不定期更新かつ亀更新だと思います。
「またお前か、茨木レオ・・・」
尋問科担当の綴先生はため息を吐きながら俺の前に座った。ここは東京武偵高校の生徒指導室、自慢ではないが俺はここの常連だ。
「報告書を読む必要もねェ、どうせまた命令違反だろ?」
「そうですね」
俺は答える。綴先生はさっきより大きなため息と共に紫煙を吐き出した。
★
『狙撃班村上、配置完了』
『坂本、準備完了です』
『牧田、いつでもいけます』
「茨木、大丈夫です」
俺は皆と共にインカムで狙撃の態勢が整ったことを報告する。およそ500メートル先にある銀行の建物に向けて愛銃であるKar98aを構えた。
平日の白昼に起きた立てこもり事件、犯人は銃で脅し金を要求、中の客と従業員を人質に銀行内に立てこもっているのだ。
店舗はガラス張りなのだがブラインドが降ろされ中の様子は見えない、今情報科の生徒たちが必死に犯人との交渉を行っているが進展はない。
「ん、なんだ?」
すると突如としてブラインドが上がり始める。このままでは内部が丸見えになってしまう。狙撃班からしたら犯人を無力化できるチャンスだと思っただろう。
しかしそう甘くはなかった。
『これは・・・』
『マズいぞ』
『最悪だ・・・』
文字通りの肉壁だった。犯人は人質を窓際に一列に並べ、盾にしていたのだ。その中には子供や老人もいた。
「血も涙もねぇヤツだな・・・」
人質の後ろに犯人が銃を向けている、公開処刑も一緒にできるって訳か・・・
『狙撃班!誰か対応できる者は居るか!?』
指揮を執る情報科の一人が無線で問う。
『無理です、対象の体が人質でほぼ隠れています。狙撃は危険です!』
『撃てないことは無いですが9条に抵触してしまいます・・・』
次々と聞こえてくる無線に俺は苛立っていた。何が9条だ、人質の人命が優先だろうが・・・
『各員、指示あるまで待機せよ』
マジか・・・
俺は絶句した。そんな悠長な事やってる場合じゃねぇってのに。
そして嫌な予感がした。俺が今ここで撃たないと最悪の事態になる、そして俺の人生
経験からこの予感は大体当たる・・・
「狙撃班茨木、制圧します」
そう言って引き金に指をかけた。スコープのクロスラインはしっかりと男の頭部を捉えている。
『待て茨木!不確定要素が多すぎる。待機だ!待―――』
俺は引き金をゆっくりと引いた。
★
「非殺傷弾です」
俺の言葉で綴先生は面倒くさそうに頭を掻いた。
撃ったのは訓練でも使用されるゴムスタンと呼ばれる非殺傷弾だった。その証拠に弾丸は狙い通り頭部に被弾したが脳震盪を起こしただけだった。そこに俺が突入命令を下し強襲科が突入、無事犯人を無力化することができた。
後から分かったことだが犯人の男は事件当時薬物による極度の錯乱状態であったらしい。交渉が難航するのも当然だった。
「あのなぁ・・・非殺傷弾とはいえ一応は実弾なんだぞ、当りどころによっては死ぬ可能性だってある。それに人質に当たったらどうする?ゴムスタンは空気抵抗や風の影響を受け易い、人質に当たってたら大騒動だ。ただでさえ今武偵への風当たりが強いってのに・・・」
「当たらないと思ってたら撃ってません」
飄々と返す俺に苛立つ綴先生は2本目のタバコに火を点ける。紫煙を燻らせながら彼女は俺に1枚の紙を渡した。
「情報科がシミュレートした資料だ。お前があのタイミングで撃ってヤツを無力化できた確率は17%だとよ」
「その数字は下方修正されてます、肝心なところで手柄を取られた俺へのあてつけでしょう」
「・・・」
綴先生はしばらく黙った後立ち上がった。これ以上埒が明かないとでも思ったのだろう。
