蒼島鎮守府の日常   作:氷雨蒼空

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第一話 晴れ時々大食い娘と薄幸娘とチンチン娘

「おい周防。着任早々遅刻とはいい度胸だな」

 

この春、鎮守府へと着任が決まった俺に、提督室で待っていた九里坂提督が目をつり上げる。

 

「お早う御座いますきゅう・・・・・│九里坂《くりさか》三等海佐」

 

「今私のことをキュウリと呼ばなかったか?」

「yesかNOかで言えばいいえですね」

「何故そこでいいえなんだ。文法がおかしいだろ」

 

じゃあはいと答えれば良かったのだろうか?

 

この人九里坂提督で、普段は裏で部下や後輩にきゅうりと呼ばれている。

士官学校時代に学生が噂を耳にするほど有名な提督で、撃沈数が軽く三桁を越える猛者だ。

 

合コンによる自沈の数だけどな。

 

何故にきゅうりと呼ばれているかと言えば、名字もそうだが、休憩中に時折顔にキュウリパックつけてたりしてのを誰かが目撃して広めたのだとか。

 

 

ちなみにそのことは身に覚えありすぎるのは内緒の話。

 

「普通着任早々遅刻しておいて言う言葉はそれか?」

「すみません。昨晩の合コンの戦績は黒星更新ですか?」

「君は自分の命よりも私の合コン成績が心配なんだな」

「すみません。今度お中元にゼクシィ贈りますので」

「ゼクシィって鈍器になるって知ってるか?」

 

いよいよ本気で殺しにかかってきそうなので、俺はそっと口を引き結んで、余計なことを言わないよう細心の注意を払うことにした。

 

「さて早速クソ真面目な話をするとしてだ。貴様にはこの鎮守府にて私の業務の補佐を行って貰う。主には合コンの際の送迎や面子集めだったり、雑用を代わりに引き受け、ついでに提督代理の業務を行って貰う」

 

こいつ主にとついでが逆転してないか?

見た目は凄く美人なのに中身が残念上司の話を七割聞き流しながら、俺は先ほどから彼女の側に立つ少女に視線を向けた。

 

「彼女は本日から君の補佐としてつく、防空駆逐艦の照月だ」

「照月です。主にこの鎮守府にて庶務の仕事を行っています」

 

防空駆逐艦の照月。彼女は│艦隊乙女《フリートメイデン》と呼ばれる存在で、見た目はごく普通の女の子だが、人間離れした身体能力と特殊艤装と呼ばれる、彼女達に合わせた兵装を使用して戦う。

 

彼女達が戦う相手は海の平和を脅かす海賊や魔物、そしてレヴナントと呼ばれる、フリートメイデンと対を成す敵性艦船乙女である。

 

「まあ、今さら庶務の仕事について貴様に説明する必要もないな」

 

あら。各鎮守府に設置された鎮守府独自の庶務の仕事と言えば、鎮守府のアイドル的存在のフリートメイデンが、自らエロい体を使って男性将校に奉仕する仕事である。

 

 

「知ってますよ。馬鹿にしないでくれますか? 主にセクハラを一手に引き受けるメイドですよね?」

 

 

「お前のような奴を馬鹿にするなと言う方が無理だろ」

 

なんて酷い上司だろうか。今一度パワハラで訴えてやりたい。

 

「私達、鎮守府独自の庶務は会計監査部門、並びに業務監査部門、警務部門と多岐に渡りますが、私は主にそれら全ての役割を担う監察局総務に所属しております。帝国軍監察本部とは異なる独立機関であることを頭にいれておいてください。最も脳みそが小さい貴方には無理かもしれないので期待しておりませんが」

 

偉く酷いことを言われている気がするが、この子は俺がそんな言葉をぶつけられて喜ぶ性癖をしてるように見えるのか?

