冴えない棋士は弟子を貰う様です 作:C.C.サバシア
回想中のセリフ→『』
それ以外→「」
「一応前置きから入るが、姉弟子は十月から三段リーグに入る事がほぼ決定してる。まだ確定じゃないがこのシーズンは絶好調だ」
「マジか、銀子ちゃん頑張ってたもんな。嬉しい限りよ」
「天衣に敗北してからは特に熱量が増したと聞くな。女流棋士のライバルが出来相乗効果が生まれたか……」
話の前に取り敢えず原作とズレは生じたがそれ以外は相違無い感じで三段リーグに銀子ちゃんが上がりそうで一安心。
最早こんな場所にまで原作の知識が当てにならない範囲までズレてきてるし、本当に『生きてる』んだなあと改めて感じる。
「で、だ。俺は数日前姉弟子の荷物持ちに買い物に連れ回された訳だ」
「歩夢、ギルティだよな。これはデートだよな」
「ふむ。流石に誤魔化しは効かんな」
「……デートに行ってきました、はい。確かにデートだったから言い訳はしない……」
「それで良いんだよそれで。隠す事なんて無いんだよ、俺達親友だろ?」
「更に言えば恋人無しは八一だけと。別に我等が嫉妬する事も無いのだ安心して白状するが良い」
「お前ら余裕だな……話続けるぞ。取り敢えず順を追って話してくからな……」
その日は夏にしては珍しく過ごしやすい気候で、更に姉弟子が買い物行くから着いてこい、なんて言うもんだから珍しいコンボから始まった日になった。
行き先はショッピングモールだから遠出ではなかったけどやっぱり姉弟子は身体が強くないから一人で買い物は不便というか行きにくかったのかも知れない。
そんな訳で呼び出されたが毎度の事ながら容姿が目立つの何の。
って思うだろ?
更に目立ってたよ、あの日は……
何せ格好が……
『あ、あああ姉弟子!? その格好……は……』
『……何よ文句ある訳?』
『いえ無いですけど! 無いですけど……えっと、意外だな……って。だって釈迦堂さんにそれ着せられた時かなり恥ずかしそうにしてましたし……』
そう、着ていたのは釈迦堂さんがプロデュースしているブランド服で、去年夏罰ゲームとして姉弟子が釈迦堂さんに着せられていたあのゴスロリ服だ。
あのゴスロリ服にあの日傘、都会に咲く黒バラだったよアレは。
「これマジ? 銀子ちゃん超積極的じゃね?」
「我が師匠が手掛けた服だ、オーラが違う。目立つのは致し方無しだな」
「確かに超積極的だったな……俺が分かるくらいに」
『気に入らなかった訳じゃ……なかったし。……八一が可愛いって言ってくれたし』
『え、姉弟子今の言葉って……』
『あ』
いつもなら聞き逃してる様な呟きまで拾えちゃったりしたし、本当にあの日だけは全てがいつもとは違った。
『……わ』
『わ?』
『わーすーれーろーー!! バカ八一ぃぃぃぃぃ!!』
『理不尽なーー!?』
「ナイス八一、鈍感野郎卒業だな」
「……駿が色々アドバイスくれたからな」
「へへっ、褒めても美羽との惚気しか出ないぞ」
「ふむ、興味があるな」
「それはまた今度にしてくれ……話を戻すぞ」
その後は予想通り荷物持ちをやらされた訳なんだが、ここからまた予想外の連続だったんだ。
『八一、あそこのスイーツ食べたいからお昼あそこね』
『姉弟子行ってみたいって言ってましたもんね』
『ん……まあ、一人で行くにはちょっと億劫だったし。そういう訳だから……今日、来てくれて…………ありがと……』
『あね……銀子……』
その顔を見て、普段通りに『姉弟子』とは言えなかった。
ここ何年も聞かなかった、素直な感謝の気持ちに不意を突かれただけで終わりそうに無い、そう思いながら、久々に。
小さくて、素直になれない可愛い年下の幼馴染の名前を呼んだ。
『やいち……わ、わたしの名前……』
『あ、いや、ええと……この場面で姉弟子呼びは違うかな~と……』
『……そ、そう。……ねえ八一』
『ど、どうした?』
『……私、多分来シーズン三段リーグ行くから』
『ほ、本当ですか!?』
『今は敬語禁止にしなさい……たまには幼馴染しても良いじゃない……』
『ア、ハイ……』
俺も三段リーグ昇格濃厚なのを聞いたのはこの時だったからめちゃくちゃ驚いたな。
戦績は順調だったってのは覚えてたからそろそろかとは思ってたけど、それにしてももうすぐ銀子がこっちに来るのだと思うと嬉しかった。
『……行くわよ、私は。アンタらのいる場所に』
『銀子……無茶はしないでくれよ?』
嬉しかったが同時に怖くもあった……三段リーグは全員が全員、あと一歩でプロになれる最強のアマチュア集団だ。
身を持ってその場所で戦った俺達なら嫌でも厳しさが分かるはずだ。
