黄色い閃光inダンジョン   作:いちごぎゅーにゃー

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やっとベル君登場

逃げろ兎ちゃん!


簡単に手に入らないものが心繋いでいく

【ロキ・ファミリア】が今、進んでいるのは岩窟(がんくつ)だった。むき出しの岩石から造られる通路は無秩序に張り巡らされた横穴の他にも縦穴が存在し、天然の洞窟と言える。壁面上部に僅かに灯る明かりが、薄暗い迷宮内を照らしている。

 

ここは深層より遥か地上に迫った中層域、17階層。

 

「まだまだ暴れ足んないよ〜」

「しつこいわよ、あんた。いい加減にしなさい」

 

50階層で繰り広げた戦闘の後、【ロキ・ファミリア】は未到達階層の開拓を諦め、地上への帰還に行動を切り替えていた。つまるところ、今回の『遠征』は中断したことを意味している。ぶーたれるティオナを、ティオネがたしなめている。

 

「団長が何度も説明したでしょ?あのモンスターにやられて武器が心もとないって」

「素手で戦えばいいじゃん....」

「あの芋虫に素手で触れたらどうなるか、馬鹿なあんたでも分かるでしょうに」

 

50階層での防衛戦で、ほとんどの武器を使い捨ててしまった。装備が無ければモンスターとの戦闘に支障が出る。ましてや、あの新種達に素手で挑むなどもってのほかだ。

 

「う〜っ、悔しい〜。せっかく苦労して50階層まで行ったのにー」

 

フィンの采配から、深層からの退却を実施して既に6日。何度も何度も同じ内容で論破されているティオナは頭の後ろで手を組んだ。装備品を何も所持していない彼女は、隣でてくてくと歩くアイズを羨ましそうにみる。愛剣を腰に下げる少女は、ティオナの視線に気づいて首を(かし)げた。

 

「あのモンスターのせいで....結局何だったの、あれ?」

 

振られた質問に対し「わからないわよ」とティオネが肩をすくめる。

 

「新種のモンスター、としか言えないでしょう 」

「そうだね。未確認のモンスターで間違いないと思うよ。....変なところもあったけどね」

 

言いつつ、ミナトは腰のベルトに着いているポーチに手を伸ばし、モンスターの『魔石』を取り出した。

 

「もしかしてあのモンスターの魔石?ミナト、どうやって見つけたの?」

スキル(九尾)でちょっとね」

 

芋虫型は例外なく、倒した後は漏れ出す腐食液で時間をかけて全身を溶かした。体内にある魔石も同様に。あれだけの数を苦労して撃破したにもかかわらず、ティオナ達は1つの魔石も回収出来ていない。溶解することを無視できる戦法を取ったミナトだけが、魔石を入手していた。

 

「わ、何それ。変な色」

「ええ...普通の魔石とは少し違うわね」

 

魔石の色は一様に紫色だ。ミナトの手にある小石大の魔石は、中心が極彩色、残る部分は紫色と見たことの無い輝きを放っている。

 

やがて、一行は広いルームに辿り着く。深層域とは比べ狭い道幅の関係で、【ロキ・ファミリア】はこの17階層に上がる前に部隊を2つに分けていた。あまり大勢で一度に動くと、モンスターの襲撃等に対応出来ないからだ。リヴェリアが率いるこの前行部隊は、ティオナ達も含め十数人ほどの団員達が固まっている、フィンやガレスは後ろの部隊だ。遠征の帰り道ということもあって、団員達、特に荷物を運搬するサポーター役達の疲労は色濃い。

 

「リーネ、少し手伝おうか?」

「えっ?あ、だ、大丈夫です!?」

 

眼鏡をかけたヒューマンの少女にミナトが声をかけると、滅相も無いと即座に断られた。第1級冒険者に荷物持ちなど任せられない、そんな意識が見て取れる。派閥の幹部を務めているミナトには、その強さと容姿から、ほとんどの団員達がこのような(かしこ)まった態度をとる。

 

「やめろっての、ミナト。雑魚(そいつら)に構うんじゃねえ」

 

一部始終を見ていたベートが声を挟んだ。180センチを越す長身の持ち主で、特にその引き締まった足はスラリと長い。左側の額から顎にかけて青い刺青(いれずみ)が刻まれており、その端正な顔立ちに荒々しい印象を上塗りしている。

