冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

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Q.彼はロリコンですか?
A.答えは今話にあります


第二十四話『きっと、あの日から。』

「……負けました」

 

 盤王戦挑戦者決定トーナメント一回戦、絶望的な展開から俺は家族というもの、美羽が俺にとってどんな存在であるかに気付き、気合いで逆転してみせた。

 相手は元タイトルホルダー、死力を尽くしても勝てないと思っていたその人に勝てた事が、まるで現実でない様で、勝った俺自身が呆気に取られていた。

 

「ありがとうございました」

 

「あ、ありがとうございましたっ!」

 

 挨拶をされ漸く我に返る。

 

 両者は自然と感想戦の為に駒に手が伸びていた。

 

 

「ふふ。まさか山刀伐くんの息子とやれるとは思わなかったよ」

 

「……え?」

 

 不意だった。

 感想戦も中盤になった頃合、ふと宮越さんが呟いた言葉が耳に入る。

 

「いやね、山刀伐くんから良く写真や話を見たり聞かされたりしていたからね。若い頃二人で指していた記憶が蘇ったんだ」

 

「親バカかよあの人は……」

 

「でもそれで懐かしくなって、何だか悔しさより楽しかったって方が勝っちゃったよ。アマチュア時代一回も負けなかった山刀伐くん相手に負かされた時も同じ事を思ったんだ」

 

 そうか、宮越さんも生石さんも師匠とは同じ年度生まれの年齢。

 そうだとするなら懐かしむのも納得かもしれない。

 

「あと山刀伐くんね、君を養子にした後既婚者の僕や生石くんに子育てについて教えてくれって頭下げに来たんだ。びっくりしたよ、誰よりも浮ついた話の無かったあの人に子どもが出来たって言われた時はね」

 

「……師匠が……」

 

 続け様の宮越さんの言葉に、つい感想戦の手を止めてしまう。

 いつも我が道をゆくを体現している様な飄々としたあの師匠が誰かに必死で頭を下げる姿なんて、想像出来なかった。

 以前から誰かに子育てを教えてもらっていただろうとは予想していたし、生石さん含む同年齢の友人辺りじゃないかとも思っていたからそこは予想通りだった。

 だが、そこまでしてくれていたと感じるとやはり感謝も驚きも尽きない。

 

「君の当時の将棋の中に過去の自分を見たって、そして君の真っ直ぐな瞳に惚れたともね……今日その意味が本当の意味で分かった気がするよ。君の、鍬中くんの将棋は紛れもなく過去の、そして今の山刀伐くんがいて、それでいて君の色が見えた……良い色だったよ」

 

「ありがとう……ございます……!」

 

 目を閉じながら語るその人の表情は、まるで負けた棋士には見えなかった。

 何より、俺の将棋の中に師匠がいると言われ、指し筋を褒められた事が嬉しかった。

 もがき苦しんで、美羽と衝突して、諦めかけて、それを乗り越えた上で掛けられたそれは確かな自信になるだろう。

 

「さ、僕は帰るとするよ……僕もまだまだ、だね。もっと若い子達と研究会しようかな。じゃあまたいつか対局しようね」

 

「……っ!!」

 

 感想戦も終わり、帰り支度を整えた宮越さんが同じく立ち上がった俺に目を合わせ、宣戦布告した。

 それは実質のライバル宣言。

 すぐに翻って部屋を後にした宮越さんだが、最後に合った目には闘志が宿っていた。

 

「ああ、後ね」

 

 と思ったら部屋を出た直後に戻ってきた。

 本当にマイペースな人だ……

 

「『そこの子』、大事にするんだよ」

 

「は、はいっ!」

 

 目を記録係の方に……美羽の方に向け、俺に語りかける。

 当たり前だ、もう離すもんか。

 

「じゃあ次こそまたね。次は負けないよ」

 

「参ったな……とんでもない人にライバル宣言されちまった……」

 

 その言葉に、溜め息を吐きながらも俺の口角は上がっていた。

 

 

 

 

 

「……本当に勝ったんだよな」

 

 宮越さんが居なくなり数分。

 今だ盤を見つめる俺は、ジワジワと今更ながらに来る勝利の手応えを実感していた。

 

 実感が湧いてくると共に美羽への想いも沸き立って来ていた。

 自分から話しかけるのは少しまだ引けるが、こんなところで引いてたら一生美羽に嫌われてしまうだろう。

 

「……美羽」

 

「しゅん……せんせー……」

 

 二人きりになっていた対局室で見つめ合う。

 何を話そうか、いや話す事なら山ほどあるが、どう切り出すべきか分からない。

 だがヘタレてる場合じゃない。

 

(ええいままよ!!)

 

「ごめん!! ありがとう!! やっぱりお前無しじゃ生きていけない!! お前の事を愛してるんだ!! こんな俺の事を見捨てないで、応援しにきてくれて嬉しいよ……!! 本当に……本当にありがとう……愛してるよ……」

 

「わっぷ。わ、わたしも本気でおこってなかったし大好きだからおーえんしにきたからいいけど……しゅんせんせー……今、あいしてるって……」

 

「え」

 

 あ、ヤバい。

 とにかく自分の本能任せに動いてみたら抱き締めて愛の告白をしていた件。

 

 ……もしかして俺美羽にそういう感情を……?

