悪役令嬢に転生したので男装して執事になりました〜攻略対象が私の周りに集まるのは何故~   作:れーと

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5・執事様とティアラちゃんの夜のお茶会

私がこの公爵家に来て一か月が経った。

 

正直、まだアリシアのことが怖いけれど彼女の明るくて優しい性格は本物なのだと気が付いた。

 

 

 

――だとしたらどうして?

 

どうして、〈前回〉私を虐めたりしたの?

 

 

 

分からない…分からない……彼女の真意を、知りたい。

 

 

 

**

 

 

 

「…まだ、かな……?もしかして迷っている?!む、迎えに行った方が良い…とか…」

 

 

 

夕食も食べ、お風呂にも入った晩。私は自室でティアラちゃんを待っている。

 

なんでも二人きりで話したいことがある…らしく、こうしてドキドキしながら彼女の到着を心待ちにしているのだ。

 

 

 

「……うぅぅぅぅぅ…話しかけるの迷惑だから止めてください、とか。デブの癖に…とか言われたらどうしよう…」

 

 

 

転生した当初よりは大分マシになったお腹をさすりながら独り言ちる。

 

 

 

「はぁ………」

 

 

 

約束の時間は八時…今は七時五十八分。

 

あと二分で約束の時間だ。

 

 

 

「―すぅ…はぁ……すぅ、はぁ…よしっ!!気合十分だっ!!」

 

 

 

深呼吸を繰り返した後、自身の頬を叩いて決意を固める。

 

どんな話でもどんとこいっ!!

 

 

 

コンコン

 

 

 

ふと扉がノックされた。

 

 

 

「うっ…はぁい!ようこそ、ティアラちゃん!!」

 

 

 

**

 

 

 

アリシアの自室は前回たった一度だけ入った部屋とは大分違う、茶色や白緑色を基調としたシックな部屋だった。彼女自身の華やかさも相まって、アリシアだけの空間が完成されている気がする。

 

 

 

「…アリィ。今晩は時間を取ってくれてありがとう」

 

「ふぇっ!?い、いや!全然、全然!気にしないで!ほら、お茶も用意したからよかったらどうぞ…」

 

「―――えぇ、分かったわ」

 

 

 

部屋の窓際にある少人数用のティーテーブルに向かい合うようにして腰を下ろした。

 

 

 

「…そ、それで……お話というのは…?」

 

 

 

アリシアが自身なさげに眉を下してティアラを見た。

 

 

 

「……単刀直入に聞くわね。アリィは―アリシア=スピネルは……転生者、なの?」

 

「!?」

 

 

 

ティアラの目が真実を見抜くように細められ、"転生者"というセリフにアリシアは息をのんだ。

 

 

 

「…その反応…貴方も二度目の人生を―――」

 

「―!!ってことは、ティアラちゃんも転生者なの!?」

 

「えぇ、そうよ」

 

「うわぁ……まさか自分と同じ存在がこんなにも近くにいただなんて…」

 

「…?アリィ?」

 

 

 

前回とは違う行動の理由を聞こうと意気込んでいたティアラは、喜ぶアリシアの心情を理解できず訝し気に眉をひそめた。

 

 

 

「あ、私ゲルバニア王国に住んでいた"ミリ"っていうんだ!―ティアラちゃんは?」

 

「え?え?み、ミリ??貴女はアリシア=スピネルではないの?」

 

「え?うん。ミリからアリシアへ転生したんだ。ティアラちゃんも同じなんじゃ…?」

 

 

 

何となく噛み合っていない会話に、二人とも疑念を覚えた。

 

 

 

「いいえ。私は前世も"ティアラ=スピネル"だった」

 

「!?それってつまり…」

 

「同じ人生を二度繰り返している…ってことなの」

 

「―うわぁ……転生してもヒロインなんて羨ましい…」

 

 

 

ボソリとアリシアが呟く。

 

 

 

「ヒロイン?何を言っているか全く分からないけど、私はヒロインなんかじゃないわ。私の前世、娼婦だったもの」

 

「!娼婦!?」

 

 

 

乙女ゲームの"純心無垢な"ヒロインが娼婦!?

