Three ways to shoot   作:TTオタク

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 勢いで書きましたので誤字脱字があるかも知れません。


犯罪狙撃手

 あなたはPCを立ち上げ、あるPDFファイルを開く。そのファイルは数日前、知らないアドレスから送られてきた物であった。

 

 ウィルスの気配はなく、これといった詐欺の雰囲気も感じられない。ただのPDFファイル。題名は「Three ways to shoot」という珍妙なものであった。

 

 胡散臭くて数日放置したが、それでもゴミ箱に叩き込んで以内あたり、興味を惹かれたのかもしれない。

 

 軍事系知識への探究心か、微妙な英語題への当惑からか、単なる好奇心からか、あなたはファイルを開いた。

 

 

 狙撃手(スナイパー )。誰しもが耳に挟んだことはある言葉である。遠くから狙い撃つ者、という至極単純な存在ながら、実情は複雑怪奇なものである。

 

 まず、狙撃手という存在は誤解を受けやすい。否、そもそも狙撃という行為自体が誤解を生みやすいのだ。

 

 よく狙撃手の腕を表す指標として、長距離射撃の能力が挙げられる。長距離での命中精度自体は狙撃手として必須の能力であるし、500m先の敵を狙えないのでは狙撃手としての評価は下がってしまうのは仕方がないことである。

 

 だが、遠くを狙えなくとも狙撃手としての能力が否定されるわけではない。なにせ狙撃手の目的は『当てること』である。遠くから撃つことではないのだ。

 

 極論、300m以内しか撃てない狙撃手も、敵を見つけ、気取られず300mまで接近できる能力さえあれば狙撃手たりえるのだ。逆に、2000mを狙えようが敵を射抜ける距離に近づけなければ、敵を見つける事ができなければそれは狙撃手ではない、ただの的当て上手である。

 

 つまり狙撃手の本質は射撃能力ではなく、隠蔽、索敵、射撃の全ての能力の総合値で測られるものである。

 

 そして狙撃自体、様々なケースに分かれる。砂漠や山岳地帯での1000mが『至近距離』と言われる超遠距離射撃。せいぜい300m先の敵しか狙わない、場合によっては30m先の敵を狙撃する機会すらある市街地戦。ヘリの強烈なダウンウォッシュと揺れに晒されながら、密輸船のエンジンを的確に射抜く事を要求されるヘリ上射撃。

 

 狙撃銃もボルトアクション、セミオートの違い。5,56mm、7,62mm、12,7mm、.300、.338という口径の違い。サプレッサーの有無。フルメタルジャケット、マッチグッレード、ホローポイント、タクティカル、アーマーピーシング、サブソニック、ファイナルという弾薬の種類の違い。

 

 これらを使い分け、様々な環境に対応するのは当然大切だが、どうしても限界が出てきてしまう。

 

 結果、狙撃手にも種類が出てくる。

 

 警官狙撃手(ポリススナイパー)、いわゆるSWATに代表されるような凶悪犯を制圧する事を任務とする部隊に所属する狙撃手である。

 彼らに求められるのは絶対にミスショットをしない精密さである。犯人が手にした銃のみを撃ち抜く精密さは、他では見られないものだ。

 

 次に犯罪狙撃手(クリミナルスナイパー)、いわゆるケネディ大統領を狙撃した射手に代表されるような犯罪者としての狙撃手である。

 彼らに求められるのは隠蔽能力である。言ってしまえばライフルを取り出すまでは(無論バックの中を悟られなければ、だが)民間人であり、警戒の対象外として射撃ポジションに着くことができる。白昼堂々行動できる警官狙撃手には必要のない技能である反面、無警戒の標的を狙える分有利な面もある。

 

 最後に軍人狙撃手(ミリタリースナイパー)、カルロス・ハスコック氏やクリス・カイル氏に代表されるような軍人としての狙撃手である。

 彼らに求められるのは極めて高い総合能力である。少数での敵地侵入、接近不可能な標的への射撃、不快な環境下で集中力を保つ、いつ来るかもわからない対象の捜索などと。困難が次から次へと襲いかかってくる彼らにはあらゆる能力が要求される。射撃が得意、隠蔽が得意、索敵が得意、という長所は許されるが、あれが苦手だ、これが不得意だという「短所」だけは絶対に許されない。極めてシビアな全能さを要求されるのは他にない特徴である。

