折角クラーケン討伐によって莫大な報酬を得たものの、鎮守府は何故か借金を背負ってしまうことに。
原因は暁がチンチン祭りで、出没したゴキブリを俺の部屋ごとチンチンしてしまったからなのだが、報告書にそれをそのまま送ったら、軍本部の総務にセクハラだと訴えられ、始末書をテレワークで請求されらという、実に近代的な始末者のやりとりを体験した。
すげーな。始末書をテレワークで済ませられるって。
全然嬉しくないけど。
そんで暁のおかげで、ついこの間まで死んだ目をしていた浜風は、更に死んだ目の熟練度がアップし、死んだ目改二になっていた。
きっと、目から何か出てくるかもな。
照月は日課のトレーニングをすると言っていたが、最近ベンチプレス500キロを片手でこなしていると嬉々として報告してきたが、カロリー消費が激しくなればなるほど浜風が進化したいくのでほどほどにして欲しい。
そして一番のネックなんだが暁である。
ちょいと目を放せば、手当たり次第レンチでチンチンしちゃうので、最近では九里坂提督が勝手に暁係というものを創設し、その責任者を俺に押し付けてきた。
『私だって乙女だ。結婚前にへんなミソをつけられたくないんだよ』
なんて言いやがったけど、既に事故物件のこいつにミソも何も今更である。
防空駆逐艦の癖に、戦艦顔負けの馬鹿力が自慢のフードファイターに、体はどエロいが死んだ目がデフォルトの薄幸少女、そしてレンチを振り回すチンチンが口癖の残念ロリ。
それをまとめる行き遅れのアル中提督。
どう逆立ちしてもこの鎮守府の将来性が悪い方にしかイメージできない。
そんなヤバい状況にようやく危機感を持ったのか、朝早くから珍しく九里坂提督が執務室にて書類仕事をしていた。
まじでどうしちゃったのかなと心配するレベルの、それはもう真面目な仕事振りである。
「朝から精が出ますね」
「ああ。夏に向けて急いで準備しないといけないからな」
ほう。夏に向けてとは偉く具体的な目標日数である。
「夏って何かありました? 特に演習はないですが」
「あるだろ! それもわからないのか!」
バン! っと机を叩いて血走った目を浮かべる提督は、二枚のチラシを俺に突きつけた。
「このブルーラグーン諸島の夏はヤバいんだ! エアコンがぶっ壊れて夏は熱風冬は冷風しか出ないんだよ! そして夏と言えば海! 女を求めてバカンスに訪れる男達が増える! 今年はブランドものの勝負水着にて金持ちの男を轟沈して寿退社するんだよ!」
轟沈させてどうすんだよ。理由が何であれ仕事に精を出してくれるのはいいことなんだが、そもそも仕事を頑張ったところで金になるような仕事でなければ意味がない。
そして九里坂提督がやっている仕事はただの事務処理。
待てよ?
