よろよろと復活したロキとミナト、椿、ヘファイストス、フィン。両派閥の主神と団長同士、薄暗い工房の中で『遠征』について会議を始めていた。
「結局、ファイたんの子は何人貸してもらえるん?」
「そうね。戦える子を選ぶわけだし.....椿は勿論だとして、ざっと20人くらいかしら」
いつ何が起こるか予想できないダンジョンを攻略するのだ。武具の整備が主な依頼だとしても、『深層』のモンスター達から最低限身を守れる実力があることが望ましい。
「それを聞けて安心したけど、椿、君も来てくれるのかい?」
「ああ。手前も『深層』の素材が欲しいのだ。できることなら自分の手で調達したい」
【ヘファイストス・ファミリア】はあくまで鍛治派閥であり、冒険者業を生業としている派閥ではない。いくら椿が実力者だとしても、モンスターの質と量が跳ね上がる『深層』に自派閥だけで挑むのは、あまりに危険過ぎる賭けと言える。【ロキ・ファミリア】の『遠征』に自ら同行を名乗り出たのも、まだ見ぬ『未知』への探究心からだった。ダンジョン『深層』に興味津々の椿は、屈託の無い笑みを浮かべながら告げてくる。
「『
「抜かりない。注文通り、
「そりゃ心強い。サンキューな、椿」
「ミナトのは私が用意したわ。椿にばかり任せては専属鍛冶師の名が泣くもの」
「わざわざすみません」
「ひゅー。
ダンジョン50階層より下層で遭遇した芋虫型の新種。全てを問答無用で溶かし尽くす腐食液を撒き散らす厄介な敵に対応するため、フィン達は
「それよりもロキ」
「なんや?」
おもむろに椿がうんざりした顔で切り出す。
「
数振りの
その後は、『遠征』当日の大まかな予定、集合場所と時間、その他必要事項を確認し、その場は解散となった。
期日は3日後。【ロキ・ファミリア】と【ヘファイストス・ファミリア】は着々と準備を進め始めていた。
「【猛者】が中層に、っすか?」
「ええ。さっき冒険者達が話しているのを聞いただけだから、嘘かもしれないけど.....」
『遠征』二日前、その夕方。ギルド本部において、2人の冒険者が『遠征』の手続きをしながら言葉を交わしていた。
【ロキ・ファミリア】男性構成員、ラウル・ノールド。アナキティ・オータム、同僚達には『アキ』の愛称で親しまれる
「一体、何してるんすか.....」
「今更【猛者】が中層で探索なんてしないだろうし.....」
「どうかした?」
「あ、ミナトさん」
2人が頭を悩ませていると、派閥首脳陣の一人であるミナトがやって来た。若くして大幹部に抜擢された彼に、ラウルとアキの周囲にいた冒険者達から尊敬の視線が集まる。
「実は、」
アキはミナトに簡潔に話した。
「オッタルが『中層』に、ね」
「『遠征』もあるし、どうする?」
このまま無視しても、二日後に予定されている『遠征』に支障がでるんじゃない?と彼女は続ける。少し考える素振りを見せたミナトは。【ロキ・ファミリア】の大一番のため真剣に考える2人に向けて、柔らかい笑みを浮かべて答えた。
「うん、気にしなくていいと思うよ」
「いいんすか?」
「彼が単身で俺達に仕掛けてくるとは思わないし。何より彼自身、争いごとはあまり好まないしね」
それにギルドも支持する未開拓領域への進出を拒めば、それ相応のリスクも生じてくる。と、片目を瞑り、ウインクをしながら補足するミナト。周囲から嬌声が上がる中、天然女殺しに呆れる表情を浮かべたアキは、目を細くしながら彼をじっ、と見つめた。隣では一人ミナトの説明に納得しているラウル。今、オッタルにかまけてる暇はない。そう結論付けた3人は、『遠征』についての内容へと話を変える。
「ミナトさん、そっちの方は.....」
「ああ。後はギルド本部に申請をするだけ。予定通り『遠征』は二日後に決行だよ」
『
「ラウル達のコンディションはどうなんだい?」
「え、えっと....はははっ」
「ぼちぼち、かなぁ......?」
隣を歩くラウル、アキにミナトは問いかける。アイズのランクアップに触発された団員達は。近頃、『遠征』前にも関わらず鍛錬に励んでいるのだ。苦笑いをするラウルに、明後日の方向を向きながら口笛を吹くアキ。そんな2人の様子を見てミナトも苦笑を浮かべる。
「みんな、頑張ってるんだね.....」
