黄色い閃光inダンジョン   作:いちごぎゅーにゃー

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書いてたら長くなってしまった...


理想と闘争心の手綱を締め引寄せてく

【ロキ・ファミリア】拠点(ホーム)「黄昏の館」

 

食堂は大変混み合っており、椅子と椅子の間を通って移動するのも一苦労だ。遠征直後で騒ぐ元気は無いが、待望の酒食をむさぼる団員達は絶えず賑やかであった。同行せず残った居残りに今回の遠征の武勇伝を聞かせたり、どのテーブルでも会話が弾んでいた。

 

「ティオネー。この後って打ち合わせとかあるの?」

「団長が今日は休むように、ですって。また明日からよ」

「さっすがフィン!」

 

食べ終えた者から食器を片付けて大食堂から出ていく中、酒を飲んでいたロキが、思い出したように立ち上がる。

 

「忘れとった。今日中に【ステイタス】更新したい子は、うちの部屋まで来てなー。今日は先着10人で!」

 

気まぐれな神らしい提案だった。ロキの方を振り返っていたレフィーヤは、アイズ達の顔を見る。

 

「皆さんはどうしますか?」

「私はやめとくわ。ゆっくり寝たいし」

「あたしはどうしよっかなー。やる事もないけど、【ステイタス】がぐーんと伸びるほど稼いだ気もしないし...気が向いたらかな。レフィーヤは?」

「私も今日は...」

「アイズは...聞くまでもないわね」

「うん」

 

ロキがいつの間にか消えてることを確認した彼女は、レフィーヤ達に断りを入れ、その場を後にする。

 

塔の集合体からなる「黄昏の館」において、ロキの私室は他の塔に囲まれた中央塔。その最上階にある。備え付けられている階段を上り、部屋の前に来たアイズはドアを軽くノックした。室内は主に酒類が散らかっており、色々な物で溢れかえっていた。

 

「よし。えーよー」

 

ロキは言葉通り準備を終えた。ついでに手招きをし、アイズを丸椅子に座らせる。

 

「やっぱりアイズたんが1番乗りやなー。みんなも遠慮しとるんかなー」

「そう、なんでしょうか...」

「自分からコミュニケーションや、それで確かめてみぃ。ほな、服脱いで」

 

背を向けた彼女は、言われたと通りに上着を脱いだ。何の跡もない、きめ細かい瑞々しい背中がロキの眼前に晒される。

 

「ふひひ、うちちょっと酔うてるから、手を滑らせてしまうかもしれん...!」

 

わきわきと(うごめ)くロキの両手。自身に迫る不穏な気配に、アイズは拝借していた短剣を、キンッと鳴らした。

 

「あ、もう酔い覚めました。大丈夫です」

「早くしてください」

「あ、ハイ...」

 

冷や汗を流すロキは直ちに作業に取り掛かる。小針を人差し指の腹に指す。赤い血を浮かび上がらせると、アイズの背中、首の根元あたりに触れる。

 

(ロック)はかけとるけど、無闇に背中を許したらあかんよ?」

「はい」

「ま、アイズたんの場合、心配するだけ無駄やな」

 

アイズを退屈させないよう、口を動かしながらロキは作業を進める。

 

「ん、おしまい。紙に書くから待っとってな」

「分かりました」

 

アイズの背から、手元の羊皮紙に意識を向け、羽根ペンで更新した【ステイタス】の概要を記していく。

 

「ほい」

 

ロキから羊皮紙を受け取ったアイズは視線を走らせた。

 

 

 

 

アイズ・ヴァレンシュタイン

Lv.5

力 :D549→555

耐久:D540→547

器用:A823→825

敏捷:A821→822

魔力:A899

 

 

 

 

「.....」

 

更新された【ステイタス】を見て、アイズは感情を押し殺しながら黙考する。

 

あまりにも低過ぎる。

 

約2週間もの期間、『遠征』を通してあれだけモンスターを倒したにも関わらず、各アビリティの熟練度は全く上がっていない。

 

「(もう、ここが頭打ち...)」

 

上昇値が減少したことから、今のアイズにはもう伸びしろが無いことを理解させる。Lv.5に到達して既に3年。限界という見えない壁がアイズの前に立ちはだかる。

 

「...」

 