 

だとしたら心外だ。

 

「何にしてもお前は本国にてやらかし、ここへの異動と言う名の追放処分となったが、ここに来ても貴様は監視され続けると言うことだ。さて話は以上だ。取り敢えず本日は鎮守府内を照月に案内してもらい、その後は自分の執務室の整理をしてろ」

 

 

こうして俺は、配属された新たな鎮守府にて活動を始めることとなる。

 

 

が、

 

「六畳一間のあんたのプレハブ執務室の隣の六畳一間の物置小屋と、プレハブ並べて申し訳程度に用意された工廠の何処に俺の執務室があるんですか?」

 

「ふむ。今流行りのレンタルボックスを使えばいいだろう。もしプレハブを増やすなら自費でやってくれ。空きスペースは工廠の中にしかないがな」

 

 

早くも俺は退役したくなった。

 

 

「いやいや、何でこんなにあんたの胸みたいに貧相なんだよ」

「周防、私は人並みに怒る感情は持ち合わせている。口を慎みたまえ」

 

その前にその拳を振り上げるのを慎んで欲しいね。

 

「うちは見ての通り弱小鎮守府だ。演習結果を含め様々な活動成績が鎮守府の予算に影響してくる。そしてその結果がこの有り様だ。私がふて腐れてさっさと結婚して寿退役するために合コンに力をいれるのもわかるだろう?」

「ちっとも」

 

むしろ合コンの前に鎮守府建て直しに力をいれろよ。

 

「無論、こんな状況のまま後任に引き継がせる気はないよ。最もお前が後任候補として最有力だから、さっさと結婚して退役するつもりでいるからそのつもりで」

 

 

「人として上司としてあんたが最低なのはよくわかった」

 

 

 

 

2

 

 

太平洋の南西に存在するブルーラグーン諸島にある小さな島。

 

青い珊瑚礁に囲まれた楽園のように綺麗な海に浮かぶその島に、蒼島鎮守府は存在する。

 

住民は数百人程度だが、全て日本本国から来ている軍人の家族か、ここで商売目当てで移り住んだもの達である。

 

そして日本本国から離れていることもあるし、大半の配属軍人は上層部に嫌われた連中ばかり。

 

おまけに他ではしょっちゅう緊急出動があるのに、このブルーラグーン諸島では緊急なんてものは年に数回程度で、周辺海域は平和そのもの。

 

「腐るのも当たり前だな」

 

真面目に軍人として生きてきた者にとっては、この島での生活は苦痛でしかなく、大抵の連中はこの地にて退役してしまうものだ。

 

出動要請もなければ訓練しようがしまいが何も言われない。

 

きっと俺もそうなるかと一瞬考えたが、ここでダラダラしながら生活しても給料が貰えるので、ネガティブに考えらことなど何もない。

 

遠くから聞こえる砲撃音は、この鎮守府に所属する艦娘達の暇潰しと浪費の日課の音。

 

艦娘とは照月のように、艦船の名前を与えられた存在のことで、彼女達は世界の治安を守るために選ばれた存在。

 

それ故に日々訓練が欠かせないのだが、このブルーラグーン諸島は緊急合わせて出動回数が年に数回。

 

彼女達もまた本国で上層部や上官将校のご機嫌そこねたり不評を買って左遷された者達。

 

それ故に精神的に病んで退役するものもいる。

 

最も人間とは違う存在故に、そう言った者達はこの島で隔離されるように生きていくしかない。

 

なので、ブルーラグーン諸島内の一般施設は、大抵退役した元艦娘や元軍人等が運営している場所がほとんど。

 

空き地にプレハブ置いだけの即席感丸出しの鎮守府に、やりがいを感じさせない日々は、確かに誰もが辞めたくなる。

 

こうして自分で何か商売した方がまだましだと思うのは仕方がないことだろう。

 

「周防海尉。取り敢えず、一通り島の中は案内致しました。もし何もなければ私はこのまま日課のトレーニングに行きますが」

 

彼女は日々トレーニング等を欠かしていないらしい。

 

実に真面目である。

 

「ストレッチにだけ付き合ってやろうか?」

「ストレッチだけと言う言葉に下心が透けて見えますのでお断りします」

 

「下心が透けて見えないような方法を模索すべきか」

「そもそも下心を持たないようにする考えはないのですか?」

「ない」

「度しがたいほどのクズですね」

 

ここまで清々しいほど言いきられてしまうと、ドMでもないのに妙な気持ちよさを感じてしまう。

 

さっさと立ち去っていく照月を見送った俺は、近所のレンタル屋に行き、自分用のプレハブを注文。

 

