冴えない棋士は弟子を貰う様です 作:C.C.サバシア
八一の挨拶第二部終了(31話)→間に1話(32話)→マイナビ女子オープン予選~編+盤王戦本戦二回戦~→日常・閑話→盤王戦トーナメント完結編→最終回
って感じで固まってます
問題はラストスパートの対局描写、どうやったら上手く表現出来るやら…
「……成程、言い分は分かりました。悩んだ末に出した全力の答えだという事も理解しました。何よりも当事者間で納得しているのなら私からあいに言う事はありません」
「……おかあさん」
「で!す!が! そちらの男衆二人への話はまだ終わっていませんからね?」
「ア、ハイ」
「ですよね……」
ひな鶴の私室スペースで土下座する男二人、そしてその横に正座する女三人。
現在俺や八一を含む一行は各親陣営に話を通す為、最初にひな鶴のある石川県まで遥々やってきた。
発端は八一の告白が成功したと聞かされた時に歩夢が親への説明を頑張れと八一の肩を叩いていた事だった。
正直、そういう事をすっかり忘れて焚き付けていただけに顔面蒼白、俺にも責任があるって事で同行する手筈になった。
いやー銀子ちゃんとてんちゃんに元凶がバレた時は凄い睨まれたな……ただお礼も言われたが。
「結果的には上手く言ったから許してあげるわよ、駿くん」とは銀子ちゃんのお言葉。
てんちゃんは「一応礼は言うわ……駿」とか名前で久々に呼んでくれたし二人に関しては結果オーライ?
あいちゃん? あの子は恩人を見る目で見られた、そんな大層な事はしてないぞ……
それで話を戻すが、まずあいちゃんがひな鶴に、てんちゃんが実家に電話して事情説明と近々話に行くという話をした訳だが弘天さんはともかく亜希奈さんがヤバかった。
そりゃまあハーレムなんて聞いたらキレ散らかすのは当たり前だもんな……隆さんも温厚とはいえ一人娘の彼氏ともなれば話は変わる、かなり声のトーンが落ちていたので亜希奈さん程とは行かずともかなり心配なのだろう気持ちは伝わっていた。
一方の弘天さんだがこちらは天祐さん存命の頃から八一も俺も結構知ってる仲だがそれはそれ、これはこれとして当たり前だが最初は認められないと言っていた弘天さんを八一が説得、だったら来た時に条件を提示するからそれを飲めるならと言う話で一旦落ち着いた。
時折電話口から弘天さんの声とは別の方向からチャカみたいな音が聞こえていたのは気のせいだと思いたい、思わせてくださいお願いします……
そんなこんなでとにかく両家とも話し合いの場を設けてもらったのでひな鶴に足を運び、まず俺が事の発端、責任者として場にいる事を告げ本気で言ったとはいえ部外者が焚き付けた事への謝罪、次に八一が三人を好きになった理由、どれだけ大事に思っているか、自分に三人を養えるだけの経済力が存在し安定して三人と暮らせる事、友人……俺だが、には何度も相談して自分の考えとその度にもらうアドバイスで整合してやってきた事とかも話してくれて、そこはこそばゆかったりもした。
……はい現実逃避終了です、亜希奈さんの威圧感が半端無いです。
「まずは鍬中駿さん、貴方からです」
「は、はい……」
「多対一で付き合う、という行為は非常識とは考えなかったのですか?」
早速俺か……ハーレムが非常識な事くらい最初から分かってたが、最適解がハーレムなんじゃないかってのはそれこそ前世の時から考えていた事だ。
この世界で生きて価値観が変わったものも多いがこれは生きてみてこそ、尚更変えられない価値観だと原作より密接になる八一達を見て思い知った。
破られる訳には行かねえ。
「……考えてました」
「だったら――」
「でも! 俺はそれを考えた上で三人の事もまた考えました。あいちゃん以外の二人は八一とは幼馴染、昔から客観的に見ていればどんな関係かは分かります」
「だとしたら?」
「……二人にとって八一は特別大切な、異性としての存在。そんな事明白でした……そしてあいちゃん、あの子もまた同じ目をしていた。最初こそ羨望の意が強かったですが、次第に恋をする人間になっていた。最後に八一ですが、俺が焚き付けたといっても人生を大きく左右する事に変わりはありません。告白の前に三人それぞれが八一に恋をしているか、八一自身の三人への想いはどうか、八一から確認はしっかり取りましたし重要性も話し合いました。その答えがこれなんです」
我ながらめちゃくちゃそれっぽい事を言ってはいるが親の気持ちは度外視だとも言っている。
親がどれだけ子を思っているか……なんて、今の俺には痛いくらい分かる。
所詮は三人の気持ちか、親の気持ちかの二択の内を選んだに過ぎない。
それでも、後悔しない選択に導いてやりたかった。
エゴと言われても、強引と言われても、大切な親友や親友の想い人達の為に、全員が幸せになる方法を取りたかった。
「そう、か……君は八一君の為だけではなくあいの事も考えてくれていたのか」
亜希奈さんの隣で黙っていた隆さんが口を開く。
静かに、だが確実にこちらから目線を外さない様に。
……見定められているのだろうか、八一共々。
「なあ八一君。君は、どうなんだ。あいを含め三人、普通の三倍の責任が一生付き纏う。それだけじゃない、結婚という繋がりを持たないという事はいつでも逃げ出せるんだよ? それでも逃げ出さないって保証はあるのかい?」
