鎧戦記   作:フライングピッグ

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前の話にてコサックさん達について追記しました。
それを忘れた私は木を数えさせているのでご安心ください。



面倒な者たち

 敵は中隊規模、大して此方は小隊。

 これを打ち破れというのだから中々に辛い注文をしてくれる。

 火砲支援は此方の偵察兵が持つ迫撃砲のみ。

 フィールドは百メートルほどの野原を挟んだ森の中。

 敵は向こうの森の中にいることは知っている。木の陰から顔を覗かせてみるが見えないことからまだ作戦でも練っているか。

 

 だが恐らく相手は先に攻めてくる。

 此方が寡兵と知っているのならなおさら。

 普通ならば撤退するところであるがそれは許されない。許可されていないのだ。

 だがまぁ、自慢の鎧はオリーブグリーンにライトグリーン、黒を組み合わせた森林迷彩が施されているためしっかりと隠れていればそうそうバレはしない。

 迷彩は1848年のイギリスが最初であり、その後におフランスが色々としていたようだが、世界で使用され始めたのは第二次大戦後だ。ということで我々は流行の最先端を行っていることになる。

 これもちゃっかりノートに書いていたため採用されることになった。

 

 「中尉、戻りました」

 

 ヤコ曹長が偵察から帰還した。

 その鎧は全体的に丸みを帯びたデザインで普通の装甲兵より小さく、逆関節を活かし横に跳ぶように移動しスピードと静音性を重視された最新型の偵察型魔導鎧。

 

 「どうだ」

 「ここから11時方向500メートル先からゆっくりと前進してきています。此方を探しているのでしょう」

 「どのような隊形だ」

 「散兵です。突撃兵が最前列、対戦車兵が二列目です」

 「偵察兵はどうした」

 「突撃兵の前へと出て此方を探しています」

 

 セオリーと言えばセオリーか。

 此方であれば、対戦車砲を探して潰し、散兵でもって前進する。

 50ミリの砲弾をも弾く盾を持った突撃兵もいる。

 

 「我が先に行動する。それにより敵を思うように動かす……だったか」

 「え、と。誰の言葉です?」

 「さてな。よし、敵の位置はわかった。お手柄だ」

 「えへへ」

 

 兎耳のような長距離無線アンテナを動かす曹長は置いておき、隠れていた小隊員を呼び寄せ、ゲラーシー少尉を呼び作戦説明の後、少尉は分隊を率い敵の側面へとゆっくりと回り込み始める。

 俺もそれに続くように反対側へと回る。慎重に、ゆっくりと。

 だがこのままではバレるので、対戦車兵の50ミリを偵察兵が敵に向けて撃つよう命じてある。

 撃ち終わった偵察兵は逃げる算段だ。

 

 そして、偵察兵の砲撃により場所を見つけたと思い込んだ突撃兵が履帯を下ろし全速で進撃。したはずだ。

 ここからでは突撃兵と対戦車兵が数名抜けた程度しかわからない。

 

 だが作戦は始まった、遅れることは許されない。

 

 「総員射撃開始。全力で引きつける」

 

 重機関銃、対戦車砲が火を吹き、赤熱した弾頭が敵へと向かい爆ぜる。はずだった。

 

 だが一斉掃射の後、見えてきたのは赤い塗料をぶちまけられた大盾を持つ白い鎧に、それに付き従う突撃兵達。

 

 「なんだと!?」

 

 ばれたというのか!?

 隠蔽も無音移動も完璧だった。見つかっているはずはなかったのに何故バレた!

 

 「貴方ならこうしてくると思っていました。ミール」

 

 さてはヤコの偵察がバレていたな!? 泳がされたか! 無駄に頭がキレるなこの皇女! 

