冴えない棋士は弟子を貰う様です 作:C.C.サバシア
タイトル回収はこの回しか有り得なかった
以下前話補足
八一「あれ、あいに天に……JS研のみんな?」
これに付いてですが、意図的に八一→天衣の呼称を変えています
理由としてはあいちゃんとの明確な呼称分け、原作より距離感が近くなっている、とだけ明記しておきます
というか八一の恋路にもそろそろ切り込んでいきたいところ
「ししょー?」
「あ、せんせー!!」
「あれ、あいに天に……JS研のみんな?」
「は? え? ……なるほど」
「ほう、勢揃いだな八一の弟子達よ」
八一と歩夢と談笑して弟子の事とか相談してちょっと色々モヤってたら全く予想してなかったその一行が現れました。やべえよ今顔合わせらんないでしょ。
というかこんな古い店に小学生一行で来んのかよ。
「まさかこんなところで会うなんてね、せんせえ……運が良いんだか悪いんだか……」
「ん? どうした天?」
「何でも無いわよ……ちょっとそっちのお座敷行っても良い?」
「別に良いぞ~」
因みにここは何故か将棋に理解が深く、店も空いてるからと俺達三人は座敷スペースにいた。
多分いつでも将棋が指せる様にという事だろう。
いやそれは良いんだ。
んでJS研一行が座敷に来るのも席の圧縮になるから良いんだ。
ただ一点弟子の顔が見れない。
「ししょーししょー、隣良いですか?」
「ん、ああ良いぞ~」
「わ、私も仕方なく隣に座ってあげるわ!」
「天も相変わらずだな~ははは」
「ちちょ、しゃうちちょのまえ」
「お、そっかそっかシャルちゃんは膝に座りたいのか~良いよ~」
「私達もすわろっか」
「そだねー」
何も言わずそっと八一の対面に座り直す俺と歩夢の図。
チラッと見直すと気付けば八一サイドには大量の小学生、左右直近はダブルあい、膝元にはシャルちゃん……どんだけ小学生侍らしてるんだこの十七歳、原作より仲良くさせた張本人が言うのもアレだし多分今そういうテンションじゃないけどやっぱりお前ロリコンの素質しかねえよ。
……ってあれ? そういや仮とは言えウチの弟子の姿が見当たらな……
「せーんせっ、となり座っちゃいますね~」
「のわっ、お、おう……」
いつの間にか隣にいるし! 超ニコニコしてるし! 眩しい! かわいいけど俺には眩し過ぎる!
「しっかし一気に賑やかになったなあ」
「主にアンタの周りの事だぞ八一くぅん」
「た、頼むからその呼び方だけは止めてくれ……」
「おお! 本当にマントあるんだ!」
「マントと俺は一心同体だ……」
あーほんと賑やか。
この中で合わせて五人もプロ棋士と女流プロいるとか初見で分かる奴いないだろうなあ。
「せんせーせんせー! わたしね、今日みんなと近所の道場いったらね、いつも勝てなかった人に今日は勝てたんですよ! せんせーのおかげなんです! せんせーの教えてくれたので勝てたんですよ!」
「マジか! つ、強いなあ美羽さんは……す、凄いぞ~」
ああ隣からやべー事が聞こえてくる。
すげえよ確かに凄いしめちゃくちゃ褒めたいけどそれどころじゃない……改めて俺の手に余るんじゃないかって思えてきて……早く著名な棋士に相談して……
「くわなか」
「うわっ、ビックリした……てんちゃんか」
思考を遮る様に天衣ちゃんに声を掛けられる。
呼称に関しては八一の友人という事でフレンドリーに行こうと言った末路である、笑え、笑えよ……
しかし何用だろうか、目付きが怖い。
「美羽ね……アンタの為に勝ちたいって、無理しても良いとこ見せたいって、勝ってきたのよ。はい棋譜」
「……」
「せんせー……見て、もらえませんか?」
無理しても勝ちたいって……何でだよ。
だって俺と会ってまだ数日だってのに。
何の思い入れも無いだろ、だって雑魚だぞ。
プロ棋士になってまだちょっとで、才能も無いのに。
「わ、分かった」
何なんだよ……そんな心配そうな目で見られても見て率直な感想言って終わりくらいなんだけど、多分。
「初手が美羽さんで6八銀……相手が3四歩で三手目5六歩……新雁木じゃない?」
数日指して一度もこの子から見た事が無い手筋だった、そして数日で覚えさせた新雁木でも無かった。
非常に既視感のある違和感が喉元を通り過ぎる。
まさかと首を振りつつも続きを見ざるを得なかった。
「8四歩、5七銀……」
違和感は棋譜を見る内、息が震え出す。
最初の数手、これは間違いなく俺が得意とする戦法『新嬉野流』だ。
アマチュア内では有名なアマチュア発のこの奇襲と決まったその後の型が無い『力戦型』とされる流派、正攻法ではどうにもならないと感じた俺が導き出した『奇襲をメインに据えた指し方』で何とか他に食らいついてきた。
いや、待て。
ここまでならまだ誰かに仕込まれた可能性もなきしもあらず、落ち着け、プロ棋士が乱されてどうする。
「…………あ」
