黄色い閃光inダンジョン   作:いちごぎゅーにゃー

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さようなら。そして、こんにちは

「ぐぅ......っ!?」

 

熱風が収まると、そこには、地に倒れ伏すアイズ達の姿があった。全てを焼失させた地面には灰以外残っておらず、モンスターや樹木も一切見当たらない。焼け野原の中心地にいる女体型を境に階層は地獄と化していた。『九尾の衣』によって直撃は免れたものの傷だらけとなった体。呻き声を漏らし言うことを聞かない手で何とか地面から顔を上げると。

 

【ロキ・ファミリア】の冒険者たちは、みな言葉を失う。

 

羽織っていたマントは焼け落ち、トレードマークである緑のベストの至る所が焦げていた。防具から露出していた箇所の肌は目を当てられない程重度の火傷を負っており、何より。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

仲間を守るために全リソースを自分以外に注ぎ込んだことで、ノーガードで『精霊』の魔法をその身に受けた青年は、うつ伏せに転がったままぴくりとも動かない。

 

【黄色い閃光】の再起不能。

 

「ミナト.....」

 

誰もが認める【ロキ・ファミリア】最巧の冒険者が脱落した事実に、アイズを始めとした団員達の士気が大きく低下する。それ程までに、目の前の光景は彼の後輩達の心を折るには十分過ぎる威力を持っていた。首脳陣の3人でさえも、双眸を苦悶に歪めている。

 

『【地ヨ、唸レ】』

『っ.....!?』

 

再び展開される巨大な魔法陣(マジック・サークル)がアイズ達を凍りつかせる。

 

『ーーーー』

 

詠唱量は先と比べて落ちてはいるが、逆に、それが短時間で『精霊』による魔法が射出されることを意味している。

 

「リヴェリア、もう一度結界を張れっ!?」

 

前方でダウンしていたミナトを回収したフィンは、すかさず全員に集合をかけリヴェリアの後方へ固まらせると同時に、彼女へ防護魔法を急ぐよう命を飛ばす。

 

『【メテオ・スウォーム】』

「【ヴィア・シルヘイム】!!!」

 

女体型の魔法陣(マジック・サークル)が階層の天井を包み込むと同時に、結界が完成する。『九尾』の力の一端を譲り受けた影響か、先程のものよりも遥かに大きく、堅牢な翡翠色のドームがアイズ達の周囲を覆い尽くした。

 

「うあああああああああああッ!?」

「ぐぅぅッッ!?」

 

時を待たず、次には巨大な隕石群が59階層に降り注いだ。階層全体の岩盤をことごとく破壊する超重量の砲撃の一つが結界に衝突し、恐怖に震えがるラウルと結界の維持に精神力(マインド)を注ぎ込むリヴェリアの叫喚が上がる。翡翠色の防壁の外側では無数の隕石が大地を削り爆砕していた。

 

『アハッ、スゴイスゴイ!!』

 

見事防ぎきった王族(ハイエルフ)の魔導士へ、女体型が賞賛を送る。ほっと息を着く冒険者達。

 

「た、助かった....」

「レフィーヤ、万能薬(エリクサー)を急げ!!」

 

瀕死のミナトの前で大盾を構えていたガレスが叫び、声に応じた山吹色のサポーターは、顔中に脂汗を滲ませた金髪の青年の、何より酷い右腕へ万能薬(エリクサー)をふりかけた。最高ランクの回復薬の恩恵により何とか原型が見えるまで治療することはできたが、今この場で可能な措置はこれが限界だろう。

 

「これで、右腕は何とかなるじゃろう」

「は、はいっ!」

 

炭化していた箇所が、重度の火傷へ。時間を巻き戻すように軟化したミナトの右腕に、ほっと息を着くガレスにレフィーヤも強く頷きつつ、痛々しい右腕に優しく丁寧に包帯を巻き付けた。

 

「.....っ」

 

憧憬に施される治療行為を彼の傍で見守っていたアイズは、金の双眸を凄めて女体型の方へ振り向くと同時に、『彼女』の浮かべる微笑に、思わず息を飲んだ。

 

『スゴイスゴイッ!!アリアノ仲間八トッテモスゴイ!』

 

でも。と続ける。

 

2()()()八、ドウスルノ?』

『!?』

 

告げられた瞬間。立ち昇る爆煙を突き破って、三度結界の元へ『精霊』の悪意が襲いかかる。

 

