冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

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(将棋知識は)無いです
でも色々調べながら書きます

あと後書きにフリークラス云々をまとめておきます


第一話『プロローグ プロの最下層』

 別に俺にあの二人程の実力があるなんて思ってなかった。

 ただ二人といるのが心地良くて、二人が厳しい世界に身を置いているのを知っていて、才能も無いのに二人をいつまでも追いかけていた。

 

 無意味だと分かりながらも、ひたすらに。

 

 

 

 

「これで良いかなっと……参りました」

 

「ありがとうございました」

 

「ありがとうございましたぁ」

 

 ふぅ、と息を付き立ち上がる。

 一仕事終えた感のある出で立ち……まあ本当に仕事なんだが、にしてはまだまだスーツに着られてる雰囲気の俺は鍬中 駿(クワナカ シュン)19歳、一応将棋のプロ棋士なんてものをやっている。

 段位は四段……将棋のプロ棋士は四段からなので一番の下っ端だ。

 

 因みに今しがた負けてきた。完敗である。

 まあ今年四段へ新入段したから負けて当然と言ったらそうだが……これで通算1勝6敗である。

 

「外が気持ちいいわ。ま、指すだけで金が入るんだから俺は良いけど……」

 

 そうそう、俺には二人の親友がいる。

 

 神鍋歩夢と九頭竜八一だ。

 二人とも将棋界に知らぬ者は無しと言わぬばかりの新進気鋭の若き天才棋士であり、神鍋は六段、九頭竜に至っては竜王のタイトルを二期手に入れて九段である。

 チビの頃から二人といるのが楽しかった俺は、二人に引き離されるのが嫌で将棋を始めて、今に至る。

 今も大体は二人に少しでもいいから追い付きたい一心でやっている。

 

 しかし周りはそれを良しとはしなかった、そして俺に実力も無かった。

 最初は周りもみんな持ちあげてきた、二人相手に指しているからだ。ただそれだけだ。

 才のある二人に比べ俺は格段に劣っていた。

 なのに

 小学生名人戦は神鍋が全国ベスト4、九頭竜がその神鍋を下した上で優勝……俺は県予選三回戦敗退だった。

 それを見た周りは『二人に釣り合わない』『才能が無い』『やるだけ無駄』と言い出した。

 親までもが俺の全てを否定して来た。いや、アイツらに至っては元から俺が嫌いだったんだろう……結果を伝えた数週間後には多忙を理由に施設送りにされた。

 

 悲しかった。

 周りが勝手に失望していった事よりも、親が捨てた事よりも、二人ともう会えないんじゃないかという絶望感からだった――

 

 

 

 

 

 一つ、奇妙な話をしようか。

 俺は『転生』というものを経験している。

 一度別の世界で死に、生まれ変わった……信じるか信じないかはどうだって良いし誰にも話しちゃいないが、前生きていた世界では『九頭竜八一』や『神鍋歩夢』が創作世界の人物達だった。

 

 つまりはラノベやアニメの世界に転生!みたいな展開だ。

 憧れるだろ。

 でも俺の前の人生も、死に様も、クソも近付かない様なもんだった。

 両親からも、学校の同級生や上級生から暴力を受ける毎日。隠蔽する学校。

 そしてある日屋上でいつもの様に殴られていると、古くなっていたのか背にしていた鉄格子が外れ俺は落下。

 

 呆気なく死んだ。

 死んだという感覚すら感じないままに死んでいた。

 きっと死体はグチャグチャだろうが、唯一のラッキーは殴ってた奴ら諸共落ちてくれた事か。

 何ともざまぁ無い話だ。

 

 まあ、そんな人生の拠り所になっていたのがアニメや読書だった訳だ。

 色んなジャンルの本を読み、アニメを見。その時間だけは苦痛を忘れる事が出来た。

 今の親友二人が出ている作品……『りゅうおうのおしごと!』は中でも気に入っていた一つだ。

 天才的な将棋脳を持つ16歳の少年『九頭竜八一』が将棋界の頂点たるタイトルの一つ、竜王として、年相応の男子として、両方の面で描かれている見応えある作品。

 その最大のライバルとして登場するのが『神鍋歩夢』だ。

 

