黄色い閃光inダンジョン   作:いちごぎゅーにゃー

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日常はすぐにやってくる

熱と紅の光に全ての冒険者の横顔が焼かれる中、ベートの口が吊り上がる。全滅した食人花、それを成したエルフの少女。みなの期待に見事応えてみせ、()()()()()()()()()()()()()()レフィーヤ。弱者が吠えてみせたのだ、ならば強者である狼人(ウェアウルフ)の青年には手本を見せる義務がある。

 

琥珀色の瞳に力が宿る。レヴィスの怪力に押し切られかけていた左脚に、砕けた脚に入らない筈の力を注ぎ込み、吠える。

 

「おらァァァァァァッッ!!!」

 

強者(ベート)の脚が、紅い大剣を弾き返す。

 

「なにっ!?」

 

全身全霊の一撃を犠牲にしたベートによって、レヴィスの体勢が大きく崩される。両者ともに後方に吹き飛ぶ中、赤髪の女の元へ、金の影が疾走する。火の粉を振り払い、取り戻した剣を提げたアイズが迷わず突き進む。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 

体に風を乗せ、更に加速する。ベートが作った隙を無駄にはしないと、《デスぺレート》を大きく振りかぶり、風の一閃を見舞う。

 

「ぐっ!?」

 

咄嗟に構えた大剣を切断し、そのまま手首を返し、斬り上げる。

 

「っ!?」

 

魔石が埋め込まれた心臓部分に迫る斬撃を何とかずらし、左肩辺りを大きく斬り裂かれるレヴィス。

 

「はあぁぁッ!!」

 

渾身の袈裟斬り。宙を舞い、両手で剣を握り締め、彼女の意思に応え猛る風を全て剣身に纏わせ、赤髪の女に、全力で叩きつける。

 

「っっ!!!」

 

レヴィスは両腕を盾にして剣を受け止めた。凄まじい衝撃波が発生し、次の瞬間。彼女は彗星の如き勢いで吹き飛ばされた。両足を地面に叩きつけ二本の線を描きながら、それでも勢いは止まらず、大主柱に背中から叩きつけられた。

 

「はぁっ、はぁ.....」

 

息を切らしながらも剣を構え、アイズはレヴィスの元へと歩み寄る。片膝をついていたレヴィスは、ゆっくりと立ち上がり、『魔石』の恩恵から今も傷の修復が進む中。彼女は静かに口を開いた。

 

「今のお前には勝てないようだな.....」

 

淡々と、アイズに感情を読ませずに告げる。同胞(オリヴァス)を喰らってもなおアイズには届かない。モンスターも、同胞も、全ての味方を失ったのにも関わらず、冷静さを保ち続ける彼女に、アイズは怪訝な表情を浮かべる。

 

食料庫(パントリー)の核である、これ(大柱)が壊れるとどうなるか、わかるか?」

「っ!?」

 

柱の表面を撫でるレヴィスを止めようとしたが、遅かった。素早くも強烈な拳打が大主柱に叩き込まれる。大量の亀裂が入った柱は、先程モンスターを生み出し続けたことで機能を失いかけていたこともあり、すぐさま崩れ、倒壊してしまった。

 

「!」

「お前の仲間も、お前も、逃げなければ埋まるぞ?」

 

彼女の言葉に連動するかのように食料庫(パントリー)の天井が崩れ始めた。満身創痍のアスフィ達、精神力(マインド)の酷使で倒れ付すレフィーヤ、足の砕けたベート、その他怪我を負った冒険者達に降り注ぐ岩盤。

 

「怪我人を優先的に逃がして!荷物はいい、ここから脱出することだけを考えてください!!」

 

痛む体に鞭を打ちながらも指示を飛ばすミナト。アスフィを始めとした【ヘルメス・ファミリア】は即座に動き出す。その後アスフィに指揮を託したミナトは、片足を粉砕されたベートに肩を貸した。

 

「引っ付くんじゃねえ!助けなんざいるか!」

「今くらいは大人しくしてくれないかな!?」

 

ギャーギャーと言い争いながら出口に向かう2人は、こんな状況下においても、意外と余裕なのかもしれない。彼等のすぐ後ろでは、同じようにフィルヴィスとレフィーヤが支え合いながら着いてきている。

 

「.....っ!」

 

撤退を進める冒険者達の姿に、アイズも出口へと向かおうとしたその時。背後で赤髪の女が口を開いた。

 

