アルケミアストーリー 〜シノとミカの錬金物語〜 作:うさトロ
シノとミカのふたりは、
酒場で会ったマイカと別れ、
冒険に必要最低限のものを調達しようと、公国の市場に来ていた。
「えーと……これと、これと……あ、シノ、そこのじゃがいも取ってくれない?」
「ん……これ……?」
シノが新鮮なじゃがいもを手に取る。
しかし、ミカが欲しかったのはシノが手に取ったものではなかったようだ。
「あー、いや、そっちかな、」
「こっち……?」
「そうそう、それそれ」
シノは違うじゃがいもを手に取り、ミカに手渡す。
「よし、こんなもんかな、あと何か必要なものあるっけ?」
一通り買い物をし終え、最終確認をするミカ。
「たぶん……大丈夫……」
シノの最終チェックを通し、全ての買い物が終了する。
「よし……っと、じゃあ行こうか!」
「荷物……しまっとく……」
「あ、ほんとに?ありがと!」
シノはそう言うとミカから先程購入した物を受けとり、自分のバッグへしまった。
市場を離れ、公国にある大きな城の門の前を過ぎようとしたその時だった。
少し小太りの、顎髭をたくわえた兵士が2人の前に立ち塞がったのだ。
「貴様らだなぁ?我々兵士の武器を盗み出したのは……。」
突拍子もないことを言われ、シノとミカは驚いた。
「ちょっと待った……武器なんか……盗んでない……」
「そうです!なんなんですかいきなり!」
2人は反論する。
「ならその証拠はどこだ?ん?」
小太りの兵士は証拠を提示するよう2人に問う。
「証拠って言ったって……」
「バッグの中……みやがれ……」
2人はバッグの中を見せた。
しかし小太りの兵士は
「バッグの中身なんぞなんの証拠になる?どこかに隠したという可能性があるだろう?」
その言葉にシノは腹が立った。
この小太りの兵士は意地でもふたりを罪人にしたいらしい。
「こいつ……腹立つ……ッ!」
「ちょっとシノ……落ち着いて……!」
ミカは小声でシノを抑える。
「確かあの人、兵士長だよ……偉い人だよ……」
その通りだ。
この小太りの兵士は兵士長。
兵士の中でも偉い身分。
そんな相手に刃向かってしまうと、何があるか分からない。
「むぅ……」
シノは不貞腐れてしまった。
どうも腑に落ちない。
やってもないことをまるで『お前が悪い』と言わんばかりの言い方で話されると、とても腹が立つ。
それはシノだけでは無い。
ミカも内心イライラしていた。
しばらく黙っていたふたりを見て、小太りの兵士長が口を開く。
「まぁ、以前はぁ?魔物が武器庫に侵入して武器を持ち出す、なんてこともあったもんだから?もしかしたら魔物のせいかもしれんなぁ?」
小太りの兵士長はふたりを煽るような口調、
見ているとイライラしてくる得意げそうな表情で告げた。
「ザル警備……」
「こらっ、シノ……っ!」
思わずシノがポロっと口にしてしまう。
それをミカが注意する。
「ん……?なんか言ったか……?」
聞こえていなかったのか、それともわざと聞き直したのかは分からないが、兵士長はその言葉に反応を示した。
「ちゃんと警備してれば……武器……盗まれない……」
シノは兵士長を煽り返すように静かに言った。
「なんだと……?」
兵士長の片方の眉がピクリと動くのが見えた。
「この私が執行猶予を与えてやろうというのになんだその言い方は……?」
「執行猶予?」
「あぁそうだ、私が指定した時間までに『私は無実です』という証拠を集めておくがいい……」
(こいつ……偉そうに……ッ!)
シノは兵士長に見えないように拳を握っていた。
『ギリギリ』という効果音が今にも飛び出しそうなほど、力強く握られていた。力の入れすぎか、拳はプルプル震えていた。
「分かりました。証拠を提示すればいいんですね。」
ミカが静かに言う。
しかし、その口調にはたしかに怒りが込められていた。
「あぁ、そうだ。それで私が納得したなら、お前らを『無実』と認めてやろう。」
「証明できなければ、二度と公国には入れないようにしてやる。」
「分かりました。約束ですよ。」
珍しくミカの眉間にシワが寄っている。
「まぁお前たちに証明できるとは思えんけどな」
そう言うと兵士長は大きく口を開けて笑った。
「そういうの、結構ですので。ほらシノ、行くよ。」
「えっ……ちょっ……」
ミカはシノの腕を乱暴に掴み、そのまま引きずるようにその場を離れた。
「痛い……!」
シノの嫌がる声でミカは我に返る。
「はっ!ごめんシノ……ついカッとなって……」
掴んでいたシノの腕を勢いよく離し、ミカはシノに謝った。
「とりあえず、どうしようか。」
ミカは何とか無実を証明し、あの兵士長を見返す方法を考え始めた。
「どうするって……私たち……武器……取ってない……」
シノはしょぼんとしてしまう。
それもそのはず。
元からふたりは武器なんて盗んでないし、
そもそも武器庫に一歩たりとも近づいてないし、
ましてやその場所など知るよしもないのだ。
なのに『証拠を提示しろ』だなんて無理がある。
「確かにねぇ、どうしよっかぁ……」
ふたりが悩みに悩んでいたところに、一人の女性が駆けつけてきた。
「これ!さっき買い物してた時に忘れてたでしょ!」
市場を経営してるルーチェだ。
「あっ、ルーチェさん!すみませんわざわざ……ありがとうございます!」
ミカは忘れていた品物を受け取った。
「いいのよ、それよりあなた達、さっきフランクさんと話していたけど何かあったの?」
「フランク……?」
聞きなれない名前に思わず聞き返してしまう。
「あぁ、さっきの兵士長さんの名前よ」
あの小太りの兵士長の名は『フランク』というらしい。
「あいつ……そんな……名前してたのか……覚えたからな……」
シノは歯を食いしばってギシギシと音をたてた。
相当頭に来ているようだ。
「実はかくかくしかじかで……」
ミカはその『かくかくしかじか』をルーチェに話した。
「ふーん、なるほどねぇ……、厄介なことに巻き込まれたみたいねぇ……」
ルーチェはしばらく考え込んでしまった。
「あ、そうだ。最近お客さんが言ってた話なんだけどね……?」
ルーチェは何か思い出したように話し始めた。
「いつだったかね、魔物が大量の武器を持ってどっかに行ってたって聞いた気がするわ」
ほんの少しだが手がかりが見えたような気がした。
ミカは詳しく話を聞いた。
どうやらその大量の武器を持った魔物の見た目は青やら薄いクリーム色の毛をしており、ネズミのような生き物、それも二足歩行で歩いていたという。
シノとミカのふたりはお互い顔を見合せ、
「それって……!」
「まさか……」
なんとなくふたりには検討がついたみたいだった。
「ルーチェさん、その魔物が向かっていった方角とかって聞いてませんか……?」
「たしか、滅びの村の方に行ったって……」
その情報を聞いた瞬間、
「「やっぱり……!!」」
ふたりの疑問は確信へと変わった。
「ルーチェさん、ありがとうございます!」
「いえいえ、役に立てて良かったわ。」
善は急げ。ふたりは蜘蛛の子を散らすように公国を出た。
「滅びの村、青色とクリーム色の毛、これって『あいつ』だよね!」
「うん……『あいつ』しか……いない……!」
「そうと決まれば早く行こう!」
「了解……っ!」
ふたりは足早に滅びの村へと向かった。
自身の身の潔白を晴らすべく。