これ以上の成長は見込めない。これを変えるにはLv.の上昇。より高次な器へと昇華するしかない。悲願(ねがい)をかなえるために、更なる力がいる。人形のように表情を消し、強い意志を心の奥に秘める。

 

「アイズ...」

 

彼女の横顔を見守っていたロキが、ゆっくりと口を開く。呼ばれたアイズが振り向くと、彼女は静かに口を開いた。

 

「つんのめりながら走りまくってたら、いつか必ずコケる。それを忘れんようにな」

「.....」

「行ってええよ。お休みぃ」

 

微笑むロキから一瞬目を逸らし、「おやすみなさい」と返事だけは返して部屋を出た。

 

自室にへと向かう。ドアを開ける。調度品は少なく、最低限のものしかない。アイズは部屋を突っ切ってベッドに倒れ込んだ。

 

「....」

 

無言のまま、ゆっくりと(まぶた)を閉じる。遠のく意識に身を委ね、そのまま眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こういう日には決まって同じ夢を見る。

 

まだ幼いアイズ、母、そして1人の英雄。3人で過ごす日々が好きだった。いつまでも笑い合いながら幸せに過ごしていたかった。

 

『私は、お前の英雄にはなれないよ』

 

既にお前のお母さんがいるから、と彼は続け、幼い少女の頭を撫でる。

 

『いつか、お前だけの英雄に逢えるといいな』

 

その言葉を最後に、母と英雄は、闇に飲み込まれた。

 

 

泣き叫ぶ少女。何度名を呼んでも2人が帰って来ることは無い。絶望に打ちひしがれる。

 

 

『アイズ』

 

 

それでも

 

 

『ほら、こっちだよ』

 

 

手を差し伸べてくれた人がいた。

 

 

『さあ行こう』

 

 

自分と同じ金色の髪を持つ青年。

 

彼の優しさが、苦しくて、辛い。

 

幼いアイズは泣き出す。

 

 

『大丈夫』

 

 

泣き叫ぶ自分を、何度も何度も抱きしめてくれた。

 

 

自分だけの英雄。

 

 

『俺が君の傍にいる』

 

 

やっと出逢えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....」

 

意識がゆっくりと浮上していく。ぼやけた視界に映るのは夢の続きではなく、見慣れた自室。白いカーテンの隙間からは日の光が差し込んでいる。

 

「アイズー?起きてるー?もう朝食だよー」

 

ややあって、ドアの向こうからティオナの声が届いてきた。どうやら起床時間を寝過ごしてしまうほど、深い眠りについていたらしい。遠征の疲労か、それともあの夢のおかげか。どちらにせよ昨夜までは無かった安らぎは心地よかった。

 

ティオナに返事をして、支度を始めた。

 

 

 

 

 

朝食を終えて、アイズ達は遠征の後処理をすることになった。ダンジョンの戦利品の換金や、武具の整備もしくは再購入、アイテムの補充など、やるべき事が山積みになっている。量が量なのでほぼ団員全員が出動だ。

 

「夜は打ち上げやるからなー!遅れんようにー!」

 

ロキに送り出され、アイズ達は北西のメインストリートに出た。彼女達【ロキ・ファミリア】は周囲から多くの視線を集めていた。オラリオでも屈指の実力を持つ彼女等の存在は誰もが知るところであり、多くの羨望とやっかみ、畏怖を向けられる。道行く人皆端により、集団で固まる彼女達の道を塞ぐ者は誰1人としていない。

 

「なんかやだなー、こういうの。ベートは喜びそうだけど」

「ベートもそこまで下品ではないぞ、ティオナ。あやつなりに第1級の誇りと自覚を持っておる」

「えー、ガレス、何でベートの肩なんか持つの?絶対嘘だー」

(さげす)むのと増長するのは、あやつの中では違うらしい」

「意味わかんないよー」

 

雑用を押し付けホームで待機している青年の話も挙がる中、アイズ達はメインストリート沿いに建てられたギルド本部の前までやってきた。すると、

 

「あ、あの...っ!ナミカゼさんっ」

 

1人の猫人(キャットピープル)の少女がミナトの元へと駆けてきた。なにやら手に手紙を持っている。

 

「えっと...俺に何か御用ですか?」

「はい!これ、良かったら受け取ってください...!」

 

そう言って手紙を渡すと、彼女は一目散に走り去った。突然現れ、恋文(ラブレター)を手渡し、突然去る。嵐のような出来事にアイズ達はポカンと呆けた顔をする。

 