「失礼」
「な、何をする!」
俺は九里坂提督の机の上から書類束を取り上げて確認する。
『艦娘によるコスプレ撮影会』
『ドエロい浜風による密着セクシーキャバクラ』
『等身大艦娘人形販売(細部まで拘る浜風人形)』
『密漁(浜風にドエロい格好させ、海洋警備隊の囮に使う)』
『沖合いでセドリ(浜風以下略)』
『海賊との裏取引(は以下略)』
俺は即座に書類を破り捨て、パソコンの中のデータを消去する。
「うわああああああああ! なんてことするんだ! 今月ピンチでビール買う金すら危ういんだ!」
ちなみに俺はここへの出向という形となっているが、所属は監察局、つまりは将校達の悪事を取り締まる側の人間。
そりゃあいろいろやらかしての左遷ではあるが。
「おい。監察局所属の俺の前でいい度胸じゃねえか。こんなもの見逃したら俺のキャリア終わるわ!」
「後生だ周防! そもそもここに送られた時点でお前のキャリア終わったも同然じゃないか!」
おっと、まじで上官殺したくなったぞ。
「うるせえ! 絶対にこんなもの認めるか! ただでさえ浜風の目が死んでるんだぞ! これ以上死んだ目が酷くなったら管理疑われるわ!」
「く! お前がここまで頭が堅い男だとはな! だが考えてみろ! バレなければ問題ないだろ?」
誰だよこいつを提督に任命したの。監察局長に通報してやりたいわ。
こいつの暴走を許したらマジで俺のキャリアが終わってしまう。早急に現状をどうにかしなければならない。
どっかにいいクエストが落ちてないかなぁ。
一先ず月末に向けた関係各所の書類を整理する為に、自分のプレハブへ足を運ぶと、勝手に入り込んでいる奴がいた。
「あは♪ お久しぶり海尉!」
浜風に負けず劣らずのわがままボディに、着崩しコーデの制服で耳にピアスをしている。
誰だっけこいつ。
「フランクフルトを咥えた横顔がエロいで有名な」
「ちょっと待って。その記憶の仕方に異議を唱えるわ」
「ああ! 念仏唱えるのが得意な」
「それちげーよ! 誰だよ! 私は」
「│168《イムヤ》か。懐かしいな。お前相変わらずおっぱいはムール貝で隠してるのか?」
「どう見ても潜水艦じゃないし168じゃないでしょうが! そもそもあんたの下に潜水艦いなかったでしょうが!」
え!! そんな!!
「ねぇ? 海尉の頭の中どうなってるの? 今一度ゼクシィで叩き割って確認していい?」
「冗談だよ。覚えてるって。北海道は寒かったか? 夕張」
浜風に負けない胸だもんな。そりゃ胸にメロンぶら下げてると思われても仕方ないよ。
「今海尉、私の胸見て言ったでしょ?」
違ったらしい。
「ごめんごめん│択捉島《エトロフ》」
「鈴谷!」
「知ってる知ってる。しっかし戦艦のお前が来るとはな」
「だからなんで胸見て言ってんのよ! 重巡だから!」
「覚えてるって! しっかしあれだな。そこはかとなくいい感じになったな」
「その玉虫色の回答の時点でお察しだよ!」
しかしなんで鈴谷が急にやってきたのか。本国から何も連絡来てないぞ。
「嵯峨元帥から頼まれたの。海尉をサポートしてくれって」
嵯峨元帥とは、若干27歳にして日本帝国軍の最高司令の次に偉い人。かつて監察局にいた時の俺の上司で鬼。
はっきり言えばチートの塊だ。別次元の話の主人公みたいに滅茶苦茶強い人。
「なんでまた?」
「この惨状を予想してたからでしょ」
「住めば都だ」
「はいはい」
全く信用されてないようで。
「取り敢えず私は今日からここ配属だから宜しくね」
そう言ってにこりと微笑む鈴谷なんだが、俺は正直嫌な予感しかしていない。
2
「私は重巡鈴谷。今日から宜しくね! 」
夕方、浜風が戻ってくるのに合わせ、鈴谷をアパートに連れていくと、浜風が死にそうな顔で死んだ目をしているという、実に器用な様子を浮かべていた。
「・・・・・浜風・・・・・です」
「ねえ海尉、この子演習10本ワンセットでもやってきたの? めちゃくちゃ疲労マックスじゃん。3-3海域周回でもやってきたみたいにさ」
「は? ドラム缶輸送だよ」
「は?」
まるで意味がわからないと言わんばかりの顔をしている。
