冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

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こ れ が 書 き た か っ た だ け と 言 わ れ た ら 否 定 は し な い


第六話『過去話・八一の守るべき物』

 俺の名前は九頭竜八一、十七歳にして竜王二期目を手に、防衛し、史上最年少で九段になった。

 まだまだ実感は湧かないが、将棋界に、俺の大切な人達に恥じない様にこの竜王を守って、そして何れ他のタイトルも獲る。

 

 と、まあ言うだけなら簡単な話だがそもそも竜王二期目を獲る、初の防衛戦となった相手はあの名人。

 一筋縄で行かないどころか、あっという間に追い詰められ三連敗で失冠リーチ、ここから四連勝しないといけないところまで来てしまっていた。

 

 

 勿論だが今現在俺のタイトル獲得数は2、防衛戦が終わった後だ。

 だがあの時は本当に、死んででもこの竜王を手放してなるものかと追い込まれていた。

 俺は、他の全てを蔑ろにしてまで勉強していたんだ。

 

 全ては勝つ為

 

 全ては守る為

 

 ……だから、周りが見えなかったのかもしれない。

 

 そんな時でも、俺の親友は手を差し伸べてくれたんだったな――

 

 

 

 

 

「強くなるしかない……一人でやるしか無いんだ……!!」

 

 竜王戦第四局を控えた去年の秋。

 三連敗でここから四連勝以外では防衛不可能という状況に俺の精神は参っていた。

 しかも相手は平成最強の勝負師と今尚語られ、代名詞の名人に加え現在他三タイトルを保持しているあの人。

 一人部屋に籠って、寝る間すら惜しみ何とか打開策を考えていた。

 

「勝つ為に必要な物以外は捨てる!! じゃないとあの人には……」

 

 ……勝つ事こそが全て。

 

 勝負師たる者誰しもがそう思う。

 それに強迫観念を抱いていたのか、当時の俺は『勝たないといけない』それだけに押し潰されそうになっていた。

 これがまだ挑戦者側なら少しは冷静になれていたんだろうが、このままだと間違いなくあいや姉弟子に当たり散らしていただろう。

 

 そんな時だった。

 

「……メール?」

 

 スマホが揺れる。

 無造作に机に放置されたスマホからメールを受信したとバイブが伝える。

 

『見たところで何が変わるんだ』

 

 一度そう思った。

 だが何故か開かないといけない気がした。

 残っていた僅かな理性がそうさせたんだろうと、今なら推測出来るんだが。

 

「駿……?」

 

 そのメールは駿からだった。

 小さい頃から親友で将棋仲間でライバル、そんな友人からこのタイミングでメールが来た。

 アイツが今竜王戦をやっている現状は重々承知してただろうし、何の嫌がらせかと不快になりながらも見てみた。

 

 

『よう、八一。多分勉強中だと思うがこれは息抜きついでに見てくれ。』

 

『まず、これは当たり前な話だが同時にお節介になると分かっていてもお前が勝つ為に必要な事を書き記しておくからちゃんと読む様に』

 

『取り敢えず飯は食ったか? あ、カップ麺とかダメだかんな、栄養価高いもん食えよ。んで睡眠取ったか? 八一は焦り出すとすぐその辺を削りたがるから気を付けろよ。強い棋士は身体こそ資本だ』

 

「……分かってるっての」

 

 お前は俺の母親かよ、なんて悪態を付きながら見るが確かに当たり前ながらも今俺が無理に削っている事だった。

 思えばカップ麺すら食べてなくて空腹で吐きそうだし、頭もフラフラする。

 言われなきゃ気付かない程に、俺は無理をしていたのか……これじゃあ本番倒れて時間切れ負けで台無し、なんて最悪の事態すらあったかもしれない。

 

 当時はこんな事を思ってたっけか。

 駿は昔から身体のケアは完璧だったし、そこが僅かなチャンスを掴み続けられた要因かもしれないと自分でも語ってたっけ。

 

