※後半の勲章授与のシーン以外変えておりません。
視点:アナ予備大尉
今日、私は銃殺隊の指揮を執ることとなった。
指名された時は驚いたが、卒業までもう少しなのでやっておかねば実際の戦場で引き金を引けなくなってしまうかも知れない。
それに、対象は憎き反乱軍。躊躇いなどしない。
しかし、銃殺隊の資料が送られてくると、階級を次々と繰り上げている優秀な少年であるが問題行動を最近起こした――私にしてみれば相手の方が悪いと思うのだが――ミール少年の名前があった。
今彼は8歳。遊び盛りだと言うのに黙々と勉学に励み、装甲過程も上位という神童。
だが名前が乗るのが早いと思う。8歳に銃殺は重いものがあるだろう。
だからミールくんの資料を取り寄せ、目を通してみれば色々と納得するものはあった。
名前を消すように教官へと掛け合おうと思ったのだが、エゴでしかないと思い直し、少年を呼び出すことにした。
そして、ノックの音。
「ミール・ソコロフ予備中尉、出頭いたしました」
まだきれいなソプラノボイスだと言うのに、出てくる言葉は機械のように無機質だ。
「入りなさい」
「失礼致します」
入室を促すと入ってきたのは銀髪に黒い目をした可愛い顔立ちの少年。ミール・ソコロフ。
チラチラと見ることはあったが、真正面から見るのは初めて。私の琴線にビンビンと触れて、今すぐにでも抱きしめて頬摺りしたい衝動に駆られる。
「予備大尉殿?」
いけない。衝動を抑えなくては。
「すまない。考え事をしていた。それで、要件だが。銃殺隊のことについてだ。貴君が編入されているのは知っているな?」
「はい。承知しております」
顔をピクリとも動かさない。
目はしっかりとこっちを見ていることからも動揺もしていないのだろう。
末恐ろしい、と感じてしまう私を律して口を開く。
「気がすすまないのならば辞退することもできるが。どうする」
その時、初めてミール君の表情が動く。
見て取れるのは明らかなる怒りの色。まさか軍人としての資質を疑われたと?
「辞退はいたしません。必ず参加致します」
「……なぜ、と聞いてもいいか」
「構いません。自分は未だ子供と言えども立派な連合軍人であると自負しておりますゆえに」
鉄の意志。
そして目からは、もし勝手に外したら喉笛を噛みちぎる、とでも言いたげだ。
「それは、家族が殺されたからか?」
僅かに揺れる目を見て取った。
やはりそういうことなのだろうか。
家族を殺され、愛を失い復讐に燃える餓狼。
「失礼ながら貴君の経歴を見させてもらった」
「構いません。自分は、家族のためではなく愛する祖国のために銃を握ると決めたのです」
面接で家族のため、とも言っていたと書いてあったのだけれど。
本音を隠す隠れ蓑に国を使う。それが無性に悲しくて、原因の一人である私はいたたまれない気持ちと一緒にこうも決めた。
この子に愛を教えよう、と。
「そうか。疑って悪かった」
「いえ、構いません」
「そしてお願いがある。これは予備大尉としてではなく、第四皇女としてのお願いなのだが」
「……構いませんが」
怪訝な色が浮かぶその表情に、私は笑みを浮かべる。
「素で話しても良いだろうか。貴君と友になりたいのだ」
「は、了解致しまし……なんと?」
「そうか、うなずいてくれるか――全く、軍人口調ってつかれるわ」
混乱で口をパクパクとさせているミール君に近づいて、目線にまで体を落とす。
うん、やっぱり私の琴線にビンビンと触れる。
「ね、笑ってみて?」
「は、は……はい?」
「笑うの。ほら」
ぎこちなく笑うミール君に心の中が熱くなっていくのを感じながら頬へと、両手を添える。
「もうちょっと自然に」
言うと、ぎこちなかった笑顔が、優しげな笑顔となって、それがまためちゃくちゃ可愛くて、弄り倒してしまった私は悪くないと思う。
これからこの子を私の色の染めても良いかも知れない。皇国ではライトゲンジ計画、といったかしら。
視点:ソコロフ
呼び出されたからこの前の演習場での出来事かと思えば、お友達になってください宣言だったので驚いた。
銃殺の件に関して言えば、トラップだろと疑ってかかっていたので絶対に参加するという意志を見せつけた。辞退してみろ、確実に出世街道から外される。
お友達宣言はまあ、第四皇女様のお願いを断れるわけないだろ! 面倒になりそうだから嫌ですとか言えないだろ! いいかげんにしろ!
