黄色い閃光inダンジョン   作:いちごぎゅーにゃー

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思ったよりも見ていただけて嬉しいです。



DEAD ENDなんて無い

場面は戻り、51階層。

事の重大さを直感させる凄惨(せいさん)な人の悲鳴。入り乱れた迷路に次々と反響し、鼓膜をあらゆる方向から何度も打ちすえる。聞き覚えのあるそのかえに、弾けるように顔を見合わせたアイズ達は、一気に走り出した。

 

「今の声って!」

「ラウルさん......!」

 

悲鳴の方角へと全力で駆ける。現れるモンスターを強引に振り払い、通路を何度も曲がったアイズ達の視界に、大量のモンスターが飛び込んできた。

 

「なに、あれ?!」

「い、芋虫(いもむし)...っ!?」

 

ティオナ、レフィーヤと声が響く中、アイズはその双眸(そうぼう)を見張る。

 

「(新種のモンスター?)」

 

ダンジョン深層を探索してきたアイズ達でさえも、1度も目にした事の無いモンスター。進行に合わせて上下に振動するモンスターの巨躯(きょく)が、4メートルはある天井と何度もぶつかる。その体格をもって、通路一杯を塞ぎながらこちらへと向かってくる光景は、感情に(とぼ)しいアイズにも嫌悪感を無理やり抱かせる。

 

「団長!?」

 

モンスター達との距離が少なく追走される、フィン達のパーティ。アイズ達に勝るとも劣らない戦闘力を誇る冒険者達が、戦闘を放棄し、全力で逃走している。

 

「っっ!!」

 

困惑の中、最も早く動いたのはティオナだった。

敵の進行を食い止めるため、追われるフィン達と行き違い、モンスター達へと斬りかかった。

 

「止せ、ティオナ!!」

 

フィンの制止は届かず、モンスターの口から噴出される液体を難なく回避し、(ふところ)に飛び込みがら空きになっている胴体へ、自慢の大双刃(ウルガ)を叩き込む。

 

『ーーーーーーーーッッ!』

「っ!?」

 

モンスターの苦悶の叫びと同時に、斬りつけたティオナの瞳もまた驚愕に見開かれた。斬りつけた箇所から先程のものと同色の体液が(ほとばし)り、辺りに飛散する。首をひねりかろうじて避けたが、1滴の液が1本の髪に触れ、じゅぅっ、という音と共に()()()()

 

「えっ....?!」

 

今まで(つちか)ってきた経験を頼りに、ティオナは地を全力で蹴ってその場から離脱する。後方へ着地した途端、ティオナは自分の目を疑った。大双刃(ウルガ)の片方の剣身が、消えている。溶けてしまっている。敵の体内に埋まったことであの体液に侵食され、跡形もなく溶かされてしまった。

 

まさかの武器破壊。

 

『ーーーーーーァァ!!』

 

モンスターがいきなり咆哮を上げ、一斉に口腔から液体を噴出させた。アイズ達は回避したが、液の一線が通路を走り抜け、瞬く間に地面を溶かした。

 

「何あれーー!?何で教えてくれなかったのさー!?」

「フィンが止めただろうが、馬鹿女!!」

 

愛剣を溶かされ、フィン達に倣って逃走に加わったティオナが泣き叫ぶ。すぐ隣で並走するベートは罵倒(ばとう)とともにツッコミを入れた。

 

「フィン!?冗談じゃないんだけど!もう、あたしの武器〜!」

「わからない。僕達も突然襲われた」

 

ついに柄まで溶けだした大双刃(ウルガ)を放棄し、涙目のティオナに、フィンが逃走しながら答える。強竜(カドモス)を倒した後に、引き返そうとした際に突然あのモンスターの群れと出くわし、襲われた。そう簡単にフィンが説明する。

 

「群れって、あれ以外にも同じやついるの?!」

「よく見ろっての。あのでけぇやつの後ろに、アホみたいに続いてんだろ」

「うぇ〜っ」

「僕達は問題ない。ただ、ラウルがあの攻撃を直撃させられた」

「早く治療してやらんと、こりゃいかんぞ!!」

 

ティオネの問にフィンが、あのモンスターの体液を浴びてしまったラウルを肩に担ぐガレスが、切羽詰まった声を出す。

 

「え、あのモンスター、ブラックライノスを襲ってるよ?!」

 

