ルメトモ ヲ ンエウユシ テニ スタート   作:凧の糸

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謁見とベヒモス

 仇敵ベヒモスを倒した一行はさらに深層へ!とは都合よくいかなかった。今までとは違い、探索をしながら進むことと、敵の強さも比例して強力になっていることから、探索スピードはガクッと落ちていた。

 

 メンバーの疲労も激しく、一旦引き上げて休息を取ることとなったのだが、ホルアドで休憩を取るのではなく王宮まで帰らなくてはならなくなった。

 

 何故だろうとその理由をコーちゃんが尋ねたところ、ヘルシャー帝国から勇者一行に使者がやって来るからだそうだ。

 元々は顔合わせが行われるはずだったのだが、召喚のお告げは突然で、帝国に連絡が行く前に召喚されてしまい、面会ができなかったりそうだが、帝国はその成り立ちから実力主義の傾向にあり、召喚直後の勇者では舐められてしまうのではないかという懸念からそこそこの実力をつけるまで面会引き伸ばしが行われた事と、単に皇帝自身が勇者召喚に興味が薄かったことも要因だそうだ。

 

 しかし、オルクス大迷宮の六十五階層の踏破の知らせで帝国側も興味を持ったらしく、教会側も勇者を召喚した神の栄光を示したいという意図もあり、こうして使者が来る運びになったのだそうである。

 

 長らく馬車に揺られて王宮に着いた。一目散に駆けつけるコーちゃんと少し似た雰囲気を持つのはハイリヒ王国王子、ランデル・S・B・ハイリヒである。

 

 

 ランデル殿下は、思わず犬耳とブンブンと振られた尻尾を幻視してしまいそうな雰囲気で駆け寄ってくると大声で叫んだ。

 

「香織! よく帰った! 待ちわびたぞ!」

 

 

 この態度から分かるように王子はすっかり白崎に夢中のようだ。しかし、当の本人は弟に接している感じで王子のアプローチも暖簾に腕押しといった感じか。

 

 

 

 

「う、うむ。例えば、侍女とかどうだ? その、今なら余の専属にしてやってもいいぞ」

「侍女ですか? いえ、すみません。私は治癒師ですから……」

「な、なら医療院に入ればいい。迷宮なんて危険な場所や前線なんて行く必要ないだろう?」

 

 この入れ込み具合は国を治めるには少し不味くないか?と思うが、年相応の男の子なのだ。今後に期待するしかないし、そもそもハイリヒ王になっても大丈夫であろう。

 

 

 ガヤガヤと前の方で騒いでると王子を諫める女性の声だ。

 

「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう? 光輝さんにもご迷惑ですよ」

「あ、姉上!? ……し、しかし」

「しかしではありません。皆さんお疲れなのに、こんな場所に引き止めて……相手のことを考えていないのは誰ですか?」

「うっ……で、ですが……」

「ランデル?」

「よ、用事を思い出しました! 失礼します!」

 

 ランデル殿下はどうしても自分の非を認めたくなかったのか、いきなり踵を返し駆けていってしまった。その背を見送りながら、王女リリアーナは溜息を吐く。

 

 この方はリリアーナ王女。王子と同じように金髪碧眼で流れる髪は金糸のようであり、太陽に当たって美しく輝いている。その美しさに優しさも兼ね備えており、勇者の一人一人を案じてくれる人格者でもある。

親密になるのに時間は掛からず、特に白崎や雫とは愛称やタメ口を使うほどの仲。

 

「ううん、気にしてないよ、リリィ。ランデル殿下は気を使ってくれただけだよ」

「そうだな。なぜ、怒っていたのかわからないけど……何か失礼なことをしたんなら俺の方こそ謝らないと」

 

 白崎とコーちゃんの言葉に苦笑いするリリアーナ王女。姉として弟の恋心を察しているため、意中の香織に全く意識されていないランデル殿下に多少同情してしまう。まして、ランデル殿下の不倶戴天の敵は別にいることを知っているので尚更だった。

 

 

「いえ、光輝さん。ランデルのことは気にする必要ありませんわ。あの子が少々暴走気味なだけですから。それよりも……改めて、お帰りなさいませ、皆様。無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ」

 

 気品のあるふんわりとした微笑み。男子だけでなく女子でさえも顔を染めてしまう。それもそのはず産まれてこのかた王女をやってきて宮廷の礼儀作法が遺伝子レベルで染み付いているような人だ。白崎やコーちゃんが普通に接している方が不思議である。

 

「カオ、アカイナァ〜?」

 誰も見えないのをいいことに相棒は茶化してくる。この野郎!と視線を向けるとおお、こわいこわいと言わんばかりにますますケタケタ笑うだけだった。

 

 

「ありがとう、リリィ。君の笑顔で疲れも吹っ飛んだよ。俺も、また君に会えて嬉しいよ」

 

 さす光(いつもの)である。王子より王子ムーブしてるでお馴染みコーちゃんは思春期男子にありがちな下心はゼロで、素面でキザなセリフを吐く。やっぱりそれでも似合うのがコーちゃんなのだが。

 

「えっ、そ、そうですか? え、えっと」

案の定、照れている。王女としてお世辞なんか腐るほど聞いているだろうが、だからこそ下心のない真っ直ぐな言葉に戸惑いを感じるのだろう。ここでいつもと違い、オロオロとするのが所謂ギャップ萌えというやつだ。