「えーと、中小缶を五つ三往復とか?」
「200」
「は?」
なんだか隣で聞いているだけで胸が締め付けられるような思いである。
「200リッターを10個で5往復・・・・・・です」
「まぁ確かに大変よね。1人2つを5往復とかはね」
「1人・・・・・です」
いよいよ鈴谷の顔が真っ青からドン引きの顔に変わっていた。
「ちょ、おかしいでしょ! 何でこの子1人でそんな事を! この鎮守府に誰かいないわけ!!」
「照月は鎮守府の仕事がある。暁に至っては毎回ドラム缶チンチンしちゃうから駄目だ」
「ごめん何を言っているのか意味わからない」
奇遇だな。俺も自分で言っていて意味がわからない。
「暁はこれでもちゃんと仕事してるのよ! 最近近所の屑鉄屋のおじちゃんの車をチンチンしてあげたら泣いて喜んでたわ。えーと、メルシー・デス弁当っていう車」
メルセデス・ベンツな。何だよその物騒な食べ物。
てか、泣いて喜んでたんじゃなく、この幼女を叱るに叱れず泣くしかなかったんだよ。
そんで気が狂って笑いだしたというのが事の顛末だろうに。
「まったく。この鎮守府一体どうなってるのよ」
奇遇だな。俺も来た当初は同じ事を思ったよ。
「只今戻りました」
そこで照月が仕事を終えて戻ってくる。
「今日からこの鎮守府に配属された鈴谷だよー。よっろしくね♪」
「照月です。宜しくお願いします」
すっと差し出された手を見て、鈴谷は笑顔で握手に応じた。
次の瞬間には激痛に顔を歪めていたが。
「いだだだだだだだだだだだだだだだだだ」
「すみません。つい普段の感覚で握ってしまいました」
「どういう感覚よ! てかこん鎮守府に戦艦いたなんて初耳なんだけど!」
「「防空駆逐艦です(だ)が?」」
俺と照月の声がハモると、いよいよ鈴谷が理解できないとばかりに目を白黒させる。
「彼女・・・・・・沢山・・・・・・・食べます・・・・・・食欲は戦艦・・・・・・です」
がくりと項垂れる浜風。
「あはははは・・・・・・・えーと、私、ちょっと嵯峨元帥に電話してこないと」
そのまま外に逃げようとする鈴谷の肩を掴む俺。
「おいおい。今さら怖じ気づいたは無しだろ」
「放して! あの元帥私に嘘ついた! 蒼島はチョロいって嘘ついた! もう信じらんない!」
あの腐れ元帥め! 本人に面と向かって言ったら絶対にぶっ殺されるが、今だけは叫びたい!
「諦めろ鈴谷! 今さら嵯峨元帥に言ってお前の希望を聞いてくれると思うか?」
鈴谷は俺と同じく嵯峨元帥の下にいたのだから、その性格の悪さを重々理解しているようで、すぐに諦めたように膝をついてしまった。
「取り敢えず飯にしようぜ」
そう言って俺は取り敢えず鈴谷の気分を落ち着かせることにしたのだった。
が、
「ちょ、なにこれえええええええええええええ」
いちいちうるさい奴である。
まぁ本島の恵まれた鎮守府ならば食堂があるので、大抵は皆食事に不自由したことがない。
なので目の前に並べられたひもじい食事に驚くのもわからんでもない。
ご飯と味噌汁と秋刀魚。ちなみに秋刀魚はここ数ヶ月毎日らしい。
照月以外は並盛なのだが、照月のご飯はラーメンどんぶり二郎系盛り。
こいつはやたらと食べるからな。
「えーと、毎日これ?」
「毎日これ。昼は各々にとる感じ」
「何処が済めば都よー!」
「仕方ないんです・・・・・・・鎮守府にお金・・・・ないんで」
浜風のドラム缶輸送任務の収益は大半が経費と照月の胃袋で消える。
「これはやっぱり周防提督の案に従い、浜風に身売りを」
「照月! ちょ、言い方!」
「最低!」
案の定鈴谷が滅茶苦茶ドン引きの顔でこっちを見てくる。
「違うって! クラーケンは浜風のようなわがままボディが好みで、浜風を囮に誘き寄せ、照月が倒すという作戦をだな」
「うぅ。私はそれでパンツまで脱がされてお嫁に行けなくなるんです・・・・うぅ」
「ちょ! 浜風昨日は未遂だったろ! 出来れば次回は脱がされてくれ」
「本音駄々漏れですね。最低です」
「やっぱり糞だわ」
照月がどさくさに紛れて俺を糾弾してくるが、お前も共犯なんだからな?