 

「それだけ強えのに、まだ甘いこと言ってんのか、お前は。弱ぇ奴らに構うだけ時間の無駄だ、間違っても手なんて貸すんじゃねー」

「...」

「精々見下してろ。強いお前は、お前のままでいいんだよ」

 

鼻を鳴らしながら口を吊り上げるベートに、ミナトは沈黙する。彼は【ロキ・ファミリア】でも典型的な、いや、過度とも言える実力主義者だ。自分よりも先を歩き(レベル6)、同年代でも最高クラスのミナトのことを一目置いている節がある。

 

「ベート、君の言う強者の意味を、俺は理解しているつもりだ」

「...」

「弱い、いや、まだ未熟なだけ。()()()()()()()()だけ。そんな彼女らを叱咤(しった)する君の気持ちは分からないでもない」

「うるせぇ...」

「あまり()()()()()()のも考えものだよ、ベート」

「....ちっ、抜かしてんじゃねぇ...」

 

悪い人ではない。2人のやり取りを見ているアイズはそう思っている。意見の食い違いからよく真剣な口論に発展するリヴェリアが言っていたが、「誤解を招くことに関して、あいつ(ベート)の右に出る者はいない」という皮肉らしき言葉を聞いたことがある。

 

「ミナトほっときなよ、ベートの言うことなんか聞いてたら偏屈になっちゃうよー」

「くたばれ、クソ女。てめぇこそあいつ等の雑用を引き受けてろっての。手ぶら(武器なし)だろ、間抜け」

「うるさぁーいっ!?」

 

言ってる側から口喧嘩を始めるベート達だったが、すぐに、その言い争いは途切れることになった。

 

『ヴヴォォォォォォォォォォッッ!!』

 

目の前の通路から牛頭人体のモンスター、『ミノタウロス』の群れが現れた。

 

「ほら、ベートがうるさいから『ミノタウロス』が来ちゃったじゃん!」

「関係ねぇだろっ。馬鹿みたいに群れやがって...」

「リヴェリア、私達がやっちゃうよー?」

「ああ、構わん。ラウル、後学のためにお前が指揮を取れ」

「は、はい!」

 

今この場にいる団員と『ミノタウロス』とでは、その『ステイタス』に隔絶した差がある。【ロキ・ファミリア】ほどの大派閥であれば、まず遅れは取らないだろう。が、今回は数が数だった。ティオネの申し出からアイズ達も戦線に加わる。

 

『ヴォォォォォォォ!』

 

その後の戦闘の流れは、誰もが予期せぬ方向へと転がった。あっという間に半分ほどのミノタウロスを返り討ちにした時。戦力差に怯えたのか、1匹のミノタウロスがアイズ達に背を向けた。その個体が合図となったかのように、残っていたモンスター全てが足並みを揃え、一気に、集団逃走を始めた。

 

「ええっ!?」

「お、おいっ!?てめぇ等、モンスターだろ!?」

 

我先にと、物凄い勢いでモンスター達がルームを飛び出し、通路の奥へ消えていく。

 

「いけない!」

「追え、お前達!!」

 

いの一番にミナトが駆け、動揺を抑え込んだリヴェリアの号令が飛ぶ。

 

一回層、また一回層。ミノタウロスの暴走は破竹の勢いとばかりに続いた。各階層を出鱈目(でたらめ)に走り回り、アイズ達の追跡を撹乱(かくらん)していく。散らばったモンスターを処理するため、1人、また1人と団員達が追跡隊から姿を消していく。6階層へと到着する頃には、既にミナトとアイズ、そしてベートしかミノタウロスを追う者は残っていなかった。

 

「ひぃ!?」

「どけぇ!」

 

今にも冒険者に襲いかかろうとしていたミノタウロスを間一髪ベートが倒す。彼らのいる『上層』は地上に最も近い階層域だ。ミノタウロスに襲われたらひとたまりもない、そんな初心者(ルーキー)達の領分でもある。もはや犠牲者がいつ出てもおかしくない状況になっていた。

 

「まずい、1匹見失った...っ」

 

ミナトも別のミノタウロスの撃破に成功するが、残る最後の1匹を取り逃してしまう。

 

「こっちだ、来い!」

 

