冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

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オリ棋士紹介

☆宮越亮二(40)
 段位:九段
 師事:村田淳永世盤王
 所属:関西将棋連盟
 順位戦:B級1組
 獲得タイトル:盤王二期
 戦法:居飛車、対抗飛車
 概要:生石世代15人のプロ棋士の内『四天王』と呼ばれる才能を持つ一人。
 師の村田永世盤王の影響か盤王戦には滅法強くタイトル二期は何れも盤王。
 後手番時には相手と逆の飛車の動かし方をする『対抗飛車』が得意であり好戦的。
 普段はのんびりとしたマイペースな性格の持ち主。


 生石世代(オリジナル設定)
 所謂『78年度世代』のプロ棋士。
 80~90年代に起きた将棋ブームに隠れた才能を持っていた当時の少年達が感化され次々と将棋を始めた内の最強世代を指す。
 他の世代より遥かに多い計15人が2003年までに全員が三段リーグの通常昇段でプロ棋士になり、今も尚大半がプロ活動を行っている。
 中でも最強と呼ばれているのが筆頭のタイトル六期の生石、次いで上條昴、峯澤驒、宮越亮二と続く。
 


第二十一話『上の空、すれ違う思い』

「よし、頑張って来いよ」

 

「うん! ちゃんと見ててね!」

 

 五月も末の頃、もう梅雨の時期であり今日も小雨の中美羽の例会に付き添って来ていた。

 美羽は今日次第ではC2に上がれると久留野さんからも言われている為重要な日だ、今日上がれば本格的に今年中の女流2級昇格も現実的になる。

 

 俺何かとは違って、順調そうで。

 羨ましいとさえ思ってしまう彼女。

 最近はその眩しさが俺には少しキツくなってしまっていた。

 

 ……『三連敗』だ。

 

 棋帝、玉将に続き賢王戦も落とした。

 正直玉将戦を落としたのは大きな痛手だが三連敗自体は予想の範囲内だったはずだ。

 だというのに俺は無力感を覚えずにはいられなかった。

 

 八一との一戦、後から棋譜も各プロ棋士の見解も全て目を通した。

 あの未来視が最善手ではない手を示していたのならば、仕方ないと割り切れただろう。

 いや、そうであってほしいと身勝手に願ってしまったのだ。

 

 結果は無情だった。

 

『棋帝戦予選。鍬中四段、勝負の最善手も九頭竜八一竜王の《神の一手》に散る』

 

『彼(鍬中四段)の57手目は決して敗着になる手では無かった』

 

『私でも鍬中四段と同じ判断を下していただろう』

 

『九頭竜竜王は将棋の歴史を一つ、根本から覆してしまった』

 

 全てが俺を擁護するか八一を賞賛する声。

 つまり俺には八一を何百年追っても追い付けない、更に言えば今の八一に勝てないのであれば他の一流棋士にもやはり勝てる未来は無いだろう、という事だ。

 

 そう思い出したら、もう誰にも勝てる気がしなくなっていた。

 そもそもが才能が無いと周りにも言われ続け、それを自覚しながらも何処かに夢を持っていたのかも知れない。

 

 ……甘いよな、全くもって。

 

 いっちょ前に才能が無いと言いながら八一に勝とうだなんてさ。

 

 

「腑抜けたな、見損なったぞ」

 

 先週、七宝とのプロ顔合わせ二戦目の終局後に掛けられた言葉だった。

 あれだけ俺の事を敵視しときながら今更何だったのか、腑抜けたなんて俺が一番知ってるっつーのに。

 

 チッ、何なんだよ……どいつもこいつもちょっと勝ったくらいで注目しやがって……

 

「しゅんせんせー!」

 

「…………ん、おお美羽か」

 

「どーしたの? かったよ?」

 

「え、あ、そ、そうかそうか! おめでとう!」

 

「……」

 

 しまった……そんな事を考えてる時じゃなかった……今日は美羽の大事な日なのに……くそったれが……弟子無視して苛立つなんて師匠失格だ……八一にもアドバイスした立場だってのにこれじゃあ笑われちまうよな……