そして銃殺の日。
連れられてくる奴らを見ながら、さっさと終わらせようと誓う。
こんな面倒事はさっさと終わらせるに限る。
結局の所戦争をして負ける要因というのは、国内情勢が大きな起因となる。
それの大きな一例を上げるとすればベトナム戦争。
北ベトナム側、強いて言えばソビエトの工作もあって合衆国では反戦運動が勃発。それによってアメリカは撤退することになる。
まあ、あの戦争はなるべくしてなったというところが大きいが。
その他にも第二次世界大戦下でのポーランド。ソ連から侵攻された際に、打ち合わせでもしていたかのような反乱もあった。
なくても結局の所支配されていただろうが。
ともかく、反乱分子というのは戦争においては大きな敗因となる。
なので早いうちに潰しておいたほうが良いに越したことはない。ソ連のヒゲが良い例だ。まあ、あれは行き過ぎだが。
俺は銃殺隊の指揮ではなく撃つ側に回っている。
指揮を取っているのはアナ予備大尉殿だ。
「最期に言いたいことはあるか」
今日天に召されるのは南部で未だ頑張っている共産主義者。それに味方した貴族に私兵の敗残兵。
全く、共産主義というのはいつの時代も害悪としか言いようがない。真の共産主義を実現するならば人間が全員ロボットのようにならなければならない。
土台無理な話に惹かれたバカ者共だ。
「貴様! 第四皇女ではないか! それが子供をも洗脳し人殺しをさせるとは。恥を知れ!」
「無辜の民を殺し回った貴様らが言うと説得力が違うな」
「予備中尉」
おっと、つい口が出てしまった。
だが恥を知るのは貴様らだ。
革命の名の下、市民の家族を盾に兵を集め、断れば公開処刑に強姦。
それを正当化する危険思想。ただの蛮族。いや、それ以下だろう。
例える言葉が見つからないほどに下劣。
「そこの子供! 皇帝や政府に騙されるな! 奴らは君たちから搾取することしか考えていない!」
従順になる土台を作ったのは貴様らなんだがな?
その土台なくしても共産主義者などにはならんが。
「それで終わりか? では、さようなら」
皇女殿下の号令の元、躊躇いなく引き金を引いた。
:予備二等兵
「ようこそ兵器量産学校へ! ここに入った貴様らは今日から無価値な蛆虫だ! いや! ウジ虫のほうが価値があるかもしれんな!」
まさか、冗談だろうと思った。
今まさに俺達に罵詈雑言の限りを尽くしているのは俺達よりも遥かに年下な少年であったから。
当然、言われている罵詈雑言も子供から放たれていると思えば微笑ましいものであったが、鬼気迫るものもあったので他の大半の奴らはイライラとしていた。
だがまあ、入学式を終えたあとはまさか子供が本当に俺達の上につくなどとは考えてもいなかったので笑っていたものだ。
次の日に、ゆっくりとしていた俺達は対戦車兵の鎧を身に着けたソコロフ予備大尉によって眠りから叩き起こされた。45ミリ砲の爆音によって。
穴が空いて風通しとともに日光の入りも良くなった隊舎には驚いてベッドから転げ落ちているものが大半だ。
「今日の集合は何時だと言っていた! 5分前で寝ていられるとは早着替えにでも自信があるのか!? ならば結構! 今から5分後にはすべての装備を身に着け整列しろ! ここで!」
できるわけがない。
そう言い放った負けん気が強い男は、45ミリ砲を捨てた予備大尉に迫られ、鋼鉄の手で頭を捕まれもがく。
「口からクソ垂れる前に同志をつけろこの粗チンが! そのタマ切り取ってグズでのろまな家系を根絶やしにしてやろうか!」
痛みに耐えかねた男が気絶したのが分かると、ゴミでも放るかのようにそこらに投げ捨て、驚きで未だ動けないでいる俺達に向き直った。
「なにをしている動くクソ共! 早着替えに自信があるんじゃなかったのか! 早く着替えろ! その粗チンも含め10分後までに練兵場まで集まれ! 遅れたら分かっているだろうな!」
文字通りのアイアンクローなぞくらいたくもない。
それはみんなの共通認識か、黙って素早く、必死になって着替え、起きない同期の服を脱がせさっさと着替えさせて運んだ。
それからは地獄のような訓練の数々。
崖をロープで登りきったと思えばもう一度。何キロも走らされたかと思えば、同期が暴言を吐いてしまい、俺達が吐くまで走らされ。反抗しようとした輩にはアイアンクローで気絶させて俺達に運ばせる。連帯責任だと。
「俺は貴様らが有能であろうと無能であろうと男であろうと女であろうと差別はしない! なぜなら貴様らは等しくウジ虫であるからだ! 分かったか!」
『はい同士殿!』
そんな鬼のように厳しい予備中尉殿に歯向かったらどうなる?
