最近少しずつ暑い日が増えてきた初夏の事。
今日、俺は今後の人生に大きな影響を与える出会いがあることをまだ知らなかった。
蒸し暑さと共に目が覚めた。
体にはじっとりと汗が染みている。
俺は少し眠気が残る中、着替えを持って風呂場に向かった。
脱衣所で服を脱ぎ、早速シャワーで体の汗を流すと共に、意識を起こしていく。それから暫くシャワーを浴びたあと、サッと体を洗って風呂場を出た。
制服に着替え、リビングに向かうと、食卓には焼きたてのベーコンエッグとトーストが並んでいる。
「母さん、おはよう」
「おはよう、巧」
俺は母と挨拶を交わし、早速トーストに齧りつく。
数分後。
俺は朝食を終えて、準備ももう既に済ませていたので家を早めに出る事にした。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
気分もいいので、少し走って行こう。
風がなかなか心地よい。
その感覚のまま、学校まで行くことが出来れば良かったのだが、生憎それは叶わなかった。
なぜなら、すぐそこのコンビニの横で同じ学校の女子生徒が不良に絡まれていたからだ。
このまま放っておくのは俺の心が許さない。
助けに行くことにした。
「またお前らかよ。ったく、懲りねぇ奴らだ」
「神崎かよ、今日は負けねぇ!」
不良が殴りかかってくる。
まあ、これもよくある光景なので全く驚かないけど。
「お前らの相手してる暇は……、今日はあるな」
不良達を次々に蹴り倒していく。
すると不良達は蹴られた部位を押さえてその場に踞る。
「大丈夫か?」
俺は絡まれていた女子生徒に話しかける。
だが、返事がない。
やばい。
俺も怖がられてるパターンだ。
なんとか誤解を解かなければ。
だが、解決法を考えていると、女子生徒が逃げた事に気づかなかった。
仕方なく、そのまま学校に行くことにした。
それから暫くしての事。
俺は登校早々に生徒指導室に呼び出された。
「神崎」
「はい、何すか?」
「またケンカしたのか?」
「絡まれていた人がいたので助けただけなんですけど」
「まあ、そうだろうな。神崎は悪い奴じゃないって俺も分かってる。だから、俺も考えたんだ。まあ放課後もう一回呼ぶから、来いよ?」
「了解しました~」
俺が生徒指導室に呼ばれるのはしょっちゅうあって、呼ばれる度にクラスメイトもいつもの事か、という目で見てくる。
まあ、あと気がかりなのは先生に放課後にもう一回呼ばれる事だ。
全く予想がつかない。
放課後になってみたら分かるだろう、
そう思って教室に戻った。
授業をうたた寝しながら過ごし、気づけばもう昼休み。
いつも通りのんびり屋上で日向ぼっこをしていたら、屋上のドアが開く音がした。
「屋上の鍵が開いていますね。また神崎さんですか」
ドアの方から呆れたような声がしたと思えば、事あるごとに俺に文句を言ってくる風紀委員の氷川が俺の顔を覗き込んできた。
「神崎さん、いつも言ってますよね?屋上は生徒会の許可が無ければ使用禁止です」
「弁当持ってきて何言ってんだよ、氷川」
「こ、これは……何でもありません!」
「な~んだ、お前もここで食べる気満々じゃん。いいよ。一緒に食べてやるよ」
「仕方、ないですね。今日は特別です!」
「ハイハイ特別特別」
氷川が屋上に来て、今日は特別と言って一緒に食べる流れになるのは、いつもの事だ。
「そういえば、神崎さん。また生徒指導室に呼ばれてましたよね?またやったんですか?」
「ああ。分かってても体が先に動いちまうんだよ」
俺がそう言うと、氷川は安心した表情で、
「まったく、貴方って人は。初めて会った時から一切変わってませんね」
