冴えない棋士は弟子を貰う様です   作:C.C.サバシア

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そういや時系列竜王戦第七局直後なんだよね…だから今作の現時系列12月なんだよね…大晦日の話書かないとね(なお大晦日要素)


第九話『今年の大晦日には弟子がいるもよう』

「本日は大晦日です」

 

「そうだねせんせー!」

 

「そうなんだけどどうして美羽が家に泊まりに来てるんだ……」

 

「いやーこれにはふかーいわけがあってだねしゅんくん……」

 

「マネせんでよろしい……まさかご両親から数日預かってほしいと言われるなんてなあ」

 

 大晦日……と言ったら去年までは師匠とのんびりテレビ見たり蕎麦を食べたりしたが今年は一人暮らし、去年まで以上に何も無い……と思っていたんだが、どうやら違ったらしい。

 

 何でも美羽のご両親が年末年始が稼ぎ時の職種らしく、毎年親戚に預けていたのだがそれだと将棋もままならないだろうと前日に相談され朝一番で美羽を家に託していった。

 

「でもせんせーが19さいってしらなかったんだねー、おとーさんもおかーさんも」

 

「いやまあプロの先生って言ったらそこそこ年齢ある、若くても二十代後半だと思うよなあ……」

 

 言う程の情報でも無いが、顔合わせた時少し驚かれてたのに違和感を覚え、一応自己紹介したら物凄い動揺してたもんなあ……俺が一番驚くわ、年齢は伝わってるものだとばかり思ってた訳だし。

 

「わたしはイケメンでやさしいせんせーってちゃんとつたえたんだけどな~」

 

「教えてる情報よ……」

 

「ダメだった?」

 

「え、まあ、ダメって程ダメじゃないけどさ」

 

 実際最後は『娘を頼みます、先生』なんて両親にしっかり言われたもんだからある程度信頼は勝ち取れた……と思いたい。

 

 しかし本題は将棋の指導、数日間とはいえ内弟子の様な関係性になるのだから時間と体力のある限り練習させてあげたいのが師匠心というものか。

 

「まあ取り敢えず今日は夜までとことん指導するから、気合い入れてけよー」

 

「はーい!」

 

「あ、でも疲れたら言うんだぞ、休憩は大事」

 

「わかってるよー、もーしんぱいしょーだな~……そこがやさしくてすきだけど!」

 

「こらこら引っ付きなさんな」

 

 引っ付いたら将棋が出来ないでしょうに……何がどうしたらこんなベッタリ甘える子になったのか。

 人との関係は一夜にしてならずとは良く言うが、付き合いの長さだけが全てじゃないのかもな。

 

 何にせよ嬉しいし、良いんだけど。

 

 

 

 

 

 

 パチ、パチと将棋駒の音が鳴り響く。

 外は大晦日とありいつもに増して静かであり、たまに俺がアドバイスで声を掛けたり美羽が逆にアドバイスを求めた時にちょくちょく話す程度でゆったりとした時間が流れている。

 指し始めてから五時間が経過しただろうか、ちょくちょく小休憩や昼食も挟んだがそれ以外は熱心に勉強をしている。

 

 並の小学生ではないと常々思ってきたが、この子は中でもとてつもない一点集中型の天才だ。

 今見ても分かるが並の小学生が小休憩挟んだとしても五時間の内四時間を自分の得意、好きな分野と言えど出来るだろうか。

 しかも淡々と指す将棋を、だ。

 

 ただ美羽はいつもはどちらかと言ったらドジな方で、注意散漫とも言える。

 そこで俺は『一点集中』という仮説を立てた。

 

 最初見た『攻撃一辺倒の指し筋』もこれなら納得が行く。

 つまりは攻守二つの思考が出来ない代わりにどちらかに寄せれば桁外れの才覚を引き出せるという事だ。

 美羽は性格上勝ち気なタイプだから思考と合うのが攻撃一辺倒だった、と考察は簡単だが良く実践しようと思ったものだ。

 

 まあ簡潔に言うなれば『一つの事に極端に集中出来るが二つ以上の事には頭が追い付かない』という説明になる。

 

 そうであるなら非常に育てるのに苦労するが、覚醒したら一気に強くなるタイプ……のはずだった。

 

「よし。ちょっと集中力が切れてきたな……時間も少し早いが今日は大晦日だし切り上げよっか」

 

「ほぇ? ……あ、もうゆうがただ」

 

「めちゃくちゃ集中してたもんなあ、そりゃ気付かないよ」

 

「そっかあ……んん~、せんせーに言われたらつかれてきちゃったかも」

 

「そうかそうか、頑張った証拠だぞ。んじゃ俺は昨日から仕込んどいたすき焼き温めてるから風呂入ってきな」

 

「りょーかいですっせんせー!」

 

 さて、すき焼きを温めながらさっきの思考の続きをするか。

 本来美羽の様な子は非常にピーキーで自分の才能を自覚するのさえ厳しい事もあると思われる。

 もし自覚していてもコントロールしてくれる師を見つける難易度はかなり高い。

 