「今回も結果が結果だけに厳重注意しかできないがこれだけは覚えとけ、お前のやり方は危険すぎる。いつか取り返しの付かないことになるぞ」
「・・・肝に銘じて置きます」
これもお決まりのやり取りになりつつあり、綴先生は俺の返事を待たずして生徒指導室から出ていった。
太陽もすっかり傾いてしまい下校時間はとっくに過ぎてしまっていた。残っている生徒もほぼ居ない、俺もさっさと寮へ帰ろうと校門に向かおうとした時だった。
「ここに居ればキミに逢えるって聞いてたけど本当だったんだね」
ふと背後から声をかけられた。振り返ると一人の女子生徒が立っていた。
髪は腰まで届くかというほどのキレイなくせっ毛の無いブロンド、目鼻立ちのくっきりした顔立ちと女子にしては高い身長で痩身、明らかに欧州系だ。それに真っ白な肌と上品な佇まいはまるで人形のようだ。
「アンタは誰だ?」
スカーフからして同級生、だが知らない顔だった。
「人に名前を聞くときは自分から名乗るのがマナーじゃないのかい?」
「俺を待ってたかのような言い方して名前を知らないわけがないだろうが・・・」
「正解、私はキミを知ってる。私は鷲宮エリー、よろしく」
エリーは俺に右手を差し出す。一応その右手を握っておいた。
転校生か・・・でもこんな時期にどこから?
その疑問は彼女の襟を見たらわかった。4つの旗、ライオンとユニコーン、イギリスの紋章だ。しかもその下にもう一つピンバッジをつけている。おそらく家紋、名家の出だろう。
イギリスの貴族が多く通う武偵校といえばロンドン武偵校。少し前に似たような転校生が居たから覚えていた。
「大方キミの予想通りだよ、茨木レオ君」
「俺の目線ですべてを察したのか?さすがホームズの国だな」
するとエリーは不機嫌な表情を見せる。
「その名前はあまり好きじゃないんだ。できれば私の前でその名前を出すことを控えてもらえると嬉しいかな・・・」
「それは悪かったよ」
一応謝っておいた。
シャーロック・ホームズは現代武偵制度の祖となる人物だ。イギリス人で武偵なら彼は神様のようなもの、憧れの存在だとばかり思っていたのだが、珍しいな。
「さて、お返しにキミについて話そう」
彼女はズイっと俺に近寄る。互いの鼻が当たってしまうのではないかと思う距離に俺は反射的に上体を仰け反らせてしまう。
「名前は茨木レオ、専攻は狙撃科、使っている銃は古いボルトアクション式のライフル、地面に伏せる姿勢じゃなくて座った状態で撃つスタイルのようだね。生徒指導室から出てきたことからなにかやらかして指導を受けていだ、でも出てくる時間が早いのと荷物が少ないことから軽い処分だった。担当したのは尋問科の綴梅子先生、彼女の吸う独特なタバコの匂いが付いてる。そしてキミはこれから学校を出てすぐのローソンで晩御飯を買おうと思ってた。支払いは口座直結のデビットカード、スマホでPontaカードの提示も欠かさない。どう?当たっているかな?」
「・・・」
耳元でマシンガンのように次から次へと俺のことを言い当てるエリー。俺は彼女の超人的な観察力、推理力に言葉が出なかった。
おそらく事前に仕入れていた情報は名前だけ。持っている銃と射撃姿勢は指の傷と服の皺、コンビニのことは生徒指導室を出てすぐスマホでポイントカードのアプリを開いたから、その画面と手帳型スマホケースに入れてあるカードから推測しだのだろう。
「アンタがどんなヤツかはわかった。それで?俺になにの用だ?」
わからない事はそこだった。転校生がいきなり俺に話しかける意図がどうしてもわからなかった。
彼女は俺の両手を握って言った。
「私と付き合って」
最近見たホームズを題材とした作品はミス・シャーロックです。