黄色い閃光inダンジョン   作:いちごぎゅーにゃー

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まさか日間ランキングに入るとは思ってなかったってばよ....

評価して下さった方々、本当にありがとうございます

つづく.....?


他人勝つことなんてさほど難しくはない、自分に勝ち続けることを思えば

金色の髪をなびかせながら向かう目的地は、少女(アイズ)の視線の奥にある一際大きい幕屋だ。大きく幕を張り巡らせた小屋の側には、ロキ・ファミリアのエンブレムが刻まれた旗が立てられている。

 

 

 

「フィン」

「ああ、待ってたよ、アイズ」

「ちょうどお主の話をしていたところじゃぞ、アイズ」

「ガレス、今は少し気を引き締めてくれ....」

 

幕屋の入口をくぐった先には、小さな机を囲んでいる3人の最高幹部がいた。

レフィーヤと同じエルフ、正確にはエルフの王族であるハイエルフの女性、リヴェリア・リヨス・アールヴ。

数多の傷跡が渋く光る百戦錬磨のドワーフの戦士、ガレス・ランドロック。

そして机の奥で椅子に腰掛けている派閥の団長である小人族(パルゥム)、フィン・ディムナ。

この3人こそ都市最大派閥であるロキ・ファミリアの中核を担う首脳陣である。

 

「さて、前置きはいらないだろう。どうしてここに呼び出されたかわかるかい?」

「.....うん」

「そうか。ならどうして前線維持の命令に背いたんだい?」

 

アイズの半分程しか身の丈がないフィンが、少し冷たい口調で問いただす。

 

「アイズ、君は強い。だからこそ派閥の幹部でもある。そして君の行動は君の後輩や、他の仲間達に影響を与えるんだ。それを自覚してくれないと困る。」

「.....ごめんなさい」

「なんて、お説教はこれくらいにしておこうか。その様子じゃミナトに絞られたんだろう?」

 

一瞬で心を見抜かれる。フィンの強みはレベル6のステイタスを活かした戦闘能力ではなく、その頭脳にこそある。その頭脳を活かした戦場においての状況判断や、味方への指示は何度もファミリアを危機から救ってきた。目の前の小人族(パルゥム)からすればアイズの心を読むことは容易な事だ。

 

「....ミナトに、もっと周りを頼れって言われた....」

「がははッ、さすがにあやつはよく見とるわい!」

「笑い事ではなかろう...」

「窮屈かい?今の立場は」

「....ううん」

 

透明な瞳で優しく笑いかけてくるフィンに、アイズは素直に答える。

 

「まあ、そう言ってやるなフィン。アイズも前衛のワシらの負担を軽くしようとしたのだろう。一見無謀な行動だったが、そのおかげで危うく崩れかけてたところが持ち直した」

「それを言うなら、詠唱を長引かせた私の落ち度もある」

 

ガレスが、リヴェリアがそれぞれ助け舟を出す。ミナトとフィンの2人から()()()()()()()()を貰ったアイズは、申し訳なさそうに眉を下げる。

 

「それでも、アイズ、ここはダンジョンだ。何が起こるか分からない以上慎重になる必要がある。それだけは心に留めといてくれ」

「....わかりました」

「ミナトも言ったように、君には仲間がいる。何でも1人で背負い込む必要はないんだよ」

 

もうこれ以上は言うことはない、そう告げたフィンにアイズは反省の意を込めぺこりと頭を下げた。

 

幕屋を出てフィンとミナトの言葉を、心の中で反芻(はんすう)しながら歩いていると、ギャーギャーと賑やかな声が聞こえてきた。

 

「おいっ、下手くそが!!何でてめぇはテントの1つも張れねぇんだ、この馬鹿ゾネス!」

「う、うるさい!!ベートの教え方が悪いんじゃん?!」

「レフィーヤ、あのバカ2人はいいから、炊事の方をお願いね」

「は、はいっ、ティオネさんっ」

 

ここはダンジョン50階層。

ロキ・ファミリアは今現在『遠征』の真っ只中。ダンジョンの遥か奥深くまで潜り込み、まだ誰も見た事のない未開拓領域を目指している。今現在はモンスターの現れない安全領域で大掛かりな休息を取ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、とにかくも乾杯しよう。ダンジョンだからお酒は無いけどね。それじゃあ」

『乾杯!!!!』

 