 しかし重要な事はここからだったんだよな。

 

 

『あとお前、追い詰められると周りに当たり散らす事昔良くあったからそこ一番注意しろよ。今は治ってるけど昔の癖って肝心なとこで抜けてないから。

イライラしてても周りの言葉はしっかり受け止めとけ。将棋は一人じゃ指せない、あいちゃん辺りが指導求めてきたら真摯に対局してやれ。んで一番近くにいた八一が一番知ってるだろうが、銀子ちゃんは口下手だから今何かキツい事言われても真意を探れ。八一なら出来るはずだ。周りを信じてみろ。……竜王と同じくらい、お前には守りたいもんがあるはずだろ?』

 

 

 ハッとしてしまった。

 自分が、思っていた何倍もイライラしていた事を自覚した瞬間だった。

 このままあいと話したら、きっと俺はあいを傷付けてしまった。

 邪魔だからと突き放して、取り返しの付かない事をしてしまっていたかもしれない。

 

 そして姉弟子もきっと傷付けていた。

 

 ……竜王より守りたいもの。

 

 

 側にあって、だから偶に見えなくなる事もあるけど。

 俺はその『大切なもの』と竜王を共に守らなくちゃいけないんじゃないのか。

 

 涙が零れる。

 それと同時に脳裏に大切な人が浮かんでくる。

  

 

 そして最後に浮かんだのは――

 

 

 だとしたら、俺のやる事は――

 

 

 

 ほんと凄い奴だよ、駿は。

 このメール一つですっかり毒気抜かれちまったんだよな。

 そしてこのすぐ後、ビックリするくらいタイミング良く二人が来たんだっけ。

 

 

「し、ししょー……」

 

「来てやったわよ。そこのがビクビクしてたから一緒に」

  

 この時は本当に驚いた。

 まるで駿が予言していたかの様に読み終わった直後に来たんだ。

 あいも、姉弟子も俺が相当追い込んでいるのを知っていたかの様な様子に、更に嬉しいと同時にさっきまでなら追い返していたな、と申し訳なく思ってしまう。

 

「あ、あのししょー……い、いそがしいとは思うんですけど、その……」

 

「…………将棋、指すか? と言いたいんだけどどうにも腹減っちゃって、ははは……」

 

「い、いいんですか……? おこってないですか……?」

 

 恐る恐る聞いてきたあいと目が合った時、この竜王戦絶対に負けられないと改めて思った。

 

「……俺も、誰かを頼らなきゃって。ようやく思えたんだ。ありがとな、あい」

 

「心配して見に来たけど、杞憂だったみたいね」

 

 そっぽ向きながらも安堵してるのが分かるくらい顔が綻ぶ姉弟子に、今までどれだけ心配を掛けてきたか改めて思い知った。

 

「……二人とも、ごめんな。迷惑掛けて……」

 

 収まったはずの涙が込み上げてくる。

 第三局が終わってから、まともに話した事あったっけか?

 ロクな連絡も取らず、きっと今日まであいにも、姉弟子にも、天達にも寂しい思いをさせてしまったんじゃないか?

 

 そう思ったら、俺は自然と二人を抱き寄せていた。

 

「みんな心配してくれてたのに……俺は……自分の事しか頭に無くて……突っぱねて……ごめん、ごめん、二人とも……」

 

 溢れ出す言葉と涙。

 きっと俺は無自覚だったんだろうけど、竜王としてあろうと思い過ぎてしまったんだ。

 振り返れば十七歳の子どもが、将棋界最高のタイトルを手にした重圧に押し潰されない訳が無かった。

 

 俺はあの時『竜王』ではなく『十七歳』として、一人の人間として二人に謝り、抱きしめていたんだと思う。

 

「ばか……私は腑抜けた根性叩き直しに来ただけなんだから……だ、だから泣くんじゃないわよ……」

 