「ふう疲れた。おや鈴谷じゃないか。久しぶりだな。金を貸してくれ」
最早夕方帰宅にコンビニ袋をぶら下げてくるのがデフォルトの九里坂提督は、鈴谷に会うなり開口一番で借金を申し込む。
「相変わらですね九里坂提督は」
「本当だよ。提督として恥ずかしくないんですか?」
「ちょっと待って海尉。貴方も私に借りてなかった?」
「昔のことを引っ張り出してくる女は嫌われるぞ。それと俺も一万貸してくれ」
「そうなのか!」
何故にそこへ九里坂提督が食いついてくる。
「取り敢えず2人乗り借金はちゃんとつけておくから」
しっかりメモしているあたり、取り立てる気満々の鈴谷。
鈴谷から受け取った一万を無造作にポケットに突っ込んだ九里坂提督は、取り敢えず日課のようにビールを袋から取り出し、テーブルに座ると同時に飲み始めた。
「うめぇー!」
完全におっさんだな。胸が残念なだけで顔は整っているのに、その良さを全く台無しにしているあたり、人生を無駄にしているのではなかろうか。
「あ、そうだ周防。実は昼間に競馬新聞を読んでいて良い金策が思い付いたんだ」
一応確認するつもりはないが、休憩中に読んでたんだよな?
「はぁ。一体どんなろくでもないことを? また浜風を使う計画ですか?」
「海尉、今何かとんでもないことを言いませんでしたか?」
「違う違う。三つあるうち二つはそうだが、今回提案するのは至極真っ当なものだ」
「提督、何ですか三つあるうちの二つって! 私に何をさせようと考えてるんですか!」
本人の預かり知らぬ所で話が進むのはよくあることだ。
「まぁ取り敢えず先の二つの案は後で聞くとして、今回のろくでもない案は何ですか?」
「ろくでもないなんて人聞きが悪い。取り敢えず私が考えたのは、YouTuberだ」
「さぁ皆さん夕食にしますよ」
「ちょっと聞けお前達。YouTubeでブルーラグーン諸島を宣伝し、夏にビーチで海の家を開く。プロカメラマンの青葉にも撮影を頼んだ」
「青葉はプロカメラマンじゃなくて職業はれっきとした重巡だからな」
「周防。これを見て青葉をまだ重巡というか?」
浜風の隠し撮りされた着替えシーンを前に、
「プロカメラマンですね」
俺は素直に彼女の実力を認める。
「人の隠し撮り写真で何してるんですか!」
ち! 後で現像して貰おう。
「取り敢えずカメラマンは決まったが、被写体は私と暁と龍驤と大鳳で行く」
明らかにこの場にいる不特定多数を弾いた悪意ある選択に、何故か俺しか気づいていないようだ。
なんでよりによって水着映えしない連中を揃えた?
「なぁ、ここは浜風と照月と鈴谷をいれるべきだろ」
「さてと。私は打ち合わせが。おい。その手を放してくれないか?」
普段浜風のけしからんワガママボディーを使う阿漕な商売を考える奴が・・・・・・・
「お前、他の三人と結託して何をたくらんでる」
「よしてくれ周防。私とお前の仲じゃないか」
俺は九里坂提督の隠し持っていた書類を奪い取ると、そこには盛に盛って修正されて水着姿の4人の姿が。
「おい。これ詐欺じゃねえか」
「馬鹿だな。今は万能アイテムがアマゾンでも手軽に手に入る時代だぞ。いいじゃないか少しくらい夢を見たって! 龍驤なんか『RJさんは安定の洗濯板である意味夏の主役ですよね草』って草生えてんだぞ!」
哀れだぁ・・・・・龍驤と瑞鳳と大鳳が、フラットシスターとか、胸だけトリミングされてることと、ヒンドゥーの三神をかけたトリムールティって呼ばれてるのは知っていたが。
「何にしてもこのポスターは使わない。わかりましたね?」
「・・・・・はい」