昨夜、ガレスに付き合わされて彼の愚痴を聞かさせる羽目になったことを思い出す。聞けばベートに夜な夜な毎晩、人目のつかない場所で訓練の相手をさせられているらしく、他の団員達の前では鍛錬をしている素振りを見せないベートにうんざりしているらしい。一度承諾してしまった以上、断ることもできず、結果的にファミリアのためになる、とガレスは自分に言い聞かせて彼に付き合っていると言っていた。
「?」
ラウルに不思議そうに見られながら、昨日のことを思い出し空を仰ぐミナトは、どこか儚い雰囲気を醸し出していた。そうこうしている内に受付嬢の待つ窓口に辿り着く一行。
「【ロキ・ファミリア】です。先の仮報告通り、『遠征』決行は二日後の旨を申請しに来ました」
「はい、かしこましました」
ミナトが提出する羊皮紙を、彼の担当であるエイナが受け取る。職務上かつ公的な場であるため、やや固い口調になる両者。椅子から立ち上がった彼女は姿勢を正し、組んだ両手を腹部に当て、深々と一礼する。
「帰還をお待ちしております。どうかお気を付けて」
「はい。ありがとうございます」
「.....頑張ってね、ミナト君」
「ああ、行ってくるよ」
最後はギルド職員としてでは無く、彼の友人として、一人の女性として、エイナは想い人の背中を見送った。
「なーにが『行ってくるよ』、だ。カッコつけちゃって〜」
「.....」
「ほれほれ〜」
うりうり、と肩をつついてくるアキが絶妙にうざい。ラウルはともかく、ほぼ同期の仲間でも今みたいにミナトをからかってくるのはアキくらいかもしれない。
「ちょ、ちょっと.....アキっ」
一つしか年は変わらないが、冒険者としても、一人の男としてもミナトを尊敬しているラウルは、
「はぁ.....」
たとえ【ロキ・ファミリア】内では二軍だとしても、
勝負の日がやって来る。
『遠征』当日。昨晩までに【ステイタス】更新や装備の調整など、各々がやれることを全てやり尽くした【ロキ・ファミリア】の団員達はたくましい顔つきをしている。アマゾネスの姉妹は自身の得物の感覚を確め、山吹色の少女は
そして。
金髪の青年もまた、自室で瞑想をしながら意識を深めているところであった。
「59階層、そこに行けば何かが必ず掴める筈.....」
赤髪の
「風向きが間違いなく変わっている」
目を閉じ、静かに呟く。
「
閉じていた瞳がゆっくりと開かれる。
「
『火の意志を継ぐ者』として、【ロキ・ファミリア】を守る。同行する【ヘファイストス・ファミリア】の団員達も必ずこの手で守ってみせる。『火の意志』とは何か、『忍』とはどのように在る者を指すのか。
「俺が守るんだ.....」
かつて立てた誓い。誇り高き『正義』を掲げていた者達に誓った願い。今は亡き、偉大なる先人達に託された想い。
「『
部屋に備え付けられている窓から
澄んだ青空から陽光が冒険者達を照りつける。フィンの指示のもと、
「久しいな、【剣姫】!」
「.....椿さん」
壮健であったか?と尋ねてくる
「いたなベート・ローガ。今回は
「たりめぇだ。そんなほいほい壊すかよ、って、おい、こっちに来るんじゃねぇ!?」
ベートの足元に目を向けながら告げる椿。ニヤニヤと笑いながら間合いをどんどん詰めてくる彼女に、
一方アイズは、見送りに来た【ヘルメス・ファミリア】のルルネから、餞別代わりの携帯食と、かつて彼女に依頼を持ちかけてきた
「準備は万端かい、アイズ?」
「.....うん」
「頼りにしているよ」
「!」
「俺と同じLv.6になったんだ。不思議じゃないだろ?」
「うん、任せて.....!」
「ミナトさん、アイズさん」
声をかけられ2人が振り向くと、立っていたのは人形のように整った顔立ちの美しい少女だった。北西のメインストリートからやって来た彼女、アミッドは手にポーチを持ちながら頭を下げる。
「少しバタついていたのですが、何とか間に合いました。どうぞこれを」
「これは?」
「我々の
手渡されたのポーチに入っていたのは、透明な試験管の詰め合わせだった。アミッドが「『遠征』への餞別です」と口にすると、3人のやり取りに気づいたティオナがやって来た。
「アミッド、見送りに来てくれたんだ!でも、あたし達にはないのー?」
「勿論。用意してありますよ」
そう言って彼女はミナトのものより大きめなポーチを、ティオナに差し出す。受け取った彼女が中を見てみれば、
