冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

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謎多きラスボスみたいな立ち位置の名人、プライベートだと実はかなりお茶目であってほしい(例の挙式のシーンを見ながら)


第三話『へぼさしのはつおしごと!』

「……竹内美羽さん、だったよね?」

 

「はいです! 竹内美羽10歳、将棋はじめて半年です!」

 

 よーし質問に入ろうと思った矢先にとんでもない事実が発覚してますね!

 始めて半年は明らかにヤバい、いくら天才少女二人が先生していたって言っても半年で攻撃面が研修会最低ラインを超えてるのはヤバい。

 なんだ、アレか?君もあっち側の人間(雛鶴あい)か?

 

 ……ごほん、一応俺も先生になったんだから取り乱したらいけない。

 

 まずは話を聞いてみるか。

 

「えーっと、単刀直入に聞くね。守りに入らなかったのってなにか考えがあったの? ああ別に咎めたいとかそういう訳じゃなくてね、一応師弟関係になるんだし弟子になる子の考えに興味が湧いたというか……」

 

 話を聞いてみるか、じゃねえよなんだこの体たらく。

 小学生の女の子とかダブルあいちゃん組みたいな何か年不相応な聡明さや大人びさを持った子達ばっかでこう、年相応な精神を持った小学生の女の子との話し方が分からなかったという事にもっと早く気付くべきだった……

 

 チラリと彼女の表情を見てみる……目がシイタケですねこれは。

 

 あれ? 助かった?

 

「し、してい……でし……わたし、せんせーの弟子になれるんですね! じっかんがわいてきました!」

 

「ああ、うん。実に小学生だな……」

 

 物凄い純粋な目で見られた。

 小学生って本来こんなに眩しいのな……俺の小学生時代……何だったんだろうか……

 

「あ、ごめんなさい! 質問に答えないと、ですよね! まもるとハカイリョクが出ないからです!」

 

 っと俺も話を戻そう。非常に興味深い言葉が出てきた。

 確かに彼女の指し方を見ると大半の駒を駆使し、攻め立てている様子が多く見受けられた。

 それが最大の武器になっている子に普通の囲いは逆に強味が消える、か。

 

「なるほど、君の攻め方を見てたらそりゃ当然だな。矢倉とか美濃、穴熊みたいな代表的な囲い自体は分かるのかな?」

 

「もっちろんです! あいちゃんとてんちゃん、それにみおちゃん、あやちゃん、シャルちゃんとたくさんお勉強しました!」

 

 わあ、新鮮なJS研だぁ!!

 何しれっとJS研にいるんだこの子は。

 最高かよ!!

 

 ……(半分)冗談はさておき、ダブルあいちゃんとは接点があったとはいえJS研とほぼ関わり持たなかったのは失敗か。

 会う機会が無かったと言ったらそれまでだが、そこにいれば短期間で強くなれるのは明白だ。

 

 しかしそうか、JS研か……

 

「謀ったな八一……」

 

 あのロリコン大魔王絶対普通に賛同してない、師匠と『共謀』してるわ。

 灯台もと暗しとはこの事か……今度会ったら文句の一つくらい言ってやるんだからな……

 

「せんせー?」

 

「あ、何でもないよ。しかしまさか八一……九頭竜先生のとこで習ってたとはね……道理で強い訳だ」

 

「でもくじゅせんせーはちょっとしたミスを教えてくれるのとアドバイスだけで、基本とか戦法はJS研のみんなからおしえてもらいました!」

 

 八一、敢えてあの子達に教えさせてたな。同年代の方が初心者は取っ付きやすいからって……上手い事やりおる。

 

「そっかそっか、覚えた事が上手く攻めに活かせてたしみんな教えるの上手いんだなあ……よし、じゃあそんな君に俺が良い戦法を伝授しようじゃないか!」

 

「ほんと!? ありがとせんせー!」

 

「ささ、来たまえ。まずは俺の隣に来て見てみようか」

 

 ここまでの流れで二つ、分かった事がある。

 

 一つはJS研のレベルが非常に洗練されている事、多分原作よりレベルが高い。

 人に教えるともなればそれなりに強くなければ相手の特徴を捉え的確に指導は出来ない。

 その中で初心者にも覚えられる囲いを教えていったんだろうな……結果的に自らは使ってないが囲いの弱点を的確に突いて攻撃してきた辺り勉強の成果は遺憾なく発揮されていたといっても過言ではない。

 

 そして二つ目

 上記を踏まえた上で、意図してJS研メンバー達が教えていなかった囲いに気が付いた。

 教えなかった意図としては、初心者が覚えるには多少難解な手筋や初心者が覚えるセオリーから外れる指し方があるから、だろうな。

 初心者に下手に覚えさせようとしても混乱するだけだと弾く辺りに指導者適性の片鱗が見える。

 