 そんな世界に入れたのだ。

 最初は嬉しかったのには違いなかった。

 

 

 

 

 

 話を戻そう。やはり人間というのはどの世界も共通してクソみたいな生き物が大半なのだと実感しつつも、施設に入れられながらも、どうしても二人とまだ将棋を指したいと願ってしまっていた。

 初めて二人に会った時こそ抱いた『憧れのアニメキャラ!』みたいな感情ではなく『俺を見てくれるのは二人だけなんだ』という、ある種俺の世界には二人しか存在しない様な、とにかく二人といれば苦しみも痛みも無かったのが狂おしいほどに心地良かったから。

 二人が弱い俺でも楽しそうに指してくれて、ゲームや雑談も沢山してくれたから。

 下らない事を言い合って、笑い合ってくれたから。

 

 だから才能が無くても将棋をやる事に意味があるのだと自分に言い聞かせ、打開策を考えた。

 

 

 策は案外にも近場に転がっていた。

 隔離され一年、施設の子どもに無料で将棋を教えに、プロ棋士が来ると風の噂で知った。

 何でも順位戦、つまり名人戦の五つあるリーグ戦の中でも優勝すれば即挑戦権を得られる位置にあるA級にこの年昇格し来年から身を投じるという31歳のエリートらしく、このチャンスは逃せまいと無い頭を振り絞りその棋士が来るや否や叫んでいた。

 

『俺をアンタの養子にしてくれ!』

 

 その棋士は数瞬とても驚いていたが、顎に手をやったと思うと手を叩き

 

『じゃあ対局しよう!』

 

 と、次の瞬間には目を光らせていた。

 

 

 結果から言えば、今俺がこうしてヘボ指しながらも辛うじてプロ棋士を名乗れている事から察してはいるだろう。

 一局指し終わったかと思えば全体での指導後に『また君に会いに来よう』なんて言い数日後にはそいつこそが俺の養父になっていた。

 

『素直で貪欲な将棋が気に入った』

 

 それが決め手だったらしい。

 

 

 

 

 

 その後は再会した二人の前でわんわん大泣きし三人揃って泣いたり、その後も二人には全然追いつけないものの奨励会入りし、歩夢のプロ入りを見送り、八一のプロ入りを見送り。

 俺は四段、つまりプロに上がる為のリーグ『三段リーグ』で歩夢、八一と共にいた間を含む数年間不甲斐ない成績を残していた。

 降格一歩手前の成績もあったが踏ん張り、チャンスを待ち18になる頃ようやくチャンスが舞い込んで来た。

 

 半年で1シーズンの三段リーグに在籍し6シーズン目に、レーティング最下位ながらも12勝6敗とそれまで最高7勝11敗と負け越しながらの残留だったのが初めて貯金が出来、結果順位は三位でフィニッシュした。

 二位までが無条件昇段が出来る中、三位は次点と呼ばれ二連続で取れれば順位戦に参加出来ない最下級クラス『フリークラス』ではあるが四段になれる。

 

 負けっぱなしだった自分が上がるにはここしか無い、そう思った7シーズン目死に物狂いで指した俺は奇しくも同じレーティング最下位で同じ12勝を挙げ、2シーズン連続次点を手に入れた。

 一人でも俺と同じ数字以上がいたらレート上位優先で泡に消えていたこれを掻い潜れたのは奇跡に等しい。

 

 これでまたアイツらと同じステージに立てるんだと、歓喜し涙したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「……あの頃の熱意が無い……訳じゃないはずだけどな」

 

 これで公式戦は連敗……一勝を挟みその前に四連敗している。

 三段リーグの勢いそのままにプロでも勝っていこう……なんて思っていたガッツは消え失せていた。

 

「そもそもフリークラスからC級2組に上がれる奴なんてそうそういないし仕方ないけどさ」

 

 フリークラスでプロ入りした棋士、又は順位戦最下級リーグ『C級2組』から降格した棋士が復帰するのは相当な地獄だ。

 しかも十年以内に昇格出来なければ強制引退付きだ。

 

