冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

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これで八一の悩み編は完結
次回はマイナビ一斉予選開幕と地味に人脈が凄い鍬中の意外な交友関係が…?


第三十一話『美羽の予選の壁と夜叉神邸への挨拶』

「本当にごめんな、明日は一緒だから……」

 

「分かってるよ、しゅんちゃん。くずりゅーせんせーとかあいちゃんやてんちゃんのためなんでしょ? だったらわたしがワガママ言えないもん。でも明日は勝って褒めてもらうんだからね!」

 

「当たり前だろ? 本格的な予選ともなれば殆どはプロが対局相手になるだろうけど今の美羽なら互角以上にやれるさ」

 

 ひな鶴に言った翌日の朝、今日はまだ石川県よりは近場の神戸にある夜叉神邸が目的地になる為昨日とは違い美羽とも多少喋る事が出来た、ただ通話だが。

 美羽が恋しいが自分のやった事への責任は取らなくちゃならないからな……

 

 ところでだが明日はマイナビ女子オープンの一斉予選、女流プロが本格的に参戦しているのはここからなのでチャレンジマッチ決勝で当たった金平女流二段クラスの強さの選手がここではアマチュアを除いて最低クラスになる。

 そして方式だが、12ブロックに分かれ五人、若しくは六人ずつに振り分けられたブロックトーナメントに優勝する事が本戦に進む為の切符となる。

 因みに本戦はこの予選を勝ち抜いた十二人に加え、前期のベスト4以上と奪取失敗、若しくはタイトル陥落した番勝負敗退者。

 

 今期の本戦シードは前期アマチュアから挑戦し女流プロの条件の本戦一回戦どころか番勝負まで行き絶対女王に一つだけとはいえ女流プロで初めて土を付けた俺達の幼馴染てんちゃんこと夜叉神天衣女流二段、昔馴染みで前々回の挑戦者の月夜見坂燎女流玉将、同じく昔馴染みで去年山城桜花を防衛し永世称号『クイーン』になった供御飯万智クイーン山城桜花、初代女王にしてこの前四年振りに棋戦優勝(大輪杯ネット将棋女王決定戦 ネット投票で十六人選抜しトーナメントする大会らしい。前世には無かった)した花立薊女流五段と女流界の化け物揃い。

 

 まあ予選にも前々回シードの釈迦堂永世名跡やら俺のトラウマ祭神女流帝位とか鹿島杯で怒涛の連勝、本戦八人のトーナメントでベスト4になった最近絶好調の鹿路庭さんとかあいちゃんとかいたけど運良く全員回避……とはならなかった、そうならなかった。

 

「……あの人もわたしがたおすもん」

 

「おう。しかしアイツは八一やらあいちゃんやら俺やら美羽やら……こっちの陣営となにかに付けて縁があるというかなんというか。とにかくアイツは金平女流二段とは比べもんにならない強さと性格の悪さがあるからくれぐれも用心していけよ」

 

「うん! しゅんちゃんがいればだいじょーぶ!」

 

 そう、よりにもよって順当に予選決勝を迎えれば相手は祭神になる。

 去年もあいちゃんと予選決勝で当たってたが二年連続アマチュア小学生vs祭神の構図が出来上がりそうになっているとかどういう事だよ……

 どっかでやる気無くして勝手にログアウトしてほしいもんだが去年あいちゃんに終盤でコテンパンにされてるだけに憂さ晴らしの為に狙ってくるんだろうなあ……それこそ美羽が負ければあっちも負けるだろうが本末転倒過ぎるし予選を抜けるには祭神との対局は避けられないか。

 

 そして俺が考えるに本気を出した祭神がペースを握れば銀子ちゃんだって勝てるか怪しい。

 現時点で純粋な能力は祭神が女流界最強と思っているくらいだ。

 だが奴には二つ弱点があり、一つはてんちゃんみたいな躱して粘って200手くらいまで行けばエンジンが切れてくるところだ。

 

 ……美羽のタイプは真逆だけどな。

 

 殴り合いで勝てってか……正直めちゃくちゃキツいだろうな。

 まあネガティブな事は言えないから黙っておくが。

 

 取り敢えず祭神以外の懸念点は無かったからまだ不幸中の幸いだ。

 相手取りたくない棋士は挙げたらまだまだいるからな……その中で引いたのが一人はある意味良かったと言えるか?