狼人(ウェアウルフ)の嗅覚は、他の獣人の比べても一段と優れている。ミノタウロスの残り香を突き止めたのだろう。1つ上の5階層に駆け上がり、辺りを見渡すと、

 

『ヴォォォォォォォ!!』

「ほぉあああああああああああああっ?!」

 

悲鳴が聞こえた。

 

「っ!」

 

声の1番近くにいたアイズが誰よりも速く駆け出し、叫び声と咆哮が交差する方向へと身を馳せる。ミノタウロスと襲われている人物はすぐに見つかった。処女雪を連想させる白い髪。涙が零れ落ちかけている深紅(ルベライト)の瞳。まるで兎のような外見を持つ、ヒューマンの少年。

 

「ド素人じゃねえか!?」

「っ!?彼は確か...」

 

装備する貧相な防具は一目で初心者用とわかる。逃走一つ取っても動作の節々から(つたな)さが(うかが)えた。

 

駆け出し中の駆け出し。あの兎はミノタウロスにとっては餌にしかならない。足に力を込め、全力で踏み出す。

 

「え?」

『ヴッ?!』

 

少年とミノタウロスの間の抜けた声。背後から神速の斬撃を胴体に見舞い、手を止めず無数の線をモンスターの全身へ刻み込む。

 

『ヴゥモォォォォォォォ?!』

 

原型を留めていた巨体が、木っ端微塵となる。断末魔と共に血しぶきを上げながら、ミノタウロスはいくつもの肉の欠片となって崩れ落ちた。そして、少年と少女の目と目が合う。

 

「....大丈夫ですか?」

 

正面から見下ろす格好のアイズの問いかけに、少年は身じろぎ一つさえしなかった。言葉を失ったように、アイズのことを静かに見上げてくる。少し戸惑った彼女は、もう一度尋ねてみる。

 

「あの....大丈夫、ですか?」

 

返事は返ってこない。困り果ててしまったアイズは、座り込む少年のことを改めて見つめる。ミノタウロスの血を浴びてしまった体は真っ赤に染め上がっており、こちらにとてつもない申し訳なさを与える。アイズを見上げる顔を熟れていくリンゴのように、じわじわとその肌を赤めさせていた。少年の様子を心配に思ったアイズは、剣を鞘に収め、手を差し伸べる。

 

「立てますか?」

 

なにか言おうとしていた少年の唇が、ぴたっと止まった。すると、瞬く間に耳や首、肌という肌が紅みを帯びていく。

 

「だっ、」

「だ?」

 

彼女に首を傾げる暇も与えず、少年は跳ね起きる。次の瞬間。

 

「だぁああああああああああああああああ?!」

 

全速力でアイズから逃げ出した。

 

「(.....え?)」

 

ポカンと、アイズは目を見開いて立ちつくす。逃げ去った通路の奥から少年の奇声が反響してくる中、彼女はめったにしない呆けた表情を作った。

 

「.....っ、....くくっ!」

 

後ろを振り返れば、震える体を必死に抑えるようにして腹を抱えるベートが、堪えながらも笑いを零していた。

 

「.......」

 

頬を赤らめたアイズは、歳相応の少女のように。きっ、と目の前で笑う青年を睨みつけた。

 

 

 

 

「(間違いない、彼は()()が担当する新米冒険者の子だ。これは申し訳ないことをしてしまったかな...)」

 

立ちつくすアイズ、体を震えさせているベート。その2人の後方にいるミナト。襲われていた新米冒険者の少年。彼が自分の知己である女性のギルド職員、彼女がつい最近話していた新しい担当冒険者の子であると理解し、バツの悪そうな顔で少年が走り去って行った方向を眺める。

 

「(()()に彼の所属ファミリアを聞いておくか...)」

 

紆余曲折はあれ、アイズ達の長い遠征は、こうして幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと帰ってきたぁ....」

オラリオ北部、北の目抜き通りから外れた街路沿い。周囲一体の建物と比べ圧倒的に高い、巨大な館が建っていた。

 

【ロキ・ファミリア】本拠(ホーム)、黄昏の館。

 

「あー、疲れたー、お肉たくさん食べたーい」

「私は早くシャワーを浴びたいわね」

「あはは...」

 