キャンプ用のテントが一通り張り終わって一段落着いたため、ひとまずここまでの『遠征』を労う食事会が開かれていた。

 

「あの、アイズさん、本当に食べなくて良いんですか?」

「うん、大丈夫だよ....」

「なーんて、ホントは食べたかったんじゃないのー?」

「.....」

 

携帯食を少しづつ口に含んでいるアイズにレフィーヤが尋ねる中、ティオナがスープしか残っていない容器を近づけてくる。その芳醇な香りに思わず負けそうになるが、アイズの心の中にいるミニアイズが必死に抵抗している。結局、ぷいっと顔を背け誘惑に勝つことが出来た。イタズラ女神(ロキ)に「ダンジョンでご飯食べ過ぎると戦闘状態(コンディション)に影響がでるでー!」と、かつて(そそのか)されたアイズはそれを信じて疑わない。

 

「(レフィーヤに先程までのような硬さは無い。流石はティオナ達ってところかな)」

 

少女達が見せる微笑ましい光景を目にし、ミナトは頬を緩めた。

 

「それじゃあ、今後の事について確認しようか」

 

食事の後始末が完了し、落ち着いた場でフィンが口を開く。夜間の見張り役以外の者達が小さな輪を作り、視線を彼へと向けた。

 

「今回の『遠征』の目的は未開拓領域の開拓、これは以前変わらない。けど今回は59階層を目指す前に冒険者依頼(クエスト)をこなしておく」

「確か、【ディアンケヒト・ファミリア】からのものでしたっけ?」

「ああ。今回は『カドモスの泉』から要求量の泉水を確保する」

 

ティオネが依頼内容を確認し、それを肯定するように頷くフィン。

 

「『カドモス』かぁー、めんどくさー。なんで引き受けちゃったの?」

 

姉の隣でティオナがげんなりとした声を出す。

 

「いつも懇意にしてもらってるし、報酬も豪華だったからね。ちゃんと依頼内容に見合ったものだったからだよ」

「それに派閥の付き合いもある。無下にはできない」

「ったく、面倒な依頼よこしやがって.....」

 

ティオナの疑問点をミナトが説明し、リヴェリアの返答の後にベートの悪態が続いた。

 

「51階層には少数精鋭のパーティを2組送り込む。物資の消費を避け、速やかに泉水を確保した後、この拠点に帰還。質問はあるかい?」

「はいはーい!何で2つにパーティをわけるの?」

「注文された泉水の量がやっかいでね。ただでさえ回収できる水が限られている『カドモスの泉』だ、要求量を満たすためには最低でも2箇所の泉を回らなくちゃならない」

「それに、食料も含めた物資には限りがあるしね。本来の目的である59階層へ向かうためには時間もかけられない、要は効率よく行こうって話さ」

 

フィンの説明にミナトが補足する。

未開拓領域を含むダンジョンへの『遠征』は多くの時間を必要とする。今現在いる50階層まで辿り着くのにも最低5日はかかる。地上へ帰還する際のことも計算に入れると、物資の消費はできるだけ抑えなくてはならない。

 

「それに『カドモスの泉』がある場所までは、大人数では移動できないからね。戦力の分散は仕方ないとはいえ、小回りは利いた方がいい。.....他に質問がなければ、パーティメンバーを選抜する」

 

フィンの方針に反対の声は上がらず、そのままパーティの編成に移った。

 

「はーい!あたしいくー!アイズも一緒に行こう、ねっ?」

 

ティオナがここでも挙手をする。

 

「うん」

「そもそも私たち第1級(レベル5以上)に行かせないで誰が行くのよ.....少数精鋭なんだから」

「じゃ、ティオネもあたし達と一緒ね!」

「ちょ、私は団長と.....!?」

 

ティオナの一存で早速3人のメンバーが決まる。

 

「リヴェリアとミナトはキャンプに残ってくれ。冒険者依頼(クエスト)の後のためにも、消費した精神力(マインド)を休んで回復しておいてくれ。ミナトには拠点の防衛を頼むよ」

「....止むをえないか」

「わかりました」

 

ファミリア最強の魔導士と最速の冒険者であるリヴェリアとミナトに、フィンは待機を言い渡す。

先の戦闘で『魔法』により消費した精神力(マインド)を回復させる事は、この後に控える未開拓領域へと向かうには必要事項なため、リヴェリアは彼の指示に素直に頷く。また、冒険者依頼(クエスト)達成のため、『カドモスの泉』に向かう戦力が十分であると判断したミナトもフィンに従う。