「『アリア』、『人柱力』とともに59階層へ行け」

 

聞きなれない『人柱力』という言葉と、『(アリア)』の名を口にするレヴィスに、アイズは視線を向ける。

 

「どういう、意味ですか」

「お前の知りたいものがそこに(59階層)あるぞ」

「.....」

「お前の中に流れる血が、他ならないお前が行けば、手間も省ける」

 

彼女はこちらを見つめ、目を細めながら告げた。

 

「つくづく()()()は酔狂なモノに魅入られるな」

 

独り言のように残し、レヴィスはその場にたたずむだけであった。

 

「アイズ!」

「急げ!!」

 

ミナトとベートに呼びかけられ、赤髪の女から意識を彼等に向けつつ、まだ塞がれていない出口へと走っていった。

 

やがて、怪我人に手を貸しながら崩れ落ちる大空洞から退避を完了させることに成功する。そして、この日。24階層の食料庫(パントリー)は崩落したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『アリア』、『人柱力』.....」

 

あの事件から2日。ホームへと帰還し、体力を全快させたレフィーヤは、24階層での事件について考察をしている最中であった。あの場でアイズとミナトはオリヴァスにそう名指しされていた。『リヴィラの街』でも同様に赤髪の女はアイズを『アリア』と読んでいた。尊敬する先輩達と敵である彼等との接点が気になってしまったレフィーヤは、思い切って2人に尋ねてみたところ。ごめんね、と2人揃って柔らかに断られてしまった。

 

「詮索はダメだけど.....う〜ん」

 

自室のベットに転がりながら、気になっちゃうなぁ、とレフィーヤは天井を見上げながら呟いた。

 

「レフィーヤ、大丈夫ー?」

「ティオナさん?」

 

ドアの奥からかけられた声に、レフィーヤはベットから起き上がって声の方へと歩いた。扉を開ければ予想通りティオナが、そのすぐ隣にはティオネもいた。

 

「もう動いて平気なのー!?」

「は、はい、もう体の方は.....」

 

ずいずいっと迫ってくるティオナに後退するレフィーヤ。見かねたティオネが妹の襟元を掴んで後ろに引っ張った。

 

「うげーっ!?何すんのさ!!」

「レフィーヤが困ってるでしよ、馬鹿ティオナ」

「い、いえ.....」

 

それから3人はここ最近の出来事についての情報を交換し合うことになった。ティオナ達は地下水路に足を運んだところ、食人花のモンスターを見つけたが、特に収穫は無かったと言う。そんな彼女達に、おもむろにレフィーヤは気になっていたことを尋ねた。

 

「あの....お二人共、『アリア』と『人柱力』って知ってますか?」

「『アリア』、『人柱力』?私は知らないわね.....」

「『アリア』だったら、あたし知ってるよー」

 

心当たりが無いと首を傾げるティオネに対して、ティオナはあっさりと答えた。驚くレフィーヤの手を引き、何故かそこから移動するように駆け出した。

 

「確かこの辺で見かけた気がするんだけど......あ、あったあった!」

 

書庫に連れてこられたレフィーヤと、彼女達についてきたティオネを他所に、目当ての本を探し当てたティオナは、本棚から一冊の古書を取り出した。

 

「.....精霊、『アリア』」

 

ティオナが手に取ったのは大昔の英雄譚であり、そこの扉絵に記されていた名前こそ『アリア』だった。

 

「昔から好きなんだよね〜」、「そう言えば英雄譚とか好きだったわね」と昔話に花を咲かせる姉妹。そんな中、レフィーヤはじっと本の中の女性を見つめる。

 

「(『精霊』。神に愛された、神の分身.....)」

 

エルフと同じように魔法を行使し、エルフ以上の威力を誇る『奇跡』の使い手。

 

「(アイズさんの、風?)」

 

精霊とアイズの関係を無理やり結びつけてみたが、まさか、と一笑した。神の分身である精霊が子を成せないことは常識であり、その目で見れば神のように人間との違いに何となくだか気づくこともできる。勘違いと結論づけ、『迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)』とタイトルが付けられた本を、レフィーヤはそっと閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌夜。団員達が賑やかに夕食を取る大食堂の一角では、ずーん、と思い切り肩を落とすエルフの少女の姿があった。

 

「ね、ねえ。レフィーヤどうしちゃったの.....?」

「知らないわよ.....」

 