俺達に地獄が待っている。
それを理解できない馬鹿が予備中尉殿に今日も歯向かい連帯責任と一緒に厳しい訓練が追加される。
嫌なくらいに平等だ。馬鹿と同じ扱いをされるのだから。
こっちからしてみれば溜まったものじゃない。
もし、演習場で耐えかねた馬鹿がペイント弾をわざと予備中尉にあてたら?
そんな物は分かりきっている。
「おーれたち蛆虫だいぐんだーん!」
学校の円周や市街を恥ずかしい歌を大声で歌いながら最後の一人が魔力切れ寸前。気絶するまで続けられる。
予備中尉とそれに逆らうクソバカに神の制裁を!
:ソコロフ
練兵過程も前世で見た鬼軍曹のマネで順調にこなし、いよいよ卒業。
まだ9歳だと言うのに訓練学校の予備大尉から装甲中尉となり、装甲小隊12人を束ねる立場となった。
俺を卒業させるかについての議論もあったようだが、内戦が予想よりも長引いているという事で卒業となったわけだ。コミー共に災いあれ。
アナ皇女殿下は軍学校へと進学なされた。持つべきは権力というのが分かるというもの。
俺は小隊員12人を与えられ、難なく掌握。小隊を掌握する過程は、特段珍しいことでもなく、実力主義な連合兵士に力を見せつけ、飴と鞭を使い分けることによって掌握。貴族出の奴らの掌握はまだ未熟だが仕方あるまい。
そして我ら小隊は未だ反乱軍の抵抗が続く南部へと着任することとなった。実戦というやつだ。
まさか前線に送られるとは、くそったれ。
「大尉から連絡! 敵塹壕を速やかに突破せよと!」
「少し待てと伝えろ! それと塹壕に600秒の砲撃を要請! 偵察型も工兵と協力し迫撃砲を叩き込んでやれ!」
「中尉! 敵が塹壕から出てきました!」
「迫撃砲は砲撃が止み次第止め歩兵を援護するため重機関銃にて移動弾幕射撃! 突撃兵と対戦車兵は俺に続け! 砲撃が止み次第塹壕を突破する! ヴコル少尉は分隊を率いて俺の横に来い!」
「了解です! 第一分隊集合!」
血と硝煙漂う戦場からこんにちは。
俺の装甲が弾を弾く音を聞きながら準備砲撃の後に進軍。
敵は時代遅れの小銃しか持っていない上、大砲も此方の偵察兵の活躍により場所が割れ、此方の砲撃により破壊されている。そして敵の装甲兵は此方の対戦車兵の50ミリ砲の狙撃によって破壊されており、後は雑兵のみだ。凝った戦術など必要ではない。
履帯を下ろし、俺を中心として魚鱗のような陣形を組み敵の塹壕へまっすぐに。
俺の横には同じような陣を組んで突撃する俺によく従ってくれるヴコル少尉がいる。
敵が撃ってくる弾は全てが効かず、投げてくる手榴弾も片手でキャッチし投げ返す。出てきた敵は此方の12.7重機関銃でばらばらにし、念の為塹壕へと射撃をしながら突っ込み、塹壕を制圧。
逃げ出す敵を後ろから撃ち、漏れた敵を追おうとする隊員を止める。
「今が好機です! 攻めましょう!」
「目的は達した。それに、突き進んで囲まれても知らんぞ」
「ですが……!」
ち、装甲兵特有の満身ほど面倒なものはない。
自分は弾を受けても問題ない。これを着てさえいれば不死身。
なんて思い上がった思考は隊を危険に晒す。一人の無能で全員が巻き添えを食うのだ。
「では貴様一人で行ってくるがいい。ああ、その際にはその鎧は置いていけよ?」
「……チッ、留まります」
「懸命だ」
特に貴族出身は思い上がりが大きいように思う。