 それでもプロ棋士である事には変わりない……んだが、親友の片やが竜王挑戦者三番勝負にコマを進め全体的な成績は若手一番とまで言われている神鍋歩夢六段、もう片やはその歩夢を下した最強棋士から竜王を防衛、通算タイトル二期で史上最年少、最速で九段になった竜王保持者……相変わらず差を感じずにはいられない。

 

「でも前世と比べたらあの人に拾われてからはめちゃくちゃ充実してるし、金も入るし、楽しいけどさ」

 

 何なら三段リーグ入りした時点で大半の非難していた人間も黙らせてプロ入りした時には『元両親』がヨリを戻そうとしてきたが師匠と共に突っぱねてやった。

 だから人生逆転したにはした、んだがなあ。

 

 このままパッとしない最下層で燻ぶるだけの人生も何か嫌だなあ……と考えているとスマホから着信が来た。

 

「師匠か」

 

 丁度思い返していた師匠から着信が入る。

 因みに今師匠は関東に住んでいるが俺は関西所属の棋士なので電話でのやり取り自体は珍しくない。

 

「やあ我が息子よ、今日はどうだった?」

 

「山刀伐師匠ですか……はぁ……惨敗ですよ。良い様にやられました」

 

「なるほどねぇ、やっぱり我が息子にも初体験は必要だよねぇ……」

 

 師匠が不穏な言葉を呟いているがこれも日常茶飯事だ。

 俺の師匠、山刀伐尽八段、といったら折り紙付きの実力の持ち主ではあるが変人としてもある意味有名だ。あっちの意味で両刀という噂もあるが嘘だと信じたい。

 何なら八一を狙ってるとも噂だが流石に嘘だと信じたい。

 そして何を初体験するかによっては俺は着拒をしなくてはならなくなるんですが大丈夫ですよね師匠?

 さっきまで重たい話振り返ってたのに落差おかしいって……

 

 

「……一応聞きますが何をさせる気で?」

 

「haha☆それはね――」

 

 

「…………は?」

 

 

 

 

 そして師匠の口からは、自分の予想を遥かに越える想定外が待ち受けていたのだった。




☆フリークラス
 アマチュアだと三段リーグで次点を連続して取得する、又は非奨励会員のプロ編入試験合格者が得る事が出来る、主人公鍬中駿の現立ち位置
 名人戦予選であるプロの通常対局とも呼ばれる順位戦には参加出来ないがアマチュアからプロと認められた事になり、これを『フリークラス編入』と呼ぶ

 他にも指導や公務を優先する為に『宣言』したりC2の成績下位二割に付けられる『降級点』を三回取ると降格する
 前者の『宣言』は施行した場合順位戦復帰は不可能となる
 フリークラス編入と降級編入の場合復帰は出来るが条件は

1.年間(4月から翌年3月まで)に「参加棋戦数+8」勝以上、かつ勝率6割以上

2.良いところ取りで、連続30局以上の勝率が6割5分以上(年度をまたいでも有効)

3.年間対局数が「(参加棋戦数+1)×3」局以上

4.全棋士参加棋戦で優勝、またはタイトル挑戦

 と非常に厳しい(現に次点編入、非奨励会編入、再昇格全て含めても両手で足りる程度しか昇格者はいない)がこれを乗り越えられないと

 フリークラスに編入した棋士が編入後10年以内、または満60歳の誕生日を迎える年度が終了するまでに規定の成績を収められなかった場合、当年度の全対局を完了した時点で引退
 60歳を越えフリークラス降格になった場合年度終了で即時引退……となる

 つまり鍬中駿の場合29歳までに上記条件の何れかを達成出来なければ強制引退である


☆三段リーグ
 簡単に言うとアマチュア強豪の中のほんの一握りが到達出来るアマチュア最高の地
 地元の天才がザコ扱いされながら扱かれ大半が死んでいく魔境
 そこを抜けた先にプロ最弱の称号『四段』がある


☆降段点
 三段リーグでこれを連続して取ると問答無用の降段となる
 因みに18試合制の場合5勝が回避最低ラインとなる


☆次点
 別名『三位』
 二位までが通常プロ昇格となるがこの次点にも意味があり、連続して取得するとフリークラス編入の資格を得られる(資格を行使しなかった例もある)
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