後ろを振り返る。アイズ達が通り過ぎた十字路で、横から現れたのはブラックライノスを、芋虫型モンスターが出会い頭に攻撃していた。

 

「あのモンスター達は、僕達も他のモンスターも、近づいたもの全てに攻撃してくる」

「見境なしってことですか?」

「どうかな。モンスターを率先して狙ってるようにも見える」

 

黄金色の髪を揺らしながら走る彼を見下ろしながら、ティオネは懐から木の欠片を取り出した。

 

「実は私達が向かう前に『カドモスの泉』が荒らされていました。強竜(カドモス)も既に灰になってドロップアイテムだけが...この木の欠片も同じ場所で」

「....決まりか。カドモスも倒すとはね」

 

受け取った欠片を見つめ、フィンはそう結論した。変色した木の欠片にも腐食液に晒された跡が残っている。

 

「フィン、あのモンスターは倒せる?」

 

一向に走り続ける中、アイズがその言葉を周囲に打った。

 

「一撃に対し一つの武器を犠牲にすれば倒せる。さっきのティオナのようにね。割に合わなすぎる」

「....」

「あの数を相手するには、尚更無茶だろう」

 

ただし、とフィンは続ける

 

「この状況下では難しいかもしれないけど、詠唱するだけの時間を何とか稼いで、群れを殲滅できるほどの強力な魔法を打ち込めるなら.....」

 

そう言い終わるや否や、その場にいる全員が一斉にレフィーヤの方に視線を向けた。視線の先の「えっ、えっ?」と顔をきょろきょろと左右に振る。

 

「ティオネ、武器とアイテムの手持ち(ストック)は?」

「え、あ、はい。何も消費していません。ティオナの武器以外は全て無事です」

「ならガレス達に武器を渡せ。この先のルームは行き止まりだ」

 

フィン達は武器を補充し、構える。

 

「おい、こんなの寄こしてどーすんだ!?どうせ溶かされんだろ!」

 

本来扱う獲物ではない武器を持って、ベートが声を荒らげる。

 

「親指がうずいている。恐らく、来るんじゃないかな」

 

行き止まりのルームに辿り着いた瞬間、辺りの壁面全てから亀裂が走った。

 

「!?」

 

ベート達が顔色を激変させる。

 

怪物の宴(モンスター・パーティー)

 

突発的なモンスターの大量発生。ダンジョンが起こす神秘を目の当たりにさせられる。

 

「ベート、ガレス、ティオナ!ラウル達を守りつつ敵を駆逐しろ!あの新種は僕とアイズがやる!」

 

ブラックライノスの大群にベートらが仕掛ける。

 

「レフィーヤ、後退して詠唱を始めろ。この戦闘は君の魔法にかかっている」

「.....っ!わかりました!!」

 

レフィーヤは与えられた役目に大きく頷いた。後方へと退避し、『詠唱』の準備を始める。

 

「アイズ」

「わかってる」

 

目配せしてくるフィンに、アイズは頷く。激しい戦闘音が鳴り響く場で、一声。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

超短文詠唱を引鉄(ひきがね)に、『魔法』を発動させる。

 

「【エアリアル】」

 

風が生まれた。目で視認出来るほどの大気の流れが、舞うようにアイズの体を包み込む。

 

【エアリアル】

 

アイズが使用出来る唯一の魔法。体や武器に風を纏わせることで、攻守、速度を上げる『風』の付与魔法(エンチャント)

 

「フィン」と呼びかけ、隣にいる少年に相棒の《デスぺレート 》を預ける。

 

「『不壊属性(デュランダル)』か....疑う訳じゃないけど、通用すると思うかい?」

「多分....」

「頼りないね」

 

苦笑を浮かべながら、代わりに予備の剣をアイズに渡す。

 

『ーーーーーッ!!!』

 

会話を交わす2人のもとに、モンスター達が肉迫する。

 

「風で腐食液を防げないようなら無理はしないでくれ。レフィーヤの準備が出来次第、叩く」

「うん。先に、行くよ」

 

地を蹴る。爆風と共にアイズの姿がかき消えた。全身に付与した風の力による超加速。文字通り疾風と化し、アイズはモンスターの群れへ一直線に突き進んだ。先頭のモンスターに近づいたアイズは、斜め下から剣を振り抜いた。防御不可能な敵の攻撃(腐食液)を風が吹き飛ばし、銀の一線が走る。風に護られた剣は、胴体を深く斬りつけても溶けることは無かった。間髪入れず傷口から体液が飛び散るが、アイズの体を取り巻く気流がその全てを吹き飛ばす。