 

 とにかく今は美羽を信じるしかない。

 

「……気負うなよ?」

 

「わかってるよ」

 

「流石俺の美羽だ」

 

 その言葉には確かに自信が満ち溢れていた。

 正直奴の将棋は面白いしトラウマとか言ってるけど大して仲が悪い訳じゃないし棋力は買ってるが今回は美羽の為に負けてくれ……

 

 

 

 

 

「てな訳だ、気合入れて弘天さんと晶さん説得して将棋に集中する」

 

「お前は本当に美羽ちゃんが絡むと見境無くなるな……」

 

「大事な彼女である前に弟子だぞ! しかも祭神と当たるとなればちょっとくらいは許されるわい!!」

 

「……八一から聞かされてたけど、まさか駿くんが弟子と付き合ってたとはね。私の周りはどうしてロリコンと対象になる様な小童ばかり集まるのかしら……」

 

「でもでも、告白の時のお話を美羽ちゃんにきいたりしたんですけど、すっごくロマンチックだと思いました!」

 

「くわなかにしてはカッコ付けられたんじゃないの?」

 

「へへっそりゃどうも」

 

 夜叉神邸に向かう車内にて、今回は緊張感は多少薄れているのか和やかなムードだった。

 因みに運転は師匠だ、本当にお世話になります……

 

 そして今は美羽への告白エピソードを話していたんだが銀子ちゃんには不評……というか呆れられていた。

 八一で散々ロリコンを体感しただろうし仕方ないね。

 

「ふふ……弟子の駿と孫弟子のミハミハがこのまま結婚してくれたら僕は未婚のままおじいちゃんになりそうだね?」

 

「し、師匠……あの時は本当にありがとうございました!」

 

「いーや、僕は弟子の為に、息子の為にやれる最善を尽くしたまでだよ。薄々駿とミハミハが付き合うんじゃないかなとは思ってたからそれも合わせて、ね」

 

「……まさかお見通しだったんですか?」

 

「さあね」

 

 全く、こういうとこは師匠にはいつまでも勝てる気がしないな……と、そろそろ着きそうだ。

 さて、いくら昔からの知り合いと言っても気を引き締めないとな。

 弘天さんも晶さんも正直一筋縄で行けるとは思ってないが……

 

 

 

「八一君。私はこの関係性自体を否定しようという気は無い」

 

 来て一通りあいちゃんの時と同じ説明をしたら、弘天さん曰く「そっちの説明は理解した」とだけ言って八一とてんちゃんと三人で話す雰囲気になっていた。

 んで俺は晶さんの近くに座らされている訳ですが……別段リアクションは無いし取り敢えず八一の話を聞いておくか。

 

 つか関係性を否定しないってのはまた意外だったが……

 

「……そう、なんですか」 

 

「だがね八一君……今から言う事は全て私のワガママになってしまうが、天衣は唯一残った私の家族なんだ。もう私には、あの子しかいない。そんなあの子さえも、君に取られたら遠くに行ってしまいそうで……だからどうしても『良い』とは言えなかった。天衣をやるなら八一君しかいないと分かっていてもだ」

 

 ……なるほどなあ。

 そりゃそうだ、奥さんは天衣を引き取る前にはもう亡くなっていて、息子夫婦、天祐さん達を一気に亡くして、残ったのは息子夫婦の忘れ形見である孫娘のてんちゃんだけ。

 そんな唯一の血の繋がった家族を、いくら孫の兄代わりとして見てきた幼馴染で息子が認めていた男であってもそう思ってしまうのは必然だろう。

 