限界に達していたリヴェリアの防護魔法は、瞬く間に破壊され、冒険者達のすぐ目の前に隕石が迫る。咄嗟の反応により全力で後方へと跳び退いた彼等は。眼前に落下した隕石の余波によって凄まじい勢いで吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....ぁ」

「くそ、がぁっ.....!?」

 

 

焦土の上に描かれたクレーターの中で、半死のレフィーヤが呻き、ベートが地面に拳を叩き付ける。

 

円形の傷跡が辺り一面にできあがっていた。抉られた大穴付近で彼等は倒れ伏し、女体型に見下ろされながら身じろぎし、震える体を何とか起こしていく。そして、眼下の光景に金色の瞳を細める女体型は、両腕を広げ下半身に存在する二つの蕾を大きく開花させる。

 

「魔力を、吸ってる.....?」

 

巨大な花弁に階層中から光の粒が吸い寄せられていく。視線の先にアイズが呆然とする一方で、女体型は先の攻撃で破壊したリヴェリアの結界の残素でさえ、残酷なまでに吸収していた。加えて、女体型の声に応じるように、60階層から呼び寄せられた大量の芋虫型と食人花が女王の背後から出現した。

 

「終わり、か.....?」

 

諦念を滲ませる椿。地に手をつくティオナ、ティオネ、ベートもそれは同じだった。既に闘争心は風前の灯火と化しており、レフィーヤやラウル達サポーターも地面から視線を上げることができない。ミナトの傍に寄り添うアイズは、体を震えさせながらも、必死に眦を吊り上げながら敵を睨みつけた。

 

「.....」

 

誰もが意志を折られる中、フィンは。携えていた黄金の長槍を杖代わりに使って乱暴に立ち上がる。這いつくばる彼等の横をゆっくりと通り抜け、手にした槍を地面に突き立てた。

 

「あのモンスターを討つ」

 

告げる。

 

「君達に『勇気』を問う。その目で今何を見ている?」

 

息を呑むティオナ達。瞠目する彼女等を見やり、尚も続けた。

 

「恐怖、絶望、それとも破滅か?僕の目には倒すべき敵と、勝機しか見えていない」

「同感だな。私にも同じ未来が見えている」

「無論、儂もじゃがな」

 

いつの間にかフィンの両脇に控えていたリヴェリアとガレスも、彼に同調するよう力強い意志を絶望に打ちひしがれた者達に見せる。

 

彼等の言葉に、一同の肩が震える。驚愕の視線を背中に受け止めながら、小人族(パルゥム)の首領は『勇気』を示し続ける。

 

女神(フィアナ)の名に誓って、この槍で君達に勝利を約束しよう」

 

ついてこい、と。

 

ティオナ達の胸が、レフィーヤ達の瞳が、アイズ達の四肢が震える。

 

「それともベル・クラネルの真似事は、君達には荷が重いか?」

 

最後に。

 

()()()()()()()()()()()、そこで寝ていろ」

 

どのような状況下においても味方を鼓舞し、奮い立たせる者が『英雄』と呼べるなら。フィン・ディムナこそ誰よりも『英雄』たる器であった。

 

ベート達の脳裏に呼び起こされる、金髪の青年か見せた『火の意志』。少年と怪物が繰り広げる大決戦。命を懸けて仲間を守りきった青年の覚悟が、全身全霊をもって『冒険』を成した少年の勇姿が、崩れかけていた彼等の意志に再び火を灯す。

 

「雑魚に.....負けてられるかァァッ!!」

「誰が、尻尾巻いて引き下がるもんですか.....っ!」

「あたし達も見せてやんなきゃね」

「.....うん」

 

ベートが吠え、ティオネが髪をかき上げ、ティオナが笑みを浮かべ、アイズも立ち上がった。続々と奮起する第1級冒険者達に驚愕するレフィーヤ達。ベート達の顔から悲壮感が消え、ただ目の前の敵を倒さんと気迫が満ちた。

 

「ラウル達は後方で支援、僕とアイズ達で女体型に突撃する!」

「はい!」

 

各所に散らばった各々の武器を広い直し、最初で最後の突撃の準備が始まる。アイズ達の慌ただしい動きを背後に、素早く支度を済ませた首脳陣の3人は、地に倒れ伏すミナトの元に近づく。

 

