冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

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第三十八話『弟子の誕生日は初手から最後まで波乱らしいⅡ』

「え!? 美羽の家に俺が行くって!?」

 

 拝啓皆々様方、俺がつい先程感じていた予感という予感は物の見事に的中したのでした。

 例会が終わり昼食でも一緒に食べようかと話していた矢先に美羽のスマホから着信があり、ひと通り話し終わってこっちに向き直ったかと思ったら「夜ごはんは家で食べていきなさいっておかーさんが言ってたよ」って。

 そりゃもう御両親への挨拶も兼ねて誘われてるはずなのは明白、確かに近々予定無い日あるし今日その日についての話を美羽にしたら御両親も大丈夫な日らしくそうする予定のはずだったけどそう来るのは予想外過ぎる。

 今日はこの後昼食したら後は家族水入らずでって解散する流れだったんだぞ、俺は言ってしまえばただの部外者……ああいや将来的には美羽を嫁に貰う立場な以上現時点でも完全な部外者ではないだろうしお義父さんお義母さんと言える良好な関係を築きたいとは思うけどもそこはほら、お前が空気読めって話になる訳でして。

 いくら家族に組み込まれても義理なんだから一歩引くべきなのは間違いなく俺なんだよ、俺間違った事言ってないよな?

 で、美羽に予定は話したのかって聞いたら「じゃあ今日でも変わらないでしょって言ってた」って言うし……いやまあ分かります、分かりますけど心の準備が出来てないんですってばビビりとか言われても適切な挨拶は適切な心持ちから生まれるものだから今日行ったとして美羽の将来の旦那として相応しい言動でいられる自信が無い……! 致命的、圧倒的な致命傷を負ってしまえば最悪反対されかねないぞどうすんだよこの状況……

 

「どうしたのしゅんちゃん? 顔色悪いよ?」

 

「え? あ、いや何でもないさHAHAHA……」

 

「……もしかしてキンチョーしてる?」

 

「な、な訳無いぞ!? 寧ろ今日挨拶と聞いて高まってるくらいだ! ほら見てみろ高まり過ぎて武者震いが止まらないくらいだぜ!」

 

「う、うん? そ、そうだ……ね?」

 

 よしバレてないな、多分バレてない、きっとバレてない。

 だから取り敢えず誰か助けてくれ、じゃないと俺は今日死ぬかも知れない。

 

「あん? 鍬中と鍬中んとこのガキんちょじゃん、何やってんだ?」

 

「あらあらお二人さんお昼から仲のええ事で」

 

「月夜見坂さんに供御飯さん!」

 

 渡りに船とはこの事か!

 昔馴染みの月夜見坂さんと我が女神供御飯さんが偶々通りかかったのか話し掛けて来てくれた。

 美羽もちょくちょく会ってる顔見知りだからその辺の浮気だの何だのは問題無しだし大チャンスだ。

 供御飯さんが話し掛けてくれた事に関しても大チャンスだが。

 

「こんにちは~」

 

「元気良いな美羽は。今日は何だ、コイツとデートでもしてたのか~?」

 

「うん、そうだよ?」

 

「は?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「あっ」

 

 順に月夜見坂さん、供御飯さん、美羽、俺だ。

 つかあっ、じゃねえんだわ俺は、何が渡りに船だよ二人に付き合ってるのまだ言ってねーじゃん。

 

「お前……お前は八一とは違ってロリコンじゃないとばかり……」

 

「あらあら……こないな事隠しとって鍬中はんはいけずですわ~」

 

「……スゥ、いや、そのですね……取り敢えずお話を……ね?」

 

 ああいいやこの際、もう全部話して相談してしまった方が楽だよ……

 

 

 

 

 

「……っつー訳っす。まあロリコンと言われたらそれまでですよ……まさか八一に言ってた事がそのままブーメランになるなんて……」

 

「何言ってんだよ、ただの変態だったら話の途中で全殺しにしてるから安心しろ。しかしお前にこんな小さい彼女がねえ」

 

「鍬中はんがそないな人やとは思っとらんさかい、予想の範囲内どす」

 

「あったけえ、この二人温かすぎる」

 

 結論から言えば二人はロリコン扱いはしなかった。

 どっちつかずでも無ければしっかり向き合った上で付き合ったのが評価されたらしい、実感は無いが有り難い限りだ。

 特に供御飯さんに嫌われなくて良かった……恋愛対象じゃないけど我が女神ですよ嫌われたら美羽の胸で泣いてましたよ。

 

 美羽にバレない様に今は表にはそういう感情だったりとかは出さないけど。

 

「……しゅんちゃんが他の女の事考えてる」

 

「ヒェッ……」

 

 前言撤回、女のカンやべえ。

 

「そういや鍬中、万智にご執心な時期もあったよな~?」

 

「今言わないで下さいよ!? 彼女隣にいますから!?」

 

「…………しゅんちゃん?」

 