 

 だが、慌てるのもここまでだ。

 近接戦闘の用意をさせ、此方も白鎧へとぶつかり、あちこちで近接戦が開始、俺達は大盾同士がぶつかり、火花を散らせながらもメイスを振るう。

 

 「さすが皇女殿下、気づいておられましたか」

 「アナとよんでいただきたいものです!」

 「今は軍務の最中ですので!」

 

 激しくぶつかり合うメイスと大盾、近接戦闘技能は皇女殿下のほうが上か、押され始める。

 

 皇女のメイスが振り下ろされるのに合わせ、盾を掲げ防ぎカウンターの横薙ぎを振るうものの、読んでいたのかバックステップでかわされる。

 無駄にすばしっこい!

 

 「降参したほうが良いのでは? これ以上は醜態を晒しますよ?」

 「戦場では醜態を晒してでも生き残るのがコツであります。それに、醜態を晒すのはそちらですがね」

 

 俺の言葉に皇女が周りの状況を確認しようとするが、そうはいかない。

 首を巡らそうとする第四皇女殿にメイスを振り下ろすが、読んでいたのか勘なのか、見事にメイスの一撃を盾で防がれた。

 

 

 「何……数が少ない。まさか……!」

 

 気づいたか、だがもう遅い。

 劣勢に見えるが、そうではない。わざと数を減らして側面へと回り込ませ、俺達がガッチリと戦闘をし始めた段階で突撃するように伝えてある。

 事実、演習を止めるための笛が鳴り響いた。

 

 『そこまで、ミール・ソコロフ中尉率いる小隊の勝利!』

 

 驚いたように、笛が鳴り響いた場所へと顔を巡らせる皇女に、おれはおかしくておかしくて笑う。

 俺達が交戦を始めたのを確認させ少しの間の後に小隊を突撃させる算段だったのだが上手く行ったようだ。

 

 「俺がただ一方向だけで側面攻撃を仕掛けるとでも?」

 「……通りです。今回は完敗ですね」

 『貴様らは何をしていた! 左右を警戒するのは基本中の基本だろうが! 戦闘中でもそれは変わらん! ソコロフ中尉とともに総評を行う!』

 

 がっくりと肩を落とすアナ予備中佐を尻目に、魔導鎧を整備庫へと戻し軍学校の更衣室へと向かった。

 

 さて、私は今軍学校にいる。

 

 入学できたということではない。全く違う。

 もし入学できたと思った輩は今すぐ小学校からやり直し給え。

 中学生でも可だ。

 

 また八つ当たりしてしまったがしょうがない。

 俺だって軍学校から声がかかり喜んだのだ。飛び上がるほどに。 

 

 だが蓋を開けてみれば教導隊としての役割。

 八つ当たりもしたくなるというものだ。

 

 軍学校学生の階級は相変わらず予備が付くが、今度は最低が少尉から始まり最高階級が予備大佐だ。

 なのでただの中尉でも普通に接することができる。教導隊なら尚更のこと。

 我が国では学生は学生でしかないとの認識なので、実戦を経験していようがいまいが学生に過ぎない、らしい。

 

 まあそんな事はどうでもいい。

 重要なのは戦争が始まりそうということだ。

 そう、戦争だ。殺し殺され撃ち撃たれの素敵な素敵な戦争。

 相手は先の反乱軍の残党を匿っている連合国の南に位置するオットマン帝国。

 

 オットマン帝国は此方の度重なる返還要求を突っぱねた挙げ句には此方の国境付近で演習をする始末。赤いのに染められたいのか?

 それとも此方に勝てるなにかがあるというのか。

 確かに国土は広いが此方に及ばず、工業化もあまりされていない。そのおかげで装甲兵も極少数に留まっており、帝政の専制政治の停滞に不満がある反乱分子もいる始末。此方に勝てる要素は見当たらないのだが。

 強気になれる要素はどこにあるのだ?

 

 此方が南下政策をしていないからそこまでの強気になれるのか?