「お主はここまでかのぅ?」

 

傍で止まったガレスは深い眠りに着く青年に目を向けない。

 

「火影というのも難儀だな。そこでゆっくりしてるといい」

 

翡翠色の瞳で前だけを見据えるリヴェリアが、挑発するように杖を青年の耳元で鳴らす。

 

「君が起きる頃には終わってるさ、僕達は先に行く」

 

己の野望と意志を告げ、フィンは歩み始めた。盟友を連れ、彼は前へ進む。

 

「行くぞ!!」

「ああ!」

「おう!」

 

準備を完了させたベート達に振り返り、フィンは最後の号令を放った。雄叫びを上げる冒険者達を引き連れ、咆哮を上げるモンスター達の元へ突き突貫していく。

 

そして、その背後で。

 

ぴくりと、仲間の足音を聞く青年の体が、揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

随分と昔のことだ。

 

『ここにおったか』

 

()全体を一望できるほど高所にある『顔岩』の上に座っている幼い少年の元に、優しい微笑みを皺だらけの顔に浮かべながら、『火』と刻まれた傘帽子を被った老人が近づいてくる。

 

『ご壮健そうで何よりです、()()()

 

10にも満たない童が大人顔負けの言葉遣いと、恭しく一礼を向けたことに老人は苦笑した。

 

『相変わらず賢い子じゃな』

『いえ.....』

 

いい意味でも悪い意味でも子供らしくない、そう目で訴える先達に、少年は何とも言えないような表情を浮かべる。

 

()()()はお主に上手く学を説いていおるか?』

『はい、先生はとても立派な方ですから、俺も尊敬しています』

 

かつて自らが教示した教え子、それも中々癖の強い男が弟子を取ったことを耳にした老人は、やや心配そうな声音で尋ねた。真っ直ぐ目を見ながら正直に告げた少年に、『ふむ』と満足そうに頷く。

 

『時に、ミナトよ』

『はい』

『お主は、里とはどのようなものか、考えたことはあるか?』

 

先程とは違い真剣な瞳を向ける老人に、少年はそのまま視線を返し、少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。

 

『みなの帰る場所、でしょうか.....』

 

年端もいかない少年の答えに、イタズラそうな笑みを浮かべた老人は『そうか、そうか』と楽しげに声を上げた。

 

『三代目?』

『いやいや、すまんのぅ。年寄りの悪ふざけと思ってくれ』

 

自身の回答に微笑みで返した相手を怪訝に思ったミナトに、老人はこれまた笑いながら返した。そして少し息を整え傘帽子を深く被り直してから、視線を少年から眼下で栄える里へと向ける。

 

『お主の言ったことも、答えの一つに違いない』

『.....』

『儂の考える里とはなーーー』

 

老人の口から告げられた内容は、幼くも聡明な少年の胸に強く刻み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強く地面を握り締め、体を持ち上げ、傷だらけの体に鞭を打ち、四肢を震わせながら。

 

「皆さん...言って、くれますね.....!」

 

起き上がる。

 

「ミナトさんっ.....!」

 

どこまでも強靭で、どこまでも強い意志を秘める【黄色い閃光】に、ラウルの瞳から滴がこぼれ落ちた。ミナトが再び立ち上がることを、信じて止まなかった首脳陣と彼との絆に、その光景を目にしていたサポーター達は全員胸が熱くなる。満身創痍の全身になりふり構わず、ミナトは文字通り閃光となってフィン達の後を駆け出し、敵の死角となってる瓦礫の影に隠れると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いいものを見た。手前も一槍となろう」

 

身を奮い立たせる【ロキ・ファミリア】の姿に、潰れた右腕を下げたまま、椿は左手で持った太刀を構え戦場へと参戦する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『魔力』を喰らい続けている『穢れた精霊』までおよそ200メートル。敵を前方に見据えるフィン達は、光り輝く武器を提げ一直線に突き進む。

 

「アイズ、全力の一撃で君が仕留めろ!他の者はアイズを守れ!」

 

無数の触手とモンスターの肉壁をもって進行を阻む敵を前に、フィンは自分達が稼ぐことが可能な時間は一瞬であると判断した。アイズに力を蓄えさせ、彼女以外が身を削って相手の懐に送り届けるという算段。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 