市民出も勿論思い上がるフシはあるが、貴族よりは少ない。
……少し特別任務でも与えてやるか。
:隊員
今日の攻勢が終わり、同じ貴族出身の連中と飯を取る。
市民連中と飯を取るなんてとんでもない。市民と飯を取る奇特なやつもいるようだが、同じ隊だという事だけでも業腹だと言うのに飯までも同じ。これが不味いったらない。まるで家畜の餌でもくているかのようだ。
うちの小隊長も市民出だ。これが鼻持ちならない。
農民と同じような扱いをし、敵が敗走しているというのに後ろから撃つだけ。
追撃し、次の陣地を攻略したほうが良いだろうに。歩兵の到着を待つまでもない。我ら装甲兵が突撃すれば、ただの歩兵など取るに足らない。
「貴様ら、特別任務だ」
そうやって中尉の悪口で盛り上がっていると、気配もなく後ろから声がかけられ、驚いた。しかも今日捕らえた捕虜も一人連れて。
しかし、特別任務とはなんだろうか。
「何、上層部が貴様ら貴族を重用すると決めてな。これから夜襲を始める」
にわかに色めき立つ仲間たち。それもそうだ、やっと俺達の価値に気づいたか。
遅いくらいだがまあ良い。参加してやろうではないか。
「それでは行くぞ。小銃とその他装備だけ持っていく」
鎧は、着ないのだろうか。
あれがなければすぐに死んでしまう。
「貴様らができないのならば問題ない。上に報告するだけだ」
舐められている。
そう感じた俺達は立ち上がり各々準備を始めた。
背嚢を背負い、小銃も中尉から渡されたものを受け取り準備が完了。
満月の中、誰にも見られないよう陣地を離れ、猿轡を噛まされている捕虜を連れた中尉を先頭に森へと分け入っていく。
「中尉殿、その捕虜は?」
「ああ、案内係だ」
不審に思いながらも一応は納得し、再び進む。
十分は歩いただろうか。その時、中尉が振り返り、おもむろに陣地へと戻り始めた。
怖気づいたか?
「いやな、無線機を忘れてな。悪いな」
無線? ち、本当に市民というのは。
「少し待っていろ」
そうして俺達から数メートル離れた所で、連れていた捕虜を撃ち殺した。そして振り返り、拳銃を俺達に向け、一人の頭を吹き飛ばした。
なん……なんだと?
「馬鹿な奴らは制御しやすくて助かる。特に貴様らのような連中は特にな」
騙したのか貴様!
だが何故味方の俺達を殺す!
気でも狂ったか!
「わからないのか? それならば死んで考えろ」
罵詈雑言を吐き散らしたものの、奴は満月の元、薄ら笑いを浮かべるのみ。
また一人撃たれ、俺と残ったもうひとりはこの悪魔に小銃を向け引き金を引くが、軽い金属音が虚しく響くだけ。
「あっはっはっはっは! 貴様らは本当に馬鹿だな! 実弾入りを渡すと思っていたのか? こいつはおめでたい!」
もうひとり射殺された所で、俺はかなわないと判断し、その場に止まり両手を上げた。
これからは従順に従う! だから殺さないでほしい!
「貴族もこうなると哀れだな。笑えてくる」
それにこの状況をどう説明するつもりなんだ。
俺の助けがなければ言い逃れはできんぞ!
「何のために捕虜を連れてきたと思う。このためだよ。貴様らは反乱軍に寝返るため捕虜の一人を連れていき、俺が見つけ投降をすすめるが反抗。仕方なく全員射殺。そういう筋書きだ」
ふざけるな! 魔女に人狼にでも変えられたか!
