冴えない棋士は弟子を貰う様です 作:C.C.サバシア
過去の伏線とか何とか回収出来たと思う
『時間となりました。それでは始めてください』
「宜しくお願いします……負けねえからな、親父」
「宜しくお願いします……僕だって負けないよ、息子なら尚更ね」
盤王戦敗者復活戦、それはベスト4で残った内負けた三人が決勝戦に行く切符を争う戦い。
ここで負ければ文字通り盤王戦完全敗退、でも本来決勝の切符を掴めない二人にもチャンスがある。
(……たとえ駿相手でも負ける訳にはいかない。やっとタイトルを掴んだとは言え僕に残された時間はそう多くは無い……だとしたら、今が全盛期だとするなら、駿と全力で戦えるのは今しか無いかも知れない。)
(約束を果たす時が来たかもね、駿……君相手でも……いや、息子相手だからこそ譲れないものがあるんだよ……君自身と約束しちゃった事だから、ね……)
-九年前-
「僕が孤児院に将棋を教えに?」
「ええ、堅苦しくなく実力のある若い棋士と言えば貴方がピンポイントで一番当てはまると思いましてね、山刀伐七段……いえ、新八段と言うのが適切でしょうか」
「うーん、確かに僕は取っ付きやすいと思うけどまさか月光さん自らオファーを出してくるなんて思わなくてちょっとビックリかも☆」
「今回行くのは大阪なもので。スケジュール的に見ても山刀伐八段は順位戦もB級1組を優勝で終わって一旦落ち着いたと思ったので声を掛けた次第です」
「成程ねえ~、タマタマにも偶には休んで羽を伸ばしてこいって言われてるし大阪観光次いでに行かせてもらおうかな☆」
九年前、順位戦も終わり初のA級昇格を決めた僕はやっと落ち着いたスケジュールに月光さんから受けたオファーとして孤児院への将棋指導……という名の半分大阪観光の仕事を受けた。
そこまで大きな仕事と言う程でも無く、孤児院も小学生程度の年齢の子が殆どだから教える時間も計二時間程と少なかったからね。
そんな訳だから初心者用指導の脳みそに切り替えながら軽い気持ちで教えに行ったんだ。
まさかそこで運命の出会いをするなんて思わずに、ね……
「……僕からの指導は以上になるかな☆みんな将棋は楽しかったかな~?」
『はーーい!』
「うーん良い返事だね☆それじゃあもう時間になっちゃったしこれからも楽しんでね☆バイバイ☆」
将棋指導は
不意に、声を掛けられた。
「俺をアンタの養子にしてくれ!」
「あ、駿くんダメだよ先生はもう帰るんだから……」
「おや、君は……」
突然の言葉に驚いたが、顔を見て更に驚いた。
その子は、授業中一番熱心に僕の言葉に耳を傾けてくれていた男の子だった。
その子が、必死の形相で、土下座しながら、叫んでいた。
だからこそ、無碍にすると言う考えは尚更浮かばなかった。
「……君は、なんで僕の養子になりたいんだい?」
「先生……」
「良いんですよ、ここまで必死だと何か理由があるんじゃないですか?」
「……駿くんは両親に捨てられたんです。それで、捨てられる前にお友達とずっと将棋をしていたから、恐らく……唯一の繋がりが将棋だったんじゃないでしょうか」
「……俺は……また、八一や歩夢と将棋をしたいんだ……だから、先生の弟子になって、養子になって、またアイツらと将棋を指したいんだ……! ここでも、お世話になったのは充分理解してるし先生に感謝もしてるけど……でも俺は……」
凡そまだ小学生とは思えない境遇、そして言葉。
隣にいる保母さんを思いやりながらも自分のしたい事を口にするそれは、僕の心に刺さるには充分過ぎる熱意だった。
「分かったよ」
「え……」
「じゃあ対局しよう! それで君の実力、想い、熱意をぶつけてもらえるかな? あ、別に僕に勝てって話じゃなくて君の将棋を見たいんだ、それで弟子にしたいかどうか見極めたいんだけど……良いかな?」
「あ、ありがとう先生!! 全力で指すよ!!」
「……と言う訳なんで少しこの子……」
「俺、鍬中駿って言うんだ! だから駿って呼んでくれよな!」
「駿君、お借りしますね? 勿論帰りは送って来ますから」
「は、はいっ! お、お気を付けて……」
これが僕と駿の出会いだった。
そして僕は、近くの道場で一瞬で駿の将棋に惚れた。
「……勝つ為ならどんな戦法でも使う、それでいて基本もあり勝ちたいと言う信念の一本筋があるね」
「……俺の親友、二人いるんだけどさ。めちゃくちゃ強いんだ。一人は子供名人戦全国大会でベスト4、もう一人は全国大会優勝。俺なんて県予選敗退だから才能無くて、届かないくらい強くてさ」
「でも、アイツらはそんな俺を親友と呼んでくれた。一緒にバカやってくれた。親にも心を許せなかった俺が、唯一許せるのが、親友だったんだ。だから、何がなんでも二人のいる道に俺は食らいつく。その為に、帰りたいんだ……先生、ワガママに付き合ってくれてありがとう。そしてごめん」
駿はその時から奇襲戦法や嵌め手を多用していた。
小学生とは思えない狡猾さ、それでいて粘り強さ、負けん気、何より『勝ちたい』そう心に響いてくる一本筋な指し方。
才能が無いと言いつつ這い上がろうとするその姿が、いつかの僕と重なった。
「いいや、駿君は良いものを見せてくれた。だから一日時間をくれないかい? 明日、答えを持ってくるよ」
そして僕の答えは、既に決まっていた。
「君の素直で貪欲な将棋、気に入ったよ!」