「分かったかしら。美羽がどうして勝ちたいって言ってたか、会って数日であるあなたにここまでこだわるか」
「米倉流、急戦矢倉……」
俺が最も頼りにしてきた、新嬉野流の変化型。
一番の武器、二回目の降段リーチも、三段リーグでフリークラス編入を決める試合になった、12勝目を挙げたシーズン最終戦も、これで乗り切ったんだった。
いつも挫けそうになった時、これで乗り切ってきた。
それを、この子が、弟子が、指した。
「せんせ、わたし、わたしね、せんせーにちょっとだけウソついてたの」
少し眉を下げた美羽ちゃんがそう言う。
俺の服の襟を掴みながら見上げるその瞳には、涙がうかんでいた。
「え……」
「……ほんとは、プロってだけであこがれなんじゃなくて、将棋はじめてちょっとしたときに三段リーグの、せんせーの、あの棋譜に、あの最終戦の。……だから、わたし、せんせーのでしになりたくて、その……せんせーじゃないと……いやなの……だからすてないで……」
大馬鹿者だ。
俺は大馬鹿者だ。
俺が雑魚だから何だよ。
俺がプロで全く勝てないから何だよ。
フリークラス編入だからって何だよ。
全くもってこの子の『竹内美羽』という子の気持ちを考えていなかったッ……
どうせプロなんて肩書きに憧れただけだろうと高を括っていた。
現実を知れば勝手に失望すると思っていた。
だが美羽ちゃんはどうだ。
まだプロにすらなっていなかった時の棋譜を見て憧れてくれた。
強くなろうとしてくれた。
それで俺の元に来てくれた。
なのに俺は……俺はッ……あろう事かそんな憧れてくれた小さい女の子に『すてないで』と言わせてしまった……こんな馬鹿な事あるかよッ……
俺は気付けば棋譜を手に持ったまま、膝立ちになって、泣いている美羽ちゃんを撫でていた。
「ごめん……ごめんな……俺馬鹿だったよ……自分の事ばっかで、美羽の事何も……」
「せんせ、わたしの事、もらってくれますか……? 弟子にしてくれますか?」
縋る様な声、震える手。
ああ、もう。
何度小学生に先手取られたら気が済むんだ、俺は。
そんなの、決まりきってるだろうが。
「はぁ……そこまで言われたら俺も負けてばっかりもいられないか」
「……せんせ?」
「これまでの数日間も一応そうだったけど、今日改めて宣言します。竹内美羽ちゃん、貴方を俺の正式な弟子にします!」
この子を泣かせてしまったんだ、弱いままじゃ更に格好が付かないじゃないか。
美羽ちゃんはバッと俯いてた顔を上げる。
整った綺麗な、かわいい顔に涙で紅潮した頬と濡れた瞳。
一瞬ドキッとしてしまう様なその顔に、花が咲いた。
「ありがとせんせー……わたしもっと強くなるね。きっとせんせーがほこれるすっごく強い棋士になるからね」
「じゃあ俺も指導頑張んねえとな。一緒に強くなっていこうな」
この子が強くなる分、俺も頑張って強くなって、絶対C級に上がって見せよう。
美羽ちゃんが一人前になって、人間として一人立ち出来る様になるその日まで、せめてそれまでちゃんとプロでいられる様に。
一日でも長く、いられる様に。
二人で歩んでいこう。
「めでたしめでたし……かな。ありがとう天」
「わたしは何もしてないわよ」
「ったく。ほらこっち来い、撫でてやるから」
それはそれとしてだ。
「えー九頭竜八一くん」
「駿、良かったな」
「良かったけどもハッピーエンドじゃねえよなあ!? 今回の件仕組んだよなあ八一ィ!」
「ギクッ」
「そりゃそうだよなあ! さっき俺が話した相談事が美羽に爆速で伝わってるのは間接的に連絡が取れるお前だけだもんなあ!」
全く全くコイツは……通りでおかしいと思ったんだ。
小学生だけでこの店のセレクトと言い八一の不自然な対応の速さと言い……
「わ、悪かったよ。でもほら、駿には竜王防衛の時助けてもらったからその恩返しっていうか……」
「ま、何にせよ駿とそこの娘に確かな絆が芽生えたのは八一の功績の賜物だろうな」
それを言われると弱いんだよ歩夢……あと八一、俺あの時何も言ってないと思うんだけど。
……やれやれ。
「ありがとな、八一。今回の文句は今回の件でチャラにしてやる」
「……おう!」
賑やかな日も悪くないかな、と少しだけ空いていた美羽との距離をそっと詰める。
「せーんせっ」
そして少しだけロリコンの気持ちが分かった気がした。
「ししょー、あーんっ」
「あーん」
「せんせえ、こっち向きなさい。……ほら、食べて」
「あ、あーん」
「ちちょ、ちちょ」
「あ~ん」
だが八一、それはやり過ぎだぁ……
なんか最終回っぽくなったけどまだ続くからね?
タイトル回収回だから上手く書けてると嬉しいなって
新嬉野流と米倉流急戦矢倉に関しては自作の設定資料内には一話書き終わり時点で記載していたので出せて良かった
主人公の弱いからこその試行錯誤の末に辿り着いたものとして見てくれたら幸いです