「違うからな美羽、確かに供御飯さんは清楚で美人で可愛くて将棋を指される女神だが恋愛対象じゃない。あくまで我等関西奨励会のアイドルというだけなんだ」

 

「そうなんだ……」

 

「ね、だから信じて。彼女とアイドル、これ別物」

 

「……まあ、しゅんちゃんが言うなら」

 

「ほっ……」

 

「も~鍬中はんったら、私昔から言うてますやろ? 私はそない大層なもんやありまへんって」

 

「いいえそこだけは譲れません、我が女神は我が女神です故」

 

「はぁ……ったく鍬中は……お前も大変だな、美羽」

 

「……もう、ばか」

 

 この後十分くらい盛り上がった。

 

 

 

 

 

「いや……ほんとに悪かった」

 

 解散して昼食したり何やりとして家路、つまり美羽の家に行く途中。

 流石にテンションが上がり過ぎたと反省している。

 

「いーよ、もう……私を一番に見てくれてるんでしょ?」

 

「それは当たり前だろ、例え供御飯さんに言い寄られようが美羽一筋に決まってるし、これまでもこれからも、恋愛感情やそういう愛情持てるのは美羽しかいないよ」

 

 許してくれた様で何よりだ。

 美羽の懐の深さには頭が上がらないったらありゃしない。

 こりゃ将来は尻に引かれるかも……なんて。

 

「~~ッも、もうっそういう事サラっと言うんだからずるいよしゅんちゃんは……」

 

「はぇ? 俺何か言った?」

 

 ところで俺何言ったのか知らないんだけど何この状況

 美羽が顔真っ赤にしちゃってるんだけど……可愛いなオイ、流石美羽だ。

 

 それ言ったら何故か溜め息吐かれた、美羽が可愛いのは事実なのに……解せぬ。

 

 

 

 

 

「おとーさん、おかーさん、ただいまー」

 

「ア、アノ、オジャマシマス……」

 

「おお、おかえり美羽、そしていらっしゃいませ鍬中先生。どうぞゆっくりして行って下さい」

 

「美羽、鍬中先生を案内してあげて」

 

「は~い、それじゃしゅんちゃん、こっちが……」

 

 オイ初手から失敗してないかこれ大丈夫か。

 美羽の父親の慎吾さんも母親の美穂さんも優しく迎え入れて下さったけど今から始まるのって間違いなく『ご挨拶』ってやつなんだよね……い、胃痛がしてきた……市販の胃薬飲んできたのに……俺生きて帰れるかな……

 

 

「おやおや鍬中先生、そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ」

 

「ア、イヤ、ハイ、ソノ、申し訳ないです……」

 

「ははは、妻がいつも美羽がする先生の自慢話が非常にお気に入りでしてね、それなら早くお会いしたいとせっかちをしてしまっただけです。以前もお話した通り私達二人は先生を美羽の伴侶として相応しい人物だと思って招いているのでご安心を」

 

「……その節は本当にありがとうございました」

 

 美穂さん……美羽の積極性はお母さん譲りだったか……

 

 そして改めて「私達二人は先生を美羽の伴侶として認めている」という言葉の重み。

 それ自体は電話越しに聞いていたが目の前にいて言われると実感が違う。

 確かに認められている事実は事前に知っていたし聞いていたんだからもう少しガチガチにならずにいても良いのかも知れないけど……だ、だって前来たの美羽とまだ普通の師弟関係だった時の話だぞ、いくら親切にしてくれていたと言っても大切な娘に手を出した輩と認識されれば師弟関係すら破棄され二度と会えない可能性だってあるんだから仕方ないと思うんだ。

 

 ビビり? もう何とでも言ってくれ……

 

「慎吾さん、先生を連れてきて。美羽も、ご飯出来たからいらっしゃい」

 

「分かったよ。では先生こちらへ……」

 

「は、はい」

 

 うっ、どうやら食卓の準備が整ったらしい。

 こうなったら腹を括るしか無いか……美羽の前で恥は晒せないもんなあ。

 

「……それじゃあ改めて。美羽、お誕生日おめでとう」

 

「おめでとう、もう11歳になるのねえ、早いわねえ」

 

「ありがとう! これねこれね、しゅんちゃんがお誕生日にってくれたんだよ!」

 

「あら~それ美羽が前から欲しがってたのじゃない?」

 

「やりますなあ先生」

 

「あ、ありがとうございます。ですがそれは慎吾さんのアドバイスあってこそなので……」

 

「いやいや、私は美羽が好きな物を挙げただけですよ。イチゴが好きとか、クマが好きだとか。だからこれは先生のセンスですよ。やはり美羽の事を良く見てらっしゃる」

 

「そ、そうですか?」

 

「そうだよ、しゅんちゃん!」

 

 あ、何だろすっごい優しいそこはかとなく優しいなここの家族。

 ……なんというか。最初美羽を見た時から俺とは良い意味で正反対の、良い環境と良い両親に育てられたんだろうなとは思ってたけど改めて実感してるよ。

 多分俺がこうして押されてるのも、俺がそういう環境にいなかったからだろうな。

 

