冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

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りゅうおうのおしごと!発売決定めでてえ…


第三十六話『次は、きっと。』

「良かった……美羽」

 

 医務室で眠る美羽を見ながらポツリと呟く。

 美羽が倒れた……と対局相手であった祭神から聞かされた俺は頭が真っ白になりながらも祭神と共に医務室に乗り込んじゃったっけ。

 でも大切な弟子が倒れた、なんて聞かされて慌てない人間はいないと思うんだよね。

 

 

 

『み、美羽は大丈夫なんですか!?』 

 

『……この子のお知り合いで?』

 

『その子の師匠です!! だ、だからその……』

 

『成程、まあ落ち着きなさい。この子は体力と精神力がキャパオーバーして倒れはしましたが大きな問題は無いでしょう……尤も、この状態で再試合を行うくらいならば棄権が賢明な判断ではありますが』

 

『……悔しくはありますが、まずは無事で良かったという事が最優先です。美羽を診てくださりありがとうございます』

 

『いえ、普通の事をしたまでです。少し席を外すので見てあげてください』

 

 

 

 

 詳しい話は落ち着いた後祭神から簡潔に聞かされた、一本取られたと。

 中盤気圧されてしまったか美羽は守りに入ってしまい大劣勢、会場からもお通夜ムードが漂ったが終盤急に開き直ったか根性で切り返したか攻め始め、無理攻めと思われたのも全ては持将棋狙いと判明してからは更に盛り上がった。

 が、そこで中継カメラの不具合で中継が途絶え……祭神の話では、『美羽が28点、祭神が26点』で持将棋が成立したそうだ。

 そしてその直後に倒れたと。

 

「……持将棋とはいえ、祭神に2点差で勝つなんてな。実力差はまだまだ遠くあるから、なんて考えてたけどやっぱり自慢の弟子だ」

 

 寝ている美羽の頬を撫でながら呟く。

 ふっと立ち上がる、まだ美羽は起きそうに無い。

 

「電話……美羽のご両親か」

 

 息を付く間もないくらい慌てていたとは言っても俺が預かって倒れたともなればこちらの体調管理ミスである事は明白、そうでなくてもではあるが美羽のご両親に連絡を入れる事は社会的常識。

 慣れないプレッシャーの中での対局で心身共に極限まで使って倒れた……という事と謝罪をメールで送り一息付いたところで直接電話を掛けようかとしていたらあちらが気付いたのかバイブが鳴った。

 

「はい、鍬中です。竹内美羽ちゃんの親御さんでいらっしゃいますか?」

 

『ああ、私は美羽の父でね……メールを見させてもらったがみ、美羽は大丈夫なんですか?』

 

 電話口から聞こえてきたのは美羽のお父さん、真悟さんの方だった。

 動揺しているのか声が震えている。

 

「美羽ちゃんは極度のプレッシャーと体力の消費で倒れたとの事なので、一日休めば問題無いと……」

 

『そ、そうですか……良かった……』

 

「この度は本当に申し訳ありませんでした、こちらがもっと美羽ちゃんの心身に付いて把握していればこんな事にはッ……」

 

 恋人である、とあちらは美羽からの話で知っている。

 だが正式な挨拶は予選が終わってから、美羽がゆっくり出来る日を見つけて挨拶に行く予定だった。

 だというのに、挨拶の前にこんな事になってしまっては恋人以前に保護者として失格だ。

 恋人としても、もっと美羽の心身に付いて把握出来ていれば防げたかも知れないんだ。

 悔しさで、自然とスマホを持っていない左手に力が入ってしまう。

 

『いや、謝らないでください鍬中先生』

 

「で、ですが」

 

『貴方は最善を尽くして美羽を成長させてくれました。健康、体調管理、礼節……将棋をする上で、将棋以外にも必要な事を教わっていると良く聞かされていましたし、何より鍬中先生に会いに行ったり将棋の大会や何やらに出る日はいつも体調に問題はありませんでした。それは今日も同じなのです。だから、これは美羽が全力で頑張った末に起きた事。そして先生がいつも体調管理をして下さったお陰で美羽は倒れただけで済んだ』

 

「……きょ、恐縮です」

 

「だから自分の行いに自信を持ってください。私達は貴方に会った事は少ないですが、美羽の人間としての成長、礼儀を覚えた姿や楽しそうに、悔しいですが愛おしそうに鍬中先生の事を話す姿を見て、美羽を貴方に預けて良かったと、そして貴方だから美羽の未来、将棋も、生涯の伴侶としても、託せると思い至ったのです」

 

「……!! ありがとう……ございます……!」

 

 まだ挨拶もしていない腑抜けだと怒られても仕方なく、ロリコンだ何だと蔑まれる事さえ覚悟の内だったが俺は真悟さんの事を誤解していた様だ。

 美羽曰く将棋の事は点で何も分からないというご両親だが、分からないながらもこうして評価をしてくださり、まだ小学生の自分の娘を今年成人になる男に、将来の伴侶として託せるとまで言ってくれた。

 将棋を知らないとはいえ娘の師に当たる人物の戦績くらい把握されているだろう、そんなまだまだ不甲斐ない自分を認めてくださった気持ちに声が震えてしまう。

 

『……鍬中先生』

 

「は、はい」

 

『これからも、娘を宜しくお願いします』

 

「はいっ!」

 

『それと、美羽に「良く頑張った」そうお伝えください』

 

「……分かりました」

 

 

 

 その後、通話が終わった後色んな気持ちが入り混じっていたのか涙が少し零れる。

 八一の付き添いに始まり帝位戦と毎朝杯予選、盤王戦トーナメントと再来月にある棋士編入試験の鏡洲さん対策と大変だったがそれはこちらの都合。

 そこまで汲んでくれた、そこにはもう頭が上がらない。

 