「今のって...」

「ええ、そういうことよね」

 

調子を取り戻したアマゾネスの姉妹が

 

「...うん」

「またか...」

 

金髪の少女とハイエルフの魔導士が

 

「さ、流石っす!」

「ガハハ」

 

冴えないヒューマンと筋骨隆々のドワーフが

 

「はわわわ.....!」

「やれやれ」

 

エルフの少女と小人族(パルゥム)の少年が

 

「ハハ...」

 

皆、彼に対して視線を送る。堪らず苦笑するミナト。自分のせいではない、とも言いきれない。そのため何も言い返すことができない。今のような出来事は割と良くあることであり、今回は無かったが、フィンと2人でオラリオ中の女性から熱烈なアピールを受けることが日常と化している。

 

 

 

「ミナト君....?」

「エ、エイナっ!?」

 

声のする方向に振り向けば、ブラウンの髪をなびかせたハーフエルフの少女が立っていた。瞳に光が灯ってない。そんな彼女の様子で、事を理解したミナトの背中からはじんわりと汗が滲み出す。

 

「....今、何を貰ってたの?」

「ち、違うんだ!?これはっ、」

「へぇー、言い訳するんだ...」

「誤解だ!?話を聞いてくれっ...!」

「どうしてそんなに慌てているのかな?」

 

何を言っても、どんどん顔に影が差すエイナ。こうなった彼女はしばらくこのままだろう。長年の付き合いから察したミナトは、想い人から向けられる非難の視線を何とか解こうするが、叶わない。

 

 

「あれって、修羅場ってやつ...?」

「そうみたいね...」

「面倒な事になったのう...」

「ハア...」

 

目の前で繰り広げられる痴話喧嘩(修羅場)?を、2人から距離を取っていたティオナ達は先程とは打って変わって、あんまりな責められ方をするミナトに哀れみの目を向ける。年長者のガレスとフィンはこの後の面倒事を予期してか、深いため息をついた。

 

いよいよ涙目になりそうなミナトに、リヴェリアから助け舟が出る。

 

「早まるなエイナ、あの猫人(キャットピープル)の娘はそれ(ミナト)の知人でも何でもない。先程が初対面だ、私が保証する」

「リ、リヴェリア様!?」

 

風習を重んじるエルフは、当然その王族であるハイエルフに対しての敬意も怠らない。ハイエルフとしてエルフの頂点に立つ人物、リヴェリアから話しかけられたら、半分でもエルフの血が流れているエイナは、彼女を無視することは出来ない。

 

「そうなの、ミナト君?」

「あ、ああ...!?誓って彼女と面識はないよ!」

「そっか...私の勘違いだったんだ...」

 

状況を正しく理解し、自分の誤解であったことを自覚したエイナは、目の前で捨てられた子犬のような視線を向けてくる彼に、きちんと目を合わせて謝罪した。

 

「やるじゃないか、リヴェリア」

「あれでは、流石にミナトが可哀想だろう...」

「ミナトすっごくモテモテだしねー」

 

言葉を交わすフィンとリヴェリアに、ティオナが茶化すように言う。

 

「ゆ、許してくれるのかい?」

「私が勝手に勘違いしたんだから、許すも何もないでしょ?」

 

「エ、エイナ...!」と感動したように身を震わす彼をよそに、「でも」と彼女は言葉を続けた。

 

「そもそも!ミナト君が誰ふり構わず優しくするのもいけないんだからね!?」

「エイナっ!?」

「いっつもいっつも、いっつもそう!違う女の人から話しかけられて、鼻の下伸ばしてるんじゃないの!?」

「そ、そんなことは...っ!?」

 

 

その後10分ほどお説教を食らい、仕事だからとギルドの方へ向かっていたエイナから、去り際に「しばらく反省して!」と言われたミナトは、案山子(かかし)のようにその場で立ち尽くしていたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕とリヴェリア、ガレスは『魔石』の換金にいく。みんなは予定通り、各々の目的地に向かってくれ。換金したお金はどうかちょろまかさないでおくれよ?ね、ラウル?」

「あ、あれは魔が差しただけっす!?本当にアレっきりです、団長っ!?」

「ははっ。じゃあ一旦解散だ」

 