フィンの命に頷いたアイズは、気流の鎧をその身に纏う。『魔法』を使用したアイズを中心にティオナ達が隊列を変え、フィンを先頭に置いた攻撃陣形を取る。

 

「レフィーヤ、『詠唱』を始めろ!何を選ぶかは君に任せる!」

「はいっ!」

 

アイズが力を溜める中、レフィーヤに指示を出したフィンもまた、詠唱を唱えた。

 

「【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て】」

 

鮮血色の魔力が集まる左手、その指先を己の額に押し当てた直後、魔力光が体内に注入される。

 

「【ヘル・フィネガス】!!」

 

次の瞬間、見開かれたフィンの瞳が、紅に染まった。

 

「うぉおおおおおおッッ!!」

 

【ヘル・フィネガス】。小人族(パルゥム)の首領が持つ戦闘意欲を爆発的に高める魔法(ドーピング)。代償として判断力を捧げる代わりに、術者の能力全てを大幅に引き上げる。

 

この魔法を使用したことは、フィンが指揮を捨てたことを意味する。狂戦士と化した首領の姿を見て、彼は女体型への道を切り開くため、判断力よりも能力(ステイタス)を優先させたのだと、アイズ達は悟る。

 

右手に金、左手に銀。それぞれ長槍を構えたフィンが迫り来るモンスター達と衝突した。ティオナ達のもとから一人先行し、咆哮を上げる。

 

『ーーーーーーーーーーーッッ!?』

 

腐食液を吐こうとしていた芋虫型の上半身が、不壊属性(デュランダル)の銀槍によって吹き飛ばされる。複数の芋虫型を巻き込みながら薙ぎ払われる銀突。迫り来る触手を含め食人花を蜂の巣にする金突。フィンの前に立ったモンスターは全てがその姿を灰に変えた。その後方からはティオネ達も続き、モンスター達を屠っていく。

 

『アハッ』

 

魔力のリチャージを行う女体型が、凄まじい勢いで肉薄してくるフィン達に狙いを定め、歌う。

 

『火ヨ、来タレ』

 

おぞましく玲瓏な歌声を響かせ、詠唱が開始された。

 

「やべぇ!?」

「またあれ(魔法)が来る!?」

 

展開された紅い魔法陣(マジックサークル)にベートとティオナが叫んだ。すでに敵との距離は半分を切ったが、未だ無数のモンスター達は健在であり、女体型の元まで辿り着けない。再び膨れ上がる敵の魔力にアイズ達が息を呑む中、主装備である金槍《フォルティア・スピア》を握り締めるフィンは。ぐぐっと歯を食いしばりながら、己の上体を目一杯反らし、渾身の投擲を放った。

 

「ああああああああああああッッッ!!」

 

勇者(ブレイバー)】による全力の槍投げ。打ち出された金の槍にが空気を穿ちながら、一条の閃光となって女体型に猛接近し、顔面を穿った。

 

『!?』

 

『詠唱』を強制的に中断されたことで、魔力を暴走させた女体型の頭部が大爆発を起こした。アイズ達が目を見張り、後方のラウル達が歓声を上げる。

 

「今じゃッ!!!」

 

指揮を捨てたフィンの代わりにガレスが檄を飛ばし、アイズ達は千載一遇の好機とばかりに疾走する。怪物の肉片を撒き散らし、とうとうモンスターの大軍を切り抜けた。

 

「【どうか力を貸し与えて欲しい】」

 

そして、修行の成果である『平行詠唱』をレフィーヤが完成させる。

 

「【エルフ・リング】!」

 

召喚魔法を待機させ、次の戦況へ対応させるために山吹色の魔法陣(マジック・サークル)を展開させたままにする。

 

『【突キ進メ雷鳴ノ槍ーーーー】』

 

魔力を自己修復にあてることで、槍による風穴を治癒させた女体型は、黄金の魔法陣(マジック・サークル)を発生させた。

 

「短文詠唱!?」

 

発動速度に重きを置いた短文詠唱型魔法。威力は通常のものより遥かに劣るとは言え、『精霊』が放つそれは並の魔導士とは比べ物にならない。空から現れた無数の雷にティオナが思わず叫び声を上げた。

 

『【サンダー・レイ】』

 

轟きともに雷撃がアイズ達を焼き尽くさんとした。

 

「【盾となれ、破邪の聖杯(さかずき)】!」

 