 

『アイズ・ヴァレンシュタイン』

 

最強の一角とも名高い、金髪金眼の少女。迷宮都市オラリオ屈指の剣士として名を連ねる、第1級冒険者。その二つ名は、【剣姫(けんき)】。

 

『ーーーーーーーッッ?!』

 

凄まじい速度と鋭さ、剣筋でモンスターをめった切りにする。切り刻まれたモンスターは絶叫を上げ、肉体の均衡を失ったのか、勢いよく破裂した。

 

「やれやれ、倒したら倒したらで爆発するとは」

 

ため息を吐きつつ、フィンも芋虫型のモンスターに接近する。身につけている腰巻を(ひるがえ)し、地に伏せるような態勢で間合いを埋め、アイズの《 デスぺレート》をモンスターの足に見舞った。

 

「よし、いけるね」

 

芋虫型モンスターを攻撃しても、溶けだしていない剣を見て頷く。武器が溶けないことを確認し、次々とモンスターを斬りつける。

 

 

 

 

 

 

 

「ラウルッ、しっかりしなさい!」

「無理っす、ティオネさんっ。俺はもうダメっす」

「そんなことほざいてるなら私がトドメを刺すわよ?!あんたが全快しないと、団長のもとに行けないのよッッ!」

「す、すみません殺さないで.....?!」

 

ラウルの回復をしつつ、ティオネは戦況を確認する。

通路口から現れるモンスターはようやく終わりを見せようとしていた。アイズとフィンは敵を圧倒しているが、敵の数的有利は以前変わってなく、未だ油断は許されない。

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ】」

 

激しい戦闘が繰り広げられる場所から離れた後方で、レフィーヤは詠唱を行う。「次は助けてね」と、その信頼に応えなくてはならない。今度こそ、この『魔法』をもって彼女達を救うのだ。

 

「【帯よ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢】」

 

歌う

 

「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」

 

謳う

 

少女の持つ発展アビリティ、『魔導』が発動する。レフィーヤの足元に山吹色の魔法陣(マジックサークル)が展開され、輝きを増していく。

 

「撃ちます!!」

 

詠唱を完了したレフィーヤの合図で、前方にいたアイズ、フィン、そしてティオナ達が撤退する。それを目にしたレフィーヤは、杖を構え魔法を行使した。

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

 

魔法名と同時に大量の火の雨が連発される。燃え上がる(やじり)型の魔力弾はモンスター目掛け襲いかかる。数千にも及ぶ火矢に、モンスター達の絶叫も飲み込まれ、その場にいた全てのモンスターが灰すら残さず燃え尽きていった。

 

「ほらっ、やっぱり通用するじゃん!一発だよ、一発!すごいすごい!!」

「あ、ありったけの精神力(マインド)を込めたので、その....」

「景気良すぎんだろ、ババアと言いエルフどもはよぉ....くそっ、毛が焦げちまった」

「ガハハっ、ここまで来ればスカッとするわい!」

 

敵を掃討しティオナに褒めちぎられていると、やがてアイズとフィンも帰ってくる。

 

「....ありがとう、レフィーヤ」

「っ、....は、はい!」

 

感情の乏しい顔を、アイズは(わず)かだが確かに(ほころ)ばせた。尊敬する先輩に向けられた小さな笑みとその言葉に、レフィーヤはそっと目尻を拭った。

 

「....」

「団長?どうかしたんですか?」

 

押し黙っているフィンにティオネが尋ねる。

 

「このルームに逃げ込む前、危うく挟み撃ちされかけたあの時、モンスター達は前からやってきた。そしてあの道は50階層に到達できる正規ルートだ」

「...まさか、拠点(キャンプ)が!?」

「ただの杞憂ならいいんだけど....」

 

虫の知らせを感じるように、自身の右手、その親指を見下ろすフィン。

 

「急いで戻りましょう!?リヴェリア達が危険です!」

 

なんでも溶かす腐食液を放つ新種のモンスター。拠点を狙われたらひとたまりもない。仲間達の安否を心配するティオネが声を上げる。

 

「慌てるな、ティオネ。あそこ(キャンプ)にはリヴェリアがいる。それに.....」

「....ミナトもいる。だから大丈夫、だと思う」

「【黄色い閃光】は伊達じゃない。あらかた片付いているかもね」

 