 ご自慢のイェニツェリか? いや、それこそまさかだ。奴らは現在世襲制によって腐りに腐っている。

 

 だが、あの帝国は西欧諸国に借款、ローンがあり貿易も拡大していることから半植民地化されているのもある。後ろに二枚舌や合衆国でもついてるのか?

 その要素は十分にある。それを背景に考えれば納得する部分は多い。

 今や我ら連合は列強の中でもロム帝国と並び頭が一つ抜けている。面白く思わない国は多いだろう。少しでも足を引っ張ろうとしてくるに違いはない。醜いことこの上ない。

 上を下に引っ張るのではなく、向上心を持って並び立とうとは思わないのか。

 ふん、まあこの時代の国家間でそんな事はまずありえんがな。

 

 前世の時代でも足の引っ張り合いはあったというのに。

 

 話がそれた。

 今や国民は反戦のプラカードではなく、戦争を望むプラカードに満ちている。

 政府もそれを無視することはできない。その前に引き渡しを拒み続け、国境付近で演習などされて黙っていれば相手が図に乗るのは明らかであるため、戦争をしないという選択肢は連合にはない。

 誰が最前線に行くと思っているのやら。

 

 

 何故愚痴っぽくなっているのか、それは今我らが国境付近に張り付いているからに他ならない。

 

 複葉戦闘機が空を舞い地上を監視し、後方の飛行場では爆撃機がいつでも出発できるようにと待っている。

 俺達は教導隊から抜かれ、特務参謀本部付きの特務機動小隊と名前を変えて配属された。

 大隊規模が適当だと言ったはずなのだが、どうやらこれはお試しらしく、上手く行けば大隊規模へと化けるとのこと。その暁には俺は昇進となる。

 頑張らねばいかんな?

 

 今は中央軍団に紛れ、第7装甲大隊の傘下となっており、押されている所へと戦力増強、及び交代要員として転々と回ることになっている。

 機動部隊、この新しい概念を押し付けられた大隊長からの受けは良くない。そしてここを押さえれば、大きな油田があるパステン方面へと移動するかも知れないから尚更受けは良くない。

 そりゃあ、戦力として数えられないものがいるのは気に食わないだろう。しかも押し付けられれば尚更。

 

 「ミール・ソコロフ中尉以下13名只今着任しました」

 「ふん、特務だかなんだかわからんが調子に乗るなよ銀狼。受け入れただけでもありがたいと思え」

 「は、勿論分かっております。同志少佐」

 

 ふん、受け入れただと? 受け入れさせられたの間違いだろうに。

 スキンヘッドの筋骨隆々としたこの少佐は考えが少し古臭いらしい。まあ、押し付けられて迷惑という気持ちはわかるがな。だからおとなしくしていよう。

 

 「結構。分を弁えているようで何よりだ。貴様らは基本的に俺の命令で動いてもらう。もし戦争が始まれば最前線だ。勿論断らんな?」

 「ええ、最前線と聞けば胸が踊りますので、勿論断りは致しません」

 「……ならばいい」

 

 少しの間の後、舌打ちを零した少佐は踵を返し大隊指揮所へと向かっていく。それを見送ると振り返り、部下へと視線を配る。

 

 「では、各員私達に与えられた兵舎へと入り荷物をおろせ。その後装甲を身に着けての訓練を1300時より行う。装甲は先に整備庫へ搬入されてある。今整備兵がチェックしているから手伝ってもいいぞ」

 『は』

 「では解散」

 

 俺はとにかく朝飯でも食べるかと大隊宿舎へと向かうが、ヤコ曹長が俺の横に並び、妙に近い距離で俺を見下ろしつつ口を開く。

 

 「少し不満です」

 「そうか」

 「僕たちは仮にも仲間です。生死をともにするのに歓迎されないなんてあんまりですよ」

 「そうか」

 「聞いてます?」

 

 聞いてる聞いてる。そのお気楽な考えはヤコ曹長の利点ではあるが、同時に欠点だ。

 

 「ヤコ曹長」

 「はい」

 「我々は言ってしまえば部外者だ。生死を共にするとは言えそこは変わらん。そして、部外者をよく思わん輩もな。そして近い」

 「要するに仲良くなれってことですね。分かりました!」

 

 どこをどう解釈したらそうなる。お前の頭の中身を一回でいいからぜひ見せてくれないか。さぞお花畑が広がっているに違いない。ぐいぐいと寄るな、身体をくっつけるな。粛清するぞ!