 

 いやだが待ってほしい。

 確かに美羽の事は家族の様に愛しているのは間違いじゃない、それは事実だ。

 冷静になれ、いくら何でも今年20歳になる人間が今年11歳の女の子に恋情は……

 

 

『……他の棋士の元で過ごす美羽が脳裏に過ぎる。

何故か胸がズキリと痛んだが、それだけ今まで大切な時間を過ごしてきたからだろう。自分から懐いてくれた大切な弟子を突き放すのだから良心が痛まない訳が無い……違和感は拭えないが多分そういう事だ。』

 

 

『あの子がいるってだけで、美羽が側にいるってだけで、拒絶しても拒絶しても、暖かい気持ちが、鼓動が早くなる様な気持ちが、心のどこかに捨てきれなかった『もっと美羽と一緒にいたい』という気持ちが、流れ込んで来た。』

 

 

 あごめんあるわこれ。

 めちゃくちゃあるじゃんこれ。

 恋とかした事無かったけど、よくよく考えれば一般的にいう『恋心』の心情と一致してるじゃないか……

 

 無意識って怖いな、誰だよ八一をロリコン扱いしてたの。

 

 はぁ……しかしだったらいつから恋してたんだろうか。

 

(いや、そんな事分かりきってる、か)

 

 俺が変われた日、プロ2勝目を挙げる前日、あの日からずっと恋してたんだ。

 弟子だから、小学生だから、恋を経験した事が無かったから、色々なものが重なり合って気付かずに今日まで来ただけで、美羽の為に勝ちたいと決意を口にしたあの瞬間から、始まってたんだ。

 

「……しゅんせんせ?」

 

「美羽はさ、俺に一目惚れしたって言ってたよね?」

 

「うん! だってしゅんせんせーカッコイイもん!」

 

「今はどう?」

 

 でも想いを告げるのなら、一番重要になるのは相手の気持ちだ。

 美羽にそういう感情が無いなら俺はさっきの発言を誤魔化す、伝えても美羽にとってプラスにならないからな。

 

「今はね……しゅんせんせーの事、大好きだよ。やさしくて、いつもそばにいてくれて、わたしの事をいちばんにかんがえてくれて。そんなしゅんせんせーの事をね、かんがえるとドキドキするの。これって『恋』だよね?」

 

 ……いざそういう感情があるって言われるとそれはそれで恥ずかしいもんがあるけどな。

 ただそれ以上に、心の底から嬉しいと感じた。

 好きな人と同じ気持ちだったのが何より嬉しくて。

 

「ああ……そうだよ。俺も美羽の事、大好きだぜ」

 

「女の子として?」

 

「うん。ずっと一緒にいたい……」

 

「しゅんせんせー……」

 

「美羽……」

 

 抱き締めてるからか、顔が自然とすぐ近くに来る。

 愛を確かめ合った後だからか顔が熱い。

 美羽も顔が真っ赤だ……

 

 

 顔を見合わせた二人の唇は引き寄せられる様に重なり……

 

 

 

 

 

「おう美羽ちゃんも駿もまだおるんならお茶でもどうやー? ……成程、お前ロリコンやったんか」

 

「うわあああああああ!! 違う!! 違わないけど違うんだああああああああぁぁぁ!!」

 

 合う直前襖が開いた。

 そう言えば今日の記録係が同じ関西所属の仲の良い例の奴だったの忘れてたわ……不幸だ……

 

 

 

 

 

「お前は何も見てない、良いな?」

 

「そない肩掴まんでも言わんて……いやしかし駿がロリコンか……」

 

「だから違うんだよ!!」

 

「しゅんせんせー……?」

 

「ごめん違わないわ、違うけど違わないわ。ロリコンじゃないけど好きになったのがたまたま美羽だったんだ」

 

「それはロリコンが良く言う言葉やで……」

 

 お茶を飲み一服。

 幸いこの対局室は暫く使われないらしく見られたのがコイツで本当に助かったと思う。

 

「……そ、それより美羽をここに連れてきたのって誰だったんだ?」

 

「露骨に話題逸らしよってからに……」

 

「ジンジンせんせーに連れてきてもらったんだよー」

 

「し、師匠が?」

 

 ところで一番気になっていた『誰が美羽を連れてきたか』という話だがまさかの師匠だった。

 賢王になってから話した時とかも美羽との事聞いてくる、知ってる様な素振り無かったのに……

 

「そうだよ! このおにーさんも良いって言ってくれたし!」

 

「いやあ山刀伐賢王から今日だけ取り計らってもらえないかって連絡来た時はビビったで? まあ前例があったし通した訳やけど」

 

「はぁ……また恩が出来ちゃったなあ……」

 

 あの人はほんと、どこまで見透かしてるのやら。

 もしかしてあの賢王になった時のインタビューも知ってて言っていたのか……

 

「しゅ~んちゃんっ」

 

「おわっ……と、急に呼び方変わったな~」

 

「ダメ?」

 

「めちゃくちゃかわいいけど二人きりの時にしような~」

 

「うん!」

 

「あー昆布茶が進むわ……ま、お幸せに……ズズズ……」

 

 何はともあれ、こんな感じで俺に大切な人が出来た。

 益々負けられない戦いになりそうだが美羽が側にいてくれるなら俺は乗り越えてみせようじゃないか!

 

 

 

 

 

 だがこの後、まだ問題が続くという事を俺はまだ知らなかった――

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、ところで美羽のご両親にはどう説明すれば……」

 

「あ、それはだいじょーぶだよ!」

 

「え?」

 

「おかーさんが『本気で好きなら早くあの先生落としちゃいなさい』って言ってたしおとーさんも『あの人なら素性割れてるからまあ許す』って! だからだいじょーぶなの!」

 

「あ、うん、そうか……そうかぁ……」

 

 拝啓、九頭竜八一様

 

 どうやら俺は知らぬ間にお前と同じ様に弟子の親族に囲われていたらしいです……




書いてて糖分過多になったので誰か俺にも昆布茶ください
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