冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

37 / 52
第三十七話『弟子の誕生日は初手から最後まで波乱らしいⅠ』

 ――美羽のマイナビが終わって暫く経った8月28日、美羽もすっかり元気になり次の女流玉将戦に向けまた一層知識も強さも蓄えている。

 そう、美羽は女流玉将戦のアマチュア推薦枠の小学生の推薦枠から直々に11月から開幕する女流玉将戦予選へ推薦されていたのだ。

 リベンジに燃える美羽には絶好のチャンスが巡ってきたと言って過言では無いだろう。

 

 それはさておき、良い事も悪い事も何故か一度起きると何回も重なる日なんて事が偶にある、俺もある。

 何もしてないのに重なる日なんてどちらにせよ明日くらいには死んでるんじゃないかってくらい運を使うもんだが、今日もそんなたまの日らしく何かもう色んな事が重なりまくってる日らしい。

 

 まず一つ目。

 

 

「美羽、お誕生日おめでとう」

 

「ありがとう、しゅんちゃん!」

 

「これプレゼントな……シンプルだけど」

 

「おお……くまさんだ……! うれしい! ありがと!」

 

 今日は美羽の誕生日である。

 原作だと明かされてなかったはずだが夏の終わりが誕生日だとはな。

 ちゃんと聞いといて正解だったな。

 恋人の誕生日、記念日の把握これ絶対。

 そして美羽は大人びた面が目立つが将棋から離れると年相応だ。

 片手で持てる小さな熊のぬいぐるみ……真悟さんに好みの傾向を教えてもらって買ったものだが目が輝いてる、成功した様でこっちも嬉しい。

 

 と、これが一つ目

 

 二つ目は例会の日でもある事だ。

 

「このくまさんがあれば今日も全勝いけるかも!」

 

「その調子だ! さあ行くどー!」

 

「おー!」

 

 

 

 

 

「ま、負けました……」

 

「ありがとうございました!」

 

「ありがとうございました……」

 

 圧倒的四連勝である。

 しかも最後は都合の良い棋士が少ないとの事で格上のC1クラス、つまり女流3級との対局になったのだが最早貫禄と言わんばかりの全ツッパでスピード勝利。

 

「美羽ちゃん……強くなりましたね」

 

「ええ、何せあの祭神に、実力差がありながらも持将棋にした。結果として棄権となりはしましたがその経験はこうして糧になっている、俺はそう思います」

 

「鍬中四段、すっかり師匠の顔ですね」

 

 師匠の顔……か。

 久留野さんと美羽を遠目に見つつ少しの雑談をしているがまだまだ美羽の師匠として未熟な部分があると思っているがそう言われると少しくらい自信を持っても良いのかも知れないと感じる。

 とはいえこんな感じになれたのってまだそんな前じゃない上に例会でひと騒動あったし正直苦笑いしてしまう。

 

「あはは……まだ未熟ですよ。例会で弟子の事より自分の事に思い悩んでしまうくらい」

 

「そうでしょうか、寧ろその出来事が鍬中四段を成長させたと思いますよ。人は誰しも失敗しながら成長するものなのですから」

 

「……そんなもんなんでしょうかね」

 

 その発言を聞くに、俺はまだまだ久留野さんみたいな立派な人間には遠いんだろうと思ってしまう。

 

「しゅんせんせー! 勝ったよ、ブイ!」

 

「っと、美羽! 良くやったぞ!」

 

「おめでとう、美羽さん……しかしまさか、女流プロ三人に勝ったとは聞いていましたがここまでとは」

 

 ふと思い耽り掛けたところで感想戦をきっちり終えた美羽が帰ってきたので優しく頭を撫でながら褒める。

 いくらプロ相手に勝って調子が良いって言ってもまだC2クラスなのは事実、一歩一歩着実に勝って歩みを進める事こそが重要だ。

 

「成程、これなら」

 

 隣にいる久留野さんも感心している様子……だが、何かブツブツと独り言を話し始めた。

 美羽の強さの自己解釈や強さの根源でも探ってるんだろうか……にしては顔が良い笑顔だ。

 

「あの、久留野さん?」

 

「くるのせんせー?」

 

「ああ失礼、マイナビ女子オープンの結果は聞いていましたがまさか女流3級に対してあそこまで圧倒してしまうと思わなかったもので。ですがこれなら美羽ちゃん、貴方もこれで女流3級の資格を得られますよ」

 

「なっ!? 本当ですか!?」

 

「ええ。前回の例会から含め先程の対局を持って六連勝、そして同時に例会通算48局を終えました。女流3級への申請規定を全て満たしたんですよ、おめでとうございます」

 

