冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

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自分がこの作品を書くに当たって約二作品が影響してますがどちらも天衣がメインヒロインです
多分他意は無いし偶然です(天衣最推し並感)


第七話『習うより慣れろとはよく言ったものである』

「うぃーすおっちゃん、今誰か空いてる?」

 

 美羽を正式に弟子に取った数日後、昼下がり。

 指導もそこそこに今日は美羽がいつも行っているという子ども向けの道場ではなく、オッサン共が集う行きつけの道場で対人戦をやらせる事にした。

 というのも前世で見た八一の受け売りな訳だが、天衣ちゃんのメンタルをここで育てた様に小さい子がベテランアマチュア相手の独特の指し筋や心理戦、古風な定跡等を学ぶには手っ取り早い。

 

 因みに何の影響か幼少の頃から三人で通っていたせいで天衣ちゃんの時八一の変装は爆速で見破られていたりする。

 

「おお、坊主か。……ん? そっちの子は見ない顔だね」

 

「竹内美羽です! 10歳です! せんせーの弟子です!」

 

「ま、つー訳で俺の弟子って奴だよ。正式な、ね」

 

「そうか……そうかそうか! 坊主もプロだもんなあ、弟子がいてもおかしくねえか!」

 

 ……おっちゃん、小さい頃から俺達を見てきたからかめちゃくちゃ嬉しそうじゃん。

 そうも嬉しがられると恥ずかしいっての……ったく、おっちゃんとか顔見知りの常連さんにも毎回背中押されてたんだから、ちゃんと恩返ししてかなきゃな。

 

 と、それはそうと本題にもいかないと。

 

「照れるやい……と、一応この子にベテラン相手の空気や指し方を身を持って体感してもらう為に来たんだ。今誰が空いてる?」

 

「うーん……今は級位者だと……あーいないか。飯野さんか権堂さんくらいならいるけどどっちも初段程度はあるし平手はキツいんじゃないかい?」

 

 対戦相手を確認してもらったところどうやら丁度平手で指せそうな人がいるじゃないか。

 どちらも顔見知りで将棋歴自体は数十年規模になる。

 双方別段強くなる気は無いと言いながらもカジュアル指しで初段の位置まで来ている事からピンキリある段級位内でも『並の初段では無い』という認識で間違いない。

 だとすれば数日前初段あるかないかだった美羽には一番都合が良い。

 

「いんや。美羽は自慢じゃないが弟子になった時から既に1級から初段の間くらいはあったから棋力を測るにも実戦にも丁度良い相手だよ。まだ弟子になって数日だしどんだけ成長したかは未知数だけど」

 

「そりゃあ驚いた、どっちとやる?」

 

「出来れば両方とやらせたいけど……いけるか、美羽?」

 

「当たり前でしょ! せんせーがしんじておくりだしてくれるんだもの! ちょーせんするわ!」

 

 むふーっ、と言いたげな自信満々な表情で応えてくれる美羽。

 チャレンジ精神に富んだ子俺は好きだぞ、と撫でながらどちらからにするか選ぶ。

 

「よし、じゃあ手持ち無沙汰にしてるし権堂さんから頼むよおっちゃん」

 

「あいよ! おーい権堂さん、ちょいとこの子と指してやってくれ!」

 

 飯田さんは終わるかと思ったが熱心に感想戦の途中だから、今完全フリーな権堂さんを指名。

 呼ばれて反応したのは五十半ばのメガネを掛けた全体的に丸っこい人だ。

 体格もあって初見では少し気圧されるが、温厚な人である。

 ただ俺をプロ入りしてからずっと先生呼びしているのが未だに慣れないが。

 

「おやおや誰かと思えば先生じゃないですか。先程からちょくちょく聞こえていましたがこの子と指すという事で宜しいのですな?」

 

「相変わらず先生呼びは直さないんですね……ええ、ウチの弟子ですが遠慮はしないで指してもらえると嬉しいです。……美羽、今回は勝ち負け以上にその対局で何を学んだかが大事になってくる。勝負である以上気にするな、とか、二の次、とは言わない。けどその事を良く考えて指してほしい」

 

「分かったわ! たくさんいろんなことおぼえてくるわね! おじさん、よろしくね!」

 

「偶には若い人と打つのもスキルアップに繋がる……でしたかな、先生?」

 

「仰る通りで。では暫く美羽を頼みます……ふぅ」

 

 めっちゃノリノリで指しに行ったけど大丈夫かなあ、美羽……色々言いはしたけどしっかり指せるか心配になってしまう。こんな頼り無い姿流石にヘボ指しと言えど弟子に見せられねえ……

 

「あの子が心配か、坊主」

 

「まあね……本来こんなヘボが弟子を取る予定なんて無かったんだけど、本当に物好きな事に俺の将棋に惚れてるみたいでさ。何だか年の離れた妹が増えた気分で。歩夢の気持ちが少し分かった気がするし小さい可愛い弟子って点では八一の気持ちが分かった気がして。でもどう育てるのが正解か分からないから、心配にもなるよ」