「……私共ではどう足掻いても家族にはなれないのです。私個人では本当なら八一様を認めていた。ハーレム等と聞いた時はどう調理してやろうかとも思いましたがお嬢様が納得しているのでしたら、八一様なら大丈夫だろうと。ですが弘天様が、あれ程まで悲しい顔をされているのは見るに堪えない……」

 

 晶さんが、考え込む八一を見ながら隣で呟く。

 晶さん自身は認めていたのか……てんちゃん大好きな人だし厳しいと確定付けていたが逆に言ったらてんちゃんの説得と天祐さん、弘天さんが認めている事実があれば他の知らない男に取られるのと天秤に掛けるまでも無いって事らしい。

 

 しかしそうであるなら問題は無い。

 天祐さんと一番、月光さんより親しかった身内外の男の八一がそこを考え無しに来るとは思えないからな。

 

「八一なら。アイツならそこも考えがあるはず。ずっと近くで、一番近くで、天祐さん達がいなくなった後の泣いていたてんちゃんに寄り添ってたんです。だから、大丈夫」

 

「鍬中様……」

 

 つー訳だから裏切るんじゃないぞ八一。

 お前ならやれるはずだ、最善を見つける事を。

 

「俺は本当の意味で家族を失う痛みは分かりません。ですが、家族を失って泣いていた女の子を良く知っています。だから家族の時間を奪おうなんてある訳無いです。殆ど今まで通りなんです、だから心配しないでください」

 

「……こんな、老いぼれの我儘に向き合ってくれるのか」

 

「我儘だなんて言わないでください。天を立派に、愛情込めて育てていたじゃないですか。だから天だって、貴方の事が大好きなんですよ」

 

「天衣が……」

 

 弘天さんは気付いていなかったかも知れないがてんちゃんは弘天さんにめちゃくちゃベタベタに甘える事が多かった。

 態度が少し高飛車が入ってしまったばかりに今まで気付かれなかったのだろうか、にしても分かりやすいくらいだったんだけど。

 言ったらてんちゃんに殴られるだろうし止めとくが。

 

「わたしは……おじいちゃまがいてくれて本当に嬉しかった。お父様もお母様も居なくなって怖くて、お兄ちゃんは結局血は繋がってないから……わたしだけ、この世界にひとりぼっちだったの。だから、おじいちゃまがわたしを引き取ってくれた時まだ私は一人じゃないんだって安心できた」

 

「そんな事を……思ってくれていたのか……」

 

「わたしね、おじいちゃまの事大好きよ。だからまだまだ一緒に暮らしたいの。せめて、自立出来る様に高校を卒業するくらいまではおじいちゃまと居たいから……これからも元気でいてね」

 

「天衣……うぅ……ありがとう……天衣は私の宝物だよ……」

 

 うぅ……俺まで泣けて来たんだけど。

 ひしと抱き合う二人の家族の絆が暖かすぎる。

 こういう機会に確認するなんてのも想定外だったからか涙腺の制御が緩い。

 

「お゛じ゛ょ゛う゛さ゛ま゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛こ゛う゛て゛ん゛さ゛ま゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛

ほ゛ん゛と゛う゛に゛よ゛か゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛」

 

 うん、まあ隣に俺の十倍くらい泣いてる晶さんいるから多分俺のは目立ってないだろうな。

 

 この後晶さんの号泣に気付いたてんちゃんと弘天さんが慌てたりちょっと放置された後にしっかり認めてもらえたりとわちゃわちゃしていたが円満に終われて良かったと心の底から思った。

 

 

 

 因みに余談だが師匠は待ってる間暇潰しに屋敷で将棋の指せる人達相手に指導していたらしい、タイトルホルダーが暇潰しに指導するってやべーなオイ。

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