冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

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第二十六話『見据える未来』

「お疲れ様、美羽。どうだった? 二ツ塚との特訓の成果は」

 

「バッチリ! 対戦相手もつよかったけどあのせんせーとたくさんさしたからね! かんしゃしないと!」

 

「そりゃ良かった。二ツ塚を呼んだ甲斐があったよ」

 

 決勝を控え、美羽と先程の対局の感覚を聞いてみたが二ツ塚の効果は思った通り良く出ていたと実感出来ていたらしい。

 ほんと、俺じゃ教えられる事はもう限られて来ているくらいに強くなったしこういう場面で謎に恵まれた人脈が活きるってもんだ。

 俺もアイツには感謝しないとな。

 

「よーし、決勝もがんばるんだから!」

 

「その意気だぞ美羽。今の美羽はあの時負けた美羽じゃない、物事の飲み込みが早い美羽は前とは別人レベルで強くなってるはずだ。だから落ち着いてやってこい」

 

「もちろん! 今度はぜーったいなにか言われてもだいじょーぶだもん!」

 

 ふんふんっ、と気合充分な美羽にこれなら問題無いかと苦笑する。

 しかし対局中に小学生煽る三十代ってどんな根性してんだか……煽り……煽りか。

 俺のデビュー戦、祭神雷だったんだよな……うっ頭が……

 

「……せんせ?」

 

「ああいや、美羽の決勝で当たる金平女流二段が俺のデビュー戦の相手と性格が似ててな……女流棋士、祭神雷。ボロ負けするわ煽られるわでもう散々よ……」

 

「うわー……」

 

「ただ祭神の実力は女流トップだが金平女流二段の棋譜を見た感じ……相手には悪いが美羽なら攻略出来ても良い相手だ」

 

「……しんじて良いんだよね、せんせ?」

 

 和やかな雰囲気から一気に真面目な雰囲気に切り替える。

 次の相手は現在不調とはいえ長年プロの世界に身を置く人間、しかも一回その人間に負けているとなればそこの壁の重要性は今後の美羽の棋士人生の貢献度は計り知れない。

 それこそ俺の一度の指導の何倍も大きいから面識すら無い人だが少し嫉妬心が無いでもない。

 それとは別に美羽を大人気なく煽った事に対する多少の殺意もあるが。

 

「心配するな、俺もじっくり情報見た上で指導してきた。まあプロではあるから高い壁にはなるがここを超えれば大きく成長出来るし自信にもなる。……俺も今回はちゃんと美羽の成長見守るからさ」

 

「……今日はみのがさないでね。しゅんちゃんが見守っててくれるならわたし、まけないから」

 

「おう。……そろそろ時間だな。今俺に出来る事はこれくらいだから……行ってらっしゃい」

 

 色々話し込んでしまってすっかり良い時間になっていた。

 リラックスした状態だが相手が相手なだけにまだ緊張が解れなかったのを見てそっと抱き締めてあげる。

 少し震えていた身体がしっかり落ち着くまで、背中を摩りながら。

 

「ありがと……うん、もうだいじょーぶそうだから……行ってきます」

 

 あの時、美羽が来て最初の公式戦の前日緊張していた俺に勇気をくれたんだ……今度は俺が勇気を与えないとな。

 すっかり良い笑顔になった美羽は、一度ギュッと俺を抱き締めてから背を向け、チャレンジマッチ決勝の舞台へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 で、結果から言うと勝ちました。あっさり勝ちました。とてつもないくらい速攻で勝ちました。100手? いいや50手掛からず終わらせちゃいましたあの子。

 もう女流プロ並の強さあるだろ美羽……

 

 ちょっと詳しく話すと相手の金平女流二段は比較的好戦派なスタイルで高圧的に攻め勝つスタイルの棋士。

 まだ美羽が帰ってきてないので今回煽った云々は分からないが性格は祭神雷に似て結構評判が悪いらしい。

 若い頃は名跡戦リーグを主戦場にしていたがここ五年くらいで一気に衰えが来た様で、成績は負け越しが続いていた。

 ただ降級点は一昨年一回付いたのみで踏ん張っていたので女流棋士最底辺という訳でも無かったのが美羽の急成長に繋がると見た点である。

 