「最近良くその名を耳にするな。まあいい」
薄ら笑いを浮かべ、無感情な目で此方を見下ろすその姿は間違いない。
人間から人狼へと変えられた怪物、ヴルドラク。ああ、神よ。
:ソコロフ
万事順調。
不穏分子はすべて処理し陣地へと戻り一芝居うって報告書を作成。提出。
怪しげな目で見られたものの問題ない。捕虜は俺が秘密裏に隠していたし、管理も杜撰で人数も多かったからばれない。バレないようにした。
これで枕を高くして眠れるというものだ。
そして、翌日からは戦線を押し上げ続け。半月もするとコミー共をミクリア半島へと押し込めた。敵軍が赤軍であるからして、武器の供与は本来どこも行わないはずなのだが、どうやら内戦を長引かせたい勢力がいるらしく、連邦製、合衆国製と思われる武器や鎧が見つかっている。
おいおい、どちらも我が連合と取引をしているではないか。一体全体どうしたというのか。
赤軍にとっては猫の手も借りたい事態であり、どうにかしたいだろうがこの戦局で左右するであろう重要な通過地点であるシシュヴァー湾とペレコプ地峡はほぼほぼ抑えており、奴らはもう通過できない。とはいってもすべてを制圧したわけではないので油断はできないのだが。
この日、俺達小隊は巡回を命じられており、いつもの巡回ルートを通っていた時、先行していた偵察兵の一人が慌てて帰ってくるものだからどうしたのかと問うと、恐らくは大隊規模の敵の大勢力を発見したとのことだった。
「大隊本部へと連絡! 敵の反攻勢力見ゆ! 歩兵大隊規模が浸透中! 撤退の許可を求めると!」
「リょ、了解しました!」
急ぎ大隊へと連絡をとっているこの偵察兵はヤコ伍長といい、貴族の中でも珍しい市民派で、よく少隊員たちと楽しそうに喋っているのを見かける。女のような男で、いつもおどおどとしている。
「そんな! 撤退できなければ我々は犬死するだけです! 大尉! 大尉!」
ああ、報告を聞かなくても分かる。
撤退は許可できんのだろう。
「なんと?」
「て、撤退は許可できない。即応部隊到着まできゅ、900秒は耐えろと」
「そうか。では、精々遅滞戦闘に務めるとしよう」
その報告に我ら小隊員12名は悲しみに暮れるものがほとんどであった。
それもそうだろう。小隊と大隊、どちらが勝つ? ランチェスターの法則を引っ張り出すまでもなく明らかであり、覆らない。だが、それは数の差であり、武器の差はまだ拮抗はせずとも負けてはいない。
それはイコール負けるということなのだがな。
明らかに動揺して意味不明な思考になっているのを自覚する中、落ち着くために小隊へと声をかける。
「小隊諸君。ここでもし撤退すれば軍法会議にかけられ銃殺が決まる。だが、ここで戦えば名誉の戦死となる」
名誉が何だというのだ。
生きていなければ何の意味もありはしない。
俺の口からこんな言葉が出るとは、全くもって笑えるではないか。
「ふは、だが同士諸君、嘆くことはない。諸君にはこの私がついている。それに信じる仲間もだ。諸君らの大多数は死ぬであろうが、少数は生きて帰れる。私が保証しよう。全く、今日は死ぬには良い日ではないか」
死ぬのに良い日なんてない。そんな意味を込めた皮肉。
どうやら、こんな演説にもなっていない演説でもやる気は見せ始めている。
どうにか、戦闘はできそうだ。この国の兵士はとにかく愛国心が強い。
さてはて、どうするか。
「それでは戦闘配置だ。ツァーリの尖兵たる我らの力を見せつけるぞ!」
『ウラァァァァアアアアァァ!!』
「同志諸君! 縦深陣地を形成! 敵を寄せ付けぬよう、部隊が到着するまで弾幕を張るぞ! 弾が切れれば近接戦へと移行! ナイフ持ちはナイフで、パイルバンカーは一度射出したら槍として扱え!」
素早く縦深陣地を形成し、ヘルムに搭載されている三倍望遠がおよそ1キロメートル先まで迫っている敵軍を発見。それに向けて対戦車兵の50ミリ砲が吼えた。
「最初は徹甲弾を使っていけ! それが切れれば榴弾! 奴らは散兵などせん!」
ろくな将軍がいない向こうは、此方が寡兵であると見て取っているので素早く撃破したいだろう。だから人海戦術によっての突撃を敢行してくる。