 頭が真っ白になった、勿論嬉しさもだが意識せずに送り出していたからだ。

 連勝や通算対局数の目に見えるものより目の前の対局で何を学び次にどう活かしていくか考えながら勝つ事が重要だと確かに教えてはいたけどそれ失念するのはギャグだろ俺……

 

「しゅ、しゅんせんせー……? わたし、女流棋士になれるの?」

 

 ……美羽もそれは同じ、というか美羽が一番現実味無いみたいな顔になってるな。

 そりゃあ本人が一番実感湧かないのは当たり前かも知れない、一週間前くらいには次の招待選手として選抜された玉将戦で頑張ろうって言ってたからのこれだもんな。

 仮免って事はお互い分かってるだろうが、それはさておきちゃんと褒めてやらないとな。

 

「そうだぞ美羽! 3級とはいえ遂に女流棋士になれるんだ! おめでとう!! 本当に……本当に……お゛め゛で゛と゛う゛な゛み゛は゛ね゛え゛え゛え゛え゛え゛」

 

 褒めてやらないととか言った手前師匠らしく褒めてあげたかったけど無理、そりゃ無理よ。

 美羽がどれだけ努力を積み重ねてきたのか、この半年の成長を見れば分かる。

 そしてこの前の祭神戦の悔しさに関しては俺もまだ忘れられないし忘れたくなかったから、その反動もあったりする。

 だから美羽に抱き着いたとしてもきっと健全なのである。

 

「わあっ!? しゅんせんせーが泣くのー!?」

 

「だ゛っ゛て゛み゛は゛ね゛の゛が゛ん゛ば゛り゛も゛く゛や゛し゛さ゛も゛み゛て゛き゛た゛も゛ん゛!゛!゛そ゛れ゛が゛む゛く゛わ゛れ゛た゛っ゛て゛お゛も゛っ゛た゛ら゛な゛か゛ず゛に゛い゛ら゛れ゛る゛か゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」

 

「も、もーしゅんせんせーはしかたないんだから……」

 

「ははは、やっぱりお二人は仲が良いですね。一応ですが申請が通るまでの期間を考慮すると女流3級としての活動は女流玉将戦になると思います」

 

「うっ……ひぐっ……あ、ああすいませんお見苦しい姿を……そうなると推薦枠からは外れる事になりますね」

 

「そうなりますね。しかし今年の小学生推薦枠はチャレンジマッチ通過時点で既に全会一致で美羽さんだっただけにまた決め直しですかね、はは」

 

 久留野さんは本当に冷静な方だ……優しく笑いながらもどこからが美羽の女流3級としてのスタートになるかサラっと伝えてくれたからか何とか号泣も止まる。

 

 と、まあ冷静になったがしかしこうなると僅かではあるが棚から牡丹餅が降ってきた事になる。

 女流3級から2級への昇級は女流2級から1級に上がる条件とも同じだからだ。

 アマチュアから直接女流玉将戦で女流プロの資格を得るには本戦一回戦の突破、つまりマイナビ女子オープンと同じ条件だが女流3級は上述した条件で当て嵌めると『本戦進出』で昇級規定となり一戦少なくなる。

 この一戦に泣いたアマチュアも多いだけに、女流3級というものはプロ仮免という事以上に美羽への大きな弾みになるはずだ。

 

 仮免なだけに女流3級でいられる時期も限られてるが。

 

「美羽を評価していただいてこちらも誇らしいですよ……美羽、3級はまだ完全なプロじゃないけど期間中はプロと遜色無い扱いを受ける。全力でやろうな」

 

「しゅんせんせ、わたしプロになる。今度こそ勝ってせんせーに安心してタイトルのトーナメントがんばってもらうんだから! だから見ててね、わたしが女流プロになるとこ」

 

「……ああ。俺も美羽もプロとしては半人前。だったら二人の力を合わせて一人前だ。一緒に頑張っていこう。一緒にプロになろうな」

 

 美羽の手をそっと両手で包み込み、最早プロポーズと言っても過言では無い言葉を発していた事に気が付いたのは仲の良い研修生達からの野次とも取れる祝言が飛び交ってからだった。

 

 これが三つ目であった。

 

(ああ……なんだろ、今日この調子ならまだありそうな気もするんだよな……良い意味でも悪い意味でも)

 

 既に例会も終わっていた為祝言にやんややんやと言い返しつつもどこか良い予感も悪い予感もしていた俺だが、その直感が当たったのはこのすぐ後であるのを俺はまだ知らないでいた――




分けるから短め
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。