 因みに性格の悪さは全盛期時もちょくちょく聞かれたらしいがこれ程までに酷くなったのは名跡リーグ陥落後から、との事。

 

 まあ、その。

 美羽はそういうれっきとした女流棋士に圧勝してしまった訳でして。

 ちょっと俺としても、勝つと予想はしていたけどここまで完封するかと予想外の結末に驚きを隠せない。

 勿論だが嬉しさの方が勝ってるのは当然だが。

 

「……チャレンジマッチ敗者復活戦決勝第3ブロックは凄い試合でした。相手の手の内を見るまでもないと女流プロ相手に果敢な電光石火の攻めをした竹内アマ。油断はしていなかったでしょうが金平女流二段は真正面から殴り合って潰す算段の指し方が結果的には竹内アマの土俵で戦ってしまう事になり一瞬で押し切られる結末、43手、双方含め消費時間10分での終局となりました」

 

「竹内アマ、凄く強いですよね! 女流プロ相手にあの攻め方と手数で勝つのは中々出来ないと思いますよ!」

 

「焙烙プロの言う通り、まずアマチュアが女流プロに勝つという事は非常に難しく竹内アマも一度本ブロックで金平女流二段に敗戦し敗者復活戦に回っています。しかし今日の彼女は別人の様な指し方で圧倒。場数の多い金平女流二段を相手に勝てる見込みのあったアマチュアは数少ないでしょう。今年の参加者で安定して勝てるのは大体この竹内アマと、先程竹内アマに敗戦した清水澤アマくらいなものです」

 

「なるほどなるほど~、確かに一度目は金平プロに完敗してますね竹内アマ。そこから半月でこの仕上がりは尋常じゃないですね! 去年アマチュア参加だった雛鶴女流初段や夜叉神女流二段を思い出しますね~」

 

「単純なセンスならその二人に引けを取らないと見ています。後は場数次第です」

 

 ……あの七宝が驚いてやがる、珍しい事もあるもんだ。

 一番目の前で美羽を見てきた俺が結構驚かされたし当たり前なのかも知れないが。

 それにしても俺や七宝含め会場は拮抗した激戦になると思っていただけに解説の声を遮らない程度にはかなりザワついているのが分かる。

 

「……」

 

 と、七宝が目線を送ってくる。

 行ってやれ、という事だろうか。

 まあ言われなくても行くが意外と気が利くのな。

 

 さてさて。美羽をしっかり褒めてあげなくちゃな。

 

 

 

 

 

「しゅ~ん~せ~ん~せ~!!」

 

「お帰り美羽! 良くやったぞ~!!」

 

「うにゃ~」

 

 ぴょんぴょんと跳ねる様に抱き着いてくる美羽を抱き止めて頭を撫で回す。

 ほんっとかわいいな美羽は……

 

「チャレンジマッチ通過おめでとう! まさかあんな短手数で勝つなんてビックリしたよ!」

 

「ありがとせんせ! バカにされて負けたのがくやしかったのもあるけど……やっぱり大好きなせんせーをバカにされたんだもん! せんせーはつよいんだよ! って見せたかったの!」

 

「み、美羽……俺の為に……」

 

 訂正。かわいいなんて話じゃない、女神だこの子は。

 俺自身どうでもいいと思っていた俺の話を覆す為に勝ちたい、それを原動力に大きく成長してくれた。

 それがあまりに嬉しかった。

 

 

「わ、私がアマチュアに負けるなんて……そんな……有り得ない……有り得ない……」

 

 ワイワイと勝ち抜けを祝っている中フラフラ出てきたのは……あー、金平女流二段か。

 いくら美羽の事を見下していたとは言ってもちょっと見てて辛いな……落ち目のプロがアマチュアに負けるってのはつまりほぼ死刑宣告に近いもんだからな……

 

 ……下手したらああやって死刑宣告を受けてたのは、数年後の俺だったかも知れないと思うとゾッとする。

 

「……あの人に勝ってから何か言ったの? めちゃくちゃ死にかけてるけど」

 

「言うわけないよ! 勝ってしょーめーするだけでじゅーぶんだもん!」

 

「ん、お利口だ。撫でてしんぜよう」

 