 

 :少佐

 

 全くもって気に食わない。

 軍上層部もそうだがあの子供、ミール・ソコロフとかいったか。

 あんな子供が前線に出てくるなどと、上は何をしているのか。ああいう年頃は公園で他の子供達と遊んでいればいいと言うのに、何故銃を玩具にして遊ばなければならない。

 上へと連絡してみても答えは変わらず、配属されるのは銀狼の二つ名を持つ少年だという。

 前の内戦でも聞いたことはあったが、俺は海峡の守備を任されており、町でのパレードも見に行かなかったからいまいち信用はしていなかったが、本当に子供とは。

 

 プロパガンダかと思ったが、信用のある情報筋に聞いてみてもしっかりと実戦を経験した兵士なのだという。そして実際に会って目を見て確信した。あれは狂っている。

 最前線行きと聞けば並の兵士ならば少しは動揺するだろうが、あの子供は全くもって動揺は見られなかった。むしろ当然といった様子だったのが癪に障る。

 銀狼とは別の二つ名も納得といったところだろうな。

 

 それもこれもあの反乱軍共が悪いのだ。

 意味のわからん思想など説きおって。あんな物は破綻するに決まっているだろうに。

 賛同した者共もすべて阿呆だ。目先の理想ばかりを目で追うからああなるのだ。子供までをも犠牲にして何が大義か。クソッタレの共産主義者どもが。

 全く、世も末というものだ。 

 

 神よ、できることなればあの子に愛を教えて下さいますよう。

 

 

 :ソコロフ

 

 俺達がこの大隊に所属して3日ほど、俺達は最前線の国境付近にいた。

 そこはフカスカ山脈という場所で、空からは複葉偵察機が国境を見張り、地上では履帯を持ち、走破性能が高い装甲兵と山岳兵が国境の近くを見回っている。

 ここ、フカスカ山脈は自然の要害と言ってもいい所で、攻めるにも面倒で、かと言って放置する事もできないという面倒ことこの上ない場所だ。

 ここから東のアジージョ方面も山は多いが迂回路もあるからして此方よりは遥かに楽だ。

 その先は大きな油田があるため抵抗は激しいだろうがな。

 

 フカスカ山脈の国境警備のゲートはあるが、俺達の数キロ後ろだ。

 俺達の他には山岳兵もおり、俺達とは別の所を見回っている。

 

 そして、軍の情報屋として、オットマン帝国から独立したい勢力――ルドク人――が接触してくるので話を聞きながら情報を収集する。

 ちなみに、ルドク人を独立させると我が連合は密約しているため、此方が攻め入った時には味方として戦うという。そのため、秘密裏にルドク人と見分けるための軍服と装備を渡している。これは特務隊としての任務だ。

 産油地であるため、恐らくは連邦や合衆国、果にはお隣の帝国まで干渉してくるだろうが、上は一歩も退かない覚悟だと少将が言っていた。

 そも、これらの情報はこの前知り合い、この任務を命令してきた少将に提供してもらったものだ。

 

 

 「本当に侵攻してくるのか。そして本当に独立を保証してくれるんだろうな」

 「ええ、勿論です。だからあなた方に十分な装備を与えたのです。ですからあなた方は今度の国境沿いの演習の際、此方に発砲してくだされば良いのです。勿論、死にたくないのなら、ばれないようにしてくださいね?」