 

アリシアはティアラの言葉の意味を即座に理解できず言葉を反復した。

 

 

 

「えぇ。学園に入学するや否や変なお偉いさん達に口説かれて付き纏われて、終いには"王族を誑かした罪で娼館落ち"なんて馬鹿なことになったわ」

 

「逆ハールートのバットエンド……」

 

 

 

画面越しに見たことがある未来に思わず言葉が零れ落ちた。

 

"逆ハーレムルート"のバットエンド―それは、ヒロインが多くの人をまたにかけていると気が付いた攻略対象たちがヒロインを強姦に襲わせた挙句、娼館送りにする…という何ともえげつないモノ。たかが恋愛、されど恋愛…である。

 

 

 

「?なに?それは」

 

「あっ!ええっと…私が好きな小説のヒロインのバットエンドと同じだったから…つい」

 

 

 

まぁ正しくは"小説"ではなく"乙女ゲーム"なのだけれど。

 

 

 

「へぇ…アリィはそんな本も読むのね。あら?貴女は今何歳なの?」

 

「私は前世で18歳、今世で5歳の23歳だね~」

 

「!!私と同い年!!」

 

 

 

がばり、とティアラは嬉しそうに顔を上げた。

 

 

 

「えぇ!?…それに、前世が娼婦っていうのも一緒」

 

「!?貴方も娼婦だったの!?」

 

「うん。私スラム出身で…生きていくためには体を売るしかなかったからね…」

 

 

 

紅茶に映った自信を眺めながらアリシアは遠い目をした。

 

 

 

「…貴方の死因は?」

 

「―後輩娼婦に短剣で刺殺された。なんでも私のNO1の座を欲していたらしくて…」

 

「……そう、なんだ…。そっか、じゃあ私を嫌っていたアリシアと今のアリシアは別人だったのね…」

 

 

 

ここまで聞いてティアラは自分の勘違いに気が付いた。

 

 

 

「あはは~、そうなるね…そっか、ティアラちゃんが最初私を警戒していたのって前世のことがあったからなんだ」

 

 

 

中々心を開いてくれなかった一か月の攻防戦を思い出して苦笑いを浮かべる。

 

 

 

「えぇ…それに私今は軽度だけど男性恐怖症でもあるのよ」

 

「あ~~、それもそうか。冤罪をかけられて娼館落ちなんてただの公爵令嬢には耐えられないもんね」

 

「…そうなるわね。ってアリィはもとNO1娼婦だったのよね?!それってすごいわ!!」

 

 

 

私はあんな女の戦争勝ち抜けない、と茶目っ気たっぷりに笑うティアラにアリシアも笑いかえす。

 

 

 

「あはは…まぁ生きるためだったからね」

 

「そっかぁ…私は最初全然ダメだったわ」

 

「まぁ。最初は"欲"をぶつけられるの怖いよね。壊れちゃいそうで」

 

「ええ!そうなのよ!こっちはハジメテだって言うのに、思い切りやる人とかいて最悪だった!」

 

 

 

ぷんすかぷんすかと怒りながら子宮をさするティアラ。

 

―今一度思い出してほしい。彼女たちの身体は今五歳である。

 

そんな彼女たちの『娼婦』だの『ハジメテ』だの会話をしているのだ。もしも”第三者”が聞いていたのなら、ショックで失神…いやショック死していたことだろう。ティアラはヒロインなだけありとても可愛らしいし、アリシアも痩せたお陰か美しくなり始めている。

 

 

 

そんな摩訶不思議な状態で"娼婦時代"の愚痴を言い合う二人。

 

五歳の二人がR-25くらいの内容を嬉々として話していた。―聞いている方が恥ずかしくなるような内容だとだけ書いておこう。羞恥死する人が続出してはいけない。

 

 

 

「んー?そういえばティアラちゃんの死因は?」

 

 

 

半刻ほど"前世"について話し合いアリシアは改めてティアラへ聞いた。

 

 

 

「あぁ、私は分からないの。気が付いたらコッチに戻ってきていて…」

 

「!もしかしたら私のせい…とか?」

 

 

 

私というイレギュラーにより、ゲームリセット…的な。

 

 

 

「そう、なのかもね。貴方の話を聞く限りでは"ゲルバニア王国"なんてこの世界に存在しない国にいたらしいし、異世界転生…が、妥当ね」

 

「うん、私も同じところに行きついたよ」

 

 

 

つい一か月前に犠牲となったボロボロノートを思い浮かべながら残り少なくなった紅茶を飲み干す。

 

 

 

「ふぁぁぁ…少し眠くなってきちゃったわ」

 

 

 

ふとティアラが大きな欠伸した。

 

 

 

「ふふ、そうだね。って、え!もう十時!?二時間も話していたんだ…」

 

「ねぇ、泊っていってもいいかしら?もう少し話をしたくて…」

 

 

 

恥ずかしそうにモジモジというティアラを微笑ましく見ながらアリシアも言った。

 

 

 

「うん!もちろんだよ、ティアラちゃん」

 

 

 

そうしてスピネル公爵家"月"と"太陽"姉妹の夜は暖かく過ぎていった…。

 

 

 

 

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