悪役令嬢に転生したので男装して執事になりました〜攻略対象が私の周りに集まるのは何故~   作:れーと

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7・執事様と攻略対象(1)

長閑な初夏の日差しが差し込む午後―サロンには二人の少年がいた。

 

腰まである真紅の髪を一つに纏め、王宮仕え執事の制服に身を包んだ(外見だけ)クールな美少年と、麦穂のような金髪にルビーを連想させる瞳を持った王子然とした(外見だけ)爽やかな美少年だ。

 

 

 

「へぇ~それで?そのご令嬢どうなったんです?」

 

 

 

マドレーヌを銜えながら金髪の少年―シリウス王太子殿下へ問いかけるのは、顔右半分を隠した専属執事ことアリシアだ。

 

 

 

「家を勘当されたらしいよ………って、シア」

 

「はい?」

 

 

 

新しく取ったマドレーヌを片手に、アリシアはシリウスを不思議そうに見つめた。

 

 

 

「食べ過ぎ」

 

 

 

シリウスが半目になってしまうのも無理はない。アリシアが今食べているマドレーヌだけでも七つ目だし、彼女はその前にケーキを三つも食べているのだ。

 

 

 

「……だって、王宮のお菓子ってどれも美味しいんです」

 

 

 

幼い女子のように頬を膨らませ視線を彷徨わせるアリシア。

 

 

 

「太るよ?もう直ぐ王宮のお茶会があるのに」

 

「…?」

 

 

 

残り少なくなったシリウスのカップへ紅茶を注ぎながら、アリシアは心底不思議そうに首をかしげた。

 

 

 

「―いや、だから。ドレス着るんでしょ?」

 

「へ?着ませんよ?」

 

「……え?」

 

 

 

さも当然のように告げるアリシアにシリウスは絶句する。

 

 

 

「王宮主催のお茶会なのですし、お茶会のお手伝いへ回るつもりです。王妃様も"手伝ってくれるなんて嬉しい"と仰っておりましたし」

 

「い、何時の間に母上をお話をしたのさ」

 

「お父様を迎えに行くとき、偶々……っあ!マカロンも食べていいですか!?」

 

 

 

ケーキスタンドに乗った色とりどりの宝石に目を輝かせながら、アリシアはシリウスへ問いかける。

 

 

 

「……本当、よく入るね。まぁ、問題ないならいいけどさ」

 

「有難うございます!主!!」

 

「―お菓子一つでこんなに目を輝かせる令嬢なんて君くらいだよ…」

 

 

 

お菓子に夢中になっているアリシアに、シリウスの羨望の呟きは聞こえなかった。

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

「…主」

 

「何?」

 

「……どうして私はココにいるのでしょうか?」

 

 

 

優雅なお茶会を終えたアリシアは、自分の身に起きるであろう未来を予想して冷や汗をかいた。

 

現在二人がいる場所は王宮にある騎士訓練場。しかしシリウスは騎士の休憩時間を狙って来た為、訓練場は閑散としている。

 

 

 

「食べた後は運動。常識でしょ?ほら、ボサっとしていないで剣を構えて」

 

「―はぁ」

 

 

 

ロングソードを模した木刀を構えたシリウスに溜息を吐き出し、自身もシリウスより僅かに剣身の長い木刀を構える。

 

 

 

「はいは~い。何時でもいいですよー、主~」

 

 

 

無気力な声でアリシアはシリウスへ言い放つ。―が、その構えは長年の努力の賜物か、全く隙の無いものだった。

 

 

 

「…はぁ。じゃあ御先にー」

 

 

 

そう一言残してシリウスは地を蹴る。そして…

 

 

 

カカンッ

 

 

 

爆ぜるような一撃を全く動じずに受け止め、木の交わる〈声〉が訓練場に響く。

 

 

 

「―はぁっ!」

 

 

 

シリウスが上から抑え込む形で二人は鍔迫り合いとなった。

 

 

 

「ふッ―!!」

 

 

 

しかし、アリシアはシリウスの力をも用いて受け止めた剣を横に薙ぐ。

 

そして―シリウスの無防備となった胴に峰打ちをお見舞いする。

 

 

 

「ぐ――っっ!!」

 

 

 