慌てるティオネに2人がミナトの名を出す。それは信頼の表れ、ロキ・ファミリアで最も()()()冒険者が護っているならば問題は無いだろう。「ひとまず、全速力でキャンプに戻る」と続けたフィンに、その場にいる全員が頷き、一斉に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり、50階層の拠点(キャンプ)地帯。

 

「放て!」

 

リヴェリアの号令のもと、よじ登ってくるモンスターに向かって数人の弓使いが矢を放つ。命中した先から矢は腐敗して折れるが、攻撃を受けたモンスター達はぐらりと壁から足を離し落下、数匹を巻き込んでリヴェリアがいる高台から離れていく。

 

現在リヴェリア達は新種のモンスターに苦戦を強いられていた。何とか魔法と矢を使い耐えてはいるが、いつまで持つかはわからない。

 

「ミナトはまだか....?!」

 

リヴェリアの悲鳴にも似た囁きが零れ落ちた。

 

 

 

 

 

『オラァァァァァ!!!』

 

『ーーーーーーーッッ!?』

 

金色の青年が芋虫型モンスター達の脇を駆け抜ける。その背中辺りからは、半透明で朱色の尾が9本生えており、ミナトではない()()の声とともに、芋虫型モンスターをつぎつぎとなぎ倒していく。腐食液にも侵食されないその尾こそ、ミナトの持つ最強スキル、『九尾の妖狐』の能力だ。魔力をもとに形成してるため、溶かされる心配もない。倒した際に飛沫する腐食液は尾を丸めるようにミナトを囲むことで、完璧に防いでいた。1対多、それこそミナトが得意にしている戦闘であり、その強みを存分に活かし敵を駆逐する。

 

『ったく、こんな気持ちの悪ぃ奴らなんかの相手をさせやがって』

「ぶつぶつ言わない!さっさと片付けてリヴェリアさん達の方をフォローするよ!」

 

二つ名を体現するように駆けるミナト。余りの速さにモンスター達はまったく着いてくることができていない。腐食液で視界が塞がれたと思えば、【飛雷神】で見晴らしのいい場所に飛び、少しでもスキがあれば逃さず九尾の尾で敵を(ほふ)る。気づけばモンスター達はその数を残り僅かなものとし、半透明の尾がモンスター達にふりかかざされた次の瞬間には、全てのモンスター達が灰になっていた。

 

『こんな所か....。あのエルフ(リヴェリア)の付近にマーキングをしてるんだろう?』

「ああ、すぐに向かう」

 

モンスターの灰が辺り一面を覆う場所から、【飛雷神】を使用したミナトの姿がかき消えた。

 

 

 

 

 

「矢、放て!」

「これが最後ですが?!」

「構わん、撃て!」

 

リヴェリアの号令のもと、矢を放つ。

 

「まだあんなに.....?!」

「物資は最悪捨ててもいい、拠点(キャンプ)を守護することを最優先しろ!」

 

 

 

 

 

 

「キャンプはどうにか無事か.....」

「恐らくミナトが『スキル(九尾)』を使ったのじゃろう。アレなら腐食液も防げる」

「リヴェリア、みんな!?」

 

リヴェリアの激が飛ぶ中、ようやくアイズ達が到着する。彼女らの視界に移るのは、芋虫型モンスターの群れ。よく奥を見ればミナトのスキルによる九尾の尾が見える。物資を守り、キャンプも何とか護り続けているリヴェリア達に、フィンは舌を巻いた。

 

「速く助けに行かないと!?」

「待て、バカゾネス」

「痛ぁぁ!?何すんのさ!」

 

飛び出しかけたティオナは、横からベートに脚をかけられたことで、ゴロゴロと1メートルほど前に顔から転んだ。

 

「よく見ろ。もうババアの所にミナトがいるだろうが。今俺たちが行ったらあの汚ぇ液を浴びることになんぞ」

「え...?」

 

ベートの言葉に困惑するティオナ。その大きな瞳をリヴェリア達の方に向ける。見れば、(まばた)きをする度に、別な場所へと移動しているミナトが、背中の辺りから尾を生やし、次々とモンスターを倒している。思わず「はっや.....」と口にしてしまうティオナ。第1級冒険者である自分の目でも追えないその姿は、まさに【黄色い閃光】。二つ名に恥じない動き。一方、九尾の尾を初めて見たレフィーヤは、目を大きく見開いて表情を驚愕に染めている。

 