だから偵察兵が持っている迫撃砲が刺さる。
砲弾自体そこまでないためすぐに終わるが、それまでに敵の足は少しでも止められる。
そして此方の偵察兵は熟練。素早く腰についている迫撃砲を設置、位置を調整し見事に敵の前線に着弾させてくれる。
本当に、ここで死なせるのは惜しい。
重機関銃、大砲が火を吹き、空からは火薬の雨を降らせる。
それでも敵の進撃は止まらない。13人を相手にすでに何百人と倒されようと止まることを知らない。
「銃身が焼け付くまで撃ち続けろ! どうせ向こうに弾薬は持っていけん!」
「中尉! 迫撃砲弾が切れました!」
「対戦車兵の影に隠れて左右を軽機関銃で狙え!」
弾が鎧を叩くのをどこか遠くに聞きながら撃ち続ける。
ガンオイルが発火し、持ち手の木が燃えようとも気にしない。
これが複雑な機構の重機関銃ならば壊れていたが、これは簡素で丈夫なロマノ連合製。弾が切れる迄撃ち続けられた。
「中尉! 弾が切れました!」
「此方もです! 誰か余ってないか!」
「砲弾も底をつきました!」
聞こえてくる弾切れの大合唱。
俺の分の弾も全て撃ち尽くし、もう近接専用のパイルバンカーとナイフしかない。
いよいよ年貢の納め時が近づいてきた。まあ、どこに何を収めるかなどわからないのだが。
「さて同志諸君。楽しい楽しい近接戦と行くぞ。履帯を回してひき肉にしてやれ、ナイフでミンチにしてやれ、パイルバンカーで串刺しにしてやれ。我らがツァーリの威光を示す時。近接装備以外は置いていけ、重いままではカリノフ橋は渡れんぞ。さぁ、突撃だ」
『ウラァァァァアアアア!!!』
総員履帯を下ろし、突撃。
俺が先頭に立ち、最初に接敵。銃をアホ面で構えていた男に金属の塊がぶつかる。
すると吹き飛ぶ。簡単なことであった。後はパイルバンカーを一人の敵に射出し串刺しにした後は敵を放り捨て、槍として扱い、近接用ナイフも装備しての二刀流で敵を突き殺し、斬り殺し、刺し殺す。
「同志! お先に!」
「ああ! 先に渡っていろ!」
囲まれ、魔力循環装置が壊されかかったヴコル少尉が対戦車手榴弾を炸裂させた。
轟音とともに肉片が飛び散り、装甲も飛び散る。
それが3回繰り返された後、循環装置を壊されまいと10人で円を描くように背中合わせになって襲い来る敵を退かせる。
「1時方向! 対戦車砲!」
視線を向ければ、たしかに準備しているのが見えた。
だが、此方に群がっている敵も同時に巻き込む様子だ。
射線の先は、ヤコか。
:ヤコ
最初見た時は可愛い子供だな、何でこんな戦地に、位の印象。
でも、戦闘を重ねるにつれてその子供が、ひどく冷静で頼りになる上官だと気づくのにそう時間はかからなかった。
そして公平な人、貴族も平民もなく平等に接する。
でも、ただ一つだけ公平ではなかったとするならば、それは馬鹿な貴族連中に対して。
「おいヤコ、平民臭いのと食事するよりこっち来いよ」
こういう奴ら。
僕は貴族でももう没落寸前だから平民と大差なくて、昔から遊び相手は平民の子供ばかりだったから貴族という認識も薄い。
だからこういうのを見ると滅茶苦茶ムカつく。しかも平然と平民出の小隊員の前で言うから更に。
「今どきそんなの気にするの? 遅れてるし、僕は貴族なんて意識はない」
「ははは、そうか。どうやら人気取りに忙しいらしい。あの子供にも尻尾振ってるのか?」
「何だって?」
つい、頭に血が上ってにらみつけると、ニヤニヤしながら取り巻き達と近づいてきた。
僕も立ち上がって近づく。ボコボコになっても知ったことか。
後ろにいた平民の仲間も立ち上がって近づいてきている。
「何をしている」
その時、鈴のような、凛とした声が響いた。
声の先を見てみると、睨み合っている僕たちを呆れた様子で見ている中尉がいた。
「おや、中尉殿。中尉殿も人気取りに?」
「何を言っているか知らんが、また別々に食事をとる気か」
「そうですが?」
「私の目の前でそんな事はさせん。大人しくテーブルにつけ。つく気がないなら外で食べていろ無能共」
「なんだと? このガキ」