レフィーヤと同じ机を囲むアマゾネス姉妹がひそひそと言葉を交わすその隣。アイズも感情の乏しい表情をとハッキリとうろたえさせていた。更に、アイズの右隣に座るミナトも、惨たらしく項垂れる後輩の様子に、何て言葉をかけてあげたら良いのかわからないでいた。

 

「.....レフィーヤ、どうしたの?」

 

恐る恐るアイズが尋ねると、光を失った瞳でレフィーヤは真っ直ぐ彼女を見つめる。思わずビクッ、と肩を震えさせてアイズにレフィーヤは、これから罪を暴く探偵のように、質問という名の尋問を始めた。

 

曰く。今朝方、アイズがどこの誰とも知らぬ白髪の少年と密会していた。

 

曰く。仲睦まじく身を寄せあっているところを見てしまった。

 

アイズは、昨日できたばかりの秘密を、これ程までに早く見つけられるとは思いもせず、表情を驚愕に染め上げた。先日、24階層より帰還したアイズは、体をゆっくりと休めた後。18階層のボールスに預けていたベルの防具をギルドに届けに行った。何の偶然か、落し物(ベルの籠手)を受付カウンターに持っていく途中、視界に入った面会室で、ハーフエルフの受付嬢と白髪の少年が面会をしていたのだ。その後、ベルに『ミノタウロス』の件についての謝罪を述べ、帰路につきながら彼と話をしていると、ベルのダンジョン攻略の話題になった。そこで彼には戦う(すべ)を教えてくれる師がいないことを聞いたアイズは、自らベルの先生に立候補したのだ。驚異的なスピードで到達階層を更新するベルの秘密に迫りたい、という淡い期待と。純粋に償いがしたかった。これら2つの理由より、次の『遠征』までという短い期間ではあるが、他派閥の冒険者に指導する、アイズ・ヴィレンシュタイン先生が爆誕したのである。

 

が。

 

まさか記念すべき第一回目の際に、可愛い後輩にバレるとは予想外も予想外だった。レフィーヤの手を引っ張って大食堂から空き部屋へと移動したアイズは、彼女とベルの密会を見てしまったと、涙目になりながらこちらを見上げるレフィーヤに、諦めたように白状し始めた。

 

「...........特訓?」

「う、うん.....」

「今朝抱き合っていたのは、怪我をしたあのヒューマンに肩を貸していただけ.....?」

「は、はい.....」

 

確かめるように繰り返すレフィーヤに恐れをなしたのか、何故か最後は敬語になってしまったアイズ。ややあって、少年との特訓をフィン達に秘密にする代わりとして、レフィーヤの特訓にも付き合う約束を交わした。一変して機嫌を良くするレフィーヤと、困った顔を浮かべるアイズは、食堂に戻ってきた彼女達を見た他の団員からは、さぞ不思議に思える光景だったとか何とか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達、身だしなみくらいはどうにかしろ」

 

恐らく実戦と変わらない激しい組手を行ってたのだろう。砂埃だらけのアマゾネスの姉妹を見かねたのか、リヴェリアがため息をつく。

 

「少し休んだらまたやり合うし、このままでいーよ」

「面倒だし、このままでいいわ」

 

女戦士(アマゾネス)らしい大胆さを見せる彼女達に、王族(ハイエルフ)の魔導士は再びため息をついた。立ち上がった彼女は長椅子にティオネを強引に座らせる。

 

「リヴェリア?」

「フィンの前でこのような姿を見せるのか?髪くらいはなんとかしろ」

 

ティオネの背後に移動したリヴェリアは、慣れた手つきで彼女の黒髪を()き始めた。彼女の意外な一面に驚くティオネに、昔アイズの世話でな、と簡潔に答えるリヴェリア。自分にもやってほしいと駄々をこねるティオナに、リヴェリアは眉を下げて微笑みをこぼす。

 

「ねえ、リヴェリア。『アリア』って知ってる?」

 

不意に、ティオナが尋ねた。

 

「その名をどこで聞いた?」

「18階層とか、24階層とかでアイズが呼ばれてたって、レフィーヤが言ってた」

「あと、ミナトが『人柱力』.....だったかしら?」

「.....そうか」

 

危険な連中から狙われるアイズの身を案じたのか、ティオナは正直に聞いたことを話し、ティオネもミナトの謎に迫るよう、姉妹揃ってリヴェリアの翡翠色の瞳を真っ直ぐに見つめる。

