントリー)に寄生している緑色の宝玉だ。今回の件も、『リヴィラ』の件でも鍵となった宝玉を何としても確保しようと全力で駆ける。大主柱に接近したミナトとアスフィだったが、突如、アスフィの横から奇襲を受けた。

 

『!!』

「なっ!?」

「いつの間にっ!?」

 

紫の外套と不気味な仮面。第2級と第1級の2人からどうやって気配を断っていたのか、急に現れた謎の敵客にアスフィは殴り飛ばされ、辛うじてミナトが受け止めた。アスフィ(Lv.4)の耐久を歯牙にもかけない凄まじい『力』。更に両手のメタルグローブがアスフィ特性のマントの上から衝撃を貫通させたのだ。

 

「完全ではないが、十分に育った。エニュオに持っていけ!」

『ワカッタ』

 

アイズと戦いながら、アスフィを襲った仮面の人物にレヴィスが声を張り上げる。謎の刺客は宝玉を握りしめ、そのまま張り付いている柱から力づくで引き剥がした。

 

「行かせない!」

 

絶対に逃さないと、仮面の襲撃者を追走するミナト。

 

巨大花(ヴィスクム)!!」

 

だが、レヴィスがそれを許さない。怪力を活かした横薙ぎによってアイズを吹き飛ばすと、大主柱に巻きついている最後の巨大花へ命令した。

 

 

「枯れ果てるまで、産み続けろ!!!」

 

大空洞が大きく揺れる。

 

「.....!?」

 

赤髪の女に斬りかかろうとしたアイズは顔を上げる。ベート達も、この場全ての冒険者達が不可解な震動に動きを止めた。

 

そして、

 

ビキリッ、と天井、横壁、大空洞の全箇所に存在する『蕾』が、一斉に開花した。

 

『オオオオオオオォォォォッッ!!!』

 

極彩色のモンスター達が、巨大花()の声に応じ、産まれ落ちた。四方八方、360度、視界という視界の全域に映る食人花。それらは力を使い果たし死んでいく『食料庫(パントリー)』に取って代わり、全ての個体が産声を一つにした。

 

醜悪な花弁がアイズ達目がけ、一斉に襲いかかる。圧倒的数の暴力に冒険者達が悲鳴を上げる。視界一杯に広がる夥しい数の極彩色。どこを見渡しても花、花、食人花のモンスター。歴戦の冒険者達の戦意を折るほどのモンスターの群れ。数十、数百、あるいはそれ以上であり、通常の怪物の宴(モンスター・パーティー)と比べるまでもない。

 

「くそっ!」

 

仮面の人物は、ミナトの追跡を難無く躱し、モンスターの網の奥。出入り口と思われる穴に飛び込み、大空洞からあっさりと姿を消した。

 

長駆と超重量を活かした蛇行、無数の触手を蠢かせ、毒々しい大口で冒険者達に襲いかかるモンスター達。手当り次第暴れ回る人喰い花は、視界に入った冒険者にすかさず攻撃を仕掛け、闇派閥(イヴィルス)の残党達にも巨体をけしかける。予測不可能な食人花の動きに、戦場は大いに混乱させられている。

 

そんな中、モンスターとレヴィスの挟み撃ちを食らうアイズは。再び長剣を地面から取り出した女と、背後から迫り来る食人花の連携によって、劣勢を強いられていた。一瞬、食人花に気を取られた少女の隙を見逃さず、レヴィスは彼女の持つ《デスぺレート》を弾きき飛ばした。

 

「逃がすか」

「!?」

 

赤髪の女を無視し愛剣の回収に向かおうとするも、操られたモンスター達がアイズの邪魔をする。得物を失ったアイズに対して長剣を提げるレヴィスは、遠慮なく彼女に斬りかかった。不慣れな格闘戦を強制され、アイズは更に劣勢に立たされることになってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大量のモンスターが蔓延る戦場において、レフィーヤを含めた魔導士は全く力を発揮できないでいた。『魔力』に反応する食人花達に囲まれながら詠唱をすることは自殺行為。前衛の冒険者達も自身の身を守るのに精一杯なため、詠唱中に魔導士を守る壁すらない。誰もが死力を尽くして戦っている。ベートも、アスフィも、ルルネも、焦燥を見せながらも確実にモンスター達を倒していく。ついさっきまでアイズの手を借りていたミナトでさえも、顔に大量の脂汗を滲ませながら戦場を駆け回っている。そんな彼等の、無力な自分を置いて戦い続ける冒険者達の姿が、レフィーヤの心を(さいな)む。