馬鹿がそういった瞬間、中尉は腰の拳銃を抜き放ちその馬鹿の足元へと発砲した。
流石にびっくりして、後ろに下がってしまったのは普通だと思う。
「上官を侮辱したな? 略式で銃殺とする」
嘘だと思うのだけれど、この中尉の目はいつも本気で。冗談を言ったところは数回しかないと思う。
銃殺は流石に極端にすぎると思うけど。でも、胸がすっとした。
「じょ、冗談です同志中尉」
「では外で食べておけ」
「り、了解です」
馬鹿たちが敬礼を返したのを見ると満足そうにうなずいて拳銃を仕舞い、あるきさるその背中を見送った。
その時に、この人ならばどこまでもついていけると確信した。
「一時の方向に対戦車砲!」
でも、僕の人生はここまでと知った時、怖いと思うと同時に、中尉ともっと先を歩きたかったという悔しさだった。
「お先に失礼します。同志」
だから後ろから蹴られて、転がった時は驚いた。
死んでいないし、どこも穴が空いていないから。でも、慌てて振り返ってみると、中尉の踝から先が装甲を撒き散らしながらばらばらになって、巨体が倒れた。
「中尉!」
「構うな! 早く起きて応戦しろ!」
ハッとして、循環装置を狙っていた敵をナイフで刺し殺して中尉のもとまで戻る。
「中尉を中心にしろ! 援軍までもう少しだ!」
「構うなと言っただろう! 戦える!」
確かに足先は循環スーツが通っていない分動けるけど!
と、中尉は構わず不安定になりながらも起き上がって武器を振るい始めた。
本当にこの人は不器用だけど優しくて、公平で、頼りになる。まるで狼の群れの長のように。
「同志を救出しろ! 突撃!」
やっと援軍も来たみたいだ。
どうやら、僕らは助かったようだ。
安堵に包まれて、ほっと息を吐きそうになった。
「もう一射来ます!」
でも、それは敵の対戦車弾が中尉に命中するまでの話。
:ソコロフ
ヤコを体が勝手に動いて助けた後は、バランスが取れない中で援軍が来るまで奮闘した。
やっと援軍が来たと思えば、俺を狙っての一射。咄嗟に腕を十字にするクロスアームブロックで体の中心を守ったが、砲弾は体にめり込み、その衝撃で俺は気絶した。
ふ、と目を覚ますと白い天井が最初に見えて。
つい、生きていると知って安心してポツリと呟いた。
「知らない天井だ」
「起きられました!」
おや、ナースさんがいた様子。
恥ずかしい呟きを聞かれはしたが、まあ問題ない。
今なら空も飛べそうな気分だ。なんせ生きている。五体も無事。
子供体型で良かったー!
今なら神に感謝――
「ミール・ソコロフ装甲中尉。貴君ら第101小隊は反乱軍との戦闘において満身創痍となりながらも極めて重要な要所を守り、敵を多数打ち破ったことにより敵大隊の進行を阻止した。なお、ミール・ソコロフ中尉の活躍は眼を見張るものがあり、これによってほまれ高く、第一号である銀盾防衛勲章を贈呈するものであり、銀狼の二つ名も送るものとする。おめでとう」
――できそうもない。
完全にエース扱い! エースは前線に送られるって相場が決まってるんだぞ! そしてなんだ二つ名とは! 銀狼とはなんだ! 背中がムズムズする! 他の小隊員はどうした!
まあそれは良い! 置いておく! 重要なのはコミー共がこの大地から去ったということだ!
あの後、俺達を襲ったコミー共は撃破され、そのままなし崩し的に攻め込まれたコミー共はロトツキ将軍も撃破されたことにより敗北。
主要なメンバーは再び海外に逃げたものの、当分の危機は去り、連合は勝利を収めたことによって連日お祝いが催されることになった。
その立役者たちの披露も行われることになったのだが、当然俺も含まれていた、の、だが。
「大尉! 可愛いですよ! あ、いえ、凛々しくて格好いいです!」
俺の衣装だけ、銀色を多めに使ったもので、狼をあしらったアクセサリーなどが多く、チェーンも付いていたため中々に中二病臭い。後で確実に悶えるやつ。
そして最後に、銀色の犬耳型のカチューシャが俺の頭につけられている。
目の前で写真をパシャパシャと撮っているのはヤコ伍長、改め、二階級特進を果たしたヤコ曹長。
あー……もう嫌だ。
オリジナルです(粛清対象)