 

「リヴェリア、何か知っているの?」

 

ティオネの問いに、リヴェリアは顔の向きだけ変え、口を開く。

 

「59階層、そこで何かわかる筈だ」

 

彼女の綺麗な声音が、静かに3人を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミナトの予想が当たっとったな〜」

 

抜けるような青空から日差しが照りつける大通りに、だらしない声が響く。多くの人達が周囲で行き交う中、金髪の青年、ミナトは隣にいるロキの顔を見つめた。

 

「予想って、何のこと?」

 

ミナトとロキ、更に小人族(パルゥム)のフィンの3人はメインストリートを進みながら、会話を繰り広げていた。

 

「ガレス達と会議をしたあの時のことじゃないかな」

 

2人を見上げる形でフィンが、先日、彼の自室において、首脳陣4名とロキが話し合った時のことだと補足する。

 

「ポロッと言いかけておったけど、赤髪の女が、人ならざるモノ、そう言いたかったんやろ?」

「あの時はまだ予想の範疇だったからね。無闇な混乱は避けるべきと思ったんだ」

「結果的に当たってたわけだ、流石だね、ミナト」

「フィンさんも気づいていたと思いますが?」

 

まあね、と返すフィンにロキは笑みを見せ、彼等の会話に割って入る。

 

「一体59階層に何があると思う?」

「さあ、僕程度じゃあ想像もつかない」

「俺も同じ、かな」

 

自分の考えを口に出そうとしないフィンは、ペロリと右手の親指を舐めた。

 

「でも、ようやく敵の輪郭が浮かび上がってきた」

 

複数の思惑が何重にも重なり合って、絡み合っているような、きな臭い感じがすると彼は続けた。

 

「不謹慎やけど、予想外だらけのことばかりで面白くなってきたなぁ〜」

「ロキ.....」

 

呆れるようなフィン視線に、すまんすまん、とケラケラ笑いながら瞳を細める彼女は、下界の『未知』にその身を震わせる。退屈しのぎのため下界に降り立った神々達は常に娯楽を求めており、その最たるものが自分達()ですら知らない『未知』。あらゆる可能性を秘めた『未知』こそが、彼女等の心を満たすものであった。

 

「まったく.....まあ、『未知』に挑む感覚を楽しみにしている僕も、人のことは言えないかな」

 

己の顔を肩越しに見上げながら口元を吊り上げるフィンに、ロキも間を空けて、くしゃっと破顔した。2人の様子を見守っていたミナトも笑みをこぼす。

 

長年の付き合いを感じさせながら3人は歩みを再開させる。ロキから振られるくだらない会話を交わす内に辿り着いたのは、とある大きな工房であった。

 

「来たわね」

 

あまり清掃の行き届いていない工房の前には、鮮やかな紅い女神が立っていた。

 

「ヘファイストス様、おはようございます」

 

ミナトが恭しく礼をする隣で、おっす〜、と軽く手をあげるロキ。彼等と相対するのは『鍛治』を司る女神、ヘファイストス。オラリオに限らず、世界で最も高名な鍛治派閥【ヘファイストス・ファミリア】の主神兼現役鍛冶師である。ちなみに、昔一度だけロキも加えた食事会で、何故か気に入られたミナトの専属鍛冶師でもある。彼の所持する特殊なクナイは全て、ヘファイストスの手によって打たれた第1等級武装で。普通は何億ヴァリスと破格の値段が付けられる代物なのだが、専属鍛冶師として自ら進んでミナトの武具を造る彼女は、「お金なんて要らないわ」と、大胆不敵に彼に告げた。流石に申し訳ないと思ったミナトは、定期的に『遠征』で入手したモンスターの素材などを彼女に無償で譲り渡している。

 

「丁度良かった。貴方のクナイも整備が終わったところだったのよ」

 

そう言って彼女は、腰に巻き付けていた革袋から三本のクナイを取り出し、ミナトに手渡した。

 

「相変わらず仕事がお早いですね」

「あら、褒めたって何も出ないわよ?」

「素直な意見を述べただけですよ」

 

楽しげに話す2人を見かねたのか、ゴホンっ、とロキがわざとらしく咳をした。彼女の向ける呆れた視線に、ヘファイストスも小さく咳をして、我に返る。

 