 ワイワイと、俺という異物を加えながらではあるものの家族での誕生日パーティーをし、ひと段落付いたかなとタイミングを見て一つ深呼吸をし緊張をほぐす。

 三人も察したのかジッと俺を見つめてくる。

 こんなに優しいから緊張してしまい、優しいから緊張がほぐれるなんていう矛盾に触れながらもきっとこの人達となら仲良くやれるだろうと感じつつ口を開いた。

 

「……今日、僕がこうして美羽さんの家に来たのは師弟関係や将棋の話をする為ではありません」

 

 美羽が少しだけ心配そうに見上げてくる。

 やっぱり昼の事バレてたのか、なんて内心苦笑いしながらもそっとテーブルの下の美羽の手を握る。

 一瞬美羽がビクッとするがすぐに握り返して、微笑む。

 

 その姿を見たら俺に怖いものなんて無い。

 

「以前からお話している通り、そして美羽さんからお話を聞いている通り、僕と美羽さんは恋人同士です。お互い将棋を通じて人となりを見て、人として、異性として惹かれて行き付き合う事になりました」

 

「……気持ちの確認はしたのかね?」

 

「はい。……知っているかと思いますが、一度僕が本当に師匠である事が正解なのかと悩み、美羽さんを突き放してしまった時、それでも僕の対局場にわざわざ足を運んでくれ、好きだと、そう言ってくれました。そして僕も、突き放してしまった後、美羽がいない事がどれだけ辛くて苦しいか、どれほど支えられて、惹かれていたのかを感じました」

 

「そう、だったんですね……」 

 

「……この交際は決して軽い気持ちでしたものではありません。確かにまだ彼女は幼く、僕も年齢としても今年二十歳を迎えるだけの若輩者であり仕事、将棋もまだまだ未熟な身。ですがどれだけの困難があっても僕は美羽を支えていきます。僕の未熟な将棋を後押しして、人生を変え、支えてくれた美羽に今度は僕が生涯支え続けたいと決めました。」

 

「……っ」

 

 顔を真っ赤にして俯かせる美羽をチラッと見て、微笑む。

 もう大丈夫だ。

 

「だから。慎吾さん、美穂さん……娘さんを、美羽を、僕にくださいッ!!」

 

 拝啓二人の親友へ。

 俺は言い切ったぞ……

 

「……だって、美羽。良かったじゃない! も~想像以上に良い男じゃない!」

 

「ふふっ。私達は前から言っている通り、鍬中先生……いや、駿くん。君を美羽の生涯の伴侶として認めているよ。だろ、美穂」

 

「勿論よ! 駿さん、美羽をよろしくお願いしますね」

 

 薄々こうなるとは思ってたけどやっぱりあっさりしてんなあ!?

 どれだけ信頼されてるんだよ俺は……

 

 でも、やっぱり。正式に認められたって思うとめちゃくちゃ嬉しいんだな。

 

 ホッとした息を整え、再び背筋を伸ばす。

 

 

「一生を懸けて幸せにします! こちらこそよろしくお願いします、お義父さん、お義母さん!」

 

 拝啓、親父へ。

 

 今日、家族が増えました。

 

 

 

 

 

 因みに美羽はしばらく俯いたままだった。

 後から聞いた話「しゅんちゃんがカッコよすぎて直視出来なかった」らしい。

 

 なんだこの子天使か?




実質初登場供御飯さんと正真正銘初登場の月夜見坂さん
まさか原作でもそこそこの立場の二人がこんな終盤まで出せないとは…
そして明かされた主人公の残念部分であった

☆月夜見坂、供御飯と鍬中の関係性

・簡単に言ったら研修会の同期、小学生名人戦は地方予選敗退だった為八一、歩夢に比べ若干出会いは遅かった
 鍬中自称軽い昔馴染みという認識ではあるが自覚以上に仲は良好
 
鍬中→月夜見坂
・ヤンキー美人だが世話焼きで人が良い人、又は羽生善治との闇のゲームに負け魂を吸い取られた広瀬章人元王位の擬人化

月夜見坂→鍬中
・三馬鹿(八一、歩夢、駿)の一人
 昔は万智に気がある男だと思って邪険にしていたが万智のファンクラブが出来た辺りから考えるのを辞め良好な関係になった


鍬中→供御飯
・ドS京美人又は(話を意図的に曲解する以外は)敏腕記者、実は前世の最推しだったが恋愛対象として見るには神々し過ぎた……らしい
 軽い昔馴染みという割には信仰心は重たい
 因みに記者モードは別人認識である

供御飯→鍬中
・自分を慕ってくれる面白い友達
 実は鍬中がアマチュア時代に設立した供御飯ファンクラブのお陰で女流棋士に付くスポンサーの規模自体が巨大化している事に唯一気がついているので恩を密かに感じていたりする
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