「ししょー!ししょー!さみしかったです!もう一生会えないんじゃっておもってこわかったです!」

 

 だから誓ったんだ。

 もう泣かせないって。

 

 

 

 

 

「じゃ、私帰るけど。くれぐれも無茶すんじゃないわよ」

 

「分かってますよ、姉弟子。ありがとうございます。無茶はしませんが防衛もちゃんとします」

 

「……次はかっこいいとこ見せなさいよ」

 

 暫く経ち、姉弟子は先に帰って行った。

 最後に言われた言葉はしっかりと胸に刻んだ。

 

 

「ししょー……」

 

「ん、どうした?」

 

 そんな姉弟子が帰るのを見計らってか否か、あいが声を掛けてきた。

 

 あいの手作り弁当を食べ、リラックスして指導もしていたがその時から少し何か言いたげにしていたのを良く覚えている。

 

 そわそわしてたし良い事なのかとは察していたけど何故かあの時の俺は非常に鈍感だった、我ながら察してやれなかったのは不甲斐なかった。

 

「ししょー、わたしね、一昨日C1に上がったんですよ……?」

 

「あい……」

 

 ギュッと、震える手で優しく抱き着いてくるあい。

 それは念願のプロ入りを伝える報告で、本当は上がった瞬間にでも伝えたかったんだろうと分かるくらい、声も震えていた。

 

「ししょー、わたし女流棋士になってもいいんですか……?」

 

「女流棋士になっちゃったら、もうずっとずっと、ししょーの弟子のままなんですよ……?それでも、いいんですか……?」

 

「わたしを、ほんとうの弟子にしてくれますか……?」

 

 俺はその震える身体を、そっと包み込む様に、抱きしめ返した。

 

「もう離さない、二度と……」

 

 そして頬に口付けをしていた。

 きっと俺はこの時、あいに恋心を抱いているのを自覚していたんだろう。

 

「あ……ししょー……」

 

「……これ、みんなには内緒な」

 

「はい、わたしとししょーだけのひみつです……」

 

 自覚すると途端に、あいの笑顔が綺麗に見えた。

 まだ幼いのに。こんなに綺麗な笑顔をするのかと、思うくらいに。

 

 

 

 

 

「……その後姉弟子と天には逆にキスされたんだっけ」

 

 結局これがトリガーとなったのか俺は怒涛の四連勝、名人相手に世紀の大逆転防衛と新聞の一面に載る程だった。

 

 は、良いんだが第四戦目、指し直し直前

 

 

「八一、こっち向け」

 

「な、なんですあねで……し?」

 

「……こ、ここまでしたんだから絶対絶対勝ちなさいよ!!良いわね!!」

 

 

 今でも覚えてるが、姉弟子の、銀子の真っ赤になった顔は本当に可愛かったし、そこまでしてくれる事に愛おしくなった。

 あと頬っていうのが何だか可愛かった。

 

 

 そして

 

 

「防衛おめでと、せんせえ。ちょっとこっち来て」

 

「へ? ああ……」

 

「こ、これは……や、八一くんへのごほうび、なんだから!かんちがいしないでよ!」

 

「え? ……え?」

 

 

 八一くん、八一くんかぁ……防衛した翌日、天にでこにキスされたんだが、それも驚いたが呼び方が変わっていた事に一番ドキリとした。

 正直めちゃくちゃ可愛かった。

 

 

 そしてこれを境にあいは公然でもイチャイチャしてくるし、二人は二人きりの時にくっ付いて来る様になったり呼び方が変わった。

 

 嬉しい、嬉しくはあるんだが……

 

「お、俺は誰を選べば……」

 

 新たな悩みの種が増えてしまったのは言うまでもない。

 

 因みにそれを親友二人に言ったら呆れられた。解せぬ。




八一とか他キャラの話はちょくちょくあるかもしれない
というかありまぁす!
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