冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

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※クソザコナメクジといっても彼は一応プロ棋士です、ご注意ください


第二話『予想外過ぎる弟子の正体』

「haha☆それはね……明日から駿に弟子が出来まぁす!」

 

「…………は?」

 

 とてもじゃないが一回じゃ聞き取れなかった……いや、聞き取りたくなかった。

 山刀伐師匠から明らかにおかしい言語が聞こえた、俺の耳ってこんなに悪かったか? それとも疲労してるから幻聴でも聞いたか?

 

「駿に弟子が出来ます☆」

 

「おうふ……」

 

 ああ聞き間違いじゃなかったよ……聞き間違いであってほしかった。

 いやだっておかしいじゃん。

 俺まだ十代の四段、しかも強制引退の時限爆弾付きのフリークラスの、成績も悪い奴よ?

 確かにプロ、プロだけどそれはおかしいですよ、師匠……

 

「おかしいのは君の鳴き声だよ……それはさておき、急な連絡にはなったけど何せ数時間前に決まった事でねぇ」

 

「急な連絡云々はいつもの事なので良いですが流石に弟子が勝手に出来るって言われましても目ん玉飛び出ますよ、しかも俺多分今プロ最弱ですよ良いんですかその子」

 

 一番危惧しているのは『雑魚の弟子』みたいなあだ名で呼ばれ出した時だ。

 どんな子か知らないがいくら何でもそうなったら傷付くだろう。

 

 それはダメだ。

 

 だから取り敢えず断りを……

 

「良いも何も、今をときめく八一くぅんと最年少女流プロコンビのお墨付きだよ」

 

 拝啓クズ竜王様へ。

 

 貴様なんて事をしてくれたんだ……

 

 

 

 

 

「……で、師匠が俺を提案したら何回か対局した事あるダブルあいちゃん達とそれを見てた八一が指導の手腕を分析して太鼓判を押したと。はぁ……不幸だ……俺もロリコン扱いされる……」

 

 諦めて話を聞くに、あいちゃんと天衣ちゃんとで将棋を教えてるあいちゃんの『同級生の女の子』を弟子として迎えてほしいらしい。

 

 天才少女二人で事足りる……と一瞬思ったがそこはまだ10歳、人に物事を教えるには限界があると悟った二人は偶然にも大阪のあいちゃんの小学校で指導をしていた師匠と遭遇。

 相談し俺を良く知る八一にも話を持ち掛けた末路がああなったとか何とか。

 

 まず普通の10歳は自分を客観視して指導の実力が足りないとは思わんでしょうよ……というかそもそも同級生から将棋学ぶ子いなかったはずなのにどういう事だとか、未だにあいちゃん、天衣ちゃん、銀子ちゃんの中から誰を選ぶべきかと死にそうになってるロリコン竜王はさておいてもあの天使二人が俺を勧めてきた、しかも二人の友人をとなると話が変わってくる。

 

 断れば悲しそうな目でこちらを見つめる美幼女二人の構図ッ……有り得ん、それだけはしたら人間として終わるッ……クズ竜王なんて比じゃねえぞ……

 

 二つ目は今日アンタこっちにいたのかよ! ってツッコミである。

 

「何か考え事をしてるみたいだけど、さっきの口振りからしてオッケーって事だよね☆」

 

「くっ……天使二人に失望され人間として終わるか、弟子を貰ってロリコン呼ばわりされるかなら……後者を選びましょう……」

 

「君ならそう言ってくれると思ったよ☆……ま、半分は弟子が出来る事で何か駿に光明が出来ないかなー、なんて言うお節介な親心? だけどね、てへっ」

 

 師匠が少しだけ真面目な声で付け足したその言葉……いつもおかしな事ばっか言う癖に将棋の事になると真面目になるんだから……だから俺は拾われたんだろうし、着いていきたいって思えたんだ。

 

「……ありがとうございます、師匠。そしてすいません、不甲斐なくて」

 

「なーに、まだ駿は9年以上リミットがあるじゃない。それにもし十年後引退しても師弟じゃなくなるだけで親子ではあるんだからねっ☆そうなったら僕も50手前の良い歳だし、山刀伐一門を増やす為に、弟子第一号で息子の駿にはこども教室の顧問でも頼んじゃおっかな」

 

「じじょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 普段変人なのに親心があり過ぎる。

 もう俺は師匠の信者で良いです。あ、拾われた日からもう信者だったわ。

 

 そんなこんなで事件は一件落着……

 

 

 

 

 

「に、なったら良かったなあ……」

 

 次の日、ボロの借り家こと俺の本拠地の玄関にはまだ顔も知らない弟子がいた。

 

 正確には『知らないはずだった』弟子がいた。

 

 

 

 

 

「今日からくわなかせんせーの籍に入ります、竹内美羽です! せんせーが将棋のプロっていうのとイケメンだって聞いてきました! 一目惚れしました!」

 