 

「レフィーヤ。私の代わりにアイズたちのパーティに入れ。」

「は、はいっ......って、え!?」

「問題ないな、フィン?」

「そうだね。いずれリヴェリアの後釜になってもらうんだ、いいだろう」

「わ、私なんかはまだっ.....!?」

「はいっ、レフィーヤも私達と一緒ねー!」

 

そんな!ちょっと待ってください!とティオナに捕まり異議を唱えさせて貰えないレフィーヤ。

 

「これじゃと、もう片方は残りで編成だのう。フィン、ベート、(わし)....後は」

「ラウル、俺の代わりに行ってくれないかな?」

「じ、自分っスか?!」

「他に誰が荷物持つんだよ。お前がサポーターとして入れ」

 

程なくして編成が決まる。アイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤの美少女部隊。フィン、ベート、ガレス、ラウルの美男子(笑)部隊。

 

「.....おい、こいつら(女たち)大丈夫か?」

「んー......」

 

少々編成が不安すぎると危惧し、オブラートに包まず尋ねるベートに、フィンもやや眉間にしわを寄せる。

 

「ティオネ、君だけが頼りだ。僕の信頼を裏切らないでくれよ?」

「お任せくださいッ!団長!!」

 

見た通りフィンにぞっこんなアマゾネスの少女は、想い人からの期待に大歓喜しながら了承する。そんな姉の姿に「ちょろー」と妹が半裸の目で呟いた。

 

結局、そのまま部隊の編成を完了した2組のパーティは、数時間の仮眠を取り、拠点の防衛をリヴェリアとミナトに託し、51階層へと出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃぁーー!」

 

自身の体ほどの大きさと、多大な質量を誇る大双刀(ウルガ)を振り回しながら疾走し、モンスター目掛けて振り抜いた。

 

「5匹目ェェ!」

 

力任せの一撃がモンスターの胴体を叩っ切り、吹き飛ばす。女戦士(アマゾネス)の少女は、あたかもその本能に突き動かされるように次なる獲物へと飛びかかった。

 

「アイズ、バカティオナをフォロー!」

「分かった」

 

ティオナの後に続いた金色の斬撃が、彼女に群がろうとするモンスター達を切り払う。

 

現在位置51階層。

冒険者依頼(クエスト)のために向かったこの階層において、アイズ達のパーティはモンスター達との戦闘に突入していた。目の前に蔓延(はびこ)るのは、ゴツゴツと黒光りした皮膚をもつモンスターの群れ。『ブラックライノス』であった。先の大規模戦闘において対峙した『フォモール』と比べても、遥かに皮膚の硬度が高い。

 

 

が、

 

「おりゃぁぁ!」

 

一刀両断される。

縦横無尽に敵の群れ内で振り回される大刃によって、ブラックライノス達はいとも簡単に引き裂かれていった。

 

大双刃(ウルガ)

 

太い柄に繋げられた2つの巨剣。数ある武器の中でも超大型に分類され、その威力もずば抜けている。ティオナはその細身の体で信じられないほどの怪力を発揮しながら、円を描くように舞いながらモンスターを次々と(ほふ)っていく。

 

「ッ!」

 

天真爛漫かつ大胆に武器を振るうティオナの側で、アイズもまたモンスターに斬撃を見舞う。使用しているのは1本のサーベル。ティオナの持つ大双刃(ウルガ)と比べると随分と見送りする見た目ではあるが、アイズ自身の技量によって、ブラックライノスの硬皮に抵抗を寄せ付けない。彼女の使用するサーベル、《デスペレート》は『不壊属性(デュランダル)』を帯びている。敵を何度切ろうが、いくら鮮血を浴びようが、銀の光沢が曇ることは決して無い。

 

限りなく、1秒でも長く戦い続けるため、アイズが愛剣として選んだ【ゴブニュ・ファミリア】製、第1等級特殊武装(スペリオルズ)である。

 

「アイズ、あたし右いくねー!」

「うん」

 

ティオナとアイズ、2人の第1級冒険者が作り出す剣舞は、モンスター達を全く寄せ付けない。

 

「右側と奥から新手、レフィーヤ、準備が出来次第すぐに合図を出しなさい!」

 