 何か言った訳じゃないなら完全に自爆だろう。

 傍から見たら無様な結末とも思えるが、嘗て女流棋戦の一戦級で戦っていただけにプライドが災いしたのか。

 決して関わりを持ちたい人間では無いし美羽に対する言動を許すつもりは無い、更に言えばあの性格のせいで自爆したのは自業自得だ。

 だが、それとこれとは別に一人の棋士として、底辺を経験した棋士として、焦りと恐怖は分かってしまうし、それで追い詰められた末路があの性格を形成してしまったのだとしたら。

 棋士として、彼女へ同情の念が入ってしまう。

 

 そう思えば思う程、美羽との出会いはきっと奇跡だったのだろう。

 

「せんせ、どうしたの? あの人見て」

 

「……いや、何だか一歩間違えたらあの人みたくなってたのは俺なのかな、なんて思ってさ……だから美羽が俺と出会ってくれてほんとに良かったなって」

 

「……わたしもしゅんちゃんのしょーぎと出会ったからしょーぎをはじめられたんだよ。ありがとう」

 

「全く、何回聞いても照れるよ……っと、こういう空気はまた後でな。多分そろそろインタビュータイムだ」

 

「そうだった! きんちょーしちゃうな~」

 

 何はともあれ、今は不確定な未来を思うより美羽の勝ちを喜ばないとな。

 

 

「俺も頑張らなくちゃな」

 

 インタビューを受ける美羽を記者の背中越しに見つめ、そう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 おまけ 美羽のインタビュー

 

 

「竹内さん、まずはチャレンジマッチ通過おめでとうございます」

 

「あ、ありがとうございましゅ! あうぅ……」

 

「ははは、緊張されなくても大丈夫ですよ」

 

「は、はい……が、がんばります……」

 

「では……竹内さん、竹内さんは双方当時アマチュアだった去年の夜叉神女流二段、雛鶴女流初段に続き史上三番目の若さでの一斉予選進出となります。今のお気持ちを聞かせてくれますか?」

 

「え、えと。天ちゃんにもあいちゃんにも、よくしょーぎを教えてもらってたから、まだまだおいつけないけど二人のきろくにならべたかな? って思うとすっごくうれしいです!」

 

「なるほど、ありがとうございます。確か夜叉神プロと雛鶴プロの師匠九頭竜竜王と竹内さんの師匠鍬中四段も仲が良かったですよね?」

 

「あ、はい! わたしはその三人のあとおしでくわなかせんせーに弟子入りしました!」

 

「そうだったんですね、貴重なお話ありがとうございます。次の質問ですがやはり最初の勝利報告は鍬中四段に?」

 

「もちろんです! せんせーはこの一週間はもちろん、ししょーになってくださってからずっとわたしのためにがんばってくれたので」

 

「鍬中四段の事が大好きなんですね」

 

「わたしのあこがれですから!」

 

「では最後になりますが、竹内さんにとって師匠の鍬中四段はどの様な存在ですか?」

 

「……わたしのおにーちゃんみたいな人です。ししょーってもっとおじ様みたいな人のイメージがあったので、せんせーってよんでるけど19歳だとやっぱりたよれるおにーちゃんです。よくほめてくれるし頭もなでてくれるししょーぎをさしてるすがたが何よりカッコイイんです!」

 

「ほほー、なるほどなるほど……」

 

(ああダメだ、美羽の口が止まらねえや。これはアレだ、ロリコン一直線だ俺。八一、俺も今から「そっち」に行くぞ……)

 

 

 気付けばインタビューが進むに連れ諦めからハイライトを失った目で美羽を見つめる俺がいた。

 その後、このインタビュー記事やら盤王戦挑戦者決定トーナメントの俺の対局に現れた美羽の写真が添えられた一回戦全試合を振り返る記事が今更アップされたりして色々ネットでも現実でも弄られ始めるのはまた別のお話……




オリ棋士紹介

☆金平好実(34)
段位:女流二段
師事:紀田孝雄名誉八段
所属:日本女子プロ将棋協会
概要:二十代前半から頭角を現し名跡戦リーグで活躍、挑戦一回。三十代が近付くに連れ徐々に衰え三十を境に勝ちから遠ざかり、マイナビ女子オープンでも不振が続いた。
今季はチャレンジマッチ通過まで後一歩を二度迎えるも二度共に敗戦し無念の敗退となった。
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