しかしあれほどまでに落ちぶれた鎮守府など見たことない。

 

海域を守護する組織がこれでは、普通なら一般市民は不安を覚えるものであるが。

 

プレハブをレンタルしている店を出てみると、

 

│褌《ふんどし》一丁で歩く将校や、下着姿で徘徊する元艦娘らしき少女や、ドラム缶引きずって虚ろな目で歩く駆逐艦少女の姿が目につく。

 

 

まともな一般人がほとんどいない。

 

むしろ落ちぶれた鎮守府よりも街の様子に不安を覚える。

 

改めて自分が送られた島が、まともな場所でないことを思い知らされ、うちひしがれた気分で鎮守府に戻る。

 

訂正、鎮守府らしき場所だ。

 

一応、電気ガス水道のインフラがあるのだけれど、寝泊まりするところは、敷地の隣の二階建て木造アパート。

 

本当にこれが宿舎なの?

 

不安に駆られながら眺めていると、九里坂提督がビールやツマミが入ったコンビニ袋を引っ提げて入ってく姿を目にする。

 

あのアマ・・・・早くも午後からサボタージュ決めて呑むつもりかよ。

 

「おお周防戻ったか。あと宜しくな」

「宜しくなじゃねぇよ。まだ半日残ってるだろうが」

「もうやることないんだよ。そう言えば工廠の改修用の機械がぶっ壊れたから見に行ってくれ。お前昔からそう言うの得意だったろ? 実は機械に強い奴いなくてここ三年工廠というものが形骸化してたんだよ」

 

提督という存在もその時点で形骸化してんだろうなぁ。

 

さっさと立ち去っていく九里坂提督に呆れながら、俺は工廠に向かうと、手作り感満載の工廠の中へと入る。

 

最早、雨風を防ぐことくらいしか役に立ってなさそうな建物だ。

 

まあ、工具や資材はプレハブに収められているものの、壊れた艤装等が全て雨ざらし。

 

「貴方が提督の話していた人ね。私はレディな駆逐艦の暁!ここの責任者をしているのよ。宜しくね!」

 

顔中油まみれにしながら小さな手にレンチを握りしめる少女。

 

今時のレディはレンチを握りしめるのが流行りなのか?

 

それともレディってのはあれか、幼女のことをレディって呼ぶのか?

 

「何してんの?」

 

「見てわからないの? しょうがないわねぇ。│機械を修理《チンチン》してるのよ!」

 

えへんと無い胸を張る暁だが、その足元に転がる残骸を見ると、どうみても壊しているようにしか見えない。

 

「お前レンチだけでどうやって分解したの?」

「え? レンチの使い方も知らないの?」

 

少なくともレンチが万能の工具ではないことくらいわかっている。

 

俺が知りたいのはそう言うことじゃないんだ。

 

「後学のために教えてくれ」

 

 

「ズバーっとやってどがーってやればこの通りよ」

 

 

「OK。君に説明を求めてはいけないことだけ理解した」

 

何はともあれ、彼女が破壊した機械は電導工具を使うための発電機であるのがわかった。

 

随分と古いが、スターターの紐や巻き戻しのバネを交換し、オイル交換をする必要があることも一目みてわかった。

 

俺は修理に必要な工具をプレハブで漁り、修理用に用意された部品を見つけ出すと、取り敢えず修理に取りかかる。

 

「すごーい! あっという間に直しちゃった!」

 

が、当初の目的が達成されたわけじゃない。

 

発電機は暁がぶっ壊したもので、当初直す必要があったものは別である。

 

「そう言えば壊れてる機械は何処にあるんだ?」

 

「うーんとね、艦娘の建造炉なんだけど」

 

「・・・・・一番重要なものじゃねえか」

 

 

建造炉とは鎮守府の戦力を生み出す重要設備。

 

それが機能しないと言うことは、いつまで経っても戦力が増えないと言うことだ。

 

軍人と違ってアテナの異動はよっぽどのことがない限りあり得ない。

 

「なぁ、ここの鎮守府の艦娘ってどれくらいいるんだ?」

 