アリシアの力で後ろへ飛ばされそうになるのを何とか耐えるシリウスだが、アリシアがその絶好チャンスを逃すはずもなく―…

 

 

 

カンッ

 

 

 

次の瞬間には、シリウスの手にあった木刀が地へ落ちる無慈悲な音が訓練場に響いていた。

 

 

 

「ふっ、今回も私の勝利ですね。主」

 

「っ…次は、勝つ、よ……ッ!」

 

 

 

峰打ちと最後の手元を狙った一撃が重かったのか、シリウスは蹲った状態でアリシアを見た。

 

 

 

「はいはい。さっさと〈治癒〉しちゃってくださいね」

 

「――〈治癒(ヒール)〉」

 

 

 

シリウスがそう呟いた瞬間、彼を包む柔らかな光が発生した。そしてみるみる内に彼の小傷が塞がり、シリウスは目に見えて元気になった。

 

 

 

「ははっ!シリウス様がやられているの初めて見たっスッ!!」

 

「―確かに。あの者は相当な使い手ですね」

 

 

 

悔しそうに立ち上がるシリウスとそれを眺めるアリシアの元に、陽気な二つの声が届く。

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

咄嗟に剣を構えて警戒する二人だが、入口にいた人掛けを見て目を見開いた。

 

 

 

「アドロス公爵様とルードリアン侯爵様……っ!?」

 

 

 

それを見たシリウスは警戒を解き笑い、アリシアは立っている人物に驚きを露にした。

 

 

 

「シリウス様ッ!お久り振りっス!」

 

「…こんにちは、シリウス様」

 

 

 

正反対とも言える挨拶をするこの二人は"歌恋"の攻略対象だ。

 

次期宰相の最有力候補にして次期公爵家当主―カイル=アンドロス。

 

代々近衛兵騎士団団長を務める、スピネル家と同じ騎士一族ルードリアン侯爵家の長男―オリバー=ルードリアン。

 

 

 

(どうして二人がここに…!?)

 

 

 

いきなり訪れた攻略対象にアリシアは驚愕と困惑、歓喜を覚える。

 

 

 

「…それで、そちらの人は?」

 

 

 

簡単な挨拶を交わしていた三人の視線がアリシアへと送られる。

 

 

 

(どっ、どうしましょう!?主!!)

 

 

 

"アリシア=スピネル"だとバレないか心配になりシリウスへアイコンタクトを送る。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

二人は三秒の間見つめ合い…

 

 

 

ふい

 

 

 

シリウスが明後日の方向へと視線を投げた。

 

 

 

(あっ、主ぃぃぃぃぃいいい~~っ!!)

 

 

 

苛立ちと焦り、少しの悲しみを持ちながらアリシアは覚悟を決める。

 

 

 

「―二週間前から主…シリウス王太子殿下の専属執事となりました。シアと申します。以後お見知りおきを」

 

 

 

無難に、無難に…と心の中で唱えながら完璧執事を取り繕う。

 

 

 

「へぇ~、シリウス様の専属執事っスか~!てっきり騎士希望なのかと思ったスよ」

 

「…もしやスピネル公爵家の縁者なのでは?真紅の髪も彼の公爵家当主の色ですし」

 

 

 

(うわっ!流石、次期宰相最有力候補…相当な切れ者だなぁ…)

 

 

 

最早諦め始めているアリシアは達観した面持ち二人を眺めていた。

 

攻略対象のメンバーは全員【星宝持ち】で、カイルとオリバーも例に漏れず星宝を持っている。

 

次期宰相であるインテリ担当カイル様は、髪の新緑に映える〈トパーズ(黄色)〉。次期近衛騎士団団長の脳筋予備軍オリバー様は、髪と同色の〈オパール(橙色)〉。

 

シリウスと同い年である二人は、九歳とは思えないほど見目が整っておりシリウスと並んでも遜色がない。

 

 

 

(はぅ…ッ!これは尊い……っ!私BでLの世界に興味はなかったけど、イケメン×イケメンは世界の宝だなぁ…)

 

 

 

「シア?」

 

「―っ!はい!?」

 

 

 

自分の世界に浸っていたアリシアは、カイルの呼びかけにより現実に引き戻された。

 

 

 

「だから、俺と一本勝負してくれないっスか?」

 

「…………はい?」

 

 

 

 

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