 

「……その、悪い。考え事してた……すまん」

 

「さいきんのしゅんせんせー、いっつもそれ。今日れんしょーしたからこのままC2に上がれるってくるのせんせーが言ってくれたから、さいしょに言いたかったのに……」

 

「……ごめん」

 

 謝る事しか出来なかった。

 本当ならC2に上がった事、めちゃくちゃに褒めてやりたかった。

 一緒に喜んであげたかった。頑張ったねって撫でてあげたかった。

 でも今の、こんな俺じゃ祝う資格も無い。

 

 

 沈痛な空気が二人に漂う中、例会は続き美羽は更に連勝したものの俺が祝える事は無かった。

 

 

 

 

 

 帰路、今だに重たい空気が流れる。

 全て俺が悪いのは分かっている。

 最近ずっと上の空で、美羽の話を聞き逃す事が多かったのも事実だ。

 八一に負けてからだから一ヶ月弱、そんな思いをさせていた事になる。

 勿論八一が悪い訳じゃない、今でも親友として誇りに思える人間で、棋士として一番の憧れのカッコイイ竜王だ。

 俺は、俺の無力さに勝手に苛立って、諦めて、腑抜けて、美羽を蔑ろにした。それだけの最低のクズだ。

 

 弱くて人間としても未熟な馬鹿野郎だ。

 

「……なあ美羽。俺達さ……暫く会わない様にした方が良いと思うわ」

 

「……え?」

 

 だから。俺は美羽から離れるべきだ。

 美羽の棋士人生に悪影響が出る前に、やはり違う棋士に預けるべきだ。

 

「やっぱ俺が誰かの師匠になるなんて向いてなかったんだよ」

 

 十二月、この子が突然弟子になると言われた時とはまた違う。

 あの時は単に逸材だから、伸ばすには他の一流棋士が向いてるから、俺には荷が重いから、そんな理由だった。

 

 今は可愛くて可愛くて仕方ない大好きで大事な弟子だからこそ、人間的模範になる様な棋士のいる場所ですくすく育って、棋士としてだけじゃなく人間としても素晴らしい子になってほしいと願っている。

 

 ……他の棋士の元で過ごす美羽が脳裏に過ぎる。

 何故か胸がズキリと痛んだが、それだけ今まで大切な時間を過ごしてきたからだろう。自分から懐いてくれた大切な弟子を突き放すのだから良心が痛まない訳が無い……違和感は拭えないが多分そういう事だ。

 

「ほ、ほら、美羽はC2に上がったけど俺とか連敗込みだして弟子の事無視する様な馬鹿野郎だぜ? だからこんな奴のとこ居るよりももっと人間の出来た棋士のとこにだな……」

 

 矢継ぎ早に突き放す言葉が出てくる。

 美羽は泣くだろう、だが仕方ないんだ。

 俺だって美羽の泣いてる姿は見たくないしこんな傷付く事言いたくもない、それでも今後の美羽を考えたらこれしか方法が無いんだ……

 

 しかし俺の矢継ぎ早な言葉は、美羽に遮られる事になった。

 

「わたししゅんせんせーの弟子じゃなかったらもうしょーぎやめる!」

 

「……はっ!? いや何言ってんの!?」

 

 ここまで来ておきながら女流棋士諦めるとか意味分かんないんですけど!?