「えーっとね、私と照月と浜風だけよ。浜風はねぇ、毎日ドラム缶輸送してるの。それでね、ドラム缶輸送で持って帰ってきた油を売り歩いて私達の生計を経ててるの」

 

 

あぁ、あの街で見かけた死んだ目をした少女か。

 

明らかに幸薄そうだもんな。

 

さしずめ九里坂提督は駄目亭主というところか。

 

「とりあえず機械を修理してからだな」

 

俺は早速機械を見に行ったら、長年放置した結果、あちこち錆び付いており、あれこれ部品を交換しなくてはいけないことがわかった。

 

 

終わった。予備の部品すらなく、ましてや注文するにしても予算がない。

更には部品は定期便じゃないと届かないので、これの修理には時間も金もかかる。

 

「こいつは後回しだな」

 

すると暁が腕捲りしながら鼻息荒くして建造炉に歩み寄る。

 

「直すって言ったり後回しにするって言ったり男らしくないわね! ふんす! 提督に止められてたけどしょうがないから私がレンチでチンチンしてあげる!」

 

「ちょっと待ったああああああ! それ以上これを破壊するな! 後レンチはチンチンするもんじゃないから!」

 

 

 

 

 

3

 

 

「その・・・・もうしわけございません。今日の夕食はこれだけです」

 

酷く申し訳なさそうというか、既に目が瞳孔開ききってるような死にそうな顔をしている薄幸の少女浜風。

目の前に並べられた夕食は、ご飯と味噌汁と秋刀魚の塩焼きである。

 

「うぅ。ひもじいよぉ」

「暁、贅沢は敵ですよ」

「ごめんなさい・・・・・」

 

何この時間軸が逆行したような光景は。

何だかこの部屋だけ昭和初期の時代に遡ったような食卓の風景なんどけど。

 

「明日から私もドラム缶輸送任務に行きます」

 

「で、でも照月はこの鎮守府唯一の高レベル艦だから・・・・・」

 

「暁はレンチでチンチンする仕事があるから駄目よ」

 

そんな仕事はない。

 

「暁、食事中にチンチン言うのはやめなさい。食事が終わってからにしなさい」

 

「照月、そもそも女の子がチンチン言うべきじゃないと思うんだが」

 

「ねえ? 何でチンチンがはしたないの?」

 

おっと。暁はどうやらチンチンについて何も知らない純朴な子のようだ。

「それを説明するとなると話が長くなります。遡れば120世紀初頭のソ連のチンコスキーの方のお話から始めなければなりません」

 

「へぇ! 照月って物知りね! じゃあ今度聞かせてね」

 

120世紀と言う時点で気づかない暁は、どうやら頭の中身が物凄く残念であることがわかった。

 

そしてこの中で一番はしたないのは照月だと思う。

 

なんだよチンコスキーって。

 

 

 

六畳一間のワンルームの部屋。そこで四人で夕食を囲んだわけだが、実はガスが通っているのはこの部屋と九里坂提督の部屋だけらしい。

 

そして風呂も九里坂提督の部屋とこの部屋しか使えないとか。

 

アテナの三人は寝るときだけ部屋に戻り、基本食事と風呂はここを使っている。

 

「あ、あの・・・・・」

 

皆が食事後、順番に風呂に入るなか、食器を荒い終えた浜風が、おどおどしながら声を描けてきた。

 

「あぁ、風呂なら俺は一番最後でいいよ」

 

きっと俺に気を使っていたのだろう。俺は風呂の順番を先に譲ってあげることにした。

 

「そ、そうではなくてですね」

 

そう言えばここどちらかでお湯を使うと片方が水になってしまうんだよな。

 

「大丈夫。皆が終わるまでキッチンのお湯は使わないようにするから」

「そ、そうじゃないんですけど」

 

「わかった。洗濯当番なら気にするな。俺が毎日やってやる。もしかしたら下着が減るかもしれないがそこは多めにみたくれ」

 

「そこじゃないし絶対嫌です! そうじゃないんです!」

 

そこまで嫌がらなくてもいいのに。一体どうしたというのだろうか?

 

「なぁ、一体どうしたんだ?」

 

 

「貴方誰ですか?」

 

 

それを今さら聞くのかよ!

 

 

 

 

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