「うそ.....」

「.....うん、凄いね」

「相変わらず速すぎでしょう、まったく....」

「チッ...」

 

何でも溶かす液に逃走を余儀なくされたレフィーヤ達は、目の前で繰り広げられている光景に釘付けになっている。唯一ベートだけが、自分と似たような戦闘スタイル、しかし、明らかに自分よりも完成度の高いミナトの動きを見て、小さく舌打ちをした。

 

「どうやら、全部倒したみたいだね」

「見たところ、武器を除けば、物資は無事のようだしのう。大したものじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ミナトが最後のモンスターを倒すと、彼以外に動くものはなくなった。全てのモンスターを片付けたミナトに喝采が送られる中、『スキル』を解除したミナトは、既にリヴェリアと合流しているフィン達の元へと向かった。

 

「.....他のヤツらは無事なんだろうな」

「ベートが心配してる、めっずらしー!」

「うるせぇ!あいつ等が荷物を守ってねぇと深層(ここ)から帰れねぇだろうが!変な勘違いしてんじゃねえ!」

「こらこら、君たち2人はすぐ喧嘩しない」

 

恒例のように噛み付き合うティオナとベートが言い争いを始め、ミナトがそれを止めようしてる中、弛緩した空気が流れ出していた。くっついて離れないティオネとフィン、へたり込むラウルを背中に担ぐガレス、そして笑顔のレフィーヤ。全員五体満足で、張り詰めていた彼等の表情は和らぎかけている。仲間の姿を見回したアイズは野営地の様子を確かめようと、一枚岩の方角に振り返ろうとした、

 

その直後、

 

『ーー!!』

 

木をいっぺんにへし折る爆砕音が届いた。誰もがその方角を振り仰いだ。それぞれの武器を再装備し、臨戦態勢へと移る。やがてアイズ達の視界に、それは現れた。

 

「...あれも下の階層から来たっていうの?」

「うそでしょ....」

「人型.....?」

 

芋虫を彷彿(ほうふつ)とさせる下半身は変わらない。ただ上半身は滑らかな線を描き、人の上半を模していた。そのサイズは先程までの大型個体よりも、更に一回り大きい。

 

「あんな、でかいの倒したら....」

 

とてつもない量の腐食液が飛び散る。

 

「あの巨体じゃと、魔石を狙い撃つのも難しそうだのう」

「そもそもどこに埋まってんだよ」

 

ガレスが被っている(かぶと)をクイッと持ち上げ、ベートは苦々しそうに言葉を吐き捨てる。

 

『.....』

 

おもむろに、女体型のモンスターが動いた。その4本の腕を、優しく広げる。舞う光、虹のように輝く粒子。大量の鱗粉が撒き散らされ、アイズ達のもとに漂ってくる。第1級冒険者達は直感に従い、直ぐにその場から退避する。

 

間を置かず、無数の爆発が連続した。

 

「きゃあああああああ!?」

「ぐっ....!」

 

散乱して残っていた腐食液ごと、地面が爆砕される。レフィーヤの甲高い悲鳴が響き渡り、凄まじい熱気が頬を叩く。

 

「総員、撤退だ」

 

フィンが告げた。ばっと多くの目が振り返る中、彼は油断なく女体型を見据える。

 

「速やかにキャンプを廃棄、最小限の物資を持ってこの場から離脱する」

「おい、フィン?!逃げんのかよ!」

「あのモンスターをほっとくの?!」

 

ベートとティオナが噛み付く。第1級冒険者としてのプライドが、何より都市最大派閥(ロキ・ファミリア)としての誇りと責任が、目の前にいるモンスターを野放しにすることを許さない。

 

「僕も大いに不本意だ。でも()()()()()()()()()()()()、かつ被害を最小限に抑えるにはこれしかない」

 

これから言い渡すことを忌むように。フィンは表情を消して金髪金眼の少女へと向き直った。

 

「アイズ、あのモンスターを討て」

 

小人族(パルゥム)の少年は彼女の顔を見上げながら言った。

 

「待ってください、団長?!」

 

誰よりも早く、レフィーヤが叫ぶように声を上げる。

が、再び爆音がなり、振り向けば女体型のモンスターが、こちらに向かって進行してきていた。

 

「....時間がない。ラウル、他の皆にも撤退の合図をだせ」

「ちょ、ちょっと待ってよ、フィン!?なんでアイズ1人だけなの?!あたしも行くよ!」

「女に(ケツ)を守られるなんて冗談じゃねぇぞ!?」

「団長、私からもお願いします。ご再考を」

 