 ああもう、どいつもこいつもなんでこう、俺の理解出来ない事ばかりするのか……

 

「わたしの事こんなに大切にしてくれるのしゅんせんせーだけだもん! どんな事があってもずっといっしょだもん!」

 

「いやあのな、このままだとそもそも俺はお前が二十歳になる頃には師匠じゃいられなくなるしこれは美羽が好きだからこそ今後の為を思って……」

 

「分かんない! 分かんないよ! わたしはしゅんせんせーがししょーじゃなくてもいっしょにいたいよ! しょーぎ教えてもらいたいよ! 好きなのになんではなれないといけないの!? 分かんないよ……」

 

 俺だって離れたかねえよ……でも仕方ないんだよ、弱い奴のとこにいたって意味無いんだから。

 寧ろここまで美羽を育てられた事に感謝したいくらいだ、こんな弱い無能にも弟子を持たせてくれて、その弟子が俺に憧れてくれて、大好きと言ってくれて。

 

 ほんの少しの間だけでも棋士として夢を見られて。

 

 もう諦めても良いはずだ。

 

 だから、美羽がこんなに俺に固執する理由が分からなかった。

 

「俺こそ分かんねえよ……美羽……もう幻滅しただろ? 弱くて負けて、簡単に腐って。しかもお前の大事な昇級懸かった日に無視してこうやって当たり散らすクズだぞ!? 頼むから、もうほっといてくれよ……これ以上惨めな気持ちにさせないでくれよ……これ以上、最低な師匠でいさせないでくれ……」

 

「……なんで……? わたしはこんなに大好きなのに……しゅんせんせー……サイテーだよ……!」

 

 ……やっと行ってくれたか。

 正直意味が分からなかったからこのまま押し切られるんじゃないかと焦ったけど何とかなった……なってしまったみたいだ。

 

「……最低、か」

 

 分かっちゃいたがいざ言われると結構クるのな……まあ最後に見た美羽の悲しそうな顔が一番辛かったが。

 

「そうだよ、最低だよ俺は。自分勝手に弟子泣かせる大馬鹿者だよ。あーあ、八一にも師匠にも合わせる顔ねーな」

 

 ついでにあいちゃんと天衣ちゃんにも合わせる顔ねーわ。

 二人が俺を薦めてくれたのにこの体たらくじゃ情けなくて仕方ないな……

 

 

 

 

 

「……暇だな」

 

 夜、自宅。

 いつもなら美羽の次の指導内容やら何やらを暇じゃなくても常に思考を巡らせていたが今はそれをする必要も無い。

 次の対局も数日後ではあるが生石さんの同期の元タイトルホルダー相手、どうせ勝てる相手ではないし勉強したところで無駄だ。

 

 という訳で暇で仕方ない。

 

「んー、久々にゲームでもするか?」

 

 多忙でずっと開いていなかったゲーム機に手を伸ばした……ところでスマホに着信があった。

 

「あ? ……歩夢から?」

 

 うーん、八一か師匠辺りなら美羽関連だろうし後日適当にはぐらかせば良いだろうけど歩夢なら美羽を弟子に取った時も情報は結構遅れてたしまだ大丈夫だろ。

 というか二人とも掛けてこないって事ならそっちにも情報は回ってないだろうな。

 

 暇だし話し相手にでもなってもらうかね。

 

「ほいほい、駿ですよ」

 

「やあ我がソウルメイト駿よ! 明日は関西の将棋会館で賢王戦第六局があると聞いている、来るのか?」

 

 唐突過ぎるとも思ったがすっかり忘れていた。

 明日確かにこっちで賢王戦第六局がある、んで毎試合棋士室で検討している歩夢は今回も行くから俺にも聞いてるのだろう。

 

 まあ元から見に行く予定だったし、行かないとマジで一日やる事も無くなるから好都合か。

 

「お、おう、何せ師匠の初タイトル獲得リーチだからな。見に行くぞ」

 

「……」

 

「ど、どうした?」

 

「いや、何事も無い。それより今回は持ち時間が1時間だ。目まぐるしい展開になるだろうな」

 

 なんだ、今の間……まさかバレた?

 いや流石に無い無い、俺はそこまでボロを出すタチじゃないはずだ。

 

「ああ、タイトル戦じゃ滅多にお目にかかれない貴重な早指しだろうしその意味でも楽しみだ」

 

 まあ今の俺にどこまで熱意が残ってるかは知らないがな……と心の中で呟き、当日を迎えるのだった。




【悲報】主人公クズ化
次回、急展開の多い本作中でも相当な急展開
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