アイズ達の後方、中衛に陣取るティオネが指示を飛ばし、時折投げナイフでサポートをする。未だ途切れないモンスター達に対し、指示を出されたレフィーヤは最後尾の位置で、杖を構え『詠唱』を始めていた。

 

「【略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を(つが)えよ】」

 

深層に生息するモンスター達の威圧感と、何より先輩(アイズ)達の奮闘。圧倒的な光景を前にして、緊張で震えそうな声を制しながら『魔法』に至るための歌を歌い上げる。

 

「ォォォォォォォォ!!!」

「!?」

 

突如、レフィーヤの真横の壁から1匹の巨大クモが現れる。破片を()き散らしながら現れたのは、赤と紫の硬皮を持つ『デフォルミス・スパイダー』。ダンジョンによって()()()()()()モンスターは、壁を突き破ると同時にレフィーヤへと襲いかかる。

 

「ギシャャ!?」

 

だが、

 

「詠唱を続けなさい、レフィーヤ!!」

「は、はいッ?!」

 

ティオネが襲撃(それ)を許さない。

 

黒い髪をなびかせながら、投擲(とうてき)しモンスターの顔面に突き刺さった一刀の湾短刀(ククリナイフ)、それをひねるように振り上げ、瞬く間にデフォルミス・スパイダーを解体した。

 

「あ、え、えっとっ...?!」

 

動揺が収まらないレフィーヤは即座に切り替えることが出来ない。詠唱にもたついている間に、アイズ達がブラックライノスの群れを片付けてしまった。

 

「す、すいません.....私.....」

「いーよ、レフィーヤ。仕方ない、仕方ない」

 

レフィーヤがうなだれて謝罪をし、戻ってきたティオナが慰める。

 

「やっぱり、レベル3の私じゃ、皆さんの足を引っ張って.....」

「落ち着きなさい、レフィーヤ」

 

どんよりと落ち込む後輩の肩に、ティオネが手を置く。ゆっくりと顔を上げる少女に、ティオナと揃って声をかける。

 

「レベルの適性が低くても、あんたの魔法ならこの深層でも通用するわ。リヴェリアとミナトのお墨付きでしょう?自信を持ちなさい」

「そ、それは.....」

 

神から授かる『恩恵』より、下界の眷族(子供)達には『ステイタス』が付与される。その内容には個人差があり、その人の可能性を手に入れるきっかけを与えてくれる。あくまで『ステイタス』を伸ばすのは『恩恵』を授かった者であり、モンスターとの戦闘などを通して【経験値(エクセリア)】を積むことが、『ステイタス』を変化させることに繋がる。

レフィーヤの『ステイタス』はレベル3で、アイズ達(レベル5)と比べ、少々見劣りするが、こと『魔力』に関しては負けていない。つまるところレフィーヤは、『魔力』を特化させた、完璧な後衛魔導士だ。さらに、先程ティオネが言ったように、レフィーヤには『魔法』の威力を高める『スキル』を持っており、火力の面ではこのパーティの中で彼女が最も高い。

 

「で、でも、1人じゃ『詠唱』も満足に出来ないですし、さっきもティオネさんがいなかったら.....」

「.....レフィーヤ達と、私達じゃあ、役割が違うよ」

 

落ち込むレフィーヤを励まそうと、先輩であるアイズが口を開いた。

 

「私もミナトに教わったから。私達はレフィーヤ達を守って、レフィーヤ達は、その.....えと、ん」

 

次第にアイズの口調がたどたどしくなっていく。普段から意志を伝えれてないため、思ったことを口にすることができない。

 

それでも、

 

「....その、私達は()()、『ファミリア』なんだから、助け合おう?」

 

つい数時間前にアイズ自身がミナトに言われたこと。家族を、仲間を頼り、助け合う。その教えを今度は自分がレフィーヤ(後輩)へ繋ぐ。普段からミナトが言っていることを自分の口から、なんとか伝える。

 

「私達は、何度でも守るから、だから.....私達が危なくなったら、レフィーヤが助けて?」

 

自分を真っ直ぐに見つめる金色の瞳と、仲間として信頼を寄せるその言葉に、レフィーヤは言葉を失い、うつむいて、かろうじて頷いた。「ぐすん」と少しばかり聞こえてくる小さな嗚咽(おえつ)。暗い雰囲気が一変し、どこか暖かい空気が出来上がる。この場にミナトがいたら口元を緩めていたに違いない。

 

「それじゃあ、『魔石』を回収するわよ。皆でやった方が早いし」

 