ダンジョンで回収した資源はギルドや【ファミリア】に買い取って貰うことが出来る。とりわけ『魔石』の需要は高く、その用途は多岐に渡る。違法取引を防ぐためにも、売買を始めとした権利をギルドが独占している。そのため、『魔石』の換金は例外なくギルドですることになっていた。

 

 

「さ、 私達も行くわよ。ほら、ミナトも、シャキッとしなさい」

「ああ...」

「間違っても『ドロップアイテム』を盗まれないでよ」

「【ロキ・ファミリア】に喧嘩を売る人は流石にいないんじゃあ...」

「用心よ。レフィーヤ」

 

希少な資源は当然盗まれる可能性が高い。都市最大派閥にそのような事をする人はいないとレフィーヤは言うが、愛しのフィンから一任されたティオネは、確実に仕事をこなそうとしている。多少注意深くなっているのはそのためか。

 

「ラウル達、しっかり交渉してお金をとってくるから凄いよね。あたしは無理だなー」

「何も学ぼうとしないアンタが間抜けなだけよ」

 

実際、【ロキ・ファミリア】という看板もあり、商談は進めやすい。深層でしか入手できない貴重な素材を持ち帰ることのできる数少ない派閥とあって、商人や【ファミリア】はアイズ達の機嫌を損ね取引相手から外されることを何より恐れているからだ。

 

 

少し歩いてアイズ達は巨大な建物に辿り着いた。純白な石材で造られた建物には、【ディアンケヒト・ファミリア】を表すエンブレムが飾られている。

 

「いらっしゃいませ、【ロキ・ファミリア】の皆様」

「アミッド、久しぶりー」

 

彼女達を迎えた少女に、ティオナが気さくに手を上げる。ヒューマンである彼女の容姿は、精巧な人形、と言う言葉がピッタリであった。150センチ程の小柄な体がその印象に拍車をかけていた。ぺこりと下げられた頭から零れる細い銀髪、大きな双眸(そうぼう)には長いまつ毛がかかっている。白を基調とした制服は、治療師(ヒーラー)を連想させる。

 

アミッド・テアサナーレ。

 

【ディアンケヒト・ファミリア】に所属する団員で、アイズ達の顔見知りでもある。

 

「本日のご要件は、引き受けて頂いた冒険者依頼(クエスト)の件で間違いないでしょうか?」

「ええ、今は大丈夫?」

「はい。どうぞこちらへ」

 

アミッドに案内され、アイズ達は建物内を進む。多くの部屋から繁盛振りが(うかが)える中、アイズ達はカウンターの一角に通される。

 

「申し訳ありません。今は商談室が空いていませんので、こちらでよろしいでしょうか」

「構わないわ。早速だけど、これが冒険者依頼(クエスト)で注文された『カドモスの泉水』。要求量も満たしている(はず)よ。確認してちょうだい」

 

ティオネが泉水の入った瓶をカウンターに置く。手に取り、一通り確認したアミッドは頷いた。

 

「確かに...。依頼の遂行、ありがとうございました。つきましては、こちらが報酬になります。お受け取りください」

 

用意されたのは20本もの万能薬(エリクサー)だ。【ディアンケヒト・ファミリア】が販売するものの中でも最高品質のそれらは、単価50万ヴァリスはくだらない。報酬の品に対しティオネがほーと口を丸く開け、レフィーヤはまじまじと見つめる。

 

「アミッド、実は深層で珍しいドロップアイテムが取れたの。ついでに鑑定してもらってもいいかしら?良い値ならここて換金するわ」

「分かりました。善処しましょう」

 

ティオネに促され、アイズはカウンターの前に歩み出る。持っていた長筒の容器を開け、巻いて収納してあったドロップアイテムをアミッドに差し出した。

 

「へぇ、凄いじゃないか」

「....これは」

「『カドモスの皮膜』よ。運良く手に入ったわ」

 

アミッドが静かに驚嘆する。滅多に目にすることの無いドロップアイテムを前にして、彼女は手袋をはめ丁寧に目を通し始めた。『カドモスの皮膜』は回復系のアイテムの原料としても重宝される。商業系の【ファミリア】からすれば、その希少性もあって、喉から手が出るほど欲しいドロップアイテムの1つだ。

 

「....本物のようです。品質も申し分ありません」

「そう。それで、買値は?」

「700万ヴァリスでお引き取りしましょう」

「1500」

「お、おいティオネ...!?」

 