「ありがとう、アミッド!すっごい助かるよ!」
心優しい
「どうか、お気を付けて」
とだけ告げ、ティオナ達に会釈をして彼女達から離れ始めた。アミッドに貰ったアイテムに視線を落とし、ティオナ達は一斉に感謝の意を伝えた。周囲でも【ロキ・ファミリア】の面々と交流がある冒険者達が声をかけているようだ。誰もが『未開拓領域』への進出を願っているのだろう。行き交う人がみな彼等を応援していた。
「総員、これより『遠征』を開始する!!」
間もなく、首領のフィンが良く響き渡る声音を出した。
「これから僕達はまだ見ぬ『未知』へと挑戦する!」
団長からの
「君達は誰もが勇敢な戦士であり、冒険者だ!!犠牲などいらない、必ず全員で生きて帰る!みなそれを心に強く刻み込んで欲しい!!」
団員達がぐっ、と拳を作る中、フィンは息を吸い込み、始まりの合図を告げた。
「遠征隊、出発だ!」
瞬間、団員達から雄叫びが上がった。澄み切ったオラリオの空に轟き渡る冒険者達の咆哮とともに、先行部隊がバベルの入口へと足を踏み入れた。
先行する第一部隊とは、言わば先鋒である。その先鋒部隊には主戦力を注ぎ込むことが多い。予測不可能なダンジョンにおいて、進路先で発生する
「ねぇ、何か慌ててない?」
「ほっときなさい」
「どうしたのー!?」
「はぁ.....」
視界に取り乱した様子の冒険者を捉えたティオナが、姉の制止を聞かないで、事情を聞くために彼等の元へと駆け寄った。
「な、なんだよ、って.....ア、【
「ティオナ・ヒュリテだぁ!?」
「てか、【ロキ・ファミリア】!?え、遠征かっ!?」
フィン達の素性を察した冒険者たちは近付いてきたティオナに脅えた顔を浮かべた。「何であたしばっか .....」と名で恐怖されるティオナがぶつくさ呟く中、フィンが彼等に事情を尋ねた。
「さっきまでいつも通り探索してたらよ、『ミノタウロス』がこの上層にいやがったんだ!」
『中層』に出現するモンスターが、『上層』にいたと述べる男性冒険者。
「さっきも白髪のガキが襲われてたんだけどよ、俺達あの化け物にビビっちまって......」
瞬間、アイズが鬼気迫る表情で詰め寄った。
少年が、ベル・クラネルが襲われている。
「その冒険者がおそわれていたのは、何階層ですか?」
「9階層だ、移動してなければだがな.....」
それだけ聞き出すと、アイズは即座に駆け出す。
「アイズ!?」
「何やってんだお前!!」
彼女の遥か後方より響くティオナとベートの声を置き去りにし、尚も加速した。途中で
「止まれ」
なんてことの無い一声が、アイズの足を無理やり止める。モンスターも他の冒険者もいない場所で、彼は圧倒的な存在感を放っていた。2メートルを超す巨躯からアイズを、錆色の瞳で真っ直ぐ見据えている。
「.....【猛者】」
「【剣姫】、手合わせ願おう」
「!?」
その一声に今度こそ驚愕をあらわにするアイズ。対してオッタルは地面に突き刺さっていた大剣を掴み、静かに持ち上げる。
「どうしてっ!?」
「敵を討つことに、時と場所は関係あるまい」
一切の揺らぎを見せないオッタル。そして、動揺する彼女に静かに告げる。
「娘を置け。巻き込みたくはないだろう」
死ぬぞ、と傷ついた少女を射抜く強者の瞳。それと同時に手に持った大剣を構え、臨戦態勢へと移行したオッタル。アイズの前に立ちはだかる『頂点』。フィン達すらも超える
「来い」
「そこをどいて!?」
『技』が、『駆け引き』が、『
「どいてっ!?」
「.....」
ベルの身を案じて焦るアイズと胸の奥底を覗かせないオッタルが激しい剣劇を繰り広げる中、不意に。
「オッタル」
「!」
2人の背後からかけられた声に、今まで感情を見せなかったオッタルが、僅かばかり目を見開く。大薙ぎでアイズを声主の方へと吹き飛ばし、錆色の瞳をそちらに向ける。やがて、2人の元へ声を飛ばした人物の名を、オッタルは静かに口にした。
「ミナト.....」
【猛者】の視線の先、三枚刀のクナイを右手に提げた【黄色い閃光】が、静謐さを纏い大広間へと足を踏み入れた。
アンケートのご協力ありがとうございました!
今後も今と同じくらいの分量でいこうと思います。度々増えるかもしれないけど、そこは許してくださいぃ