 

 おっちゃんがこっそり俺の隣に座る。

 遠目には美羽の姿、あまり視界に入らない様に配慮して遠くから見ている。

 

 こういう悩みがある時、ここに来るとふと隣にマスターのおっちゃんが座っている事が多い。

 難しい事は分かんないらしく、アドバイスをくれる事は少ないが不思議と話すと楽になっている。

 

 八一の竜王初挑戦が決まった日、あいちゃんを弟子にした日、歩夢と馬莉愛ちゃんが喧嘩した日とか……俺も最近だと、三段リーグで降段点取った日とか、来てたなあ。

 

「俺にゃ難しい事は全くチンプンカンプンだけどよ、見てみろよ」

 

「……楽しそう、だな」

 

 そんな俺を横目に、おっちゃんは視線を美羽と権堂さんが指している盤上へ向ける。

 そこには、心配は杞憂だったと言わんばかりに何回勝った負けただのワイワイしながらもしっかり感想戦をしたり、いつの間にか飯野さんや他の段級位千差満別に美羽と話す常連達の姿があった。

 

 ……何かちょっと妬けてしまうくらいに。

 

「もう大丈夫だろ、行ってやれや」

 

「……ん、そだな」

 

 成果の確認も兼ねて見に行くか……あくまで成果の確認だからな? 正式な弟子だと割り切った瞬間からとてつもない程美羽に構い出してる自覚はあるが妬いてる訳じゃないからな? 妬けるくらいには仲良くしやがってと常連達に思わんでもないけど!

 

「あ、せんせー! きいてきいて! ここの人たちみんなわたしが知らないじょーせき知ってるしつよいのよ! さいしょまったくかてなかった!」

 

 目を輝かせながら話す美羽。

 うん、可愛い……そして聞くまでもなく成果は上々らしい、小学生のメンタリティだと負けが込むと酷く落ち込むものと聞いていたが、この子はこの歳で自らの負けを糧に出来る。

 

 負けた悔しさをバネにどれだけ自分を見つめ直し、相手から吸収し、身に付けるかが勝負の世界の力量、引いては幼少期の差に繋がる。

 

「そっか。楽しいか?」

 

「うん! もっといろんなこと知りたい! もっと指したい! もっともっとつよくなりたいの!」

 

 そういう点で、竹内美羽という少女は天才なのかもしれない。

 弟子として見てきて、そして今日のこれで、彼女は一見すると小学生らしい立ち振る舞い、性格をしているが根本のメンタリティは非常に高い。

 大きな壁に当たった時、やはり年齢が年齢だからショックを受けるだろうし、塞ぎ込んでしまう事もあるかもしれないが、自ら立ち直れるだけの器量がある。

 

 師匠として、彼女のメンタル面も欠かさず磨く事は絶対条件だろう。

 

「ね、ね、せんせ、もう少し指していい?」

 

 少し考え過ぎていたか、美羽が服の袖を軽く引っ張りながら聞いてくる。

 正直結構な時間対局しっぱなしで疲れてなかったか……なんて聞こうと思ったがそれこそ杞憂か。

 

「権堂さん、飯野さん……お願いしても大丈夫ですか?」

 

「ははは、構いませんよ。この子は強いし順応性が高いです。何回も指す内にこちらの負けが込んでしまいましたよ」

 

「それに何だかワシらも指す内に今まで見えんかった手が見えてきたんや。将棋指してウン十年、こないな事初めてや」

 

「美羽……お前凄いな……」

 

「ほぇ?」

 

 それは良いが美羽の評判高過ぎない?

 一応初段って格上だったはずなんだけど……しかも常連のおっさん達も何か成長してるみたいで理解が追い付かねえ……ベテランの培った知識と若い脳の回転の速さが合わさって化学反応でも起こしたって言うのか?

 

 しかも飯野さん七十越してるんですけど……その人を持ってしてもそう言わしめる、美羽のパワー恐るべし。

 

 それはさておき何一つ自覚してない感じなのがまた可愛い……

 

「ごほん、それじゃあ美羽も空気に慣れてきたみたいなんで俺も少し観戦しますね」

 

「坊主……素直に弟子の近くにいたいって言ってやれや。肝心なところで照れやがって」

 

 それとなく観戦してやろうと思った矢先おっちゃんに見破られた、くそぅそういう事は分かってても隠すのが大人なんじゃないのかよ!

 

「う、うっさいやい!」

 

「せんせー! じゃあとなりにすわってー!」

 

「ちょ、美羽もからかうなって!」

 

 結果は言うまでもなく、おっちゃんや常連にからかわれながらも美羽は疲れるまで指していた。

 

 

 全くタフな子だ……連れてきた甲斐はバッチリってところだろうか。

 

 

 しかしこの子は間違いない、少し格上に揉まれる事で大きな化学反応を起こす子に変貌した。

 今日この日に、成長速度の才能が更に開花したのだ。

 

 ……だとするなら。

 

 

「こりゃ明後日が楽しみだな……」

 

 俺は新たな計画を密かに建てるのだった。

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