冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

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 何故原作より距離が近いのかの伏線を回収しに


 今作八一とヒロインズの現構図(?は開示前の情報)

 あい→八一:憧れで大好き(LOVE)な人。どうにかして想いを伝えたい 呼び方:『ししょー』、『?????』
 八一→あい:大切な弟子で可愛い妹みたいな存在だったが恋心を自覚。

 天衣→八一:大好きな兄でせんせえ、とっくの昔からlikeではなくLOVE 呼び方:『せんせえ』『八一くん』『?????』
 八一→天衣:大切な妹。弟子というより妹。……だったが……?

 銀子→八一:素直になれないが側にいたい、初恋。 呼び方:『八一』
 八一→銀子:怖いが何だかんだ超が付く程大好き。姉妹という概念を感じはしないが家族的存在


第十二話『過去話・八一と天衣』

「ねえせんせえ」

 

「ん、どうした天。こんな深夜に」

 

「私、夢を見たの」

 

「どんな夢を見たんだ?」

 

「……『今の私』と『今のアンタとあの二人』と『お父様』。そのみんなで、将棋をしていたの。大きくなったね、強くなったねって……お父様が撫でてくれて……」

 

「天祐さんの……」

 

 思い出すのは小、中学生時代。

 アマチュア名人だった天の父親、天祐さんと当時名人位だった月光さんとの記念対局。

 あそこで偶然にも両者が気付かなかった詰み筋を発見したのをきっかけに夜叉神家と家族同然の付き合いをする事になった。

 

 尤も、天祐さんと一番対局したがってたのは駿だったけどな。

 

 気付けば駿に誘われる様に俺と歩夢も加わり。

 小さかった頃の天も含め五人で盤を囲んでいたのがその時代の思い出とも言え、第二の師匠みたいな存在にも思っていた。

 

 だが。

 

「女流棋士になったよって言ったら、おめでとうって、撫でてくれて……暖かくて……でも起きたら何も無くて。分かってても悲しくて、寂しくて……」

 

 あの人は、事故で逝ってしまった。

 竜王になって二人の師匠に恩返しをする――その夢は叶える事は出来なかった。

 

 だからせめて。

 約束を果たしたかった。

 

 

 

 

 

「……なあ、八一くん」

 

「どうしたんですか、天祐さん?」

 

 あれは事故で天の両親が亡くなる一ヶ月くらい前。

 当時三段リーグでの調子も良く、そろそろプロを見据えられる位置まで来ていたある日の指導対局中の事だった。

 いつも明るい口調の天祐さんが、少しだけ暗い面持ちで俺に問い掛けてきたんだ。

 

「万が一、万が一僕と妻に何かあったら……天衣の事を頼んでも良いかい?」

 

「いやほんとにどうしたんですか!? 不吉な事言うのは『将来ロリコンになるぞお前』とか言ってる駿だけにしてくださいよ!」

 

 あまりに突然で、突飛押しもない事だったからかタチの悪い冗談の一種だと思って返してしまった。

 でも仕方ない話だと想う。

 俺より遥かに年上とはいえまだまだ大人としては若くて、天もまだ小さい頃からそんな事を言われてはいそうですか……なんて返す方がそれこそ異常だ。

 

 でも本当は分かっていたはずなんだ。

 真剣に聞いているのだと……俺がそれを、最悪の事態を考えるのがただただ嫌だっただけだという事を。

 

「ごめんね、突然で。でもこれは八一くんを信頼しての事なんだ。三人の中でも一番天衣と仲の良い君だから」

 

「……頼むってどういう意味ですか?」

 

 だから次には観念してしまった。

 いくら冗談と流したくても、真っ直ぐなまでに真剣な目には逆らえなかった。

 

「もしも僕も妻も、どっちもいなくなってしまったら……天衣が成長して一人立ちするまでで良い。家族になってやってほしいんだ」

 

「家族に……」

 

「肉親って言ったら僕の父もいるけど、僕らの次にあの子の側にいて、仲良くしてくれたから。本当の兄妹みたいだって、僕が思えたからさ……」

 

 天衣とはアイツが2歳の頃から良く遊んだり将棋を指していた。

 初めて会った頃はまだまだ素直で可愛かったが、この時はもう今みたいな感じだったっけ。

 そういうところもまた可愛いし、本質は変わってないんだが。

 

 そう思うと、妹っていうのも間違いじゃなかったのかも知れないな。

 

「まあ、二人は関東住みですしね……ごほん、無いとは思ってますけどそういうのが無くても天は俺の妹みたいな奴なんでアイツの事はこれからも任せてくださいよ!」

 

「はは、頼りになるなあ」

 

 まさか本当に死ぬなんて思ってはいなかったけど、家族同然の付き合いは当たり前にするし天祐さん達共々ずっと続いていくものだと思ってたからそう答えたんだ。

 

「君みたいな優しい存在が天衣の兄代わりで、将棋の先生になってくれるなら、きっとあの子は女流棋士にも……」

 

「今の俺じゃまだ半人前だけど、必ず竜王を獲って天を正式な俺の門下に、弟子に迎えに行きます。それまでは寂しい思いをさせるかも知れませんが……必ず約束します。あの子を、女流プロにしてみせるって」

 

 兄として。師匠として。

 荷が重いという人間もいるだろうが、家族として、将棋を指す仲間として、そもそもどっちも天が俺を離れるまでは少なくともやるっていうのは当たり前に感じていたから荷も何も無かった。

 

「あ、でも迎えに来た時多分物凄い怒られると思うからその時は助けてくださいよー」

 