厳しい言葉だ。いつも温厚な隆さんが言うとまた重たい言葉だと再確認させられる。
八一、後はお前の本気を見せるだけだぞ。
「俺は……まだお分かりの通り十代の若輩者です。しかし、雛鶴あいと夜叉神天衣の師匠という立場、空銀子とは同門です。三人を捨てて逃げる事は棋士として逃げる事に他なりません。なので俺は、一人の男という立場と同時にプロ棋士として、そのタイトルの竜王を持つ男として、あいさんを、三人を幸せにする事を誓います」
……へっ、それでこそ八一。
だから俺はお前にあんな提案をしたんだ、三人を幸せにするだけの器があると信じて。
「……そこまで言われたら、信じるしか無いな。僕から言えるのは『娘を頼んだよ、八一君』……それと『幸せになりなさい、あい』」
「……竜王の名にかけて」
「お父さん……」
「……私からはまだありますけどね」
っと、丸く収まったかと思ったがそういや亜希奈さんは黙ったままだったな……隆さんの話に口を挟まなかった辺り納得云々はさておき認めたって事かと思っていた。
認識の甘さだなあ……
「っ!」
「何、心配は要らないさ。僕との話に納得言ってなかったらとっくに割り込んでる。だから……察するには条件提示だろうね」
「成程……」
「はぁ……その通り。将棋は嫌いですが、その分野のプロで、タイトル持ちの男がその立場に懸けて幸せにすると誓ったのならある程度は信用しましょう」
また難儀な話になるかと身構えたが、この人途中からあいちゃんの想いに加担してたんだったな。
だとしたらこの態度も納得。
ただ亜希奈さんの話だ、一筋縄じゃ行かないのはお約束だろう。
頑張れ八一。
「但し、認めるからには文句無しの棋士として活躍してもらわねばなりません。八一さん、貴方にはあいが中学卒業までにタイトルを獲らせるのに加え、同時期を期限として二冠を同年に防衛する、これを達成してください。拒否権はありません、それが、私が貴方を認める条件です。それだけの覚悟と強さが無いなら私が認める事はありません、今すぐあいを置いてここを去りなさい」
……何ともまあドキツい条件だ。
今あいちゃんは小学五年生、今が七月中旬だからつまり四年と7.5ヶ月で一番簡単な条件が竜王を防衛しつつあいちゃんが中二になるくらいまでにもう一つタイトル獲って二冠達成……に加え翌年度にそれを防衛する、という事だ。
二冠を達成しても防衛出来なければ交渉決裂。
将棋には疎いとか前に言っていたはずが絶妙に八一に達成出来るかどうかの際どいライン突いてきやがる。
そもそもだが俺の知る未来は今季の帝位戦で生石さんから玉将を奪還し帝位と玉将の二冠になった於鬼頭さん相手に一勝を挙げたところまで、まず二冠になってるのかさえ分かっていない。
無謀という条件ではない範囲で最大級に厳しいのは間違いなく断定出来る。
「……分かりました。二冠を同年度に防衛、それで認めて下さるんですね」
「出来ると言うのであれば、ですが」
「やります。三人に、絶対幸せにすると誓ったんです……裏切れる訳が無い!」
く、くく……言い切りやがったな八一の奴。
長い長い将棋プロの歴史上で見ても十数人しか達成者のいない二冠以上の条件に間髪入れずに言いやがった。
だからお前は最高なんだよ、八一!
「……泣かせたら、承知しませんよ。あいだけではなく、全員をです。良いですね?」
「は、はいっ!! ありがとうございます!!」
「ありがとう、おかあさん……」
「……もう一度だけあいに聞きます。この選択に、一生変更の効かないこの選択に後悔は無いんですね?」
「うん。わたしが自分で決めた事だから。しあわせになるから、だから心配しないで」
「そうですか。ならば良し」
そして亜希奈さんも納得してくれた様で、本当に良かった。
「この度は本当に申し訳ありませんでした!」
ならば一番部外者且つ元凶の俺が最後にもう一度謝罪するのは筋だろう。
親という存在を甘く見ていた、俺と師匠は本当の親子の絆があると分かったが、それでいて少し他とは違っていたんだ。
今回の出来事で痛感した。
「……こうして、部外者にも関わらず相談に乗ったりあい達と一緒に来てくれた、それだけでも立派な事さ。少し勢い任せなところはまだまだ若い証拠だけどね」
「常日頃、あいから親身になってくれている方の一人と聞かされていたから今回は大目に見ます……が、次があるとは思わない様に。……ですが、あいを導いてくれた事には素直に感謝しています」
「あ、ありがとうございます……!」
寛大な人達で助かった……最悪許されないかとも思ったし。
これで一件落着……だったら良いんだけど、夜叉神邸がまだあるんだよなあこれが。
あのチャカのカチャカチャやってたの間違いなく晶さんとその部下のてんちゃん親衛隊だよなあ……下手したら今回より長い戦いになるか……あそこの人達とは数年来の仲だし上手く事が運んでくれると良いんだけど……
「良かったな、あい!」
「はい、やーちゃん!」
まずはこの二人を祝福しようか……何かあいちゃんの八一への呼び方変わってるけど。
はあ……西崎、今はお前の昆布茶が飲みたいよ……
まさかの挨拶二部構成
次回は難産になりそうだから投稿結構開くかも