だか、そうはさせまいと。山吹色から純白へと魔力光を変化させたレフィーヤが、アイズ達の前に飛び出した。

 

「【ディオ・グレイル】!!」

 

超短文詠唱によって出現する障壁魔法。間髪入れず、破邪の白盾と雷の槍撃が衝突した。

 

「レフィーヤ!!」

「踏ん張れぇぇぇえええ!!」

 

背後からティオネとティオナが障壁の前に不壊属性(デュランダル)の武器をそれぞれ交差させ、自分達の全身ごと白盾を支えるように押し付けた。

 

「わたしだって.....」

 

背後に、フィンが、ベートが、アイズがいる。目の前にはティオナとティオネが身を削って助けてくれている。

 

それでいいのか。今のままで本当に。

 

 

 

否。

 

 

 

次の瞬間、全身から魔力を発火させながら、レフィーヤは紺碧の瞳をかっと見開いた。

 

「私だってぇぇええええ!!!!」

『!?』

 

少女の咆哮とともに純白の聖盾が輝きを増し、雷の砲撃を相殺した。二つの魔法が衝突したことで発生した衝撃波によってアマゾネスの姉妹と、術者であるレフィーヤが凄まじい勢いで真後ろに飛ぶ。

 

「行くぞ!」

 

気にしている暇はない。仲間が尽力して作り上げた隙を無駄にしてはならないと、ベートの叫びとともに大戦斧を持つガレスと長槍を構えるフィン、風を蓄えるアイズが疾走する。

 

さらに。

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

王族(ハイエルフ)の彼女にのみ許された、歌と歌を繋げる超技、『詠唱連結』を完了させたリヴェリアが全精神力(マインド)を注ぎ込んだ無数の炎柱を、女体型とその周りのモンスター達を囲むように発生させた。

 

『ーーーーーーーッッ!?』

 

凄まじい熱量と威力が込められたリヴェリアの殲滅魔法が、今まで崩れることの無かった女体型の下半身にある花盾を燃やし尽くした。熱気に囲まれ、アイズ達の全身が激しく火照る中、リヴェリアの援護を受けた彼女達は疾走の速度をさらに上げた。

 

『!』

 

守りの手段を失った女体型から、ここで初めて笑みが消える。残り約30メートル。敵の懐まであと僅か。

 

『アアアアアッッ!』

 

だか、『精霊』の声に応じるかのように、急迫するアイズ達の目の前に無数の触手の束で築き上げられた壁が出現した。

 

「「!?」」

 

ただちにベートとフィンが壁を破ろうと双剣と銀槍を見舞うが、突発することができない。

 

 

それでも。

 

「ぬるいわぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

これしきの()でドワーフの大戦士を止めることは叶わない。アイズ達を追い抜かしたガレスは戦斧を壁に何度も打ち込む。地を揺るがすほどの轟音を響かせ次第に亀裂が生まれていく緑壁。

 

「邪魔じゃあ、どけぇいっ!!!」

 

亀裂の間に僅かに生まれた隙間へ、両腕を突っ込み、左右に引き裂く。

 

「今だ!」

 

フィンの呼び声に押され、アイズとベートはガレスが開けた防壁の隙間に飛び込んだ。

 

『ッ!?』

 

10メートルを切るところまで侵入を許した女体型は、持てる触手全てを迎撃につぎ込んだ。荒れ狂う無数の大鞭をベートとフィンが迎え撃ち、アイズに女体型までの道を作る。

 

「「おおおおおおおおッッ!!」」

 

フィンとベートの雄叫びが重なり合う。防具を吹き飛ばされてなお速度と威力を増し続ける2人の双剣と槍が、遂に一本の道を切り開くことに成功した。

 

「「行け!!」」

 

仲間達が切り開いた活路を疾走し、アイズは女体型と対峙する。今や暴風と化した【エアリアル】を纏いながら『穢れた精霊』へと突き進んだ。見下ろす淀んだ金と、見上げる金の瞳が視線を交差させる。

 

「(私は『アリア』じゃない。私は貴方のことを知らない)」

 

初めに喜びに打ち震えていた『彼女』の言葉と、存在を否定する。

 

「(でも、貴方はいちゃいけない)」

 

禍々しくその在り方を堕とした『精霊』を前に、金の双眸を吊り上げ、己の剣を振り鳴らすアイズは、女体型へ突貫した。

 

「あああああああああああっっっ!!!」

 