「ごめんなさい。それで.....ロキ、悪いわね、わざわざ足を運んでもらって」

「気にしないでええで、ファイたん。『魔剣』やら団員を貸してくれやら、こっちが無茶振りしとるんやし」

 

次の『遠征』において、【ロキ・ファミリア】は【ヘファイストス・ファミリア】に鍛冶師の同行を申請し、『深層』でのドロップアイテムを讓渡するという条件で合意することができた。

 

「こちらの申し出を受け入れて頂き、感謝する。神ヘファイストス」

「いいのよ。こっちも貰えるもの(ドロップアイテム)貰うんだし、お互い様ね」

 

それからヘファイストスに案内され、中から金属の打撃音が鳴り響く建物へと入った。

 

「打ち合わせがあるから顔を出しなさい、って言ったんだけど、今いいところみたいでね.....」

「子は親に似るって感じやな〜」

「彼女も相変わらずみたいだね」

「そうですね、俺も久しぶりです」

 

ため息をつくヘファイストスに、ロキがけらけらと笑い、フィンとミナトも唇を曲げる。扉を開けた先は、一つの鍛冶場。視線の先で結わえている黒髪を揺らす彼女は、ロキ達にも気付かずただ一心に鎚を振り下ろす。もう少し待っててあげて、と鍛冶神(ヘファイストス)の要望に一同は頷き、真摯に鉄と向き合う彼女を見つけ続ける。

 

やがて一振りの剣が完成する。片手に持つそれをまじまじと眺めていた彼女は、ようやくそこで息を着いた。

 

「椿」

「おお、主神様ではないか!どうだ、此度の『魔剣』は中々ではないか?」

 

成人している歳の彼女は、屈託のない子供のような笑みを浮かべ、声をかけてきた自分の主神に、自慢げにできあがった『魔剣』を見せつける。

 

「まったく.....ロキ達と『遠征』の話し合いをするって言ったでしょう?」

「おお、そうだった!」

 

主神の呆れ声に合点がいったのか、ポンッと手のひらを打つ椿。

 

「久しぶりだね、椿」

「フィンか!相変わらず小さい体しおって!ところで、今人肌が恋しいのだ、抱きしめさせてくれ!」

 

両手を大きく広げながら近づいてくる彼女に「遠慮させてもらうよ。バレたらティオネに殺される....」とフィンは苦笑を返し、椿は声を上げて笑った。

 

「ではミナト、お主が手前の相手をしろ〜!」

「ちょ、ちょっと!?」

 

ミナトの幼少期を知る彼女は、当時から彼をマスコットのように扱う節がある。まだ10歳にも満たない時から徹底的に叩き込まれた姉根性に、ミナトは全く頭が上がらない。言葉では拒否しているが、大人しくされるがままに抱きつかれている様子から、内心は既に諦めているのだろう。

 

「はぁ.....その辺にしておきなさい、椿」

「なんだ主神様よ。つれないことを言うでない」

「くぅ〜、ミナトの奴あんな羨ましい思いしおって〜」

 

椿のさらしに巻かれた豊満な胸に顔を埋めている、いや。無理やり埋め込まれている金髪の青年に、親父魂全開のロキが歯を食いしばりながら呻く。それでも鼻の下を伸ばしながら椿の胸元を見ている彼女は、やはり救えない駄女神。

 

「相変わらずイイおっぱいしとるなー。ぐふふふ.....」

「欲しければくれてやるぞ?鍛治の時には邪魔にしかならん」

「グッハァァっ!?」

 

セクハラ発言をした馬鹿(ロキ)に痛烈なカウンターを見舞う椿。図らずもコンプレックスを指摘されたアホ女神は吐血した。

 

「つ、椿さん.....そろそろ、息が...離し、て.....」

「何だ?これしきで根を上げるなー、だらしない」

 

倒れ伏したロキを無視して、豊かな双丘によって窒息しかけているミナトが、彼女の腕をタップしながらギブアップを宣言する。椿はブーブー言いながらも渋々ミナトを解放した。

 

「まったく.....」

「やれやれ.....」

 

血を吐き倒れ伏すロキ。呼吸を止められ脳に酸素が行き渡らず仰向けに寝転がるミナト。そして親子揃って(神と眷族)同じ格好で床にダウンする2人を見て、大爆笑している椿。中々に混沌(カオス)な状況に、両派閥の主神と首領は深くため息をつくのであった。

 




運転疲れた〜
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