 

「えっと、とにかくお疲れ様でした。お食事の準備も、清めの準備もできておりますから、ゆっくりお寛ぎくださいませ。帝国からの使者様が来られるには未だ数日は掛かりますから、お気になさらず」

 

 どうにか乱れた精神を立て直したリリアーナは、俺達を促した。

 

 

____________________________________________

 

数日後

 

 現在、勇者達、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいし、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。

 

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

「はい」

 

 陛下と使者の定型的な挨拶のあと、早速、勇者達のお披露目となった。陛下に促され前にでるコーちゃん。召喚された頃と違い、まだ二ヶ月程度しか経っていないのに随分と精悍な顔つきになっている。と俺は思った。まあ、高校生のコーちゃんと接したのは半日くらいだが。

 

 そして、彼を筆頭に、次々と迷宮攻略のメンバーが紹介された。

 

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……」

 

「ベヒモスハ、イマ、"ヴェルズ"トシテイキテルガナ」

いちいち茶々を立てない!と視線を向けたいが、使者の方を睨む感じになるのでやめておく。

 

 使者は、コーちゃんを観察するように見やると、イシュタルの手前露骨な態度は取らないものの、若干、疑わしそうな眼差しを向けた。使者の護衛の一人は、値踏みするように上から下までジロジロと眺めている。

 

 その視線に居心地悪そうに身じろぎしながら、答える。

 

「ではお話しましょうか? どのように倒したかの状況説明か、もしくは六十六層のマップを見せるとかどうでしょう?」

 

 

「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか? それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

「えっと、俺は構いませんが……」

 

 コーちゃんは若干戸惑ったようにエリヒド陛下を振り返る。エリヒド陛下は光輝の視線を受けてイシュタルに確認を取る。イシュタルは頷いた。神威をもって帝国にコーちゃんを人間族のリーダーとして認めさせることは簡単だが、完全実力主義の帝国を早々に本心から認めさせるには、実際戦ってもらうのが手っ取り早いと判断したのだろう。

 

「構わんよ。光輝殿、その実力、存分に示されよ」

「決まりですな、では場所の用意をお願いします」

 

 こうして急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだった。

 

 

 第一回戦はコーちゃんだった。

 

 

 ざっくり説明すると戦いの最中、色々と説かれ、人を殺すことも出来ない甘さがたっぷりだとコーちゃんに問題点を突きつけた。苦々しそうな顔をしていると突然、

 

「ガハルド殿も戯れが過ぎる。」イシュタルが二人の間に光の障壁を作り上げた。

 

 このガハルド殿に驚いたのは周りの大人たち。このガハルドなる人物、どうやら皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人だという。

 

 本人はリーダーの見極めと言っているが、周りは騒がしくなっている。フットワークの軽い所がある皇帝陛下のようだ。

 

 なし崩しで模擬戦も終わってしまい、その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質をとることができ、一応、今回の訪問の目的は達成された。

 

 

_______________________________________________

 

 

 

 皇帝陛下が自国へ帰って数日。

 

 俺は許可を取って再びオルクス大迷宮にいる。護衛の騎士も三人、レアルさん、カルロさん、レヴィさんだ。

 

「挨拶と言ってはなんですが、首飾りをあげますよ。 幾分か力を増す効果もあるので」

 

 自作の首飾りを上げると不思議な顔をしながらも貰ってくれた。

 

 

 ズンズン降りていき、四十九階層に着いた。

「確か、ここらにいるはずなんだが?」

「モウスコシダ」

 角を曲がって広間へ進む。

「気になっていたのですが、一体、シン殿は何を探しているのですか?」

 

 レアルさんに尋ねられる。ちょうどいい。

 

「あれですよ」俺が指指したのは真っ黒で禍々しい巨獣。

 

「なっ……!、下がってください!!」

 三人が前に飛び出す。そんなに焦らなくていいのに。

 

「大丈夫ですよ」

「何を言って……」

 俺は一枚のカードを懐から取り出す。

「ソイツヲ、カザセバイイ」

「りょーかいよ、相棒」

 

 一人で喋っているようにしか見えない俺を異常な目で見つめる騎士たちは無視。黒いベヒモスに近づくとカードを翳して宣言する。

 

「名前かあ。 ベヒモスだからなあ、今日からお前は"ヴェルズ・ライノス"で!」

 

ギュルギュルギュルギュルギュルギュルと唸りを上げてあっという間に一枚の薄っぺらいカードに吸い込まれてしまう。騎士たちは悪い夢でも見てるんじゃないか、そう思った。

 

「もう、いいですよー、帰りましょう」

 

 騎士たちは言われるまで惚けていた。

 

「あ、ああ、帰りましょう」

 

 

 首飾りが暗い光を讃えつつ、四人は王宮へと帰還したのだった。

 

 

 

 

 

 




 オリキャラ説明 ヴェルズ・ライノス

 ベヒモスがヴェルズ化した姿。あちこちが刺々しく、より禍々しくなっている。凶暴性が増し、大地を歩くだけで破壊し、黒い姿は見るものにどうしようもない絶望を叩きつける。

追記:同名カードの見落としがあったので、名前を変えました。

タイトルわかりやすくするべき?

  • 変えよう
  • そのままで
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