その一言で、鍬中駿は僕の養子兼弟子第一号となった。
「さて……僕も覚悟を決めなきゃね」
そして数日後、件の親友達と号泣しながら抱き合い再会を喜ぶ駿を尻目に僕は子育てをしなければならないという覚悟を決めていた。
勿論事前に覚悟はしていた、それでも想像以上の難しさがあるはずだ。
タマタマの事も我が子の様に見てきたけど、あの子は将棋以外はどうにも世話の掛からない子だったし……
「そうなると善は急げ、だね」
「……まあ、その、そう言う訳で亮二の育児知識を聞いておきたくてね☆」
「いやはやまさか。尽の口から子育ての事を聞きたいと聞いた時はいつの間にと思ったけどそんな事があったとはね」
「良いガッツしてるじゃねえかそいつ、いつかプロになった時は対局してみてえな」
「私としては存外堅実な君がそう言う大胆な事をするとは思いませんでしたよ」
「……珍しいな」
対局帰り、駿は僕の師匠に預けて同期と相談を兼ねた飲みに出掛けていた。
本当はあまり好ましくないんだろうけど、こうでもしないと僕が親としての知識を得られる機会なんてそうは無いだろうし苦肉の策だったと今更ながらに思ってしまう。
来てくれたのは仲でも親交のある宮越亮二、生石充、上條昴、峯澤驒。
中でも亮二は一番早く結婚して育児熱心でもあったから是非とも聞いておきたかったんだよね。
「事情は分かったよ。それくらいの年齢の子なら僕や充の子が同じ小学生だから分かりやすいと思うけど、兎に角付かず離れずで見守ってあげる事が大切だと思うよ」
「そうだな……話を聞く限り特に我も強いがその分自分が何をしてるかも分かってるみてえだからな。傍で気楽に一緒に過ごす程度で悪くねえんじゃねえか?」
「なるほど……確かに駿は年齢に寄らず達観してるところがあるからね」
「未婚者の私と彈では役立てる事は少ないと思いますが教育方針で迷ったら教師免許を持つ私をいつでも頼ってくださいよ」
「俺は……まあ、尽が弟子持つまでは唯一弟子持ってたから、そういう事なら聞くと良い……」
「昴、彈も……やっぱり僕の同期は心強いね☆」
僕のプロデビューは他の同世代と比べても遅く、24歳と相当高齢な方で理解を得られなかった親戚からは才能が無いとか良く言われたっけ。
それでも充、亮二、昴、彈や同年代はずっと待っててくれて、だからプロになったなら絶対追い付きたくて。
必死に必死に追い掛けて31歳、七年でA級と八段昇段を勝ち取れた。
そんな僕の姿と、歩夢君や八一君を追い掛ける駿の姿は、どうしても重なってしまっていたんだ。
「……師匠」
「なんだい、駿」
そしてそれから一年、A級から落ち掛けた僕は駿に激励を受け、最終戦でギリギリ残留を決めた。
そんな日に、駿は神妙な顔付きで僕に話し掛けてきた。
「俺がプロになったら、絶対師匠と対局したいんです。だから、その日まで約束を覚えていてもらえませんか?」
「……良いよ。我が息子の頼みだもん、駿がプロになる頃には40歳くらいだろうけど絶対A級守って、強い僕として立ちはだかってみせるさ。その時は一人の倒すべきライバルとして真剣勝負しよう」
「……! 勿論です! 俺、絶対負けないから! 待っててくれよ!」
それは、今日の日まで忘れる事の無かった約束。
初めて駿が、僕の息子になってから言ったワガママ。
何年掛かるかも分からない、途方も無い時間を要する約束。
でも僕は、忘れる事は無かった。
息子との、駿との、生まれて初めての約束だったから。
ずっと息子として見てきた大切な存在、慕ってくれる存在、僕がどうしても強くありたかった理由だから。
(僕がタイトルを何としてでも取りたかったのも、いつまでも全盛期で居たかったのも、全部駿のお陰なんだよ……駿自身、覚えているかは分からないけど――)
「……忘れる訳、無いだろ」
「……! ……そうだね、あんなに熱望してた駿が忘れるはず無いか」
「でもな親父」
「……なんだい」
「俺は、師匠と、親父と戦う以上に、世界一尊敬する棋士としての、『山刀伐尽』を超える一人の大人になりたいと思ってるんだ……12月には、20歳だしな」
「ふふっ……親からしたら、いくつになっても子どもは子どもなんだよ。だから……その気持ちを受け止めて尚且つ、僕が跳ね返すよ。まだまだ子どもには、憧れの背中を見せたいんだ」
(大きく、なったんだね……駿)
いつの間にか小さい子どもだとばかり思っていた子が、自分を超えたいと、大きな背中を伸ばして僕に立ち向かってくる。
それがどうして、そこはかとなく嬉しくて。
そこはかとなく勝ちたいと切望してしまって。
終わりが近いのなんて分かっているのに、いつまでもいつまでもこの時間が続けば良いのに、そう思ってしまう自分がいた。
(そして……)
(強く……なったね……)
正直ジンジンとたまたまが恋仲になるとは思ってなかった…!
自分の執筆スタイルとして基本的に原作CPを崩す事は無いんですが今作は申し訳ないけどこのままいきます!今更今作のカップリングを引き離すのもアレなんで…!
と言うか原作通りくっ付いたら駿(19)の義母がたまたま(21)と言う事態になっちゃうしまあ多少はね?※双方2018年秋時点の年齢
さてジンジンのカップリングこうなると誰もいねえんだよなあ…
※上條昴、峯澤驒…21話前書きで言及されていた生石世代四天王の生石、宮越以外の残り二名