 本当にみんな小学生かよ……

 

「せんせー……これってなんですか?」

 

「この陣形は新雁木囲い……囲いながら攻め上がっていく攻守一体型の陣形さ!」

 

 話を少し戻すが、その二つを考慮して俺が見せたのは『新雁木囲い』という戦法だ。

 近年コンピューターソフトによる研究が進んだ事で再評価の進んだ相飛車二枚銀雁木の進化系で、旧型が主に対矢倉戦型だったのに対しこちらは盤面支配型であり、相手がどういう囲いをしようと無関係に組み上げられる最新型の戦法だ。

 

「こうしゅ……いったい……ゴクリ」

 

「そう、君が苦手とする守備、囲いをしながらでも攻めるには充分な駒を用意出来る攻撃的な戦法だね。しかも相手の戦い方に左右されないすごいやつなんだ」

 

「すごいやつ!!」

 

 ただ紹介してただけなのに反復してきてかわいい、ずるい。

 八一っていつもこういう環境にいるんだよな……

 

 ……ずるくね?俺はロリコンじゃないけどずるくね?

 

「ただ、戦い方に左右されず作れるから結構レパートリーがあってね……全部覚えようってなると中々難しいけど、俺は君の、美羽さんのセンスに大きなものを感じた。もしかしたら近い将来、美羽さんは女流プロになれるかも知れない」

 

「わ、わたしがプロですか!?」

 

「ああ。でも急がせはしないし、何なら別の夢が見つかったり苦しくなったら辞めても構わない。だから今だけ、少し新しい事に挑戦してみないか?」

 

 はぁ、全く。

 最初はどうにでもなれとか半ば思ってた弟子だけど、どうにもちょっとだけ乗り気になってしまった様だ。

 

「もっちろんです!! ドンときてください!! あいちゃんやてんちゃん達とももっともっと色んな指し方したいもん!!」

 

 そしてこの目。

 どこまでも澄んだ瞳で迫られて断るなんて出来っ子無いしな。

 

 その目で誘われたら、断れない。

 

 

 

 

 

「疲れた」

 

 夜八時、誰もいないボロ家の一室で呟く。

 今日は一段と疲れた。

 あの後数時間、両者気合が入りに入ってしまったのか数時間をノンストップで新雁木囲いの指導に使ってしまった。

 

 結論から言えば、やはり小学生は飲み込みが早い。

 まだ実戦レベルには無いが付け焼き刃程度の数時間で形にして見せた。

 

「女流プロ……いや、あの子なら或いは」

 

 未だ誰も到達し得なかった『女性棋士』になれる可能性を秘めている。

 正確には近々銀子ちゃんが三段リーグに参戦して初の女性棋士になるんだけれども、つまりはそこを目指している極僅かな天才達に匹敵するんじゃないかと思ってるって話だ。

 

 そう『まともな師を持てれば』の話だが。

 

 今日は熱が入ってしまったが、俺にあの子を育てる資格は無い。

 

『負け癖のある俺』がこのまま教えてしまったら、きっと彼女にも負け癖が付いてしまう。

 それにあの年齢の子なら少なくとも憧れている、なんて言ってるプロ棋士という存在が目の前に現れたら、師になったら、見てしまうだろう。

 どれだけ事前に弱い、雑魚と言おうと先入観は抜けないもの。

 俺の現状を見たら、きっと悲しんでしまう。

 あれだけ弱いって言っても俺に羨望の眼差しを、帰る時にすら向けていたあの子にだからこそ見せたくない。

 

 とにかく、弱い棋士の元で育てたらいけない素質だ。

 

 とは言っても誰かに渡すにも時間が要る。

 それこそ実力を見てもらって、そこから始まってくる。

 しかし交渉するにも誰が良いやら……

 

 中堅、ベテランとほぼ接点は無いからやっぱり肩書き上一番ネームバリューのあってあの子とも繋がりの大きい八一か? それとも今一番勢いのある歩夢か……前研究会で一緒になって何か仲良くなった篠窪前棋帝や研修会の顧問の久留野七段もありか。

 

 

 

「ああ、でも」

 

『また指したい』――そう思ってしまう自分もいる、残念な事に。

 探求、探究したくなってしまう。竹内美羽という小さき棋士の成長を。

 おこがましいと、器でないと思いながらも感じてしまうのは棋士の性だろうか。

 

 

 そうして夜は更けていく。




コノメニウー(本文中にあるネタが分かる人はMUGEN視聴者)
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