先程、去り際に返された《 デスぺレート》を装備し、まずはアイズが、女体型のモンスターと対峙する。地を
「【
風がアイズに付与される。ヒュンッと、アイズは愛剣は振り鳴らした。
『ーーー!』
女体型が震える。
呼び出された風に反応するように、アイズだけを標的と見なし、その上半身を
「(誘い出さないと)」
「(ん〜、攻撃の規模が大きいな....、まずは見晴らしのいい場所に移動させるか)」
フィンに指示された通り、まずはティオナ達が撤退するための時間稼ぎが優先だ。同時に、こちらに有利な地形へと敵を誘導する。
「とりあえず、場所を移そうか」
「うん」
連射される腐食液を躱しながら、女体型の懐に潜り込む。接近を許さないと言うばかりに、アイズ達とモンスターとの間から、黄緑の触手が飛び出してきて、2人に襲いかかる。
『ーーーーーッ!?』
無数の銀の線が、触手を粉々に斬り刻む。【
「さて、少し大人しくしてもらうよ」
いつの間にか女体型の足元へ
「【飛雷神】!」
女体型の視界が変わる。岩場の多かった所から、先程、【ロキ・ファミリア】が芋虫型モンスターと戦い、その余波によりほぼ更地になった場所へと
『ーーーーーーッッ?!!』
「これで見やすくなった。さ、反撃だ、
「っっ!!」
『!』
空気を切り裂くかのように女体型へ肉薄する金色の少女。彼女に4枚の腕が、女体型の胸の前でバツ印を作るように、大振りされる。直後、目を疑うような
『ーーー』
周囲一体を吹き飛ばす規模だ。女体型に近づきすぎたことで、離脱が間に合わないと判断し、風の鎧を全身に張り巡らせ、防御を固める。すぐに、爆発と轟音が彼女に襲いかかった。
「簡単にはやらせないよ」
『ケッ...!』
爆発が落ち着き、周りをよく見ると、朱色の魔力が少女を包み込むように覆っていた。
「今度こそ....!」
すぐさま武器を構え直し、再び駆ける。
『!!』
接近するアイズに2枚4対の腕で迎撃しようとするモンスター。距離を詰めれば、自分を巻き込んでしまうのか、爆粉は使用してこない。右、左、的を絞らせないように薙ぎ払いをやり過ごし、遂に懐に侵入、まずはその短い多脚を狙う。しかし、敵の反応速度も高かった。4枚の腕の内、下部に着いている腕を伸ばし、アイズの攻撃を防御する。
「(スキが、無い?)」
その図体からは想像できないほど
「.....っ!」
魔法を行使して剣により強く風を付与し、モンスターの攻撃を打ち払い、防ぐ。
「前に気を取られすぎだよ」
『ーーーーーッ?!』
悲鳴とともに女体型の後ろ脚が
それでも
「風よ」
「(爆発するまで、3秒かな...)」
何度も目にした爆発。腕から散布されて爆発するまで、3秒。つまり3秒以内に風で爆粉を吹き飛ばせば、被害を
(「いいかい、アイズ。どんな敵と戦う事になっても、決して敵の詳細が分かるまで深追いしちゃいけないよ。モンスターは常に俺達を殺そうとしてくる、どんな手を使ってもね。命のやり取りに置いて、敵を知ろうとしないのは二流のする事。だからこそ、まずは情報収集に徹して、敵を分析する、そうすれば攻略方法も見えてくる。君ならそれができるはずだよ」)
かつて
『ーー!』
女体型のモンスターにとって、風の魔法を使うアイズは天敵と言っていい。本来防御不可能の腐食液や爆粉、多くの冒険者にとって脅威たるその能力は、彼女の風によって全て無効化される。フィンは全てを見越して、アイズに女体型の討伐を、同様に女体型の攻撃をやり過ごすことができるミナトに、彼女の援護を命じたのだった。
やがて、遥か上空に閃光が 打ち上がる。撤退完了の信号。
『ーー』
モンスターの反応を振り切る。先程までとは比べ物にならないほどの加速から敵の右脇を抜きさり、多脚を横一線。まとめて断ち切った。
『?!』
片足の脚を全て失い。バランスを失うモンスター。さすがに疲労が溜まってきたのか、先のように触手で体を支えようとはしない。代わりに、右手へと傾く巨体を咄嗟に同じく右側の2枚の複腕で支える。アイズの動きは止まらない。モンスターの背中を駆け上がるようにして跳躍、そして背後にそびえていた一枚岩、その上部壁面に、脚を置く。
「【
最大出力。もはや小さな台風と化した風の大気流を全身に纏い、アイズは剣を溜める。繰り出すのは自身の最強攻撃。
『アイズたんっ、必殺技の名前を唱えれば威力は上がるんやでー?!』と、
「リル・ラファーガ」
主神命名の一撃必殺を唱え、アイズは風の矢となった。閃光のごとく、神速の勢いで急迫するアイズに、モンスターは直前のところで反応し、空いてる左側の複腕を重ねて盾とする。
『!!』
風を纏い突き出された剣突は、一瞬の抵抗も許さなかった。
『ーーーーーーーーーーーー』
盾ごとまとめて女体型の体が穿たれる。大きな風穴を開けられたモンスターは、硬直し、瞬く間に全身を膨張。膨れ上がった体は一気に四散し、桁外れの大爆発が起こった。
「まったく、俺がいたから良かったけど」