「だからこそ、ちゃんと会いに行って、今度は自分の言葉で伝えないとな」

 

 次は、きっと俺自身の言葉で認めてもらうんだと決心した。

 

「う……あれ……わたし……」

 

「美羽!? 目が覚めたんだな!」

 

 気が引き締まったのも束の間、美羽が目を覚ますとまたやっぱり慌ててしまう。

 でも心配なんだしそこは許してほしい。

 

「あ……しゅんちゃん……わたし行かないと……! うっ……」

 

「…………美羽、ダメだ」

 

 案の定美羽は再試合に行きたがる。

 そりゃそうだ、一世一代の大勝負を前評判を覆し持将棋にし本来ならもう一度チャンスが巡ってくるはずなのだから。

 だが、今のままやらせたらそれこそ次は倒れるだけでは済まない。

 実際美羽は頭を抑えながら目の焦点も微妙に合ってない、こんな中での将棋はそもそもやらせられないし、とてもじゃないが自分の実力も発揮出来ないだろう。

 

「いやだ! 次は勝つから! だからやらせてよ! おねがい!」

 

 それでも美羽は引かない。

 初めてだった。美羽が純粋に、100%私情でワガママをぶつけて来たのは。

 負けず嫌いだって事は最初指した時に分かっていた。

 それでいて負けたら悔しがりはしてもこんな事は言わなかった。

 

 少しだけ、たじろいでしまった。

 いつも良い子で、将棋以外の礼節も小学生らしからぬ理解力で吸収していった子であるが為に。

 と、言ってもここで引く訳には行かない。

 

「これ以上やったら次は倒れるだけじゃ済まないって聞いたぞ。俺だってやらせてやりたいしやらせてやれないのは悔しいが、美羽の健康を考えてなんだ。分かってくれ」

 

「…………たおれても良いもん」

 

「……何て言った?」

 

 今にも爆発しそうになる感情を抑える。

 だが今のは絶対に言ってはいけない言葉だった。

 グッと抑える……

 

「わたしは!たおれてもあの人に勝つ!勝たないとダメなんだ!だから……心配なんていらない!」

 

 だが、この言葉でダメだった。

 感情が、色んな感情が溢れ出てしまうのが分かった。

 

「ふざけんなよ!!!」

 

「ひっ……」

 

「どれだけ真悟さん達が心配してたと思ってるんだ!! そんな人達の言葉を考えた事があるのかよ!」

 

「……」

 

「お、俺、だって……俺が、俺が……美羽が倒れたって知ってどんだけ怖かったか……」

 

 涙が、また溢れてしまう。

 

「……ごめん、なさい」

 

「美羽の身体はな、美羽だけのものじゃない。倒れたり傷付いたら悲しむ人達が沢山いるんだ。ご両親は勿論、あいちゃんや天ちゃん、八一や歩夢だって悲しむ。それに……俺だって。だからな、無茶をしないでくれ。悔しいのは分かるから……俺の胸の中でなら、泣いて良いから……」

 

 そっと抱き締める。

 少し怖がらせてしまったかとも思ったが、胸に埋もれた身体が小刻みに震え、時折泣き声を上げているのが分かる。

 多分……大丈夫だろう、と優しく頭を撫でる。

 

「……ありがとう、ごめんなさい、しゅんちゃん」

 

「謝るなよ……俺も怒鳴ってごめん。美羽は良く頑張った。祭神相手に持将棋だぜ? 美羽は俺の自慢の弟子だ、だから誇りを持て……んで、お疲れ様」

 

「しゅんちゃんに……プロになったすがた、早く、見せたくて……ばんおうせん、がんばってほしくて……やれないの、わかってて、でも、どうしても、まけたくなくて……」

 

 美羽……全く、ほんと俺には勿体ないくらいの弟子だよ。

 抱き締める強さを少しだけ強くしながら、大切な弟子に語り掛ける。

 

「ありがとう……そんだけで俺すげえ力湧いてきた。絶対この盤王戦で俺、挑戦者になってみせるから。ずっと美羽の師匠でいられる様に、大好きな将棋を続けられる様に頑張るから」 

 

 この後暫く抱き締め合い、戻ってきた医者のオッサンに呆れられたのはまた別の話である……

 

 

 

 

 

(ふーん、アタシがフォローしなくても何とかなったんだァ。ま、あの空気じゃ出ていくだけヤボね……次は負けねえからな……精々強くなっとけよ、クソガキ)




本作品の竹内美羽の設定と鍬中駿の関係性設定

 この作品の美羽ちゃんは前話での通りあいちゃんが偶然持っていた棋譜に興味を持ち、将棋を始めたという流れになっています
 その為原作比あいちゃんとの親交は初手から親友に近い存在になっており、あいちゃんにとっても短期間とはいえ人に教えるという事の難しさや楽しさを初めて体感した相手になります

 将棋の実力は35話時点で祭神よりは明確に劣っているが中堅女流棋士程度はあるという描写になっているかと思われますが、これはこの本作品の女流棋士編におけるラスボスを祭神雷とする為であり将棋歴の低さ故の発展途上さを出す為でした
 最後を持将棋としたのは、あくまで唯一のヒロインの美羽ちゃんを女流棋士編最終話と銘打った話で負けさせるのは得策ではないと考えた為です


 鍬中との関係性は気付いてる方は気付いてると思いますが『原作の竹内美羽の家庭教師』に値するのが鍬中駿に成り代わっています
 裏設定として美羽ちゃんが興味の無いはずである棋譜に惹かれたのは世界の修正力が最後に足掻いて原作に寄せた部分になっています(その後は力尽きたとか何とか)
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