「そんな子がよりにもよって俺のとこに来てこの成長か……」

 

 俺が美羽みたいな子に合う先生になれるか、と問われたら間髪入れずにノーと答える。

 実際美羽は育っているが、俺の事を異常に信頼してくれているというイレギュラーが最大の要素になっていると推測している。

 

 俺としても最大限長所を伸ばす指導方法が最適と思いしているが、方針に反発、不信感を持たされようものなら間違いなく今の成長は無かっただろう。

 勿論そう言った感情を全て否定する事はしないが、指導方針を変えるとなったら今までの長所を伸ばし続けるスタイルでは無くなってしまう。

 しかも俺はまだ無名の新人プロ、嘗められる可能性も高いはずだ。

 

「ほんっと、俺みたいな奴を憧れにしてくれた美羽には感謝しか無いな……」

 

 普通今の棋士の憧れと言ったら名人、小学生だと比率的には八一や歩夢、篠窪さん辺りも人気がありそうな顔ぶれだろうか。

 渋いチョイスだが俺的には粘り強い将棋が信条の碓氷尊九段も捨て難い。

 

 閑話休題、端的に言ったら現タイトルホルダーや期待の若手が憧れの対象になる中、美羽が選んだのが俺だったから俺が指導して伸びてるという話だ。

 

「上がったよー、すきやきできた?」

 

「おう、丁度よ」

 

 だが難しい話ばかりってのも疲れる。

 折角弟子と初めて家で食べる飯だ、楽しく行こうじゃないか。

 

「いただきます!」

 

「ん、いただきます」

 

 思えば今年は三段リーグで必死にやって半年過ごして、プロになってからは苦しい毎日だった。

 が、八一の竜王戦が終わってからの約半月の方が俺には激動も激動な毎日だったと思える。

 

「ん~おいし~! せんせーってりょうりもじょうずなんだね!」

 

「まあ、俺の師匠があんまり料理しない人だったから恩返しついでにね。慣れると楽しいぞ」

 

 突然の弟子。

 一度は辞めようかとも思ったが、こんなにも毎日が楽しく、充実した師弟関係になるなんてな……美羽に会えて良かったし、俺も何か変われるかも知れない。

 まだ分からないが。

 

「そうなんだ~、わたしもこんどお母さんとりょうりしてみようかな?」

 

「特に女の子は料理出来るに越した事は無いだろうな。好きな男にはまず胃袋から仕留めるべしと良く言われてるしな」

 

「すきなおとこにはまずいぶくろから……じーっ」

 

 って回想と決意に浸ってる間に何か見られてるんですけど。

 待て美羽早まるな、その感情は多分そういうのじゃないから! 

 

 でも美羽の手料理自体は食べてみたいな……

 

「……オレヲミテモナニモデマセンヨ?」

 

「せんせー、好きな食べ物は?」

 

「玉子焼き! 甘めのやつ! ハッ!」

 

 まずい、つい答えてしまった。

 美羽の勘違いが加速してしまう……

 

「ふむふむ……メモメモ……」

 

 あ、何か書いてる……もしかして練習して作ってくれるのだろうか。

 それはそれとして嬉しいし作ってきてくれるかも知れないという妄想だけで幸せになれる。

 

 何だろう、多分こういうのが兄妹の日常ってやつなのかも知れんな……分からんけど。

 

「だったら本当に兄妹だったら良かったのにな……」

 

「え? せんせーなにか言った?」

 

「んあ? いや、何も……」

 

「そっかー」

 

 思わず本音を呟いてしまったが聞こえてないよな?

 

 美羽を弟子にしてからというものの、どうにも脳裏から離れない事がある。

 それが『本当の家族だったら』という事だ。

 こんな出会ってすぐに抱く様なものではないと分かっていても、これだけ楽しい時を貰ってしまうとそう考えてしまう。

 

 前世の17年と今世の11年、合わせての28年を過ごした地獄という監獄。

 

 それが嘘の様に、美羽といると忘れられる。

 

「な、美羽」

 

「なにー?」

 

「俺といるの、楽しい?」

 

「もっちろん! だってせんせーはあこがれでやさしくてカッコイイもの!」

 

「そりゃどうも。俺も美羽といると幸せだよ。毎日楽しいからさ。だから、俺を選んでくれてありがとな」

 

「えらぶもなにも、わたしはせんせーひとすじよ!」

 

 そんな可愛い、大切な、本当の家族の様に思ってる弟子の為に、次の対局は勝とう。

 

 数日後に迫った対局に向け、気合が入る。

 

 そしてあと数時間も経てば年越しだろう……気合ついでに来年の目標を折角だし決めておく。

 

 

 

 

 

『10勝』

 

 高い壁になりそうだが、憧れてくれてる我が弟子の為だ。

 その為にまずは一つ、勝たないとな。

 

 せんせーひとすじ、なんて可愛い事言う美羽の頭をそっと撫でながら闘志を燃やしていくのだった。




世に食べりゅ教があらん事を
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