「俺は自分の正しいと思ったことをやるだけだ。変えることが何処にあんだよ」
俺はいつも自分の正しいと思ったことを貫き通す。
たとえ俺自身が傷つこうとも。
こうして話していると、昼休みの終わりを表す予鈴が鳴った。
俺達は急いで教室に戻り、授業の準備をした。
午後の授業は凄く眠い。
なので、俺は有無を言わさずに机に突っ伏して眠りについた。
「……さん!神崎さん!」
体を揺すられ、目を覚ますと氷川が目の前に立っていた。
「今何時?」
「4時15分です。先生に呼ばれているんでしょう?早く行った方が良いですよ」
もうこんな時間か。
爆睡してたな。
俺は即効で荷物をまとめ、生徒指導室に向かった。
「先生、遅れました」
「神崎か。そういえば午後の授業爆睡してたな。いびきしてたぞ」
「マジすか!?」
「冗談だよ。まあ、ここで話すのもあれだから、着いてこい」
危ね~。
マジでいびきしてたのかと思った。
「うっす」
それから、先生に着いていくと、たどり着いたのは図書室だった。
「なんで図書室なんすか?」
「神崎、放課後放っとくとまたケンカするだろ?」
うっ。
痛いところを付かれる。
確かに俺は放課後、結構朝の不良達とかとケンカする事がある。
つまり、先生は俺をここに縛り付けておこう、という訳だ。
「つまり、俺をここに縛り付けておこうって事ですか?」
「そういう事だ。神崎には今日から図書委員の仕事を手伝ってもらう」
まあ、誰かの手伝いをすることは嫌いじゃない。
引き受けるか。
「それくらいなら全然いいっすよ。俺やります」
「交渉成立、だな。後の事は中にいる図書委員に聞いてくれ。俺は仕事が残ってるんだ。じゃあ、また明日」
「また明日~!」
めっちゃ丸投げだな。先生。
さてと、図書委員の人にやること聞くか。
「すいませ~ん。先生から聞いてると思うんすけど、今日から手伝いやらせて貰う神崎巧で~す」
軽い自己紹介をしながら図書委員の方に向かうと、その図書委員は今朝誤解された女子生徒だった。
「……神崎、さん。私は、白金…燐子です」
女子生徒改め、白金さんは、さっきから若干下を向いていて、小刻みに震えている。
「えっと、白金さん。大丈夫?」
「はい…大丈夫、ですから」
俺が一歩距離を詰めると白金さんは、一歩後退する。
あ、これ今朝の事でめっちゃ怖がられてるやつじゃん。
顔をよく見ると、今にも泣きそうだ。
「白金さん、もしかして今朝の事で、俺の事怖がってる?」
俺がそう聞くと、白金さんの動きが固まった。
「答え辛いならいいよ、無理しなくて。俺も怖がらせちゃったみたいで
、ごめんな」
「い、いえ……別に、謝ることじゃ……」
口ではそう言いながらも、まだ距離は大分ある。
多分今日はこのままだろう。
「俺と話し辛かったら、ここにメモ帳置いとくから、やって欲しいこと何でも書いといて。パシリでも何でもいいからさ!それじゃあ俺、ちょっと外出とくから」
なるべく怖がらせないように、一旦図書室を出る。
5分ほど経ち、図書室に戻ると、メモには仕事内容と、『誤解してしまっててごめんなさい。』と綺麗な字で書いてあった。
「ごめんなさい……神崎さんの事、誤解してました」
「いいよいいよ、よくある事だから。さ、早く始めようぜ!」
「はい……」
それから、今日の仕事をすぐに終わらせ、今日のところは解散となった。
「じゃあ、また明日」
「はい…また、明日」
どうやら白金さんも、最初に比べて打ち解けてくれたみたいだ。
なんだか、白金さんの事が知りたくなってきた。
次からは、もう少し距離を詰められるかな。
楽しみになってきた。
逸る心と共に、俺は通学路を走り始めた。