先程の爆発に吹き飛ばされかけてもなお、しつこく食い下がろうとしたティオナ達は、しかし、次の言葉で完全に反論を封じ込められた。

 

「二度も言わせるな。()()

 

冷酷な暴君のごとき威圧が彼女達にふりかかる。

その小さな背中にもう誰も逆らえなかった。何も言えず俯いていると

 

「それに、何も()()()1()()とは誰も言ってない」

 

ティオネ達の顔色が変わる。まさか、と

 

「ミナト、頼めるかい?」

「もちろんです、アイズは俺がしっかり守りますよ」

「そういう事だ。皆、撤退準備を始めろ」

 

誰もがフィンの指示に従い、撤退の準備に入る。その中でただ1人、レフィーヤだけがその場に残った。その細い方を震えさせ、最後まで自分もと、その場に残ろうとする。

 

「レフィーヤ.....大丈夫だから」

「....」

 

アイズがレフィーヤと入れ違うように前へ出て、とんっと、優しく少女の肩に触れる。

 

「....っ」

 

エルフの少女は一瞬時を止めた後、じわっと目尻に涙を浮かべ、ティオナ達の後を追う。この場から去っていく後ろ姿をアイズは黙って見つめ、すぐに前を向いた。

 

「すまない、アイズ、ミナト」

「ううん」

「問題ありません」

 

派閥の首領として時には非常さを求められるフィンが、このような場で謝るのは珍しかった。恐らくは、半日前にアイズへ説いた責務の話と、今の指示の話が乖離(かいり)していることを、彼自身割り切れていないのだろう。

 

「フィンさん。あなたはロキ・ファミリアの()()です。だからこそ、その決定に対する後悔を部下に見せてはいけない」

「ミナト.....」

「あなたは、【勇者(ブレイバー)】。なら、俺達に勇気をください。団長としての謝罪ではなく、激励こそ、俺達が今、この場で欲しい言葉ですよ」

 

ネガティブな考えも時には必要だろう。しかし、それを、組織内で最も影響力のある(フィン)が言ってはいけない。それは全体の士気に関わる。普段のフィンならばこのような醜態を晒すことは無いが、自分の中での葛藤(かっとう)が、彼を迷わせているのだろう。そんな胸中を察し、ミナトは厳しくも愚直に、先達へ願いを()う。

 

「そうか...」

「はい」

 

顔を上げたフィンの顔にもう迷いはない。後は組織のトップとして、2人に言葉をかけるだけ。

 

「アイズ、ミナト、頼んだよ」

「「うん(了解しました)」」

 

そう言い残し、自身もすべき事のため素早くその場を後にした。

 

「さて、アイズ」

「?」

「久しぶりの共闘(タッグ)だね」

「あ....!」

 

密かに想っている自分の憧憬、ミナトからの言葉に少女は、こんな時にも関わらず頬を染める。先程までの緊張が嘘のように消え、今度は恥ずかしさが込み上げてきた。目の前の青年と目を合わせると、何やら少しニヤニヤしている。困惑するアイズ、どうして笑っているんだろう。

 

「どうやらリラックス出来たみたいだね。さっきまでは少し顔が強ばってたよ?」

「......っ!?」

 

更に顔に熱が増す。恥ずかしさで頭が一杯になった少女は、手に持つ《デスぺレート 》を離し、ミナトの胸あたりをポコポコと叩いた。「いたた...」。そう言いながらミナトはアイズのなすがままにされる。

 

「.....(ぷい)」

「ハハ....ごめんね?」

 

からかわれて若干()ねた少女の機嫌を伺うように謝る。

 

 

『ーーーーーーーッッ!!!!』

 

微笑ましいやり取りだったが、それを許さない者がいる。見れば女体型モンスターが2人の方へと近づいて来ていた。

 

「さて、おふざけはこの辺にして。準備はいいかい、アイズ?」

「ミナトこそ...あんまり油断してると怪我するよ?」

「それだけ軽口が叩けるなら大丈夫そうだね」

 

二つの金色の背中が女体型の前に(たたず)む。

 

「いくよっ!」

「うん....!」

 

今回の『遠征』、最後の正念場を、2人の冒険者が乗り越えようとしていた。

 




次回、ベル君出てくるかなぁ....
微妙なラインなんだよぉぉ

出したいな
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