アマゾネス姉妹の言葉にレフィーヤが苦笑する。ダンジョンから帰還したアイズ達はホームを目前にしていた。30人規模の一団がそれぞれの物資を抱え、あるいは引きずりながら、正門の前に到着する。フィンは門番の2人に声をかける。

 

「今帰った。門を開けてくれ」

 

フィンの言葉を受け開門される。彼を先頭にアイズ達はぞろぞろと敷地内に足を踏み入れた。

 

「ーーーおっかえりぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

アイズ達の入門を見計らっていたかのように、館の方から走り寄ってくる影があった。朱色の髪を揺らす彼女は真っ先にアイズ達女性陣のもとへ突き進んでくる。

 

「みんな無事やったかーっ?!寂しかったー!」

 

飛びついてくる彼女を、ひょい、ひょい、とアイズ達がすんなり回避する。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ?!」

 

最後尾にいたレフィーヤはとばっちりに合い、悲鳴をあげながら抱きつかれ、押し倒された。

 

()()、今回の遠征での犠牲者は無しだ。到達階層を増やすこともできなかったけどね。詳細は追って報告させてもらうよ」

「んんぅ、了解や。おかえりぃ、フィン」

「ああ。ただいま、ロキ」

 

目の前でエルフの少女に抱きつく彼女こそが【ファミリア】の主神、ロキだ。

 

「ロキー、レフィーヤが困ってるから離れてくんなーい?疲れてるしさー」

「おおぅ...すまんレフィーヤ。感極まって、ついなぁ」

「い、いえ....」

「ところで...ちょっとおっぱい大きゅうなった?」

「な、なってませんっ?!」

 

ぐふふと、ゲスな笑みを浮かべる己の主神に、レフィーヤは真っ赤になって叫ぶ。ロキには女神でありながら女好きという厄介な性癖があった。彼女の勧誘を通して今の規模に至った【ロキ・ファミリア】は、男性はともかく、美女美少女ばかりの女性構成員は大いに彼女の趣味が反映されている。

 

それでも、そんなロキの振る舞いが、自分の家に帰ってきたと、誰もが疲労に滲む表情を緩めさせた。

 

「アイズも、お帰りぃー」

「ただいま、ロキ...」

 

「ん、体ちゃんと休ませなあかんよ?」

「....」

 

全て見透かしているような朱色の神の瞳は、それ以上何も言わなかった。押し黙るアイズに一笑し、背を向けて、今度は男性陣の方へ足を運ぶ。

 

「ミナトは今回も無傷やんなぁ」

「これでも今回はいっぱいいっぱいだったよ、怪我をしなかったのは運が良かっただけさ」

「いつも同じ言葉(セリフ)言ってるやろ、自分?!」

「そうだったかな」

「まあ、ええわ...とりあえず、おかえりぃ」

「ただいま、ロキ」

 

(ミナト)を幼少期の頃から知るロキは、本当の母のように彼を労う。ミナトもまた、『遠征』では決して見せなかった柔らかい表情で彼女の言葉に返事をする。

 

「ああ、そうだ」

「どしたん?」

「部屋に戻って落ち着いたら、少し()()()の所に行ってくるよ」

管理機関(ギルド)かぁ、明日じゃダメなん?」

 

まずは疲れを落としてからにしないか、そう瞳に込めながらロキが言う。

 

「ダンジョンで少し思うところがあってね。なるべく早く済ましたいんだ」

「ならしゃーないなぁー、エイナたんによろしくなぁ」

「ちゃんと伝えておくよ」

 

会話を終わらせると、他の団員達と同じように館の方へと歩き去っていった。

 

「(ムフフ...あの堅物(ミナト)がここまで入れ込むとはなぁ。これは弄りがいのあるネタやで!)」

 

細めがちな瞳は今は弓なりに曲がり、その端麗な顔立ちとともに相貌を崩している。下界の者の羨望である完璧に整った顔の造作も、今ばかりは目を背けたくなるほど醜い。この後の夕餉(ゆうげ)でからかわれること間違いない。哀れなり、ナミカゼ・ミナト。




そんな訳で、エイナさんに決定させて頂きました。色々な意見を下さった方々、本当にありがとうございました。

美人、包容力、怒るとまじ怖い。エイナさん、あなたが今作のヒロインです。
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