俺達も苦しんだが、在籍時に同じくいた内の大半はプロになれなかった。
お世話になった大先輩の鏡洲さんですら脱落していったその場所で、姉弟子の、銀子の身体と精神は耐えられるのか……だからそんな事を口走ってしまったんだろう。
でもあの子は、それも分かった上で話していたんだ。
『分かってるわよ。分かってるから……言うけど』
『銀、子……?』
『私は八一の事が好き。大好き。……一人の女として、八一と恋人になりたい』
分かった上で、更に告白ときた。
薄々感じてはいたけどここでとか不意打ちで、どうしたらいいとか全く分からなかった。
『……本気……な、のか?』
『じゃなかったらこんな小っ恥ずかしい事言わないわよバカ八一! ……だから。死んだらアンタの側にいられないから。それは嫌だから、死ぬか降段するか選ぶなら降段する。でも負けたくないから死なずに勝つ。勝ってアンタと、八一と同じステージに立つから待ってなさい』
『……分かった、銀子を信じるよ。で、その……告白の返事は……』
『どうせ小童ズからもされてるんでしょ、アンタがそういうのに疎いのは織り込み済みよ。ちょっとは待ってあげるからちゃんと決めなさい、良いわね?』
『わ、分かったよ……』
『それよりお腹空いたからさっさと行くわよ、八一』
『あ、ああ』
めちゃくちゃ計算されてて正直圧倒されてしまったというかなんというか……それでも銀子も顔が赤らんでいたから少し微笑ましくも思えてしまったり。
その日銀子の機嫌が良かったのは言うまでもないだろうな。
「てな訳で話は終わるんだが」
「銀子ちゃんの積極性と余裕が凄まじい」
「恋は戦とは良く言ったものだ……近くで八一を見れる弟子二人がライバルであるなら尚更、な」
想像以上に銀子ちゃんが積極的だった件。
と、それもだが天衣ちゃんに負かされた影響と八一への積極性での変化はしっかりと良い方向に向かっていた。
八一の話振りだけでの判断にはなるが、原作で自殺未遂をするくらい追い詰められていた余裕の無さとは対極にいそうな雰囲気まで漂っていた。
とにかく、可愛い幼馴染が苦しまずに済むならそれに越した事は無い。
そしてチラッと出た鏡洲先輩の話。
あの人は銀子ちゃんの三段リーグ1シーズン目がラストシーズンなのが予想としていたがそもそも俺が初次点を取ったシーズンを10勝8敗で勝ち越し、五位という成績ながらも退会していた。
創多がガン泣きしてたのも懐かしいが、予想外の急な退会に度肝を抜かれてしまった。
曰く『新しい自分を探しに行ってくる』との事で、今何をしてるやら……
ま、それはまた別の機会にするとして今は八一だな。
「八一、三人の気持ち聞いたんだよな? それぞれにどんな感情抱いた?」
「感情か……笑われるかも知れないけど、全員の気持ちに応えたいって思っちまったよ……」
「……八一よ、それはお前の優しさか? それとも本気で三人の事を女として好いている、という事か?」
「…………歩夢、その答えなら後者だ。バカだって分かってるが、真剣な気持ちを聞いて、今までの関係を振り返って、誰か一人を選ぶなんて無理な話だった。全員を好きになっちまったんだ、本気で……」
よし、やっと聞けたな。
八一の本音を引き出す為に長々とフリやら話やらしてきたが結論この言葉さえ引き出したら俺の勝ちみたいな作戦だった。
俺は八一の肩に手を置き、言った。
「じゃあ全員八一の嫁にして幸せにしてやりゃ良くね?」
「はぁ!?」
「ほう……」
つまりはこういうこった。
全員を好きになったっていうなら全員を幸せにしてやれば良い、至極シンプルで超簡単な話だ。
「ま、待て待て! 全員を嫁って……それは……」
「法律上結婚は一人だが、別に結婚だけが全てじゃない。そんでまあ三人を同時に幸せに……一般人なら難しい話だな」
「じゃ、じゃあ……」
「でも八一は一般人じゃねえよなあ? 将棋界最高のタイトルホルダー『竜王』で、それだけで4320万が年収に加わってるし他の棋戦でもバンバン稼いでるだろ?」
「……確かに、そうだけど」
「なるほど、であるならば誰か一人を選ぶ、などと縛られなくても良い話だ。しかもドラゲキン……お前は『竜王』だ。『王』たる者ハーレムを形成するのもまた『らしさ』かも知れぬぞ?」
「……許されるのか? 全員を選ぶ、なんて事が」
「ま、八一ならな」
「王としての度量、期待しているぞ」
「…………分かった。そこまで言ってくれるなら。三人の気持ちに応えたい」
「それでこそ八一」
漸く良い笑顔が見えたな、八一。
ここまで背中押したんだ、後は頑張ってくれよ……?