ティオネの言葉を合図に、ティオナ達は二手に別れて作業を始めた。

 

「レフィーヤ、荷物は平気?少しなら私が持つわよ?」

「い、いえっ、大丈夫です。これくらい、やらせてください」

 

作業を終え、彼女の持つ荷物を見たティオネの申し出をレフィーヤは固辞する。このパーティにおいての『サポーター』も兼任するレフィーヤなりに、責任を果たそうとしたのだろう。後方支援として、あまり動き回らない自分が荷物を持つべきであると、自ら志願してサポーターを務めていた。

 

「そろそろね。泉に着く前に、注意事項を確認するわよ」

「あの、強竜(カドモス)、というのは、その....」

「うん、すごく、強いよ.....」

「力だけなら、トップクラスじゃないかなー」

 

アイズとティオナが揃ってカドモスの強さを肯定する。そんな2人の様子を見て、ごくりとレフィーヤは喉を転がす。

 

「や、やり過ごすことは、出来ないんですか?」

「無理ね。泉に番人の様にいるし。泉水だけ回収なんて許してくれないでしょうね」

「あたし吹き飛ばされて、大怪我したことあるしねー」

 

けらけら笑っているティオナに、レフィーヤはさらに血の気を奪われた。

 

「そもそもロキ・ファミリア(うち)でカドモスを簡単に倒せるのなんて、ミナトくらいじゃない?」

「....うん、足が遅いカドモスと、ミナトの相性は凄くいい」

「【飛雷神】って凄いよねー、あたしだったら目回っちゃう」

「そ、そんなに凄いんですね.....」

 

思わぬ所で株が上がるミナト。かつて強竜(カドモス)相手に、無傷(ノーダメージ)で倒したことが、彼女達の中では強く印象に残ってるようだ。

 

「カドモスを仕留めて安全を確保、そしたら泉水の回収よ」

「わ、わかりました...」

「ティオネ....作戦は?」

「定石通り行くわ。あんた達(アイズとティオナ)と私の総掛かりでカドモスを抑える。レフィーヤはデカい魔法を打ち込んでちょうだい。(ひる)んだところを、私達が一気に畳みかける」

「レフィーヤ、今度はバッチリ決めてねー!」

「は、はいっ」

 

やがて『ルーム』と呼ばれる広間に辿り着く。この場所に『カドモスの泉』が存在するのだ。

 

「....」

 

ティオネが無言でアイズ達へと視線を送る。頷いた彼女達は、ティオネを先頭にして隊列を組み直した。ゆっくりと奥へと進んでいく。

 

「......?」

 

違和感に最初に気づいたのは、アイズだった。眉を怪訝(けげん)そうに曲げ、ゆっくりと構えを解く。

 

「....おかしい」

「えっ?」

「静かすぎる」

 

レフィーヤの呟きに答えながら、アイズは身を進めた。前を歩くティオネを追い越し、その先へと足を踏み入れる。

 

「なに、これ......」

「荒らされてる......?」

 

慌ててアイズを追いかけてきたティオナは、呆然と動きを止めた。

 

「くっさ....」

 

『ルーム』の奥から漂ってくる異臭に、ティオナが顔をしかめながら鼻元を腕で覆う。

 

ルームの最奥に位置し、僅かな量の水が不定期に湧き出ている。蒼いきらめきを宿す神秘的な泉水は、アイズ達パーティが求められる要求量を満たしているようだった。そして、泉の前で積もっている大量の灰。

 

「これって.....」

「....カドモスの、死骸?!」

「私達以外の【ファミリア】が、強竜(カドモス)を倒したんじゃあ...?」

 

目の前の光景にティオネが呟き、おずおずとレフィーヤが口を開く。

 

「こんな深いところまで来られる【ファミリア】は限られてるわ。特定の【ファミリア】が私達と遠征期間を被らせているなんて、聞いてないわ」

「.....それに」

 

アイズが呟き、灰の山へと膝を曲げる。手を伸ばし、灰に埋もれているものを持ち上げた。

 

「『カドモスの皮膜』?!」

「すっごく貴重なドロップアイテムじゃん!?」

 

彼の竜を倒しても滅多に発生しない、希少なドロップアイテム。換金すると莫大な資金が手に入る。資金で物資を揃える冒険者が、このようものを見逃すはずがない。

 

「えっと、つまり、どういうこと?」

「私達が来る前に()()がいたのよ、カドモスすら殺してのけるヤツが」

 