とうとう無くなった間合いから、相手の巨躯へ向かって地を蹴りつけ、跳ぶ。暴風を纏った己の全身ごと、両手で握りしめた《デスぺレート》を呆然とする『精霊』に叩き込む。

 

その直前。

 

『穢れた精霊』は、笑った。

 

その唇を開け口の奥で輝く蒼色の魔法陣(マジック・サークル)をアイズへ見せびらかす。沈黙や驚愕はこれ(魔法)を少女へ放つための布石。至近距離まで誘い込まれたと、アイズの表情が凍りつく。もう遅いとばかりに、敵は容赦無く、静かに紡いだ。

 

『【アイシクル・エッジ】』

 

巨体な氷の柱が眼前から放たれる。零距離。アイズに躱す手段は無い。勝利を確信した『精霊』の顔が不敵に笑みを浮かべた。次の瞬間。

 

『!?』

「っ!?」

 

女体型とアイズの間に、金色の影が割り込み。

 

そして。

 

()()・超大玉螺旋丸!!」

 

眩い輝きと風切り音を纏った巨大な蒼玉を、蒼氷の刃に叩き付け、粉々に砕き割った。

 

『アァァッ!?』

「今だ、アイズ!!」

「っ!!」

 

完璧な不意打ちを阻止された『精霊』が叫喚を上げるのを他所に、緋色の隈取りを浮かべた青年は、後は任せたよ、と。自分と同じ金髪の少女に全てを託し、地面へと崩れ落ちるように落下していった。

 

『イヤッ!?』

 

全てを理解した【剣姫】は、託された想いを剣に、風に乗せ、告げた。

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】!!」

 

体中からかき集められた力が『風』をより強く、気高いものへと昇華させる。

 

「アイズ.....」

「やれい」

 

リヴェリアが呟き、ガレスが目を細める。

 

「「いけぇっ!!」」

 

ティオナとティオネが高々と吠える。

 

「やっちまえ」

 

ベートが告げる。

 

「頼んだよ」

「アイズさんっ!!」

 

フィンが笑い、レフィーヤが少女の名を呼ぶ。

 

「アイズ」

 

ミナトが信頼の目を向ける

 

そして、

 

「リル・ラファーガ!」

 

神風が放たれた。

 

『ーーーーーーーーーーー』

 

瞬く間に女体型の頭部と胸を穿ち、貫通する風の一矢。精霊の頭上から足元まで一閃が走り抜け、巨躯を貫く。次の瞬間、巨体を完全に射抜くとともに大地に激突し、爆風が巻き起こる。『魔石』を貫かれた女体型の体が一瞬で灰となった。豪風の余波が衝撃波となって階層全体を震わせた。

 

そして。

 

ダンジョンを激震させる衝撃に耐えきったティオナ達が顔を上げると、巨大なクレーターの中心で。地に剣を突き刺していた少女が、ゆっくりと立ち上がった。

 

「アイズゥーー!!!!!」

 

傷だらけのティオナが、どこに余力を残していたのか、アイズを目掛け走り出す。すぐにティオネも、レフィーヤも、続いた。小さく微笑んだアイズに、満面の笑みを浮かべる彼女達は勢いよく体当たりし、一緒に少女の体をかき抱いた。

 

「無事かい、ミナト?」

「.....何とか、ですけど」

「よく動けたもんじゃわい」

「『仙術』まで使うとは......大したものだ」

 

息絶えながら腰を下ろす火傷だらけのミナトへ歩み寄った首脳陣は、弱々しくも笑みと一緒の返答に苦笑を返した。そんな4人のやり取りに、側で足を止めるベートも目を瞑り、笑った。

 

「いやはや、凄いものを見せてもらった」

 

喜び合う【ロキ・ファミリア】を一人遠くから見守る椿は、ややあって子供のように一笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、この時を待っていた化身は、彼女達を見逃してはくれない。

 

『何、祝勝ムードを上げてやがる』

『!?』

『この俺様を抜きにして楽しんでんじゃねぇぞ』

 

先程まで女体型が君臨していたその地中より、驚異を消し去った喜びを分かち合う冒険者達の耳へ、死神の足音が届けられた。

 

『そこにいるんだろぉ、()()()?』

 

突如発生した砂嵐の中に、『穢れた精霊』を遥かに超える巨大な影が、アイズ達を見下ろしていた。




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