 

なぜ、自分(レフィーヤ)はあの勇ましい戦士達と並んで戦うことができないのか。得意の魔法は封じられ、今や足を引っ張ることしかできていない。守られて、守られて、また守られる。血を流し彼女からモンスターを引き剥がす彼等のために、魔法で助けてあげることができたならば。

 

「(リヴェリア様のように、フィルヴィスさんみたいに.....!!)」

 

思い浮かぶのは美しき先達、今なお戦っている同胞。師である最強の魔導士の背中は遠く、白く気高い魔法剣士にも手が届かない。

 

自分も。

 

レフィーヤ・ウィリディスにも、『平行詠唱』ができたのならば。

 

(魔法)を歌うことでモンスター達を撃退することができたならば。

 

「アイズ.....!」

 

レフィーヤの苦悩が募る時、ベートが見つめる方角では、たった一人でレヴィスと食人花に襲われる金髪の少女の姿が、彼の顔を歪めていた。何か手はないか、視線を張り巡らせるベートの瞳に、山吹色の少女が映る。

 

「おい!」

「え.....っ?」

「俺はアイズのところに行く、ここはてめえがやれ!」

 

レフィーヤの元に駆け寄り、胸ぐらを掴んだベートは彼女に吠える。

 

「で、でもっ」

「そのアホみてえな『魔力』だけは認めてやる!」

 

レフィーヤの声を(さえぎ)りながら、彼は続ける。

 

「今、ここで!あのクソババァを超えてみせろ!!」

 

都市最強魔導士、リヴェリア・リヨス・アールヴを超えてみせろ。そう彼は言ったのだ。ただの発破ではなく、お前は今のままでいいのか、と。もう一つの意味も込められたベートの瞳に、レフィーヤの全身が熱く燃えたぎる。何かを決意したように握りこぶしを作る彼女を、どんっと突き飛ばしたベートは、それ以上は何も言わずに背を向けて駆け出した。その背中を見つめながら、冒険者とモンスターの叫び声に囲まれながら。小さな魔導士は、今、覚悟を胸に刻み込んだ。

 

「いけるね、レフィーヤ?」

 

いつの間にか隣に降り立っていたミナトが、強く杖を握りしめ、瞳に力を込めるレフィーヤに問いかける。

 

「はいっ!!」

「露払いは俺達に任せてくれ。君は、君の(魔法)に集中すればいい」

「お願いします.....っ!」

「ああ」

 

任せたよ。と残して彼は周囲の冒険者達に、レフィーヤの詠唱時間を稼ぐよう指示を飛ばす。【黄色い閃光】からの、【ロキ・ファミリア】の大幹部からの要請に、【ヘルメス・ファミリア】を初めとした全ての冒険者達が一同に応じた。

 

「5分、いえ、3分持たせてください!!」

 

頷いた冒険者達は彼女を囲むように陣形を取る。全てのモンスター達がこちらへ反転する中、円の中心に立つエルフの少女は、詠唱を開始した。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う】!」

 

彼女の周囲に展開される山吹色の魔法陣(マジックサークル)

 

「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ】」

 

膨れ上がる魔力に殺到する食人花。

 

「【繋ぐ絆、楽園の契り。円環を廻し舞い踊れ】」

 

歌え。唱え。速く、正確に、一秒も無駄にしてはいけない。今自分が歌えているのは全ての冒険者達が守ってくれているから。命を懸けた防衛策を絶対に無駄にするな。

 

「【至れ、妖精の輪】」

 

召喚するのは最強の魔導士(リヴェリア)の全方位殲滅魔法。偉大なる王族(ハイエルフ)の力を借りて、モンスター達を一掃する。

 

「【どうか、力を貸し与えてほしい】」

 