「......ごめん」
既にアイズは爆心地から遥か離れた場所にいる。
「自分の身を守ることを忘れかけるなんてね」
「...ごめん、なさい」
ミナトは先程の大爆発を見越し、女体型が膨れ上がると同時にアイズの元へ駆けつけ、即座に【飛雷神】で飛んだ。あれほどの規模の爆発を爆心地付近でモロに受ければ、いかに風の鎧があったとして危なかっただろう。
「お説教は帰ってから。さ、ティオナ達と合流するよ」
「うん...」
魔法を酷使したために、ふらつくアイズに肩を貸し、ゆっくりと歩き出す。道中、ところどころ先程の爆発の影響によって地面がえぐれていた。
「(新種の女体型モンスター。
階層主に匹敵するほどの巨躯、全てを溶かす溶解液、神出鬼没の触手、そしてなによりあの爆粉。2人が上手く倒せただけであって、他の冒険者には荷が重い。戦いの余波で荒れた場所を見て、ミナトは思考する。
「(あの芋虫型と言い、女体型。なにか嫌な予感がする)」
「ミナト...?」
『『『ーーーーーーッッッ!!!!!』』』
突如、突き刺すような
「っっ!?」
既にアイズは満身創痍。魔法の酷使により、体中が悲鳴をあげていた。それでも自分は冒険者、【ロキ・ファミリア】所属の第1級冒険者。その肩書きに恥じぬため、再び《デスぺレート》を構え、女体型と向き合う。
「仕方ない....」
『やるのか....?』
「久しぶりにね」
『隣のガキを巻き込まねぇようにするのは面倒だぞ』
「一撃で決める。アイズに怪我はさせない」
『
「ああ、ありったけでいくよっ!」
貸してた肩をそっと離し、少女をすぐ側に下ろす。
「え....?」
当然アイズは混乱するが、ミナトの体から朱色の魔力が溢れ出したことで、すぐに言葉を失う。吹き出る魔力は次第に形を造り上げていく。凄まじい速度で大きくなっていくその姿は、女体型モンスターの巨躯に並び、そして、完全に
『何年ぶりだ?尾獣化するのは』
少女の目に映るのは巨大な
「時間が無い。行くよ、九喇嘛!」
『なまってねぇだろうな!』
『『『ーーーーッ!』』』
九尾の口が開く。目の前の存在に圧倒されていた女体型達は、その動作を機に、一斉に襲いかかる。爆粉、腐食液、触手と、極彩色の驚異がミナト達に降り注ぐ。
『フンッ』
一閃
『『『ーーーーー!!』』』
ただの一閃。尾を纏めて横に薙ぎ払っただけで剛風が発生し、爆粉も腐食液も、何もかもが吹き飛ばされ、モンスター達の方にまで余波が届く。多大な空気抵抗をその身に受けた3体は、全員体勢を崩した。
「凄い....」
2本の尾に守られているアイズは、尾の隙間から見えた光景に息を飲む。かつて、その背を追いかける決心をするきっかけとなった
「.....」
あまりにも遠い。本当に自分は追いつけるのか、
『『『ーーーーーーッッ?!』』』
突如モンスター達が怯むように声を上げた。ハッとなって顔を上げると、九尾の口元に、視認できるほどの
そして、
ミナトと九尾が、構え、言い放つ。
「『尾獣玉ァ!!!!!』」
名とともに放たれた膨大な魔力の塊は、瞬く間にモンスター達のところまで接近する。先頭にいた女体型に触れた次の瞬間。先程アイズが仕留めた一体が、死に際に放った爆発を遥かに越す規模の大爆発が発生する。超巨大な衝撃波による砂埃と轟音により、一瞬で視界と聴覚を奪われた。
「.....う、そ.....」
砂埃が晴れ、ようやく復活した目に映ったのは、
「ふう」
『....こんなところか、ワシは寝る』
「ああ、助かったよ」
朱色の巨体を構築していた魔力が開放され、霧散していく。数秒後には地面に降り立ったミナトだけになっていた。よく見れば肩で息をしている。あれほどの魔力を使用したのだ、疲れない方がおかしい。
「怪我はない?」
「....」
アイズに声をかけるが、夢のような光景にを見せつけられ、言葉を失っている。反応がない。少女の肩に触れ、名を呼ぶと「....ッ!大、丈夫...」。そう零れそうな声音で返事が帰ってきた。
「行こうか」
「うん.....」
2人の足取りは、どこか揃ってないように見えた。
「アイズさんっ?!」
レフィーヤの悲鳴が弾ける。視線の遥か遠くで巨大な火球のドームが形作り、周囲一帯のものを吹き飛ばした。モンスターの自爆を避けるために、十分な距離を離した上でアイズ達の戦闘の行方を見守っていた彼ら【ロキ・ファミリア】のところまで爆発の余波が届いく。押し寄せる熱風と衝撃に誰もが目を覆った。
「アイズ、ミナト.....」
爆発の余波で顔を赤く焼かれながら、ティオナは先の光景をじっと見つめる。次の瞬間、彼女の目は見開かれた。割れる炎の海。僅かに見える2つの人影。燃え盛る炎を背にしながら、金髪金眼の少女と金髪碧眼の青年が、肩を寄せ合いながらゆっくりと帰還してくる。
2人を大歓声が包み込んだ。
金色の少女の顔には少し雲がかかっている。
区切りがいいので、ここまで!
ベル君には次回出演してもらいます。