沈黙が落ちる。

 

「....嫌な予感がする。早く拠点(キャンプ)に戻りましょう」

 

ちゃっかりとカドモスの皮膜(ドロップアイテム)を回収するティオネ。その脇で冒険者依頼(クエスト)のための泉水を回収し終えたレフィーヤ、彼女は何とも言えない顔をしながらビンの蓋を閉め、バックパックへと詰め込んだ。

 

「2箇所の泉、回る必要なかったですね」

 

カドモスが既に殺されていたこともあり、フィン達の分まで泉水を手にすることができた。

 

「そうだね....」

 

ルームを後にし、来た道を引き返す中、アマゾネスの姉妹があのルームについて会話を交わしている。

 

「ねぇ、どう思う?」

「普通なら、他のモンスターの仕業なんでしょうけど....」

 

強竜(カドモス)は泉の番人として、その強さを知られる強敵である。その力は51階層最強であり、『階層主』を除けば、現在発見されているモンスターの中でも間違いなく最強クラスに位置する。先程アイズ達が相手したモンスターが束になっても、まずカドモスには敵わない。

 

「(.....異常事態(イレギュラー))」

 

アイズは己の主神がよく使う言葉を胸の中で呟いた。

それからしばらく進み続け、

 

「ああああああああああっっっ!?」

 

自分たちの仲間の悲鳴が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること数十分前

 

 

場所は50階層に設置された、ロキ・ファミリアの拠点(キャンプ)。防衛を任されたリヴェリアとミナトが会話をしていた。

 

「それで?」

「はい?」

「なぜ、フィンの言う通り、ここ(拠点)に残ったのだ。あの子(アイズ)らのパーティを考えればお前がついて行くのが妥当だと思ったのだか」

 

それは、つい先程出発したパーティの片方を心配する声だった。元々ティオネの気性は荒く、想い人であるフィンに好かれるために、(しと)やかに振舞っているため、本質的にはパーティリーダーに向いていない。加えて、天然娘(アイズ)脳筋娘(ティオナ)にまだまだ未熟な弟子(レフィーヤ)。ファミリアの『母』と呼ばれるリヴェリアが心配にならないはずがない。

 

「彼女達ならば強竜(カドモス)に遅れを取ることはないでしょう。それくらい頼もしくなってます。それに....」

「?」

「少し、思うところがありまして。何かあった時、リヴェリアさんだけだと小回りがききません。俺が残ってた方が何かと都合がいいと考えました」

「お前とフィンの勘は馬鹿にならん....神々の言う『フラグ』というやつだな」

 

ミナトとフィン。双方とも頭脳明晰であり、状況判断能力が図抜けて高い。その思慮深さから導き出される勘は、ことごとく的中する。リヴェリアは、今まで2人に助けられてきた経験をもとに納得する。

 

副団長(リヴェリア)、ミナトさん!!」

 

息を荒らげて、1人の仲間が2人を呼ぶ。余りの慌て様から、何事かと2人して少しばかり目を見開く。

 

「何があった?」

「51階層に繋がる通路から、ハァ...ハァ...見たことの無いモンスターの大群が....!」

 

「「何?!(ですって?!)」」

 

指をさされた方向に目を向けると、大量のモンスター達がこちらへと向かってきていた。全身を占める色は黄緑。ぶくぶく膨れ上がった緑の表皮には、極彩色がところどころに刻まれていて毒々しい。無数の短い多脚からなる下半身がより気味悪さを増長させる。大量の芋虫型モンスター達に、ロキ・ファミリアのメンバーが遠方より魔法と矢を使って攻撃を仕掛けている。

 

突如、矢が直撃した個体が、皮膚と同じ色をした液体を撒き散らしながら爆散した。よく見れば、液が着いた地面が、少しずつ「じゅぅっ」と音を立てながら()()()いた。

 

「あれは....」

『こりゃぁ、ワシを使わざるを得ないぞ。ミナトよ』

「(どうやら、そうなりそうだね)」

 

最強の妖狐、九喇嘛(クラマ)の牙がモンスター達の群れに襲いかかろうとしていた。

 




ちょこっと九喇嘛パイセンやっちゃってくだせぇ。
イレギュラーにでもならないと頼られないパイセン可哀想...

ルーキー日間ランキングの5位に入ることが出来ました。本当にありがとうございます。
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