 「……分かった。独立の大義のためだ」

 

 だから、こんな夜更けに此方の国境内でテントの中、こうした密談も行われている。

 俺達はこのテントの護衛だ。

 

 シナリオとしては、国境沿いで我々側に対して発砲。一人が死ぬことになっている。その死ぬ役は、勿論の事先の内戦で捕らえた幹部クラスの一人。

 全くもって羽振りがいいではないかオットマン帝国は、銃殺に加えて侵攻の大義名分まであちら側から与えてくれるのだから。

 勿論の事、この事は秘密であり、もし口外すれば木を数える作業とともに死ぬまで炭鉱で働かされるだろう。

しかし、大義ね。大義で戦い死ぬというのはどんな感じなのやら。

 

 ま、口外する気はないから気にする必要もないのだが。

 テントの護衛は俺一人で、他は周囲の目がないかの確認を行っている。

 この秘密の会話を聞いているのも俺一人というわけだ。笑える。

 

 「では、よろしくお願い致します」

 「ああ、そちらもよろしく頼むぞ?」

 

 一人はルドク人伝統の服を着た男、そしてもうひとりは特務大佐。

 今回の作戦の責任者だ。

 

 分かれた二人の一人、ルドク人を見送り、特務大佐へと敬礼をすればそのにこやかな顔が真顔へと変わる。先程の柔和な笑みはどこへやら、狐のような顔で俺を睨みあげてくる。おお、怖い怖い。

 

 「装甲中尉。このテントは?」

 「知りません。気づいたら立っていました。片付けておきます」

 「先程の男は?」

 「誰のことです?」

 「……よろしい」

 

 それだけを告げ、此方側の宿舎へ歩き出す特務大佐を見送り、無線を開く。

 

 『総員に告ぐ、シャシリクは終了。繰り返す、シャシリクは終了』

 

 さて、戦争の準備でも始めるとするか。

 

 

 連合歴1919年

 

 ロマノ連合国内戦の反乱軍主要メンバーを匿うオットマン帝国に連合は、その主要メンバーを引き渡すようにとの再三の通告を送ったもののオットマン帝国はすべて拒否。

 あまつさえロマノ連合国境近くで軍事演習まで始めた。

 それを見た連合は国境に兵を貼り付け監視を始めた。そして監視を始めて三ヶ月が立とうとした時、オットマン帝国は再び国境での軍事演習を始め、それに伴い連合の軍も国境へと進んだ。

 互いが互いの顔を認識する中、事件は起きた。

 連合兵士の一人がオットマン帝国軍の一発の発砲によって倒れたのだ。

 

 それによってロマノ連合はオットマン帝国へと宣戦を布告。

 カフスカ山脈を盾にしようとした帝国であったが、戦争が始まるのと同時期にオットマン帝国内部でルドク人が独立の名目の元一斉に蜂起。国名をルドスタンとし、自然の要害と言われていたカフスカ山脈はルドク人と連合によって挟み撃ちにされ、抑えられることとなった。

 ロオ戦争の始まりである。

 

 後年、この発砲事件は連合の工作と見られているが、真相は未だわかっていない。

 

 

 

:オットマン帝国兵士

 

 最初は、他国の支援もあるという話を聞いていたものだから容易くはなくとも勝てるだろうと踏んでいた。実際、山脈を取られたとは言え、敵は騎兵を中心とした部隊がただひたすらに攻めてきており、それを塹壕内で防御するだけの簡単な作業だった。一つ二つは攻略されたが。だが今日は?