 

 さて、長々と狙撃手について筆記したが、これはとても大切な知識である。特に、死喰(しくい)の存在によってドクトリンが大きく変異した私たちの世界を知るには。

 

 

───瑞穂王国領 小針領稲帆町 19:34───

 

「こういう我慢はできるのね、貴方。私は暇で仕方ないわ」

 

 少女は極めて特異な見目をしていた。銀髪で、赤い瞳。ただその銀も、赤も、明らかに人間に出せる色調ではない。女児が女性へと移行する最中の、少女という瑞々しさと色香の混ざり合った美貌。ただ特異な見目というのはそこではなく、あまりに人間離れした美貌の少女が、人として動き回っている事であった。

 

「黙れよモルテ。本当に口を縫い合わせてやろうか?」

 

 答える男は不機嫌に、極めて無愛想に答える。モルテと呼ばれた少女に苛立っているのが見て取れた。だが、モルテの方は意に介した様子はなく。

 

「あら、随分と激しいのがお好みなのね。いいのよ、好きにして。私は秋月総次郎によって生まれ、それによって死ぬのだもの。殴られても、犯されても、千切られ嬲られ殺されようと、決して抵抗なんてしないわ」

 

「お前のような売女なんぞ知らん」

 

 その男、総次郎はこれまた無愛想に返す。彼は奇妙な形のライフルを構えており、少女の方など見向きもしていなかった。

 

「あら、私で童貞を捨てた癖にそんなこと言うのね。ひどいわ、私も初めてだったのに。昨日もあんなに愛し合って、肌を重ねたのに。悲しいわ」

 

「はぁーっ」

 

 総次郎は大きなため息をつく。童貞という、男子としては触れて欲しくない事をネタにされたのに、彼に大した怒りの雰囲気はない。これは彼が寛容なのではなく、いちいちキレていたらこっちが持たない事を経験則で学んでいたからであった。

 

「来たぞ」

 

 まるで雑談の延長のように、総次郎は言う。彼らのいるオフィルビルの向かいビルの3階、そのソファに今回のターゲットが座った。

 

 仕事から帰宅したターゲットがまずソファに座るのは調査済みであった。ソファの上から飛び出すスキンヘッドへの距離も、当然調査済みである。

 

 総次郎は零点規正(ゼロイン)をすましたスコープを覗き込んだ。彼の持つライフルは非常に華奢で、大きめの高倍率スコープがややアンバランスに見える。

 

 そして銃身が異様に太くかった。スコープの直径とほぼ変わらないほどだ。

 

 銃に少し詳しければ、それがサプレッサーを内蔵した銃特有の銃身である事に感づくであろう。小型で、消音特化。目的が明らかに縛られた銃である。

 

「首、失礼するわね」

 

 慣れた事と、モルテは総次郎の首にがぶりと噛み付いた。その後ちろちろと舌を出して血を舐める。

 

 すると総次郎の手元に弾丸が出現する。これが死喰の能力であった。

 

()をちゃんと大切に扱ってね、射手(うちて)さん」

 

 モルテはそう言うと指を鳴らした。すると総次郎が覗いていたスコープの姿が変わり、やや小ぶりの物となる。

 

 だが総次郎には驚いた雰囲気はない。なにせこの銃自体、死喰たるモルテが出現させた物であり、彼女の分身そのものであったからだった。

 

「チッ。ありがとな」

 

 総次郎はいやそうに礼を言う。

 

「どういたしまして。素人に手取り足取り教えるのも、熟練者の使命よ」

 

 モルテはにこりと笑う。標的まで250mほどであるのに、先ほどのスコープは大袈裟すぎた。たしかに高倍率にすれば当て易くはなるが、状況把握ができなくなる。索敵もまた、狙撃手の重要な仕事である。

 

「SbT弾、装填」

 

「了解」

 

 総次郎はボルトを前後させ、弾丸を装填する。SbT弾、サブソニックタクティカル弾とはつまり、亜音速で飛翔するガラス貫通弾である。ガラスはその透明さながら、弾丸の軌道をねじ曲げるのには十分な障害物である。そのガラスをなるべく弾道をねじ曲げずに貫通することを目的に作られたのがこのタクティカル弾だった。