ここぞとばかりにティオネがふっかけた。

 

ぎょっとするティオナとレフィーヤが目を剥き、アイズさえ小さく驚く中、唯一ミナトがティオネに声をかける。が、彼女は不敵な笑みを浮かべている。

 

「お(たわむ)れを。800までは出しましょう」

「アミッド?貴方の言う通り、この皮膜の品質は申し分ないと私も思うわ。今までで1番上等と自負出来るほど....1400」

 

静かに商談の幕が切って落とされる。突然始まった水面下の激しいやり取りに、アイズ達は一瞬圧倒的された。

 

「ちょ、ちょっと、ティオネっ?」

「私は団長から『金を奪ってこい』と、そう一任されているのよ?半端な金額で引き下がるつもりは毛頭ないわ」

「流石にそこまでは言われてませんが!?」

 

これぞアマゾネスとばかりに本能に忠実な少女には、妹の声も、後輩の叫びも届かない。ミナトはため息を吐き、アイズは固唾(かたず)を呑んでその光景を注視する。カウンターに肘を置いて身を乗り出してくるティオネに、アミッドも視線を外さない。

 

「850。これ以上は出せません」

「今回の強竜(カドモス)は手強くてね、危うく死にかけたわ。私達の削られた寿命も加味してくれてもいいんじゃない?1350」

「そうなのかい?」

 

いけしゃあしゃあと.....。

 

『カドモスの皮膜』の入手経緯を知るティオナ達は、ティオネにそれぞれが思うところの視線を送る。ただ1人何も知らないミナトが、隣のティオナに尋ね、アミッドに聞こえないように耳元で返ってきた返答に、顔を引きつらせる。

 

「私の一存では決めかねます。少々お待ちを。ディアンケヒト様とご相談して参ります」

「あらそう。じゃあここでの換金は止めておきましょうか。時間もないし、もったいないけど、他の所で引き取ってもらうことにするわ」

 

ぴたりと動きを止めるアミッドに、微笑むティオネ。アイズ達がすっかり置いてけぼりされる中、人形のような少女は、諦めたように小さく息をついた。

 

「1200.....それで買い取らせてもらいます」

「ありがとう、アミッド。持つべきものは友人ね」

 

調子のいい言葉を口にするティオネに、彼女はもう一度ため息をついた。ほどなくして買取額分の金が用意される。恐縮するレフィーヤに手渡された大きな麻袋の中で、大量のヴァリス金貨が音を鳴らした。

 

「ごめん、アミッド...」

「いえ、足元を見て冒険者依頼(クエスト)を発注したのは、こちらが先ですので」

「流石に後味が悪い。何か買っていくよ」

 

商談で謝るのも場違いだが、アイズが思わずそう口にしてしまうと、ミナトもそれに続く。そんな2人に、どうかお構いなくとアミッドは苦笑した。「お互い痛み分けで手打ちにしましょう」とそう告げられる。

 

心優しい彼女らしい気配りだ。治療師としても自分達冒険者を癒してくれる彼女にアイズ達は心を許しており、アミッドもまた【ファミリア】の垣根を越えてアイズ達を信頼してくれている。ぎこちなく微笑みを返したアイズは、ミナトと一緒に、気休め程度に遠征で消費した高等回復薬(ハイポーション)を購入した。ティオナやレフィーヤもそれに続く。

 

「あー、今度アミッドと顔があわせづらいなー」

「これくらいもらっておかないと割に合わないわよ。アミッドだって分かってくれるわ」

 

報酬を含めた金品を抱えながら、アイズ達は北西のメインストリートを進む。

 

「じゃあ、さっさとホームに報酬(これ)を置きに行きましょうか。いつまでも持ち歩いているのは流石に怖いし」

「...ティオネ、ごめん、武器の整備に行ってもいい?」

「あ、【ゴブニュ・ファミリア】のところ?あたしも行くー!大双刃(ウルガ)壊れちゃったし!」

「俺も着いてくよ。ゴブニュ様に謝らないと...」

 

ティオネはしょうがないわねと口にする。

 

「私とレフィーヤはホームに荷物を置いてくるわ。行くわよ、レフィーヤ」

「あ、はい。アイズさん、ティオナさん、ミナトさん、また後で」

 

2人と別れ、アイズ達は別の方角に歩き出した。

 