余計な情報はいらない。瞳を瞑り、ただ魔法のみに集中する。視界を閉じた彼女の耳に届く冒険者達の雄叫び。レフィーヤを信じる者達の声に応えて見せる。

 

「【エルフ・リング】」

 

山吹色から翡翠色へと、彼女を包み込んでいた魔力光が変化する。すかさず攻撃魔法の詠唱に移るレフィーヤ。彼女を何とか守り抜くアスフィ達の元に、一際大きく食人花達が突き進んできた。

 

「どけ!」

「お、おいっ!?」

 

盾を構える【ヘルメス・ファミリア】の連中を押しのけ、フィルヴィスはモンスターの前に飛び出した。

 

「【盾となれ、破邪の聖杯(さかずき)】!」

 

アスフィとルルネが目を見張る中、彼女の持つ2つ目の魔法を発動する。濁流のように押し寄せてくる食人花達へ、フィルヴィスは左手を突き出した。

 

「【ディオ・グレイル】!」

 

障壁魔法が展開され、モンスター達の激進をまとめて受け止めた。残り1分ほど。フィルヴィスの後方で歌い続けるレフィーヤの魔力が、更に膨れ上がってく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【間もなく、焔は放たれる】」

 

山吹色の少女の玉音が、無手で戦い続けるアイズの耳に届いた。

 

「っ!」

 

剣技と比べ拙い肉弾戦において、レヴィスに追い込まれる彼女の元に、レフィーヤの(詠唱)が響き、更にそこへ、ベートが疾走してきた。

 

「オラァ!」

 

モンスターの網を無理やり突破し、激戦を繰り広げていたアイズ達に追いついた。驚くアイズとレヴィスの視線を浴びながら、彼はアイズの元に突っ込んだ。

 

「よこせ!」

「風よ!」

 

短いセリフの意味を理解した彼女は、すれ違いざまにベートのメタルブーツに【エアリアル】の風を送り込んだ。白銀の両靴に凄まじい風の気流が宿る。

 

「【忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」

 

風を受け取った狼人(ウェアウルフ)の青年は、すかさず赤髪の女に真っ向勝負を仕掛けた。

 

「黙ってろ、化物女!」

 

剣を取り戻すため離脱するアイズに焦りを見せるレヴィスだったが、ベートが彼女の追跡を許さない。

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火。汝は業火の化身なり】」

 

アイズに剣を回収させるためにこの場を受け持ったベートは全力で相手を食い止める。

 

「邪魔だ!!」

「っ!?」

 

大剣が連続で振り回され、ベートの体を脅かす。アイズの風を借り受けようが、今のレヴィスの能力はベートの遥か上を行く。凄まじい勢いで繰り出される蹴撃の全てを女は捌き切る。

 

「どけ!!」

 

感情をむき出しにしたレヴィスは、咆哮とともに剣の速度をあげた。防戦一方となるベートの体に裂傷が刻まれ始める。

 

「【こどごとくを一掃し、大いなる閃乱に幕引きを】」

 

追い詰められるベートに届く少女の歌。彼女の周りで抗い続ける冒険者達。歯を食いしばっていたベートの顔が、 凶暴なまでに吊り上がった。

 

「おおおおおおおおおおッ!!」

 

勝鬨(かちどき)をあげるため、耐え忍ぶ彼等(雑魚)を一瞥し、猛り声とともにベートは一撃を繰り出した。振り下ろされる大剣と衝突する渾身の蹴り。

 

吹き飛ばされた風の気流に、メタルブーツを貫通して粉砕される足。激しい衝撃の焼けるような痛みに、ベートの目が血走った。

 

「【焼きつくせ、スルトの剣。我が名はアールヴ】!」

 

遂に、レフィーヤの詠唱が完了する。同時に戦場全域に広がる翡翠色の魔法陣(マジックサークル)

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!!」

 

巨大な炎柱が、エリア一帯を埋め尽くす。レフィーヤ達のもとから放射状に連続する炎の極線。天井まで届き昇る業火は全ての食人花達を焼きつくし、声すらあげる暇を与えない。魔石すら灰と化す広域殲滅魔法が、大空洞を紅い世界へと作り変えた。




もしかしたら明日投稿できないかもしれません.....

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