 

 「撃て撃て撃てぇ! 彼奴等を近づけさせるな!」

 「無理です! 弾が通りませ……」

 「良いから撃て! くそ! 此方の火砲はどうした!」

 「腕、俺の腕ぇ!」

 

 塹壕の中、怒号と悲鳴、そして血が溢れる。

 敵の出血は少なく、此方の砲撃で吹き飛んだ生身の兵士と騎兵。コザーク騎兵共は塹壕に向かって突撃してくる馬を撃ち抜いてやりどうにかなったが、問題は鎧を身にまとった奴ら。一発の弾も通りはしない。

 

 此方の砲撃と言えば、飛行機が空を通過していってからはぱったりと止んでしまった。

 逆に敵の砲撃は恐ろしいくら位に飛んできて、俺達は塹壕からなんて出ることはできず。よしんば出たとしても吹き飛ばされる。

 そして、1つ目の怪物がやってきた。

 

 撃っても弾かれる。何発撃っても罅すら入らない。

 そんな巨人が全力で走ってきたら? 誰も彼もが恐怖して逃げ出すに決まってる。そういう輩は後ろからバラバラにされたが。

 俺は塹壕の中で銃を下ろして無理だと悟る。あんな化け物を相手に勝てと? 無理だ。歯向かった所であの1つ目のキュクロプスに勝てはしない。

 土埃を上げ迫りくる化け物に、自然と両手を上げた。

 

 「ふむ、捕虜だ。丁重にもてなせ」

 

 幸運なことに、化け物は案外紳士的なようだ。

 

:スコロフ

 

 カフスカ山脈を抑えてからというもの、我々はアジージョ方面軍から離れ、バク油田攻略のためのバク方面軍の第115装甲大隊に入り快進撃を続けていた。

 敵塹壕をコザーク兵の騎馬隊が突撃し、それに続くように歩兵。それが駄目ならば偵察兵の観測の元、新型の75ミリ迫撃砲でたっぷりの準備砲撃で耕してやり、ついでに肥料も加えた後に進撃すると敵の反攻など皆無に等しく、我ら装甲兵の鎧を突き破れる代物は先に破壊してあるゆえに実質的に無敵状態であり、下手の事をしなければただの平押しで突破できるのだ。

 しかし、騎兵が突撃する前の此方側の砲撃は散発的で、援護する気があるのかと思ったが、装甲大隊が行く番になれば砲撃は苛烈を極めた。上の思惑が少し見えたという所か。

 

 更に、此方の地上戦力が抑えているうちに空では制空戦が行われたが、あちらは戦闘機などなかったため不発に終わり弾着観測に努めた。偵察兵との無線での情報共有によりさらに精度は高まった。

 

 そして、爆撃機70機が敵の後方を叩きに叩いたおかげで砲撃も援軍もない楽な戦場へと様変わり。散歩でもしているような気軽さだ。

 だから、降伏してくる兵士を余裕を持って受け入れることもできるわけだ。

 

 「赤十字条約の元、捕虜は丁寧に扱え。もし暴行を加えたものがいたら報告しろ。私がそいつを血袋に変える」

 「了解しました」

 

 捕虜や傷病兵を運ぶ兵士に念の為釘を刺しておく。

 捕虜の待遇は万全で朝昼夕の三食はもちろんベッドにシーツも完備されている。俺達より待遇が良いとは、まさに我々は文明人というわけだ。

 

 「中尉、整い次第先に向かいますか?」

 「はっ、上の命令では非常に頼もしきコザーク騎兵隊共が先頭だ。我らはその尻拭いをすればいい。さて、魔力量は十分か総員に確認させろ。ないものは装甲車に乗り、十分であると判断した者は装甲車の随伴だ。全員は乗れんからな」

 「は」

 

 無敵の装甲兵に見えても欠陥はもちろんある。

 中身の魔力切れだ。

 

 前に我々を生体電池と言っていたがまさにその通りで、魔力が切れれば鎧は動かない。

 歩きっぱなしでいざ戦闘で魔力がなくて戦えませんでは話しにならない、ということで先程も言ったように装甲兵用のオープントップの兵員輸送車が完成したのだ。

 全長7.5メートル、全幅3.5、全高3.5という巨大なものだ。

 当然のごとくエンジンの問題が浮上したものの、戦車のエンジンを積んでどうにか解決したという。

 乗員は8名で武装は20ミリ機関砲一門のみ。勿論履帯だ。頭が多少出てしまうが、そこは装甲兵を運ぶためのものなので文句はない。それにこれは試作機であるからして、あまり期待はしていない。