【ゴブニュ・ファミリア】が拠点を構えるのは、北と北西のメインストリートに挟まれた区画だ。狭い道が多く、住宅も少なくないため、ごちゃごちゃとしている。あまり華やかとは言いがたい雰囲気だ。

 

知名度や勢力規模は同業大手の【ヘファイストス・ファミリア】をぐっと下回るものの、作り出す武具の性能そのものは勝るとも劣らない、まさに質実剛健の【ファミリア】だ。

 

「ごめんくださーい」

「ください....」

「おじゃまします」

 

入口をくぐり、工房という言葉をがしっくりくる建物の中に入る。中では複数の職人達がそれぞれの作業に没頭していた。

 

「いらっしゃいませ....って、げぇぇぇ!?【大切断(アマゾン)】!?」

「ティオナ・ヒュリテ!?」

「あのさぁ、二つ名で悲鳴をあげるの止めて欲しいんだけど...」

 

まるでモンスターと遭遇したかのような相手の反応に、半眼でぶすっとするティオナ。

 

「親方ァー!壊し屋(クラッシャー)が来ましたー!?」

「くそっ、今日は何の用だ!?」

「ウ、ウルガはどうした!?馬鹿みたいな量の超硬金属(アダマンタイト)を不眠不休で鍛え上げた、専用武器(オーダーメイド)だぞ!?」

「溶けちゃった」

「ノォォォォォォォォォォォォ!?」

「す、すみません...彼女もわざとではないんです」

 

ミナトの謝罪も届かず、親方ァー、親方ァーと悲鳴が散っていく横をとことこと歩きさり、アイズは奥の部屋に入った。中には老人の外見をした男神がいた。

 

「整備を、頼みに来ました」

 

彼女からの注文は、いつもゴブニュに1度目を通すことになっている。なぜかは分からないが、依頼を出す際には「俺を通せ」とそう厳命されているのだ。

 

「....また派手に使ったな」

 

手渡された《 デスぺレート》をじっくり眺め、ゴブニュはそうこぼす。不壊属性(デュランダル)は壊れはしないが、切れ味、威力は低下する。普通に扱えばそんな事にはならないのだが、生憎アイズは普通ではない。

 

「刃がやけに劣化しているが、何を斬った?」

「何でも溶かす液と、そのモンスターを、たくさん...」

 

寡黙な鍛冶神は目を細め、《デスぺレート》を観察し続ける。アイズも進んで話す方ではないので、静寂が続く。

 

「ゴブニュ様」

「ミナトか...」

 

部屋の入口付近からミナトが入ってきて、沈黙を破った。

 

「すみません...ティオナがまた無茶な注文をしてしまったみたいで」

「お前が付いていても、そうなって(壊れた)しまったのだから仕方ないだろう」

 

正確に言うと、その場にはいなかったのだが、それを口にしても、ゴブニュは「異常事態(イレギュラー)とはついてなかったな」と、特に責めることもなくアイズの方に向き直った。

 

「もとの切れ味を取り戻すまでは時間がかかる。代わりの剣を貸してやるから、しばらくそれを使っていろ」

 

おもむろに切り出された老神の提案に驚いたアイズは、武器は自分の方で用意すると言おうとしたが。

 

「半端な武器ではどうせ使い潰す。素直に甘えておけ」

「....」

「ははは...すみません...」

 

全く言い返せず、アイズは強引に代剣を押しつけられることになった。2人のやり取りを見ていたミナトは、今日何度目か分からない謝罪を苦笑と共に述べる。

 

 

しばらくしてゴブニュが別室から持ってきたのは、細身のレイピアだった。受け取ったアイズはレイピアを鞘から引き抜いた。剣身を見ればかなりの業物だと分かる。単純な威力なら《デスぺレート》を上回っているだろう。

 

「整備の方は、そうだな...5日経ったら来い」

「分かりました...ありがとうございます」

 

ぺこりと頭を下げるアイズに彼はふんっと鼻を鳴らし、ミナトをだけをこの場に残すように言う。「先に行ってて」と言われ、大人しくアイズは部屋から退出させてもらった。長剣のレイピアを持って、まだ口論を交わしていたティオナと合流し建物の外に出る。腰に取り付けた剣は、愛剣よりも少し重いように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 




嫉妬するエイナたん萌え〜
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