 

 モルテが手本とした銃にはサブソニックタクティカル弾は存在しないが、そこは意のままに物品を創造できる死喰の面目躍如であった。

 

「0,2ミルだけ左にずらして。上下はそのまま」

 

 モルテは双眼鏡などは覗いていないが、まるでスポッターのように的確な指示を飛ばす。なぜなら総次郎が使っている銃自体、モルテの体の分身であり、延長である。当然、スコープで覗いている風景も認識していた。

 

「よし、いいわよ」

 

「了解」

 

 総次郎はゆっくりと、力んでトリガーを引いたりしないように引き絞り、致死の弾丸を放ち───

 

 ターゲットが突如視界から消えた。総次郎は引き金を引く動作を止めることができず、弾丸が放たれてしまう。

 

 だが銃声はしない。ガラスは蜘蛛の巣状のヒビを広げているため、明らかに弾丸は飛んでいた。なのに、銃声はしない。

 

 鳴った音はパチンという、ファイアリングピンが雷管を叩く音のみ。内蔵型サプレッサー と専用亜音速弾丸による消音性能は、ついに銃声を消し去ったのだった。

 

 ターゲットはただ寝ぼけて転んだだけのようで、のろのろと立ち上がり、辺りを見回す。そしてガラスの割れに気がつくと、憤った表情をした。

 

 そう、ターゲットは狙撃されている事に気がついていなかった。足元を見れば穴が開いている事に気付いたかもしれないが、銃声が存在しなかったため、彼は油断していた。

 

 普通、向かいのビルで銃を構えている人物がいれば見えてもおかしくはない。いや、250m先の窓側で銃を構えている人物など目立って仕方がないだろう。

 

 なのに、ターゲットの目にはなにも映っていない。これは彼の目が悪いのではなく、本当に視覚的には存在していないのである。

 

 これが、モルテ・アモーレの死喰としての異能、可視光の操作能力である。彼女はその能力により光学迷彩を自分たちに施していた。犯罪狙撃手に要求される隠蔽として、完璧な能力。

 

 光学迷彩と完全な消音、この二つによって総次郎はセカンドチャンス得た。

 

「撃って」

 

 モルテの合図に合わせ、総次郎は引き金を引く。

 

 今度はトラブルは発生せず、見事ターゲットの頭部は弾けた。

 

「ふぅっ」

 

 総次郎はため息をついた。たかが250mとはいえ、正規の訓練を受けていない総次郎にとってはかなりの遠距離に感じる。無事仕事を果たせた安堵からため息が漏れるのは仕方がなかった。

 

「まったく、契約したのが私でよかったわね───と言いたいところだけど、貴方に合うように作られたのが私なんだから、相性が良くて当然ね

 

 嫌味か自慢かよくわからない言葉を、モルテは言う。

 

「前から一々言ってくるが、そんなに特注創造(オーダーメード)はすごい事なのか?」

 

 するとモルテは振り向いて言う。

 

「いやだわ。そんなところまで踏み込もうとするなんて。けどまあ求められたら答えるのが私だから、帰りの道すがら教えてあげるわ」

 

 そうしてモルテが総次郎を置いてそそくさと退散しようとする。強力な武装やバックアップを持たない犯罪狙撃手にとって警察や軍との正面戦闘は鬼門だった。なので厄介になるまえに撤収するのが吉である。

 

───だがもう一つ、犯罪狙撃手にとって鬼門であるものがある。

 

 突如、総次郎の鼓膜を怒り狂った蜂の羽音を数百倍にした爆音が叩く。実際に巨大な蜂がいるわけでなく、だからと言って幻聴ではない。

 

 同時に聞こえる、竹を割るような甲高い音。それは超音速弾が発する音速突破の爆裂音であった。

 

 つまり、先ほどの蜂の羽音は弾丸の風切音であり───

 

 総次郎が狙撃されている事を示していた。

 

 正面戦闘以外の鬼門、対狙撃手戦闘(カウンタースナイプ)である。




今回は異能バトル要素が薄いですが、次回からは異能同士のバトルが始まりますのでご容赦を。
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