「天衣は寂しがり屋だからなあ、頑張るさ」

 

「……なるべく早く獲ってきます」

 

 迎えに来るとは言っても普通に構いには来る予定だったし実際そうだったけどな。

 頻度はかなり落ちたが、そのせいもあって早く竜王を手に入れるんだと奮起出来、奇跡的に16歳で師匠として天を弟子に迎え入れる事が出来た。

 

「楽しみにしてるよ」

 

 ……その楽しみにしていた当人は、既にいなかったけど。

 

 まあこの日はこの後、何なら今すぐにでも天衣の花嫁姿が見たいとか打って変わっていつもの親バカになった天祐さんに乗っかる様に現れた駿によって速攻で撮影会場が確保され、後日色んなドレスやら白無垢やらを着て撮影を楽しむ天がいたとか……何故か隣にはタキシードの俺がいたが。

 

 こんな幸せのすぐ後に死ぬなんて、アンタ鬼畜だよ天祐さん……

 

 

 

 

 

「遅いわよ、クズ竜王!」

 

 それから数年経って去年。

 巡り巡って来たチャンスをモノにし竜王のタイトルを掴んだ俺はタイトル戦前に会ったっきりの数ヶ月振りに夜叉神家……亡くなってから引き取られた天の祖父、弘天さんの家だが、に来ていた。

 

 で、軽く弘天さんと話しながらいつもの部屋に来た途端に発せられた天の一言がこれだった。

 

「悪い、遅くなった」

 

「ほんとよ! わたしがどれだけアンタを待ったと思ってるわけ!? クズ! ノロマ!」

 

 無理ゲーだろ、と言いたかったがコイツの寂しかった日々を思えば言う事は到底出来なかった。

 証拠に罵倒してきたかと思った後にはすぐ抱き着いてきた、甘えん坊で寂しがり屋な本質はやっぱり治っていなかった。

 

「さみしかったんだからね!! おじいちゃまの事は大好きだけど、お兄ちゃんの事も同じくらい大好きなんだから!!」

 

 お兄ちゃん……今では全く言わなくなった、というかその日が最後だっただろう言葉でこの日でですら一年ぶりに聞いたんじゃないかってくらいには珍しかった。

 小さい頃、良くお兄ちゃん、お兄ちゃんと言って膝の上によじ登ってきていたのを思い出す。

 

 多分、この時天は昔の記憶に、竜王を獲れたら弟子にしてあげるって言った思い出の記憶に天祐さん達を見てしまったんだろう。

 

 そっと抱き締める。

 チビだった時は良くしてやったが、今も本当にコイツは小さい。

 この時も同じ事を思っていた。

 

「ありがとう……俺も天の事、大切な妹だって思ってるから……」

 

 

 

 

 

「俺も……竜王になって戻ってくるって言ったのに結局天祐さんに見せられなかったのは悔しかったし泣いたよ」

 

「……泣きたい時は泣いたら良い。今は俺以外誰も見てないんだから。でもあいを起こしたら悪いし……ほら」

 

 天祐さんが亡くなってから俺が泊まりに来た時も、泣いていた天を布団に入れた事があったな、なんて今度は天が泊まりに来た構図に少しおかしくなりながらもそっと天を布団に入れ、抱き締める。

 

「うぅっ……おとうさま……おかあさま……」

 

「こんな事しかしてやれなくてごめんな」

 

 抱き締めながら、安心出来る様にと背中をゆっくり、優しく摩ったり軽く叩く。

 

 次第に落ち着いてきたのか、震えていた身体が少しずつ収まっていくのが分かる。

 

「良い……安心出来るから……お兄ちゃんの腕の中、おとうさまに似てるから……」

 

「俺が天祐さんに似てるのか?」

 

「……あやし方が似てる」

 

 思い当たる節しか無かった。

 最初天を泣かせてしまった時、泣き止ませ方が分からずあたふたとしていた俺の前で天祐さんが天にやっていた事の見よう見まねをアレンジしたものだからだ。

 

「ははっ、そうか」

 

「ねえ、八一くん」

 

 笑って誤魔化そうとした、が、それよりも上目遣いで静かに名前を呼ばれビクッとなる。

 さっきまで幼かった雰囲気の天衣が何だか少しだけ大人っぽく見える。

 

「そ、その呼び方ビックリするな……」

 

「ふふっ、おとうさまのマネよ。いつか貴方の事を兄より特別な存在に思ったら言うって決めてたの」

 

 特別な存在……俺も相当鈍感らしいが、その言葉が分からない程、ではない。

 

 告白。

 

 暗に天衣の目はそう言っていた。

 

「俺は……」

 

「言わなくて良いわよ、どうせあいとかアレにも似た事言われたかされたかして気持ちが決まらないんでしょ?」

 

「見透かされてら……」

 

 しかも思考まで見通されていた、こういう面で天には勝てない。

 竜王として迎えに行った日もあいの事がバレたりしたし。

 

「だから、決まるまで返事待ってるから」

 

「……ああ、分かったよ」

 

 無論考えてはいる。

 真摯に向き合って、誰かの気持ちに応えるのが最善だってのも分かってる。

 

 

 こうなった以上、決断は早くしないといけないかもな……

 

 

「でも、もう少しだけ……」

 

 このままの関係で。

 隣で寝てるあいの髪を撫で、いつの間にか眠った天をもう一度抱き締めながら、眠りに落ちていった。

 

 部屋の片隅にある俺達の集合写真の中にいる天祐さんが、一瞬光った気がした。

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