 

 「確認完了いたしました。総員問題はないとのこと」

 「偵察兵は」

 「迫撃砲しか撃っておりませんので、問題ないでしょう」

 「ゲラーシー少尉。私は、なんと、言った?」

 「そ、総員の、確認をと」

 「怠ったのか?」

 「確認してまいります!」

 

 たまにああいうのがいるから困る。

 装甲兵の中でも偵察兵は地味な仕事で、魔力を一番使わないと思っている輩が多く偵察兵を軽視しがちだ。

 偵察がなければ不意の遭遇戦に発展し、奇襲を受けてしまうかも知れず、火力援護を受けられないため被害が増す。

 自分たちが前に出るからと後ろのものを軽視して良い訳はなく、逆に偵察兵や裏方がいるからこそ我々が前に出られるというのに。士官学校で何を学んだのやら。そも、何故偵察兵に割り振られたかの理由を思い出せばすぐに理解できそうなものを。

 全く、人間というものは。

 

 「確認完了いたしました。問題ないとのことです」

 「分かった。次はもう言わんぞ」

 「分かっております」

 「ならばいい。歩兵の準備が終わり次第我々も乗り込むぞ。それと、何故偵察兵がいるのか、何故割り振られたかを考えておけ」

 「は」

 

 次はサムル橋を落とす。

 その次は街を落としながらバク油田。最優先目標だ。

 

 と、次の戦いを考えていると騎兵隊の生き残りがやってきた。

 表情は不愉快そうだが。

 

 「鉄人形共」

 「何でしょうか大尉殿」

 「あまりでしゃばるなよ? 先陣の誉れは我らコザーク騎兵隊のものだ」

 

 はっ、先程の戦闘で散々死んでおいてよく言う。

 まあ今の所騎兵が花形という風潮であるため下手に出ておくか。

 俺が思うに花形は砲兵なのだがな?

 

 「ええ、勿論分かっております。我らはあなた方の後ろをゆっくりとついていきますよ」

 「分かっているならば良い。精々俺のケツでも見ておけ」

 

 誰がてめぇのきたねぇケツなんぞ見るか。

 栄光に縋り付いて死んでいけ。

 

 「ははは、了解いたしました」

 「ふん、言い返す気力もないか。鉄人形、貴様らなんぞはくるみでも割っているのがお似合いなのだ」

 「左様で」

 

 言いたいことを言ったのか、満足げに部下を引き連れて戻っていく間抜け共を見送る。

 

 「言わせたままでいいので?」

 「構わん。短い人生を精々楽しんでもらう」

 「了解しました。精々彼奴等の死体でも眺めましょう」

 

 連合内でコザークたちの評判は悪い。

 コザーク達は元々反体制派であったのだが、ロマノ帝国時代にコザーク達は敗北を繰り返し、帝国側へとすり寄っていく形となり、弾圧される側からする側へと変わっている。

 そしてしばしば武力によって民草の生命を脅かすなど、存外に好き放題をしているため、嫌われるのも当然といった所だろう。まあ、差別もあったようだが。

 まあいい、次だ。

 

 「総員! これから先トイレ休憩などない! 今のうちに済ませておけ!」

 

 次はサムル橋。橋を落とされる前に此方が取らなくてはな。




シャシルクというのはロシア式のバーベキューみたいです。
美味しそうでしたよ。

それと、これから色々と忙しくなるので不定期更新となります。
見てくださっている奇特な方々誠に申し訳ありません。
感想も同様に、万が一してもらえた場合にも遅くなります。
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