「何もかもがおかしい」

 

 そう言わざるを得なかった。

 まず第一に、竹内美羽が今ここにいるのが最大級におかしい。

 竹内美羽はりゅうおうのおしごと!内でもチョイ役ではあるが将棋と全く関わりの無い且つ誰かの身内でない雛鶴あいの友人、という貴重なポジションにいた。

 

 それがどうだ。

 

 その雛鶴あい、引いては夜叉神天衣までもが手解きをし、二人がプロ棋士に指導を頼むまでに将棋にのめり込んでいる、だと……

 バカな、どこでルート分岐が……

 

 

 そして二つ目。

 俺は確かにプロだがちゃんと雑魚プロだと伝えといてくれと八一に伝言を頼んだからそれを経由してあいちゃんが伝えているはずなんだがどうにも羨望の眼差しが眩し過ぎる。

 後から失望されると心に悪い意味で響くから前持って手を打ったんだぞ、初手から王手ラッシュが襲い掛かってきてる気持ちだよこっちは!

 

 

 んで三つ目だが俺はイケメンじゃねえ、二度言うが俺はイケメンじゃねえ。

 くせっ毛のある濃い茶の短髪に三白目、中肉中背のどちらかというとブサイクだ、イケメンとは程遠い。

 

 

 最後に四つ目だが君は将棋を指しに来たんだよね?

 JS相手に爆速告白されて戦慄してるよどうすんのこれ。

 後しれっと籍に入るてお前……まあ弟子だし八一パターンを考えれば有り得なくは無いけど……

 

 

「せんせー? どうしたの?」

 

「あ、いや……元気が良いのは分かったけど、籍に入るって事を親御さんは……」

 

「家か学校から通うならってゆるしてくれたわ!」

 

 すげえ寛容な親というか見知らぬ男に預けるって理解してんのかオイ。

 まともな親持った事無いけど一般的なの、これ?

 

「そ、そうか……でも俺はプロって言っても雑魚だよ?」

 

「でもでも、それでもプロですよね! あの三段リーグでプロになるじょーけんをちゃんともらったんですよね!」

 

「いやまあ連続次点だけど条件といえば条件だしそうだけど……」

 

「それだけであこがれます!!」

 

 ええ……それで良いのか小学生。

 しかもやたらと奨励会に詳しそうだなこの子……この感じは天衣ちゃんの入れ知恵か?

 しかし伝えた上でこれは困ったな……まあ仕方ない。

 

「は、はは……そりゃ嬉しいよ……と、まあ立ち話も何だし入りな。……弟子になるってならまずは棋力を見ないとね」

 

「はいです!」

 

 お、目付きが変わったな。

 色々大丈夫かと思ったがそういうとこは真剣ってか。

 

 ……いや別に俺はよ、喜んじゃいないんだからねっ。

 

 

 

 

 

「……ふむ、ふむふむ……ほう」

 

 結論から言うと、まずこの子は非常に負けん気が強い。

 一局で大体のものを見る予定だったがこれで四局目の終盤を迎えている。

 棋力は大体……3級か2級……いや、守備は脆いが攻め筋のセンスはあるし全体評価はアマチュア評価1級、いやギリギリ初段はあるか?

 

「これは……中々」

 

 待て。ちょっと待て。

 確かに弟子になるからには『将棋指し』としての基本が出来ている子なんだろうとは思った。

 だがここまで強いのは予想外だろうが。

 攻め筋だけなら既に研修会最低のFクラス、二段強レベルはある。

 しかも間違いなくこの四局の中で成長している、さっきまでは六枚落ちでゆったりとした指導対局に出来ていたがこの局、俺は中盤まで結構激しく打ち合う攻防の真剣対局をしてしまっていた。

火力だけならFクラスの研修生じゃ手に負えないんじゃないだろうか。

 

 だが致命的な弱点もある。

 

「ふふん! さっきまでみたいに簡単に負けないんだから!」

 

「じゃ、こことかどうかな?」

 

「にゃっ!? い、いつの間に……くぅっ」

 

「正直、俺が予想したより遥かに、君は強い。特に攻め合いになると強引にでも相手の陣形を崩せるのは才能だね。でも……ちょっと攻め過ぎ、かな!」

 

 この子は守備面が非常に低い。

 いや、守備の知識は間違いなく豊富なはずだ。

 そうでなければ攻め合いを制するのは不可能だ。

 だとすればなんで……いや、そこを聞いたり分析するのが仕事だろう。

 

「うぐぅ……負けました……」

 

「ありがとうございました」

 

「ありがとう……ございました……」

 

 対局が終わる。

 彼女自身は不満げらしいが……

 

「何はさておき、初仕事しますか」

 

 俺の口角が僅かに上がった気がした。

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